艶やかな藤の華を添えて   作:ちょっと通ります

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第15話 御頭は忍達と邂逅する

 蒼紫は鎹烏が呼びに行く間に情報を集めていた。

鬼殺隊に居場所が割れた以上、鬼舞辻本人が戻ってくる可能性はほぼ皆無であろう。

しかし双方にとって不測の遭遇であった為、咄嗟に隠れたにしろ更なる情報を残しているかも知れない。

 

 月彦という名の者がどこに居を構えているか聞き込みをしたらあっという間だった。

 

「月彦?浅草有数の貿易商じゃねえか。それならこの道をまっすぐ行って大通りの所を右に曲がればすぐだな。でっかい屋敷だから間違えようがねえ。ほら行くぞ、ったくあれ程飲みすぎるなって言ったのに」

 

「うぅ~、すまねえ兄貴~。アイタタタ…」

 

「ご協力感謝する」

 

「お兄さんの役に立てたようで何よりだよ。水でも飲んでゆっくり寝れば落ち着くさ、やっちゃん。アンタ、そろそろ行くよ」

 

 やっちゃんと呼ばれる男とその兄夫婦と思われる3人組は二日酔いを覚ましたいのか素早く去ってしまった。

どうやらこの辺りでは有名な資産家だったようで早くも聞き込みが終わってしまう。

こちらから連れてきてほしいと頼んだ手前、待ち合わせに指定していた藤の家紋の家へと赴き準備を整える蒼紫であった。

 

 藤の家紋の家で必要な書状を纏めてゆく。

コレの作成にはどうしても時間と材料がかかるが入用の物を準備してくれる彼らには頭が下がるばかりだ。

浅草での任務は一際重要なもの。色々と纏めておく必要がある。

 

 彼が家の中で書きものを進めていたそんな時、ピタリと筆を止めた。

 

(…複数の視線を感じるな。これは警戒か?)

 

 殺気の様なものは感じられないが木の上から絶えずこちらを伺っているようだ。

鬼―今は日が昇っている。血鬼術すら満足に扱えないだろう。

鬼殺隊士―にしては気配を消すのが巧妙だ、隠にしたって名前とは裏腹に隠密の様な事は請け負ってはいない。

にもかかわらず今潜んでいる者達の気配は素人のそれとは一線を画すものだ。

とりあえず手ごろな石を拾い上げ比較的気配の目立つ方に向かって投げつける。

 

 ギャン!と声が聞こえたと同時に落ちてくる。

隊服とは異なる黒を基調とした衣装を身に纏った女性が打ち付けた臀部をさすっている。

あまりにもあっさりと撃ち落とされる様を見て勘違いだったかと内心首を傾げる蒼紫。

 

「ふぇ~ん!痛いですぅ~。まきをさーん!」

 

「馬鹿!くノ一が自分から情報をべらべらと喋るんじゃない!庭に埋めてやろうか!」

 

 落ちてきた女性が他の気配をした方向へと助けを呼ぶ。

片や泣き叫び、片や叱りつけ騒ぎ立てる2人。先程までの静観はどこへやらだ。

それは置いておいて気になる言葉が一つ。

くノ一。幕府の時代は終わり明治となった時、忍びはゆっくりと静かに姿を消して行った筈。

現場で頭領として衰退を目の当たりにしてきた蒼紫にとってはまさか今でも残っているとは思ってもみなかった。

 

「2人とも落ち着いて、申し訳ありませんでした四乃森様。私は雛鶴と申します」

 

「アタシはまきをだよっ。須磨の奴が口を滑らしたから今更かもしれないがね」

 

「あー!酷いです まきをさん!私だって鬼殺隊士として一生懸命頑張ってるんですから!」

 

 鬼殺隊において少ない女性の隊士、通常の隊服とは明らかに違う忍び装束に身を包んだ者が3人というのは中々に珍妙な光景だ。

どうしたものかと思案している内に宝石やド派手な化粧を施した大柄な男が音も無く現れる。

蒼紫と比べても5寸は大きく、巧妙な気配の消し方は3人とは比べ物にならない。

 

「さっきは派手にすまなかったな。アンタの事は噂には聞いていたぜ」

 

「「「天元様!」」」

 

「柱の方ですか、四乃森蒼紫と申します」

 

「おう!俺は祭りの神こと音柱・宇随天元様だ!忍かも知れない隊士がいると聞いてな、まさかと思って確認していた訳だ」

 

 柱がやって来ることは想定していたが監視はともかく謝罪されるとは思わなかった蒼紫。

引っかかるのはまさかという言葉、それに忍。

 

「―抜け忍ですか」

 

「派手に話がはえーじゃねぇか!裏切り者として嫁達を消されちゃならねえ。俺が派手に優先するのは嫁3人だ」

 

「側室までいるのですか。武家のようですね」

 

「いや3人とも正室だが っと話が逸れた。今は任務を優先する。警察には話を付けて来たから俺達で乗り込むことが出来るだろう、皆着替えてくれ」

 

 嫁に関する衝撃発言は互いにさらりと流し大まかな任務の内容を確認する。

蒼紫は鬼舞辻が人に擬態して潜り込んでいると判明した経緯を炭治郎達の事を伏せて説明し、天元がそれを踏まえて事情徴収する流れを組み上げてゆく。

 

 通常なら失踪したであろう鬼舞辻の捜索や屋敷で暮らしている妻子の保護は警察の仕事になるがほぼ間違いなく鬼が絡んで来る以上、日輪刀の無い彼等では餌にしかならない。

そこで鬼殺隊の出番という訳だ。あまり使われる事ではないが彼らの権力は国家機関にも及ぶ。でなければ東京の至る所で日輪刀を帯刀するなど出来る筈もない。

冤罪によって死刑が確定していた岩柱 悲鳴嶼行冥が助けられたことなどがその一例だ。

 

