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「ふぅ…美味しかった。御馳走様でした!」
「うむ!美味かったな甘露寺!また来よう!御馳走様!」
ようやく終わりを見せた頃には積みあがった食器で机が埋まっていた。
最後に頼んだ桜餅すら跡形も残さず胃の中に消え去っている。
また来ようという恐ろしい言葉を残しているが厨の中は死屍累々で誰一人聞こうとしなかった。
「そう言えばいつもと味付けが違っていたわ。こちらの味付けも素敵!」
「む?そうなのか甘露寺。料理人が変わったのか?」
とりあえず急場は凌いだ為、店の方は何とかなるだろう。
そう判断し、蒼紫が厨から出てくる。
「これでしばらくは大丈夫なはずだ、ここからは任せてもいいか」
「はい!急な申し出を受けて頂きありがとうございました!」
一連のやり取りを聞いていた柱の2人、甘露寺の脳内で味が変わった事と今出て来た蒼紫が結びつく。
「あ!もしかしたらあの人が作ってくれたのかも」
「そうなのか!おーい!そこの君!」
「挨拶が遅れました、此度料理を作らせて頂きました。四乃森蒼紫と申します」
料亭葵屋の店主として料理を作っていた時の言葉遣いで挨拶をする蒼紫。
鬼殺隊士としても新人と柱であるので敬語は外せない。
「うむ!四条明というのだな!俺は煉獄杏寿郎という!今日の料理は君が作ったのだな!とても美味かった!ありがとう!ところで君は初めて見るな」
「煉獄さん、四乃森蒼紫さんです…。私は甘露寺蜜璃よよろしくね。(カッコイイ大人の雰囲気!それに料理までできるなんて素敵…)」
む、すまんなと謝罪しながら尋ねる杏寿郎とキュンキュンしている甘露寺。
「本日より最終選別を乗り越え鬼殺隊士になった新人です。右も左もわかりませんがよろしくお願いします」
「え!?私、最終選別の後すぐ作らせちゃったの!?ご、ごめんなさい。疲れているのにあんなに食べてしまって」
「なんと!それは申し訳ない事をした!穴があったら入りたい!そうか、もうそんな時期なのだな…。合格おめでとう!これで君も正式に鬼殺隊士だ!」
キャーっと甘露寺は顔を隠し、表情こそ変わらないが煉獄も力強く謝罪する。
命懸けの登竜門を登り切った新人を休ませることなく自分達の食事を作らせるとは誇りある柱の名折れだ。
「ありがとうございます。-甘露寺殿、気にしなくても大丈夫です。これしきのことで根を上げるほど柔な鍛え方はしておりませんし、これでも元は料亭の店主です、作り慣れております」
「え!?料亭!?道理で美味しかった訳だ…。そ、それじゃあ祝言の席とかも用意できるの!?」
料亭の店主という言葉に甘露寺が喰いつく。
彼女は意中の殿方と添い遂げる為に鬼殺隊に入るという異色の存在だ、祝言とも密接な関係にある料亭出身というのは大きい。
操と言い、女性はこの手の話には興味津々の様だ。
「勿論です。その時はお世話になるかも知れません」
顔を紅潮させながら花が咲き誇るかのように笑顔を見せる甘露寺。
「ホント!?嬉しいわ!」
「好みや量などの要望もあれば教えて頂けると助かります」
「良かったな!甘露寺!その時はよろしく頼む、四条君!」
「せっかくだから今度は私の屋敷に来ない?お礼に《ぱんけえき》を御馳走したいわ!巣蜜を乗せると本当に美味しいのよ!」
「(そうか、もう養蜂が実用化されているのか)甘露寺殿、もしよろしければ少し巣蜜を分けては頂けないでしょうか?」
「巣蜜を?勿論いいわよ。料理に使うのかな?」
「いえ、薬を固めるのに蜂の蜜を使うので…」
「四乃森さんってしのぶちゃんみたいな事まで出来るのね!カッコいいわ!」
「凄いなキミは!料理だけでなく薬も作れるのか!君はこれから鬼殺隊に所属する事になるが聴きたいことはあるか?」
「そういう事なら…呼吸について教えては貰えないでしょうか」
「ん?君は呼吸も無しに最終選別を乗り越えて来たのか!それなら日輪刀を受け取ってからにしよう!君に合った呼吸で鍛錬を積んだ方がいいだろうしな!」
「実は既に頂いております。白色と黒色に染まったのでどうしたものかと」
