アクセル・ワールド/フォーゲット・ジュエル   作:こぶ茶

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第07話「germination;萌芽」

鈴峰宏斗こと《オブシディアン・バイパー》はうっそうと茂る木々の間を駆け抜けていた。 辺りは大昔生えていましたと言うばかりの巨大植物に、遠くからは不思議な鳴き声が聞こえている。 此処は《原始林》というステージで属性は木、自然系ステージで草木型の破壊オブジェクトや生物型のオブジェクトが闊歩しているのが特徴だ。

 

 「日向、そっちの様子はどうだ?」

 

宏斗は走りながら相方の様子を聞くと、バイパーの肩に止まっている青い蝶から可愛らしい女の子の返事が返ってきた。

 

 “さっき宏斗君が毒状態にさせた方の足止めは成功したよ。

  あと、その辺にいたカマキリさん達をご案内したからもう少しでHPが無くなると思う。”

 

これは相方である寧々森日向のアバター《フローライト・モルフォ》の『オブサベイション・フェアリー』という技で蝶が見聞きしたものを共有できる。 またこうして互いに離れた場所から音声通信も可能なので通信機として使用している。 ちなみに先程日向が言っていたカマキリさんというのはおそらくこのステージの生物型のオブジェクトの事であろう。 そして『達』ってことは複数匹けしかけたのか? 生物型オブジェクトは1匹でも場合によっては戦局をひっくり返す可能性があるのに、毒状態と日向の遠隔攻撃を喰らってはご愁傷さまとしか言えない。

 

 「了解。了解。もう一人は今どの辺?」

 

 “そのまま真っ直ぐ行くとおっきなラフレシアがあるから、そこを越せば直ぐだよ。”

 

 「りょーかい!」

 

宏斗は前方を凝らしてみると確かにラフレシアっぽい花が見えてきた。そしてその先にはお目当ての赤いアバターも発見できた。 現在このステージ一帯は日向が所々に配置している『オブサベイション・フェアリー』で監視しているので相手はもはや逃げ隠れは不可能である。

 

 「くそっ、もう追いつてきたか!」

 

対戦相手の赤のアバターもHPが残り少なく、これ以上の逃走は不可能と判断するや否や腰にぶら下げていた2丁のサブマシンガンを後方から追ってくるバイパーへ向けて乱射した。

 

 「ぬわぁ!! あ、危ね~。」

 

宏斗は寸前のところで物陰に隠れたが、それでもマシンガンの弾幕は止まない。撃ち方的に自棄(やけ)になっているようだ。

 

 「はぁ~、しょうがないな~。(≪存在迷彩≫(エグズィステンスステルス)!)」

 

宏人はご自慢の隠密アビリティを発動させるとバイパーの身体の色が次第に周囲に溶け消えていく。

次に銃撃の弾幕に当たらないように匍匐前進でこの場から離脱する。 この≪存在迷彩≫(エグズィステンスステルス)は、姿は消えるが実態が存在するがゆえに雨や霧、雪などの気候の影響、明るい場所だと影のせいで存在位置がバレてしまうのが弱点だ。 それに加え最近判明したのだが大きな衝撃加わると解除されてしまうことがわかった。 だからこの弾幕が1発でも当たれば居場所がバレそれでこそ蜂の巣にされかねない。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、銃身が焼けるまで撃ち続けてやる!!」

 

銃撃の雨の中を慎重に抜けきった当たりで、振り向くと対戦相手がテンション高めでまだ弾をばら撒いているのが見えた。 宏斗は音を立てないように、といっても銃撃音で聞こえないと思うが対戦相手の後方に回るとご自慢の強化外装の刃を相手の首元におき、アビリティを解除する。

 

 「その首頂戴する。」

 

【KO!! YOU WIN!!】

 

 

――――寧々森邸

 

 「やっぱり最後のセリフ、時代劇っぽいほうがかっこいいね。」

 

 「そうか?俺的には決め台詞とかよくわからないんだけど。」

 

