中々上手くまとまらず苦戦いたしました。
UA3万千達成、お気に入り490達成ありがとうございます。
これからもお付き合い出来れば幸いです。
鬼を斬る、鬼を斬る。
次々と場所を変えしかし代わり映えしない血を血で洗うような苛烈な日々。
修羅の如き強さで鬼を狩る新人隊士が噂になっていた。
小太刀二刀という特徴的な武器を使い、猩々緋鉱石製の小手を使って拳で頸を吹き飛ばす。
鬼を狩った後は隠達と後始末をしながら情報を集める鬼殺隊最年長の新人隊士。
目立つ要素がこれでもかと目白押しだ。
彼は今浅草に任務で来ていた。
着いたのは陽光がまだ残る黄昏時、鬼の動かない時間帯だ。
少しだけ時間があるのでその間に紅茶や洋物などといったハイカラなものを中心に購入する。
それなりに先の時代に迷い込んでしまったのだ、出来るだけ早く大正時代の文化にも触れておくべきという彼なりの理由だった。
(もうすぐ夜だというのに随分と明るいものだ、この3,40年でこれほど変わるものなのか)
夜といえば自分達隠密が人知れず暗躍する時間だった。
こうも明るくそれでいて人が多いのは不思議なもの。
そろそろ鬼が活動を始める時間が訪れる。
蒼紫が任務に向けて裏路地で支度をしている時、彼と再会した。
「炭治郎か、今回は合同任務のようだな。―こんな外れで会うとは浅草の人混みに酔ったか」
「蒼紫さんお久しぶりです、はい、初めての都会で気疲れしてしまいました…。蒼紫さんはお元気そうで何よりです」
炭治郎は隣に大きな木の箱を置いておりもう片方には彼よりも更に幼い少女がうたた寝をしている。
何よりも
「隣にいるのは誰だ」
「妹の禰豆子です。ちょっと疲れたみたいで―」
「そう言う意味では無い、口枷もそうだが彼女は―」
竹製の口枷をしている時点でかなり異質な出で立ちだがそれ以上に炭治郎が任務に連れてきている事の方が異常だ。
命を散らすことが茶飯事な危険の大きい仕事に武装すらしていない身内を連れてくるなどあり得ない。
これらの情報を纏めて辿り着く答えは…懐にしまっていた小太刀を構える。
「待ってください!妹は人を襲いません、寝る事で飢えを凌げるんです!」
「―もう少し詳しく話せ。情報が無ければ判断が出来ん」
必死になって説明をする。
家族が鬼の始祖である無惨によって殺された事、その中で妹だけが鬼として生き残った事、鱗滝という育手の下で2年間修業する間一度も目を覚まさず体質が変化したのではないかという事。
今は鬼殺隊に入ってからは共に鬼を退治しているという。
「―という訳です。お願いです、妹を斬らないでください!」
嘘は言っていない、そう感じた。
江戸城を刺客から内通者から守り抜いた彼には素人の嘘など簡単にわかる。
幕府の中枢には海千山千あらゆる曲者がいたものだ。
ましてや彼は相当に嘘をつくのが下手なようだ。
(-拘束や処分の指令が来ていないのとこの形で任務を続けていた事が気になる、気付いていないとは考えにくい…頭目に黙認されているという事か…?)
「彼女が人を食い殺した時は…わかっているな?」
「はい!禰豆子を斬った後、俺は腹を切って詫びます!」
「なるほど覚悟はわかった。―が気を付けろ。重要な事が抜け落ちている」
「重要な事…ですか?」
「全員がその限りではないだろうが大半の者が鬼に大切な人を奪われている。鬼そのものを憎悪する者。頭では理解していても認めたくない者が殆どになる筈だ。何よりお前自身の妹、身内が庇って虚偽を言っている様に受け取られる事も十分考えられる。鬼殺隊士としてそれが明るみに出た時は思っている以上に立場が悪いものだと考えておけ」
◆
「思っている以上に立場が悪いものだと考えておけ」
蒼紫さんの言葉に氷柱を背中に突っ込まれたような寒気に襲われた。
そうだ、殆どの隊士は無惨以外の鬼に身内や恋人といった大切な存在を奪われている。
禰豆子の存在を認めず刃を振るう人だっていてもおかしくはないんだ。
彼からは悩みと心配の匂いがする。
冨岡さんみたいに表情を変えないだけで本来は情の深い人なのかも知れない。
頭を冷やせ、禰豆子を守るにはどうすればいいか考えるんだ。
「はい!絶対に禰豆子を守ってみせます!そう言えばこの奥にうどんの屋台があるんです。せっかくなので食べていきませんか?」
「ああ」
屋台に向かい山掛けうどんを頼む。
とろろの真ん中に落とされた黄身が満月のようだ。
刻まれた青葱から立ち上る豊かな香りが食欲をそそる、本当に美味しそうだ。
「では頂きま…」
遠くから強烈な臭いが風に乗って届いた。嗅いだ覚えのある臭いに箸が止まる。
忘れるものか、禰豆子以外の家族を皆殺しにされたあの日。
我が家に漂っていた激烈に不快な血の臭いだ。
動悸が冷汗が止まらない。
「蒼紫さん、禰豆子を頼みます!」
これまでの鬼とは訳が違う、禰豆子を危険に晒す訳にはいかない。
お椀を置き、無我夢中で駆けだした。
眩暈がしてあれ程億劫だった人混みをものともせず掻き分けてゆく。
逃がすものかこの場を逃したらいつになるかわからない。
繁華街の真ん中、ついに匂いの根源へと手をかける。
「…ん?」
肩を掴まれたその男は怪訝そうに振り返る。
青白い肌に鬼特有の縦に割れた薄紅色の瞳孔、その二点を除けば人と変わらない姿だ。
それもかなり整った顔立ちをしている、揺らめく様な癖のある髪にハイカラな黒を基調とした高そうな服と白い帽子。
鬼を知らない人からしたら彼が鬼であるという考えそのものが浮かばないだろう。
腰の日輪刀を抜こうとしたその時―
「お父さん!…だあれ?」
彼が抱きかかえていた小さな女の子が不思議そうに話しかける。
こいつ…こいつ!こいつ!人間の振りをして暮らしているんだ!
