アクセル・ワールド/フォーゲット・ジュエル   作:こぶ茶

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第09話「orange;橙」

 

 

青い世界が再び色を取り戻すと、今までファミレスだった建物が消え、白い石畳の空間が広がった。4隅には石畳と同じ白さの石柱が、まるでその場を舞台かのように見栄えさせる。 何よりも特徴的なのは空が真珠のような光沢のある乳白色に変わったことだ。 このステージの名前は《霊域》。 属性が神聖属性になり、建物が神殿風に変わる。 そして一番の特徴はステージの所々に正八面体のクリスタルが浮遊する。

このクリスタルは破壊することで、必殺技ゲージを通常の破壊オブジェクト以上に溜めさせることが出来る。 そう、この対戦の主役である彼女達にもっともふさわしいステージなのだ。

 

 「ふっふっふ、こっちは何度も対戦を観戦させて頂いているので、対抗手段はバッチしですよ。」

 

上半身を隠す程のケープを纏い、調理用三角頭巾のような頭巾を被った薄翅型耳のオレンジ色のF型アバターが、目の前の相手を警戒するように強化外装であろう1つの本を取りだす。

 

 「どのような手で来ようとも、圧倒させて頂きます。」

 

そして、長く垂れ下がる振り袖が特徴の着物に、長い髪を背中当たりで1つに結んだオレンジ色のF型アバターもいつでも動き出せるよう、身体が少し地面から浮かぶ。

そしてお決まりである対戦開始メッセージ合図で『フローライト・モルフォVSアンバー・メモリー』の対戦のカウントダウンが動き出した。

 

【FIGHT!!】

 

両者は合図とともに駈け出し、そしてそのまま接触、激しい格闘戦が……  始まらなかった。

2人はそのまま対戦相手に目もくれずにすれ違ったのである。 だがその理由は2人の特性としてはごく当り前の行動と言えば当り前のこと。 なぜなら2人が最初に取った行動は浮遊するクリスタルを壊して、必殺技ゲージを溜めることが目的だったのだ。 そしてモルフォは体当たりでクリスタルを1つ壊し、メモリーは手に持っていた本を鈍器のようしてクリスタルを1つ叩き壊した。 両者の必殺技ゲージが一気に半分まで溜まる。

さぁ、ここからだ。彼女達()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「さぁ、行って!《フレア・フェアリー》《オブサベイション・フェアリー》!!」

 

モルフォは振り向きざま両の腕を前に突き出し技名を叫ぶと、腕から垂れ下がる振り袖から赤い蝶達がメモリーに向かって宙を舞い始めた。

 

 「放て!《ブック・マーカ『バースト・バレット』》!」

 

メモリーもモルフォに呼応するかのように振り向き、手にしている本型の強化外装を開き技名を叫ぶと開いたページから無数の銃弾が出現し一斉にモルフォ目掛けて撃ちだす。

モルフォが飛ばした蝶達とメモリーが撃ち出した銃弾が、2人の中間距離でぶつかり大きな音を立てて爆発した。

だが、モルフォが飛ばした蝶の数に比べて、メモリーが撃った弾の方が多かったらしく、いくつかの銃弾が爆発を突き抜けてその数発がモルフォの肩を撃ち抜く。

 

 「キャッ!!」

 

爆発で視界がまだ視界が開けてない中、メモリーはその悲鳴で攻撃が当たったことを悟ったが、次の瞬間、メモリーは自分の背中に強烈な熱さと衝撃が走るのを感じた。

 

 「うぐっ!!」

 

お互いのHPはほぼ同じ9割になるが、ここまでの攻防で掛った時間はわずか30カウント。

 

 「ほぉ、春絵もしばらく見ないうちに強くなったじゃないか。それにあの子もなかなかやるな。」

 

