艶やかな藤の華を添えて   作:ちょっと通ります

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第10話 御頭は炎柱と相対す

「兄上!お客様にそんな危険な事は!」

 

「心配するな千寿郎!技は実際に受けてみて実践するのが一番だ!なに、当たりそうな時はちゃんと止める」

 

「―こちらとしてもお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「うむ!道具は用意してある!早速ですまないが準備をしてくれ!」

 

 こちらから招いた客人にもしもの事があってはならない、そう千寿郎が止めるが杏寿郎と蒼紫から請われては彼はそれ以上は言い出せなかった。

 

 何よりあの兄上が断固として決めた事を崩せるような彼では無いし、態々しっかりと刃を潰してある小太刀の日輪刀を二つ用意してある辺り入念に準備しておいたことが窺える。

 

 蒼紫も小太刀二刀を構え杏寿郎を眼前に見据え構える。

杏寿郎は羽織から髪色、鍔まで炎を体現したような男だ。

燃え上がるような熱き猛者には半端な技など通用しないだろう。

相手の力量すら見抜けないようではとても御庭番衆の御頭などやってはいけない。

 

「うむ!準備は出来たようだな!千寿郎!開始の合図を頼む!」

 

「兄上!絶対に怪我をさせないでくださいね!それでは―

 

               始め!!!

 

 ◆

 

「いくぞ!四乃森君!!!」

 

 炎の呼吸 壱ノ型 不知火!!

 

 炎を纏い一直線に突っ込んで来る。

速さ、体重の乗せられた申し分のない一撃の威力、どれをとっても一般の隊士とは比較にならない。

これは受け止めるよりは躱したほうがいいかも知れない。

 

  御庭番式舞術 流水の動き

 

 拳法と剣術を融合させた独自の動きで紙一重で躱し、往なしてみる。

まだ戦いは始まったばかり、避ける労力は少ないに越した事は無いだろう。

振り下ろされた斬撃の鋭さを見るに呼吸で底上げされた一撃は強力だ、恐らく威力に関してならば杏寿郎に分がある。

 

 それに加えて日輪刀から出る炎の幻は刃の間合いを狂わせてくる、これが想像以上に厄介だ。

燃え上がる太刀筋が呼吸を使う利点を雄弁に語る。

足を止めて打ちあうのはあまり好ましくない。

 

(ならばここは機動戦に持ち込むまで)

 

 緩急をつけた幻惑の動きで側面へと回り込み、間合いの隙間から小太刀二刀を持って反撃する。

軽くて取り回しが良い小太刀だ、細かい技引き出しと手数ならこちらが有利、それも2刀となればこの分野に関しては独断場。

ゆったりした動きとは打って変わった迅速かつ怒涛の斬撃。

 

 御庭番式小太刀二刀流 陰陽交叉!

 

 炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり!

 

(―流石に警戒してくるか)

 

 受け止めた小太刀の後ろから次の小太刀が襲い掛かる。

しかし杏寿郎も負けてはいない、蒼紫の意図を見抜くと即座に前方を広範囲に打ち払う盛炎のうねりでまとめて斬り返してきた。

反動を利用し再び距離を取る。

仕切り直しとなった。

 

 届かない…互いに手を見せながらも決め手にならず、肌をひりつかせるような緊張感が鍛錬場を支配する。

僅かな時間な筈なのに何十分睨み合っているような静寂の時、互いの近い実力がその時間と相反する様に心の内を燃え盛らせる。

 

「よもや、ここまで戦えるとは思わなかったぞ!少々残念ではあるが次で終わりにしよう!この後も君に呼吸を教えないといけないし巡回もあるからな!」

 

「―承知しました、それでは胸を借りるつもりで行かせて頂きます」

 

 こちらの交差する構えを迎え撃つ様に杏寿郎も構える。

今ここで柱が使う呼吸の強さを知ることが出来て良かった、確かにこれは習熟できれば大きな武器となる。

こちらも鬼という理外の存在を相手取るには技を増やし、今ある技もより洗練せねばなるまい。

 

 炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天!

 

 御庭番式小太刀二刀流 呉鉤十字!

 

 小太刀の威力を補う為に全速力で駆け込み、半円状に斬りあげられた一撃に負けない様交差させ打ち込む。

斬撃の炎に惑わされるな、それは京都での決戦でしかと焼き付けた。

あれとは違って実際に燃えている訳では無い。

 

 ガキィ!ガキィ!

 

 ギギギ…!

