鬼側のアレンジとコンセプトの点から中々に難産だった…。
そう言った意味でちょっと冒険気味な展開です。
楽しんでいたたけたらありがたいです。
◆ 月彦邸 応接間
「っ!まきを」
「言われるまでも無いね!あたし達でこの子達を守るよ!」
まず気が付いたのは部屋にいた雛鶴とまきをの二人だった。
彼女達自身優秀なくノ一であり、鬼殺隊士でもあり並みの鬼が相手なら後れを取る事などあり得ない。
あらかじめ予想されていた通り、麗達を遮りつつ苦無を取り出す。
ムキムキ鼠の御蔭で他の武器もバッチリだ。
それでも彼女達のこめかみには一筋の汗が流れる。
「こそこそと嗅ぎまわられては困るのでな、あの方の命により始末する。それにその得物…投げつけた不届き者はお前達か」
「下弦の弐…!」
残念な事に彼女達の前に現れたのは通常の鬼では無かった。
作務衣を身に纏い、ひび割れた顔面が特徴的な眼前の彼は決して弱い敵では無い。
妙な事を言ってはいるが今はそれを置いてでも戦いに集中する必要がある、生き残れた時旦那に報告すればいいのだ。
十二鬼月―鬼舞辻が誇る精鋭の一体である。
(まきをだけならまだ何とかなるけれど…厳しい事には変わりない…。それに屋敷に入ってからずっと感じる周りから覗かれてるような視線―)
自身の最大の得物が飛び道具な事もあり、まきをの後方で苦無を構え辺りを見渡す雛鶴。
視界に鬼を捉えながらも幅広い視野を確保する事を怠らない。
「中々勘が鋭いようだ、力を借りようともあの方の御命令には万全を喫す。それでは遠慮なくいかせてもらうぞ」
下弦の弐、轆轤が手を掲げると屋敷の至る所に置かれている壺から見るも悍ましい巨大な金魚達が現れた。
◇ 月彦の部屋
「―魚の血鬼術と壺の血鬼術か」
「チッ、気持ちわりぃ魚なんて出しやがって!地味だが面倒な真似してくれるじゃねえか」
天元達がいた部屋にも壺から金魚が、それも雛鶴達の部屋よりも大量に出現し次々と不規則に襲いかかって来る。
連携の取れていない魚達など取るに足らないと斬って捨てている天元と蒼紫だったが…。
「ダメです天元様~!切っても刺してもくっついて襲って来ますぅ!」
須磨が泣き叫びながらなんとか対処する。幸い戦闘力はそれほどでは無い様ではあるが数が数だ。
彼女が言うように頸を刎ねてもバラバラにしても、なんと壺を壊してすら復活するではないか。
壺の底についている土台が回転したかと思うと忽ちに直しそれと同時に金魚も再生を始める。
丸々と大きな金魚なんて胡蝶のところだけで十分だ、フグと名付ける感性がよくわからない。
以前、蝶屋敷にて好物であるフグ刺しの話をしていた時、勘違いされて鳩尾に一撃を喰らった事がある。
すぐさま誤解だと判明し謝られたが誰が人様の金魚なんて食べようと思うのか、本人は認めたがらないがあれも中々の天然だ。
そう内心毒づく天元であった。
(グズグズなんてしてらんねえ、音がしたのは雛鶴とまきをが居た部屋からだ)
音柱の名を冠する彼だからこそ、優れた聴覚で何処を襲撃されたのか正確にわかってしまう。
強力な鬼との戦いの場において一般人など足手纏いでしかない。
これ程厄介な血鬼術を使う相手なら間違いなく十二鬼月だ、下手をすれば上弦かも知れない。
それほどまでに今まで戦ってきた下弦の鬼と比べても厄介な血鬼術だった。
そんな相手に守り乍らの片手間で相手にする事は文字通り命を投げ捨てる覚悟が求められる。
「雛鶴達と合流する!ちょっとだけ離れてろ!」
