見切り発車故、手探りですがよろしくお願いします。
リクエストなどがあればコメントかメッセージまで、すべて反映できるわけではないのでご理解のほどよろしくお願いします。
「…しのぶ殿はいったい誰を模している」
背筋が、凍った。
鋭利な言葉に咄嗟に声を返すことが出来なかった。
「…質問の意図がわかりません」
蝶屋敷に所属している間、沢山の人と触れて来た。
事情を知らない者にしのぶ様は張り付けた笑顔だと触れられたことはあった。
しかし誰の模倣なのかを聞かれたことは無かった。
「変装には多少の心得がある。演技の質と仕草の幅の乖離を見るに誰か手本としているのだろう。しのぶ殿に何があったかはわからんが、相当に危ういぞ」
「御質問にはお答えいたしかねますが、御忠告として受け取らせて頂きます」
変装という不穏な言葉はともかくとして、しのぶ様の事を案じているのはわかった。
あの方は柱として医者として頼られることはあれど、頼る事はあまりない。
これが柱の背負う宿業だとでもいうのだろうか。
更に言うなら蝶屋敷の責任者でもある、頼られる機会は誰よりも多いだろう。
ここ蝶屋敷は、鬼に身内を殺され身寄りのない者を引き取る事も多い。
私は鬼殺隊士でありながら鬼が怖くて戦いに行けなくなった腰抜けだ、それでも蝶屋敷に迎え入れてくださった。
こんな私に生きがいと居場所を与えて下さった、返しきれない程の御恩がある。
先代花柱であるしのぶ様の姉君、カナエ様がお亡くなりになられてからあの方は変わってしまった。
偽りの笑みを浮かべ本心とは真逆の事をおっしゃる。
無理をしている事は屋敷の誰から見ても明らかで、それでも「鬼と仲良くできる」というカナエ様の遺志を残したいという真意もわかってしまうのがより一層悲しかった。
その張り付けた表情の裏でどれだけの怒り、叫び、苦しみを携えているのか。
両親、継子達、そして姉。しのぶ様は鬼によってあまりにも多くの者を失い過ぎた。
本来は情熱的で激情家の彼女があの振る舞いは確かに無理があるだろう。
大したことはできないかもしれないが自分がしのぶ様を支えなければ。
心配してくれる者がいる。そう言った面ではありがたいが、それはそれ。
背負うものの大きさを知っているだけに、初対面の彼に教えられるものでは無い。
「そうか、もう1つ。淑女の化粧について触れるのは気が引けるが…あれは何かを隠している。―何かあれば相談に乗ろう。アオイ殿、失礼した」
蒼紫と名乗った男性は更なる爆弾を投下した。
今何と言った?
しのぶ様は他にも何かを隠している…。
張り付けた笑顔とは別口のそれには気が付かなかった。
淑女の化粧に触れるのは失礼なのは確かだが、前置きしてでも伝えたという事は、それを差し引いても触れなければならなかったのだろう。
これを今知れたことはありがたい事だ。
彼女の為に出来る事を今一度考えなければならない。
―――――
一礼をした後、蝶屋敷を去る蒼紫。
この後は後藤に無理を言って参加させてもらう隠の任務だ。
正規の鬼殺隊士の仕事を知るには現場に近い彼らと行動を共にすることが一番であろう。
鍛錬場で鍛錬を積み、彼を待つ。
「お待たせしました、これから隠としての任務へと向かいます」
「ああ、よろしく頼む」
移動の間、隠の任務を後藤から説明を受ける。
彼らの仕事は主に後方支援と戦いの後の処理だ。
鬼との戦いは激しい、地面が抉れ木が倒れるだけなら楽な方。
大変なのは家が壊れ、人が亡くなった時である事。
これらは生活の根幹に直結する、特に人が生き死にの場合はもう元へは戻せない。
―
「みんな、紹介したい人がいる。こちらは一時的にだが共に仕事をこなす、四乃森蒼紫だ。よろしく頼む」
「四乃森蒼紫という、隠の仕事は初めてだ。ご鞭撻の方よろしくお願いする」
「凄い!カッコイイ!」
「大人な雰囲気!彼女とかいるのかな!?」
後藤と同じ様な姿の隠達が彼らを出迎える。
大正では珍しい6尺を越える程の長身に美形に分類される容姿の蒼紫を女性と思われる隠達は熱い視線を送り、丸メガネをかけた少年が蒼紫の姿を眺める。