「私に何か用ですか?随分慌てているようですが?」
何食わぬ顔で平然と尋ねてくる。
あくまでしらを切るそのふてぶてしさに怒りが止まらない。
「あら?どうしたの?」
子供だけでは無く、妻までいるのか…。
人間だ、女の子と女の人は人間の匂いだ。
知らないのか…?人を食うって…!
「月彦さん、お知り合い?」
「いや。困ったことに少しも…人違いでは…ないでしょうか?」
燃え滾る激情を押さえつけろ、頭を冷やせ。
俺は嘘が得意じゃない。
事実の中で探りを入れるんだ。
「すみません、雲取山へ向かわれませんでしたか?」
「いいえ、行った事がありませんね」
「雲取山?ここからかなり距離があるわね…。何かの間違いじゃないかしら。そこまで行けるほど家を空ける事はありませんし」
男の方からは嘘の臭いがする…奥さんからはそんな匂いがしない。
知らないんだ、鬼であるって…!
いや待て、今凄まじい動揺の臭いがしたぞ…。どうしてだ…?
「どうやら…人違いだったようですね。それではこれで…」
そう言いながら軽い手つきで通り行く人を引っ掻いた。
信じられない速さ…そして慣れた動き、一体どれだけの数を鬼にしてきたんだ…?
…?心なしか奴が顔を顰めたそんな気がする…。
「貴方?どうしました?…貴方…?」
「ウ…ウゥガァアア!!」
鬼となった男性が心配した妻の肩に食らいつく。
繁華街に悲鳴が轟いた。
頭巾を外し男性の口を封じ込める。
「奥さん!こちらよりも自分の事を!傷口を強く縛って下さい!」
「麗さん危険だ。向こうに行こう」
ただ通りがかっただけの人になんてことを…何食わぬ顔をして無惨が去っていく。
でも駄目だ、この人を置いてはいけない。
女性の傷も深い圧迫が弱いのか出血が広がっている。早く治療しないと…!
「どこへ行こうと逃がさない!地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頸に刃を振るう!絶対にお前を許さない!!!」
「貴様ら!そこで何をしている!」
「酔っ払いか!?」
「離してください!俺以外じゃこの人を抑えられない!この人に誰も殺させたくないんだ!邪魔をしないでくれお願いだから!」
惑血 視覚夢幻の香
花の帯のようなものが縦横無尽に広がってゆき辺りをくらませる。
刺客か!?だとしたら不味い!
そうあたりを警戒し視線を巡らせていると着物姿の麗しいがどこか愁いをおびた瞳を持つ女性と書生姿の男性が近寄って来る。
「貴方は。鬼となった者にも人という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしている…。ならば私もあなたを手助けしましょう」
「何故ですか?貴方は…貴方の匂いは…!」
「そう…私は…。鬼ですが医者でもあり…あの男を鬼舞辻を抹殺したいと思っている…」
彼女が愈史郎と呼ぶと後ろに控えていた男性が何やら拾い上げる―あれは一体…?
数分前 蒼紫側
「…厄介だな」
「ヴー!ヴー!」
建物の上で蒼紫は青筋を立て、今にも飛びかかろうとする禰豆子を抑える。
こんな街中で暴れられたら堪ったものではない。
つくづく離れていた事が悔やまれる。
人間を鬼にした事から推察するに、よりにもよって相手が鬼の首魁である。遠慮なくその力を振るわれればこの浅草は地獄絵図と化すだろう。
「いいか禰豆子、今あの男を襲ったとしても返り討ちに合うだけだ。その場合最も危険に晒されるのは懸命に堪えている炭治郎だろう。あの男が無惨であると見破ったのだからな、兄の意志を台無しにするな」
蒼紫の話にハッとしたような表情で少しずつ力を抜いてゆく禰豆子。
炭治郎から鬼となった反動からか幼くなっていると聞いている。
理性的な話は難しいと考えてはいたが、兄が危険に晒されると理解したかどうにかこの場は収まりそうだ。
爪を伸ばした時、牽制に放った苦無がすり抜けた。
当たらなかったのではない、身体はともかく服の方には穴が開いているからだ。
ただ、それを錯覚させるほどに異常な程再生が早い。
あれでは頸を切断できるかも怪しい。
鬼の首魁の姿が見えなくなり官警が集まってきた辺りでようやく禰豆子が落ち着きを取り戻す。
「いくぞ禰豆子。炭治郎の安全を確認しなければ」