音の呼吸 壱ノ型 轟
天元がその巨大な連鎖刀を打ち付け炸裂させる事で床を破壊する。
廊下の方からも大量の気配がする以上、のんびり回り道などしてられない。
その過程でいくつかの手掛かりも吹き飛ばす可能性もあるが、同じように手掛かりになりうる鬼舞辻の家族と何より嫁達の命を優先する苦渋の決断でもあった。
「急ぐぞ!」
「待ってください天元様!…えっ!?」
天元、蒼紫がほぼ同時に、やや遅れて須磨が飛び込む、彼らとの速さの差が思わぬ形で現れる事となった。
「天元様!?蒼紫さん!?どこ行ったんですか!?」
先で待っている筈の天元達の姿は見えず、出迎えるは悍ましい金魚の群れ。
すぐさま振り返るが先程まであった穴は跡形も無く消失している。
つまり、ここがどこなのかわからず天元達の救援が直ぐに来るとは限らないという事。
「ギャー!助けて天元様―!!」
頸を落とそうと始末できない金魚の群れの前に放り出される須磨。
くノ一として活動していた頃から隣り合わせた、見届けて来た最悪の結末が己の脳裏を焦がす。
そんな彼女の意志などお構いなしに怒涛の勢いで彼らは迫り来ていた。
「こんな奴ら相手にしてらんないですぅ!」
それに対して須磨の決断は即時撤退であった。
倒せない敵を相手にするのは不毛、護衛対象もいない中で足を止める理由など無い。
まして今は胸の奥に忍ばせた書状がある。
鬼舞辻が証拠を抹消する前にしたためた情報の宝。
走る、最後まで生き残った者が勝ちなのだ。
自分達の命を最優先にしろという天元の教えを支えとして。
―
「おい須磨!どうした!?何があった!?」
やや遅れて来るだろう須磨が来ない、返事すらない。
いくら味噌っかすを自称してもアイツだってくノ一だ、こんな目と鼻の先1秒あれば追いつける筈。
「―先程まであった穴の先に壁が、どうやら別の場所へ分断されたようです」
四乃森が落ち着いて地味に状況を分析する。
冨岡みたいに暗い印象を受けるが今はその冷静さが頼もしい。
アイツは腹が立つほど言葉に問題があるが戦闘に限っては何故か連携を取るのが上手いからな。
俺にとって嫁達は生き甲斐であるのと同時に気にいらねえが焦りを生む弱点でもある。
しかし、コイツは何者なんだ?これ程の忍なら俺が知らない訳ないんだが…。
「四乃森!お前にもこれを渡しておく!元薬込役なら使えんだろ!各自別れてあいつらを探すぞ!雛鶴達と合流した方はその場で足止め、須磨と合流した時は引き連れて行動だ!」
そう言って蒼紫に小さな球体を手渡し手早く指示を飛ばす。
「炸裂弾、起爆法と威力は?」
「ぶつけるだけでいい、3つもありゃ壁ぐらいは吹き飛ばせる。間違っても倒壊する様な箇所は壊すんじゃねえぞ!」
◆ 応接間
「まったくしつこいったらありゃしないね!」
まきをが軽やかな身のこなしで轆轤の攻撃を躱しつつ、金魚を切り刻み壺を砕く。
「しつこいのはお前らの方だろう。見え見えの時間稼ぎなど小賢しい真似をしおって…お借りしている壺を壊されると私が怒られるんだぞ」
血鬼術 輪転修
しかしその度に回る土台が壺を直し、態勢と整え再び襲いかかって来る。
「まきを、離れて!斬っても刺しても駄目ならこれでどう!?」
「了解!任せたよ雛鶴!」
雛鶴の得物は大量の苦無を飛ばすことが出来る。
十二鬼月に名を連ねるだけあり轆轤は苦無の雨を躱すが、その図体故に制圧攻撃を躱す事の出来なかった大半の金魚達は苦しみ悶えたかと思うと痙攣し、やがて動かなくなった。