時刻は現在朝の07:30。 宏斗はこれから日向を学校へエスコートする為に寧々森邸まで訪れていた。 ブレイン・バーストを始めて2ヶ月、宏斗と日向は中学生となっていた。

 

 「ところで宏斗君、どうですか私の制服姿。似合っていますか?」

 

日向の今の服は白をベースに襟に2本の水色線が入ったセーラー服に青色のスカート、胸元にスカートと同じ色のネクタイが付いている制服だ。 髪型はいつものロングヘアーを背中のあたりでこれまた同じ青色のリボンで結んで日向のデュエルアバターと同じ髪型にしている。 日向は宏斗に全体を見せる様にその場で一回転すると、膝の少し上丈しかないスカートが少しふわっと浮き上がった。

 

 「ま、に、似合うんじゃないか!」

 

宏斗は少し目を逸らしながらも照れくさそうに褒めた。 なお宏斗の制服は紺のブレザーと同色のズボン、日向と同じ青いネクタイを着用している。

 

 「えへへ、そうかな♪ そうだ知り合いの子にも見せたいので

  スクリーンショットお願いしていい?」

 

 「あ、うん。いいよ。 えーっと視界スクリーンショットアプリは・・・」

 

 「・・・・」

 

 「ん?準備いい?」

 

 「う、うん。いいよ。」

 

気の性だろうか。スクリーンショットアプリを探してる間に、日向も何か仮想デスクトップで操作していたように見えたのだが・・・

 

 「(ま、いいか。)はい、チーズ!! よし撮れたよ。」

 

 「ありがとう。」

 

宏斗は自分の仮想デスクトップから寧々森邸のホームサーバ経由で先程の写真を日向に渡す。 ついでにコピーもとったから後で自分用に引き延ばしておこう。

 

 「よし、そろそろ時間だし行こうか。」

 

 「うん♪」

 

 

――――江戸川第2中学校・教室

 

なぜ「校長先生からの一言」って本当に一言で終わらないんだろう。 宏斗は机に突っ伏しながら入学式の校長の話が長いことにげんなりしていた。 席は窓側の後ろから2番目、俗に漫画とかで先生から目が付けられにくかったり、窓からUFOを探せる席として有名な席である。 現実ではあまり人付き合いの良くない宏斗としては静かに過ごせる席としてベスト的な環境だ。 ちなみに日向も宏斗と一緒のクラスとなり宏人の右斜め前の席に座っている。 そして現在日向はいろんな女子や男子に囲まれて「どこの学校からきた?」だの「困ったことがあったら頼って」だの質問責めにあっている。 やはり目が見えないのは珍しいのだろう。 それに宏斗から見ても日向はかなりの美少女なので、それと相まって想像以上の人気が出ている。

そんな日向が先程からチラチラと宏斗のほう見て来る。 察するに今まで話したことがない人から質問責めにあって宏斗に助けを求めているようだ。

 

 (すまん日向。俺にはその集団内に入る勇気が出せない。 しかし・・・)

 

 「なぁなぁ、さっきからあの子、俺のことチラチラと見て来ていないか?

  やばい、惚れられた!」

 

 (あー耳元で騒ぐな! あと見ているのはお前じゃなから!)

 

先程から宏斗とテンションが真逆な前の席の男子が、宏斗に話しかけて来る。 宏斗は出席リストデータを見て前の男子の名前が“砺波 翔(となみかける)”という名だと分かった。

 

 「はーい。みなさん席について下さい。HRを始めますよ。」

 

突如、教室の戸が開けられると30代くらいの大人の女性が教室に入って来た。 どうやら宏斗のクラスの担任はこの女性になったらしい。 宏斗はすこし胸をホッとなでおろした。 そしてHRが始まると担任の女教師は仮想デスクトップを使い各生徒にこの江戸川第2中学校のことや、今後の学校生活について説明していく。

なお本日は入学式と簡単な学校説明をするだけなので、本格的な授業は明日からとなる。

 

 「それでは、みなさんに学校内ローカルネットのアカウントをお渡ししますので、

  各自接続できるか確認してください。」

 

 ((きた!!))