 何よりその首魁の隠れ蓑である、鬼舞辻が戻るかは不明とはいえ相当危険な場所である事は間違いないだろう。

十二鬼月が現れたとしても何らおかしくはない。

鬼殺隊でも並みの隊士では足手纏いにしかならず不足に過ぎる。

 

(村上と同じ連鎖刀…それもかなり大きいな。所々火薬の臭いがする。威力はありそうだが持ち込むには不向きな気がするが)

 

「ん?持ち運びを気にしてんのか?日輪刀はこいつらに任せておけ。こう見えて派手に優秀だ」

 

 手を叩いて呼び出したのは天元と同じ頭の装飾をした鼠達だ。

信じがたい事に意思疎通をしながら彼の大型の連鎖刀を持ち運び移動していく。

この世界の動物は一体どうなっているのか、鴉は喋るし鼠は己も何倍もある刀を運べる怪力だ。

 

 月彦邸

 

「ごめんください、昨夜の騒動についてお尋ねしたいのですが月彦さんはいらっしゃりますか?」

 

 広大な敷地に立派な屋敷を構えた鬼舞辻の拠点。

鬼殺隊一同まさかここまで堂々と溶け込んで暮らしているなど思ってもみなかっただろう。

大正時代日本において自動車はおよそ60台ほどしか存在せず華族や大富豪といった一握りの者しか持つ事など出来ない代物なのだ。

蒼紫のいた時代では勿論国内には存在しない、あの内務卿・大久保利通ですら使っていたのは馬車である。

 

 丁寧に化粧を落とされた天元の素顔で微笑みながら尋ねかける。

聞き込みに関しては蒼紫より社交的かつ既婚者である事から女性の機敏に聡い彼が適任と考えての事。

奥から出て来たのは主人では無く洋装に身を包んだ淑女 麗であった。

 

「警察の方ですか。その話なら主人が伺いに向かった筈ですが」

 

「月彦さんですがね、警察の方へは顔を見せていないんですよ。二次的な被害も考えられますし詳しいお話を聞かせては頂けませんか?」

 

「っ!そんな…失礼しました。奥へどうぞ」

 

 動揺を隠せないものの何とか踏みとどまった彼女に応接間へと通された一行。

上品な装飾品が至る所に飾られており、特に壺は一目でわかるほど名品と思われる。

 

「―以上が私の知るあの時の騒動です。市松模様の羽織を着た少年が主人に《鬼舞辻無惨》と叫んでいました。人違いだと思うのですが…」

 

 ハンカチーフで目元を拭い時折詰まりながら証言をしていく。

麗からしてみれば旦那が事件に巻き込まれ蒸発したかも知れないのだから無理もない。

自分だけならまだしも幼い娘もいるのだ。

 

「お兄さん、パパはどこにいるの?パパは皮膚の病気なの。太陽に当たったら大変な事になるっていつも気を付けてた」

 

「―大丈夫だお嬢ちゃん。きっとパパはお仕事が長引いているのさ。これからの事はお兄さんたちに任せてくれ」

 

 涙目になりながら袖をギュッと握りしめる娘に天元が優しい手つきで頭を撫でる。

彼女が落ち着いて来た辺りで雛鶴達に娘を任せた。

主人の正体については明かさない方がいいだろう。

妻子の証言を総合するに月彦が鬼舞辻である事はほぼ間違いないが大量殺人鬼であるなど口が裂けても言えない。彼女達は罪を犯していないし利用されていただけだ。

 

「恨みや潤沢な資産を狙った犯行という方向で調べてみます。少しばかり部屋を調べさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 ―

 

 時間をかけ月彦の部屋を重点的に調べる蒼紫、天元、須磨の3人。すっかりと日が落ちてしまった。

護衛は雛鶴とまきをの2人に任せてある。

爆弾を使う自身の戦い方は一般人まで巻き込んでしまう、須磨はみそっかすと自称する様に他の嫁達と比べると戦闘力ではやや劣る。

蒼紫に関しては追手では無いと踏んではいるが、絶対的な信用は置けていない相手に嫁達を任せるのは難しい天元なりの人選であった。

 

 そんな時である

 

(ん?何か気になるものでも見つけたか?)

 

 蒼紫がじっくりと書類を眺めている、どうやら仕入れている品物の記録の様だ。

数百年の鬼殺隊の歴史の中で鬼舞辻の拠点をこうして調べる事が出来るなどかつてあっただろうか。

生半可な調査は絶対に許されない。

 

「―須磨、悪いが記録を頼めるか?」

 

 須磨は戦いは得意ではないがそれを補える多彩な技術がある。

その1つが手紙の速記だ。近々3人を遊郭へ忍び込ませる予定な為、遊女に必要な技を磨いている。

意外に思えるかもしれないが須磨が最も筋がいい。器量もいいので花魁に登りつめる可能性だってある。

遊女は手紙を素早く書く事も必須の技能なのだ。

 

(蒼紫さんが注目して見ているのは、えーっと植物みたいですね。よく見ると青色の物や彼岸花といった種類が多いような…?)

 

 そう思案していたその瞬間、甲高い割れる様な音が鳴り響いた。

月彦邸に差し向けられた刺客とは―?

 




大正こそこそ噂話

やっちゃん達が生きているのは
蒼紫が無惨の服に穴を空けたからだよ

建前とはいえ穴が開いて血が付いた服なんて商談に使えないから着替えてる間に裏路地を過ぎちゃったんだって

アンケートの締め切りを書くの忘れてました
締め切りは10日0時にします

月彦邸に現れた刺客は?

  • 下弦 補助付き
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