山城は提督を愛していません。   作:ギミック

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2話

「提督って凄い美人だよねー」

 

昼頃。

食堂が最も混み合った時間帯に、大声を出したのは夜も煩い川内型軽巡洋艦の一番艦、川内。もしかしたら、この喧騒の中であっても食堂に居た全員に聞こえたかもしれない。振り向くと、提督と食事を取っている川内型3人娘の姿を見つけた。

 

「川内が言うと嫌味みたい」

「嫌味で言ったんじゃないよ。ほんと、キレーな顔してるなーって思っただけだよ」

「そっか。ありがとう」

 

嬉しそうに笑みを浮かべる提督に、私は目を背けた。

焼鮭を口に含み、緩慢な動作で咀嚼する。毎日変わらない焼鮭定食は久しぶりに味を感じない。

 

「提督は、化粧はしてらっしゃるのですか?」

 

川内の横に座って食事を取っていた大人しい艦娘が、そう問いかけた。川内型軽巡洋艦の二番艦、神通。気弱そうな見た目と裏腹に、高い戦闘力と根性を持つ艦娘だった。

 

「勿論。女として、最低限ね」

「興味はないの?」

「ないね。ご飯の方が好きかな」

「色気より食い気?気が合うね」

 

川内の言葉に笑顔になる提督。実際、気が合っているのだろう。提督が川内型と話している姿はよく見る。とても、楽しそうに――。

 

「那珂ちゃんは〜アイドルだから!勿論、メイクさんにバッチリキメてもらってるよ!」

「聞いてませんよ...」

「神通ちゃんは化粧あんまりしないよね?」

「ええ、まあ...あまり時間を掛けるのも勿体無いですから」

「川内はかなり気合入れてるよね」

「え?あ、うん...まぁ、ね」

「川内ちゃんって意外と女子力高いんだよね。お部屋すっっごい綺麗にしてくれるし!」

「姉さん、この間は夜食にサンドイッチを作ってましたね」

「へぇ...意外」

「は、恥ずかしいな...やめてよね」

 

他愛もない会話を続ける提督たちは、もはや食堂にいる全員の注目の的だ。チラチラと見てる者も居れば、あからさまに嫉妬の視線を送っている者も居る。金剛型なんて、離れたところからでも歯軋りが聞こえてきそうな勢いで殺気立っている。

 

(提督、今日はどうして食堂に来てるのかしら)

 

この状況は今に始まった事ではない。提督が食堂に来てしまうと、一緒に食べたがる駆逐艦の子たちや提督が大好きな物好きたちが彼女を取り合う。それがわかっているからこそ、提督はずっと執務室で食べていたのだ。私と二人で――

 

「山城さん、今日はお一人なんですね」

 

考え事をしていると、特盛のカツ丼を持った女性が話しかけてきた。

 

航空母艦赤城。ウチの鎮守府で最も忙しい、最前線の主戦力だ。つまり、戦闘において最も信頼されている艦娘である。横には同じく主戦力として日々前線に赴いている加賀もいた。

 

「赤城さんと加賀さん」

「お隣、失礼しますね」

「ええ、どうぞ...」

「どうも」

 

二人は女性とは思えない量のカツ丼を卓に起き、待ちきれないと言わんばかりに箸を持つ。

 

「お二人は、午後から?」

「ええ。昼食が終わったらすぐ」

「忙しいですね」

「作戦中ですから」

 

少しげっそりとした彼女の顔から、作戦の状況が窺える。順調、ではないのだろう。恐らくは、休みなく攻撃を仕掛けている最中なのだ。

唯一の癒しとも言える食事の時間を無駄話に費やすのは申し訳ないと思い、私は自分の料理に目を向け、話を止めた――

 

「それで」

 

――ところで、赤城さんは再び話しかけてきた。

 

「どうして今日はお一人なんですか?」

 

ニコッ、と表現されそうな笑みを浮かべた彼女はそう言った。意地の悪い笑みだ。

 

「別に」

「あら、不機嫌ですね」

「...チッ」

 

舌打ちした私を見て、彼女は口元を隠した。

 

「そんな恐い顔をしないでください」

「なら、からかわないで。私が不機嫌なのわかってるでしょ」

「クスッ。ごめんなさい」

 

誠意を見せる気なんて微塵もなさそうな謝罪をしながら、彼女は立ち上がる。

 

「相変わらず早い...もうちょっとゆっくりすればいいのに」

「提督と会議がありますから、急いで行かないと」

 

米粒一つ残っていない丼を置いて、彼女は食堂を出て行った。

 

「...提督ならそこに居るじゃない」

「...」

 

取り残された加賀さんに話しかけるも、予想通り返事はない。彼女は口下手で、事務的なこと以外は口を開かないのだ。

 

「赤城さんは何をしに出て行ったのかしらね」

「...」

 

独り言のように呟く。加賀はすでに食べ終わっているようで、マイペースにお茶を啜る。湯気が顔に纏わりついたのが癪に触ったのか、眉間にシワを寄せるが、声を出すことはない。

 

「...」

 

沈黙が続くも、周りの喧騒のおかげか、気まずさは薄い気がした――薄いだけで、勿論気まずいのだが。

 

「――提督は、誰が好き?」

 

喧騒の中、ふと聞こえた声に注意を向ける。どうやらあの卓のようだ。

 

「みんな好き。決まってるでしょ」

「その答えはずるいってば」

「勿論、那珂ちゃんが一番大好きだよね!だって...アイドルだもんっ!」

「那珂ちゃんも好きだよ」

「ありがとーっ!でも那珂ちゃんはぁ、特定の誰かを好きになっちゃダメだから...ごめんね?」

「残念。でもずっと応援してるからね」

「ん〜〜!提督、大好き!」

 

そう言って抱きついた艦隊のアイドルを提督は苦笑しながら受け止めた。

ああ、もう――仲良しね、全く。

 

「さて、そろそろかな」

 

提督はそう言って立ち上がる。それと同時に、食堂の扉が開いた。

 

「提督、準備が済みました」

 

引き締まった表情。扉を開けたのは、艤装用の服を纏った赤城さんだった。

先ほど笑んでた彼女とは別人のようなその姿に息を呑む。その場にいた全員が、声を上げることが出来なかった。

あの眼は、瞳は。私には出来ない――死を覚悟した瞳。幽幽たる海の底を映すことのできる瞳だ。

 

「ありがとう。――加賀」

 

提督に呼ばれた加賀はすぐに立ち上がる。赤城さんと同様の瞳をしていた。

 

「執務室に来て」

「わかりました」

「では行きましょうか、提督」

「ええ」

 

提督は、赤城、加賀と共に完全に静まってしまった食堂を去って行った。

沈黙に支配された空間は、誰からともなく再開した会話によって元の喧騒を取り戻した。

 

「ちっ」

 

一人取り残された私は小さく舌打ちをして、お茶を飲み干した。

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