「なんだと?これが噂に聞く毒攻撃か。万全を喫したつもりがこんな方法で対策してくるとはな」
「隙だらけだよ!」
「っ!?しまった!」
細切れにされても死なない金魚を突破されるとは思ってもみなかった轆轤は離れる…と示し合わせたように まきをが死角に潜り込み脇差で頸を狙う。
「えっ?」
しかしそれよりも早く轆轤の頸が回転したかと思うと狙うべき場所には何もなかった。
彼女の頭上には顔が浮いている。
「ふぅ…危ないところだった。どうやら娘達と甘く見ていたようだな、だがそれももう終わりだ。もうあれだけの毒苦無など残ってはおるまい?貴様らはここでなぶり殺しにしてやる」
轆轤は言うが早いか胴体が襲い掛かる間に頸は別の部屋へと移動させてしまう。
「すばしっこい奴らだったがこれで終わりだ、こいつらから狙えば良かっただけの事」
「ママ!」
「っ!」
口も無いのに胴からは声が響く、つくづく鬼という存在には道理が通用しない。
飾られていた壺の中で最も大きなものから出て来てきたのは吸盤のついた極太の触手であった。
雛鶴達などお構いなしに後方に控えている妻子に襲いかかる。
それだけはあってはならないと2人が前に立ちはだかり攻撃を止める。
だが毒苦無を殆ど使い切り、男より劣る筋力で扱う小太刀より短い脇差で迎え撃つには威力が足りなかった。
両断できずに腕や足に絡み付かれ動きを封じられてしまい身動きが取れない。
その太さと弾力性の前に拘束されもがいている間にも毒を逃れた金魚達と轆轤が迫り来る。
「くっ、離せ!しつこい男は嫌われるよ!」
「随分と手こずらせてくれたがここまでのようだな。痕跡も残すなとの事だ骨も残さず食べるとしよう」
万事休すかと思われたその時、至る所で轟音が鳴り響く。
何事かと轆轤が振り返るとほぼ同時に最寄りの壁が吹き飛んだ。
辺り一面が煙に包まれ瓦礫と埃が晴れる頃には花火を思わせる派手な伊達男が2人を抱きかかえ、触手だったと思われる残骸は床に散らばっている。
「テメエ人の嫁に何してやがる…!」
「「天元様!」」
「これ程の破壊力、そして技量の高さ。お前が柱か!ちょうどいい、ここに居る女共々この館で眠るが―」
言いきる前に轆轤の胴が脚が切り刻まれ体勢を崩す。
いつの間に?煙に巻かれている時か?
「始末するねぇ…、お前どこからこいつら借りて来た?弱すぎんだよ血鬼術に比べてな」
「フ、フフフどれだけ私が弱かろうと倒せない事実は変わるまい。こいつらさえいればいずれお前らの体力が尽きて死ぬ。違うか?」
「柱を舐め過ぎだぜぇ!嫁もこいつらも守りながらテメェら全部相手してようやくトントンなんだよぉ!」
R-18では無いので天元様颯爽と登場
薬込役 御庭番の前身で表向きは将軍が使う鉄砲に火薬を詰める職だったそうです。
轆轤 原作では無惨様のパワハラ会議で処分されたため情報がなく自分なりにアレンジしてみました。
処分理由を見るに怠慢ではあるものの役に立とうとはしていたみたいなので玉壺から血鬼術を借りて便乗する方向で進めてみました。
巻き戻しをイメージして陶磁器を直す血鬼術を組み込んでます。
分断して敵を数で制圧する形にしたので相当に面倒くさいです。
最もその大半は玉壺に依存しているのも確かですが。
無惨が潜入先の拠点を無防備にしているとは考えにくいので監視及び始末する役ですね。
名前的にろくろ首を想像してみましたが首が伸びるのは堕姫と被るのでもう1つの頸を外せる方を採用。後者の方が鬼としても都合が良いという理由もあります。