 

 小太刀2刀で挟み込んだ中心に日輪刀を差し込んで来る。

ここだ、緋村の神速にも劣らない踏み込みと挟み込む太刀筋の見極め。

彼を越える背丈から繰り出す事によって、重力を上乗せしたこの一撃で押し切ってみせる。

 

「クッ…!」

 

「ォォオオオオ!!」

 

 ギ・・・ギ・・・バチィ!ドシャッ!ドシャッ!

 

 

 

 衝撃によって空気が震え、弾き跳ぶ。

互いに一歩も引かない強力な打ち合いはその反動によって両者倒れ込むという痛み分けの結果となった。

 

 

「―そこまで!」

 

 大人しい千寿郎ものとは思えない程、力強い声で終了を告げられる。

何だかんだ彼も見た目以外にも煉獄家の血をしっかりと引いているのだろう。

 

「見事だ、四乃森君!まさかここまで肉薄してくるとは!「―兄上」む?」

 

 互いに礼をした後の杏寿郎の掛け値ない称賛を千寿郎の静かな、しかし通る声が遮った。

 

「兄上、僕言いましたよね?お客様に危険な事はしない様にと」

 

「む?確かに言っていたな」

 

「それに対して兄上は当たらない様に止めるつもりだと仰りましたよね?」

 

 杏寿郎が燃え盛る赤い炎と形容するのなら千寿郎は静かに燃える青い炎だ。

―間違っても熱がない訳では無い、むしろ今の彼には杏寿郎よりも熱く飲み込んでゆくような恐ろしさすらある様に思える。

母を彷彿とさせる反論を許さない迫力に杏寿郎は冷汗を垂らしながら思わず正座をしてしまう。

 

「最初こそ止めるつもりだったかもしれませんが先程の一撃は躊躇なく振り抜きましたね?わかりますよ。お客様、それもこれから鬼狩りへと向かう新人隊士を再起不能にするつもりですか?いくら刃を潰しているとはいえ呼吸を知りに来たという状況の四乃森様に兄上の力で振り抜いたらどうなるかぐらいは想像がつきますよね?」

 

 千寿郎が言うように刃を潰していようがそれは鉄の棒と変わらない。

鍛え上げられた猛者が呼吸を使って練り上げた一撃となれば剣客としての生命を絶たれることだってありうるのだ。

温厚な彼でもこれは流石に怒る。

 

「悪かった!悪かったから勘弁してくれ、千寿郎!」

 

「謝るのは僕にじゃないでしょう、四乃森様に謝って下さい」

 

「千寿郎殿…ご覧のとおり傷1つ無いのでお構いなく。憶測ではあるが杏寿郎殿はこちらの技を千寿郎殿にも見せたかったのでは無いかと存じます」

 

「…四乃森様がそう仰るならここまでにしましょう。兄上、久しぶりの打ち合いに熱が入るのはわかりますが程々にしてくださいね?」

 

 蒼紫の助け舟によってどうにか怒りの矛先を収める千寿郎。

普段怒らない人ほど怒ると怖いというのは本当の様だ。

 

「うむ、勿論だ!すまなかったな四乃森君!よもや呼吸を修めずともこれほど打ちあえるとは思わなかったぞ。そして改めて頼みがある!空いている時でいいから千寿郎に色々と教えてはくれまいか!?」

 

「兄上!?」

 

「千寿郎はずっと鍛錬を積み重ねてきたが、ついぞ日輪刀が染まる事は無かった。呼吸とは違った強さを持つ君の力を貸して欲しい!」

 

 杏寿郎の突拍子もない頼みに千寿郎は唖然とする。

蒼紫には立ち合いの際全集中の呼吸による独特の息遣いは一切見受けられない、にも関わらず互角に撃ちあえた。

それは呼吸の才能が無くとも強くなれる可能性があるという事でもある。

 

「―長く険しい道のりになります。確実に強くなれる保証もありません。何よりも本人の意志がどうなのか、その一点に尽きます」

 

 杏寿郎の頼みを聞くこと自体は簡単だ、しかし剣術で彼の領域まで登りつめるのはかなりの歳月が必要となる。

それ以上に弟である千寿郎の意志が全く介入されていないのであれば問題だろう。

 

「兄上…僕も煉獄家の為に出来る事をしたいです。四乃森様、よろしくお願いします!」

 

「千寿郎殿…承知しました」

 

「良かったな千寿郎!さて、話を逸らしてしまったな!早速呼吸の鍛錬に当たるとしよう!」

 

 打ちあいの稽古は終わり再び呼吸を学ぶための鍛錬に戻る。

指導に当たる杏寿郎は輝いており、より一層熱気が増しているような気がした。

 

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