 

宏斗と日向は心の中で身構えた。 学校内ローカルネットに繋ぐということは、宏斗達と同じく新入生にバーストリンカーが居た場合これから3年間、共に学校生活を過ごさなければいけないということだ。

なお、上級生にバーストリンカーが居た場合についてだが、宏斗達が入学する前は宏斗達の姉である鈴峰由貴や寧々森鷹乃が通っているので(現状も通っているが)少なくとも姉達と関わりがある人物であることは間違いない。

仲が良かったか悪かったか分からないがどちらにしても接触しなくてはいけないだろう。

そのことについては今朝方日向と話し合っている。 先生からアカウントを貰ったと同時に加速してどちらかが対戦を申し込む手筈になっていた。 そうして宏人の仮想デスクトップ上に先生から配布されたアカウントが届いた。

すぐさま学校内ローカルネットに繋ぐと小声でコマンドを唱える。

 

 「「「バースト・リンク!!」」」

 

バシィィィと音と共に周囲の空間が青く染まると、先生やクラスメイトの動きがぴたりと止まると共に宏斗の身体は仮想アバターである全身フル鎧の黒騎士の姿に変わった。(なお以前のアバターは、日向に不評であった為コーディネートさせられた。) これこそ『ブレイン・バースト』が意識のみを千倍まで加速させた状態である。 宏斗はそこからデスクトップ上の《B》のアイコンにクリックし『ブレイン・バースト』を起動させマッチングリストを表示させる。 しばらくするとリストの最上部に《オブシディアン・バイパー Lv4》宏斗のデュエルアバターが表示され、その次に《フローライト・モルフォ Lv4》日向のデュエルアバターが表示された。 そして肝心の次項目に《アンバー・メモリー Lv4》。 以上3つ名が表示されている。

宏斗は《アンバー・メモリー》を選択しDUELボタンを押そうとした次の瞬間、再び世界に色がついた。

 

 

――――学校内ローカルネット ステージ:《奇祭》

 

窓から見る空は暗くなっているが、色取り取り白熱電球で教室内は明るく照らされ、アコーディオンが奏でるBGMが流れて来る。 対戦表示は『オブシディアン・バイパーVSアンバー・メモリー』、対戦を申し込むはずがどうやら逆に申し込まれたようだ。 そして視線を対戦表示から目の前に移すと目の前に、薄翅型の耳に調理の際に付けるような三角頭巾を被った頭部、お腹の辺りまで上半身を隠すケープを着たオレンジ色のF型アバターが黒板の方を向いていた。

 

 「あの席の位置は確か――」

 

宏斗の言葉に目の前のF型アバター、アンバー・メモリーが振り向くと。

 

 「うぉぉぉぉぉ、生バイパーです♪ かっこいいです!

  黒いです!カーソル表示されないです。」

 

 「へ?」

 

宏斗は思いがけなかったことに身体が反応できなかった。 なぜなら目の前のメモリーが宏斗に抱きついて来たからだ。

 

 「え!?え!?ちょ、ちょっと!!」

 

 「お!よく見ると装甲の一部が半透明なのです。 美しいですね~。 綺麗ですね~。」

 

 「ストッーーープ!! 何抱き合っているんですか!!」

 

声の方を2人で見ると、そこにはギャラリーとして加速しているフローライト・モルフォ・日向の姿があった。 ちなみに宏斗の手は手ぶらなので正確には抱きつかれているである。

 

 「おおっと!コホン、失礼しました。興奮のあまりテンションが暴走してしまいました。」

 

目の前のメモリーはせき払いして宏斗から離れる。

 

 「えーと、このクラスから加速したってことは・・・」

 

 「はい、出席番号16番、安堂 春絵(あんどうはるえ)と申します。失礼ですが、

  ひとまず対戦を切り上げてこの後リアルでお話しませんか?