「ほうほう、これは中々…。あ、失礼しました。私は前田と言います。隊服の製作を一任されておりましてね。よろしくお願いします」
前田まさお、通称ゲスメガネと呼ばれる少年は縫製係として腕を振るっている。
隊服は通常の鬼ならば爪や牙をもってしても引き裂けない程の機能性を有すため、重宝されている。
だがその確かな技量を使って事あるごとに女性隊士への趣味を押し出した隊服を仕立てあげるのだ。
頭の痛い事に技量の高さと特殊な材質ゆえに替えが効かないのでやりたい放題なのである。
代表的な例として、恋柱である甘露寺蜜璃の制服はズボンでは無く短いスカートで更に胸元を大きく開かれた前衛的な拵えとなっている。
これを警戒して蝶屋敷の女性隊士には油とマッチを支給していると言えばどれほど問題のある代物か伝わるだろう。
大抵は燃やされるのだが、それすらも承知で送り付ける。
その為一部の男性の隊士からは尊敬の念を、女性隊士の殆どからは軽蔑の視線が送られているのだが本人はどこ吹く風だ。
「それじゃあ、早速だけど今回の任務を伝えるぞ。この場所であった鬼との戦闘の痕跡を消す作業だ。岩や倒木が多いが分担して整えてくれ」
後藤の指示と共に一斉に動き出す。
慣れたものなのか連携して穴を埋めたり、爪痕残る木や岩を削ったり切り分けるなど次々と痕跡を消してゆく。
「こっちの木は切ってしまえばいいのだな」
「あっ、はい」
「岩も砕いていいか」
「え、ええ…お願いします」
小太刀二刀流であっという間に木を両断し、御庭番式拳法による蹴撃で岩を砕いてしまう蒼紫。
その丸太を担いで軽快な身のこなしで運んで行ってしまうのだから恐ろしい。
その力技をみてなんで隠の仕事に来たのか疑問に思う一同であった。
「いやぁ、今回はすぐに終わって助かった~」
隠の誰かが予想以上に早く任務を終えられ背筋を伸ばす。
一晩中の予定が大幅に短縮できたのだから嬉しい誤算なのだろう。
「この場所で鬼を倒した隊士は5人ほどだろうか」
確認した足跡の数から複数人が鬼と対峙したことを推測する蒼紫。
隊士たちがどうやって戦っているのかを知ることが出来るのは貴重な経験だ。
「そうですね、こういった森の中では基本的に集団で行動する任務が多いです。奇襲を喰らう事も多いですし。最悪、複数の鬼と遭遇する事もあるので」
「参考にさせてもらう」
◇
目の前で痕跡を消す作業に文句ひとつ言わずに打ち込んでいた隠達。
朝までに何とか整えなければならない、裏方ですらかなり過酷な任務だ。
これを年端もいかない少年、少女が行っているのは望ましいものでは無い。
信念の下、互いに斬りあい犠牲を積み重ねた幕末の動乱の先には平穏すらないというのか。
彼らの殆どは鬼に家族を奪われた者達だ、その中でも剣の才能が無かった者がせめてできる事をと従事する場合が多いらしい。
その姿勢からは隊士への敬意と鬼への怨念じみた執念が透けて見える。
御庭番衆の最後を締めくくる御頭としての務めを果たさねばなるまい。
元いた場所への帰還方法を模索する事も大切だが、外法の悪党が跋扈し彼らの居場所を踏み荒らすというのなら、それを見捨てることは信条に反する。
覚悟は決めた、ならばあとは動くのみ。
「後藤、しのぶ殿はどんな人物なのだ?」
「えっ、蟲柱様とお会いしたんですか!?」
「蝶屋敷でお会いしてな。彼女も訳ありなのだろう、話せる範囲でいい」
「柱との会話なんて恐くてできませんよ…。ええとしのぶ様は9人いる柱の一角で、鬼を唯一毒で倒せる凄い人です。何でも藤の花から抽出したそうで今までで誰も無しえなかったらしいです…すみません、その性格のような内面まではちょっとわかんないです」
「藤の花は鬼の弱点なのか」
「ええ、だからこそ。鬼避けに藤のお香や、お守りなんかもあるんです。藤の家紋の家や藤襲山という名前の由来もここからなんですよ」
「そうか。この後はどうする?何もなければ鍛錬していてもいいか」
敵がどれ程の強さを持っているかはわからない、まずは流水の動きを改良しよう。
小太刀2刀流との組み合わせは守りでも回避も大きいが、攻撃に移る時に隙が出来てしまう。
「あ、はい。そういう事なら俺も付き合います。先日の鍛え方は頭にしっかり叩き込んだんで」