「2色に染まる?初めて聞くが…見せて貰ってもいいか?」
◆
彼の言葉に興味を抱いて日輪刀を見せて貰う。
打ち刀ではなく長刀に偽装した小太刀の2刀流というのも中々に珍しかったが、それ以上に目を引いたのは白と黒に染まっていたことだった。
隣で甘露寺も興味津々に眺めている。
「なるほど…確かに白色と黒色に染まっているな…。長い歴史の中でもこんなこと初めてだ」
「歴史ですか?」
「うむ!俺の家は代々鬼殺隊の柱を担っているのでな!様々な事を記録もしている!そこにも二つの色に変わるのはみた事が無い!特に黒色は厳しいな!」
「これを打った刀鍛冶の方からも黒はわからないと言われましたが厳しいとは?」
「うむ!黒色に適した呼吸が不明なのもあって、活躍が出来ないと言われている!」
この青年には申し訳ないが、事実でもある。
活躍が出来ないと言葉を濁したが、それは暗に命を失いやすい事を示している。
「ちなみに俺の所では炎の呼吸を学ぶことが出来る。君の適正ではないが偶になら面倒を見る事は出来るぞ!黒色の方はともかく白色なら時透少年が詳しい、君が任務で結果を出していけば推薦もしてあげよう!」
「煉獄さんの鍛錬はかなり厳しいけれど実りも大きいわよ。ワタシだって独自の呼吸を生み出して柱になったんだから」
恐らく青年は強い、最終選別を乗り越えて目に見える様な傷1つ無いとはな。
出来る事なら直ぐにでもつきっきりで指導してあげたいが俺も柱、そこまで時間を取ることが出来ない。
そのまま俺と甘露寺の二人分の食事を作り上げる余力すらあるとは恐れ入る。
体格を見るに身体がすでに出来上がっているだろうことが気がかりではあるが。
これ程料理も達者ならば煉獄家に修行しに来たときは偶に炊事も頼みたいものだ。
―もし呼吸も無しに強くなれるのなら千寿郎にとってもいい刺激になるのかもしれない。
◆ 蝶屋敷
「―さて、無断で最終選別に向かったお説教はこれぐらいにしておきましょう。カナヲ、最終選別はどうでしたか?」
蝶屋敷の主としてカナヲの師範として咎める所は咎め、耳を傾ける所にはキチンと聞き入れる必要があります。
本当は鬼殺隊に入っては欲しくなかったのですが自らの意志で選んだ以上、私には、私だけには止める権利はありません。
「はい、今年の選別は全員合格しました。団体を組んでの戦い方は予想以上に勝手も違いました」
「―カナヲ?貴方が団体を組んだのですか?」
全員が合格というのも驚きですね…、カナヲの実力ならば苦戦はしないでしょうが他の隊士見習いまで率先して庇いながら乗り越えるとも思えませんし―。
それ以上にカナヲが団体を組んだという事が驚きです。
カナヲはその生い立ちもあり、極端なまでに口数が少ない。
こうしてまともに会話が成り立つのも私を含めた蝶屋敷の慣れた者達だけ。
そういう意味でも不安は残ります、鬼殺隊士として自分で咄嗟に判断できない事は命取りになる。
「選別開始直前に、四乃森蒼紫と名乗る方が皆を集め鬼殺隊の基本的な任務の形に合わせる為に団体を組むことを提案されました。曰く、森の中の複数の鬼がいるとわかっている所に単独で向かう事などあり得ないと」
そういえば選別の前に一度蝶屋敷に尋ねて来た殿方がそんな名前でしたね。
情報収集に執心していましたし、あり得ない話ではありません。
しかし、妙なぐらい実戦慣れした方ですね…今の時代だとそう言った類を身に付ける場所など殆どない筈ですが…。
「とはいえ、疲れたでしょう。今日はもうゆっくりと休みなさい」
「はい、失礼します。師範」
今回の経験を活かしてもう少し外でも自分を出せるといいのですが…そんな簡単に蕾は開かないと考えておいた方が良いでしょう。
「しのぶ様、お食事が出来ました。本日の献立は生姜の佃煮ですよ」
おっともうそんな時間ですか、アオイだけに任せっぱなしという訳にはいきません。
ふふっ、しばらくは屋敷に戻れなかった分、今から少し楽しみです。
「?アオイ、どうしましたか?」
「…いえ、何でもないです。配膳も終わっております」
ちょっと過保護なぐらい心配されてますね…。
何かあったのでしょうか。