  このまま対戦でも構いませんが、私としましてはバイパーさんと

  少々お話をさせて頂きたいのですが。」

 

メモリーこと春絵はビシッと敬礼しながら自己紹介した後、リアル会談を望んできた。

たしかに、これからの学校生活を送る上で友好的な付き合いを必須だ。

あと、最初は驚いたけど春絵はなかなか好感的な態度なので、好戦的だったり悪い人と言う訳ではなさそうだ。

 

 「俺は構わないけど、モルフォはどう?」

 

 「・・・・バイパー君がいいって言うなら私も構わないけど。」

 

 「OKですね!それじゃ、後ほどリアルで、バースト・アウト。」

 

 「それじゃ、俺らもバースト・アウトしよう日向。」

 

 「あ、うん」

 

 「「バースト・アウト!」」

 

 

――――某マ○ドナルド

 

 「改めまして、安堂 春絵と申します。」

 

 「鈴峰 宏斗です。」

 

 「寧々森 日向といいます。」

 

リアルであったアンバー・メモリーは宏斗と日向と同じクラスメイトで、髪型を後頭部でまとめたシニヨンと呼ばれる髪型に、下ふち眼鏡が似合う女の子であった。

 

 「いや~、しかしあの『暗影の毒蛇』『光明の妖精』と

  同じ学校になれるなんて超ラッキーです。」

 

 「「何(何ですか)、その名前?」」

 

 「え?知らないんですか?お二方の通り名ですよ。ちなみ考案は私です!」

 

宏斗と日向とそして春絵は学校近場のファーストフード店に来ていた。

なお日向は入店の際、ファーストフード店は初めてらしくお嬢様全開で物珍しく見回していた。

 

 「ひとまず、この場でゲームワードはNGなので直結しましょうか。」

 

 「「ええええ!(ぶはっ)」」

 

春絵はバックアからの1mのケーブルを2本取りだすと、日向は顔が真っ赤にして大きく驚き、宏斗は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり思考がフリーズする。

直結とは有線ケーブルを用いてニューロリンカー同士を繋げ通信を通信速度を速めたり、機密なやり取りを行う行為だ。 だが基本無線通信を行うニューロリンカーは本来通信の際十分なレベルのセキュリティが施されデータや通信のやり取りを行うが、それを有線を介して行った際そのセキュリティの約9割が無効になる。 その為ある程度のニューロリンカー操作技術がある者ならば、この状態で接続相手のプライベートメモリを覗くことも可能だ。 ゆえに世間一般家族同士以外で公共の場で直結する男女は99%恋人関係になる。

 

 「ちょちょちょ直結ってて、ここんな公共の場ですすするなんて!!」

 

 「あ、すいません流石に恥ずかしいですよね。」

 

その言葉に日向は心をホッと撫で下ろしたが、次の言葉にまたすぐ打ち砕かれた。

 

 「それじゃ言い出しっぺの私が間に入るので、寧々森さんは私と繋ぎましょうか。」

 

春絵は宏斗と日向のニューロリンカーにケーブルを差し込むと、それぞれケーブルの反対側を自分のニューロリンカーへ差し込んだ。

 

「はーい♪それじゃ改めてブレイン・バースト会談をしましょうか♪」

 

宏斗はもう突然のことに何が何だか混乱し、やっと思考の停止から戻った時は春絵が張り切って話を進めようとしていた。 そして日向は宏斗と春絵の間の()()を見ていると心のどこかでか切ない気持を感じていた。

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます(`・ω・)ゝ
誤字脱字報告や感想等があればコメントに書いて頂けると幸いです。

今回は頂いたアバター案の中からメインキャラとして《アンバー・メモリー》を採用させて頂きました。ちなみに名前の後半部分を変えさせて頂いてますので、色名で反応された投稿者様。あなたの案を使ってますよ~!
PS:漫画AW4巻のアバター案投稿している「こぶ茶」さんは私と別の方なのであしからず。

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