その言葉に、宏斗は視線をその一言を言った人物の方へ向けると、そこには黒色のボディースーツに肩・胸・腕・腰・脛に金色の装甲と、上部と左右のこめかみ部に鬣状の突起を付けた金色のヘルメットを被ったデュエルアバターが立っていた。 先程マッチングリストで確認したがアバター名は『ゴールド・ライガー』。 レベルは7。 彼こそが春絵さんの親である“ライガ”さんのアバターだ。

 

 「やっぱ《霊域》だと、必殺技メインで戦う黄色系アバターを最初から激しい戦闘(バトル)にさせるから見応えあるな。」

 

 「は、はい…。」

 

この対戦が終わった後、宏斗は目の前の3つレベルが離れたアバターと対戦しなければならなく、杞憂な気分ではあるが今は目の前の対戦だ。

先程メモリーがダメージを受けた理由は、至極単純。 大多数の蝶を正面から仕掛けさせたが、それとは別に左右からに1匹ずつ別の蝶で後方から攻撃させたのだ。 だけど、モルフォ戦法はこれだけではない。

爆発が開けるとそこには撃たれた場所を手で押さえるモルフォの姿と、爆発の衝撃で片膝をついているメモリーの姿が見える。

 

 「まずは痛み訳ってとこですね。でも、こちらはまだゲージに余裕があるのでどんどん行かせてもらいますよ。」

 

メモリーは再度、本を構え直す。だが、モルフォが次に言った一言で直ぐには動くことが出来なかった。

 

 「ここから西10mの柱の影に1つ、南へ50mの公園噴水の上に1つ、北東120mの神殿入口に1つ。」

 

 「え? 一体、何を話ですか!?」

 

モルフォの不可思議な一言に、メモリーは質問せずいられなかった。

何故ならモルフォは、驚くことに目の前に対戦相手がいるというのにアバターのアイレンズを閉じメモリーを見ていない。 はたから見れば精神統一にも見えるが、宏斗はその行動の理由を知っていた。

再びモルフォが静かにアイレンズを開くと、次の瞬間、メモリーよりも必殺技ゲージを消費していたはずのモルフォのゲージが再び増え出した。

 

 「!?」

 

 「私が見えている範囲のクリスタルを索敵、1つ破壊しました。」

 

 「見えているって……ッ!!」

 

その言葉にメモリーはハッと上を見上げると頭上50 m付近に青い蝶を見つけた。

それはモルフォが使えるもう一つの技《オブサベイション・フェアリー》。 視認して操る爆炎の赤い蝶(フレア・フェアリー)と、瞳を閉じることで自分が蝶になったかのように操れる青い蝶(オブサベイション・フェアリー)。 モルフォはその青い蝶(オブサベイション・フェアリー)を使って破壊オブジェクトを探し赤い蝶(フレア・フェアリー)で壊していたのだ。

必殺技の消費も少ないことから永遠と枯渇することがない攻撃のサイクル、これこそがモルフォが導き出した戦法スタイルである。 この対戦方法をしっかり理解しているのは、おそらくパートナーである宏斗のみだ。 普通、ギャラリーは対戦しているところを見るから、裏側で何をしているかなんて見なし、加えて俺達の対戦ではモルフォはほとんど後衛にいて対戦相手との接触はない為、知る人はほぼいないだろう。

メモリーに戦慄が走る。 一応、必殺技が何回か使えるだけのゲージは残っているが、それでも今の状況を覆るだけの()()は出来ていない。 ならば次の選択肢は1つ。

 

 「仕方ないですね。ここは……、戦略的一時撤退です!!」

 

 「あっ! 逃がしませんよ。追いかけて!《フレア・フェアリー》達。」

 

メモリーは踵を返して全力でモルフォから距離を取ろうと逃げ、モルフォは再び赤い蝶達(フレア・フェアリー)を召喚し始めた。 《フレア・フェアリー》は形状がひらひらと舞う蝶なのでそれほど速くないが、それでも機動タイプ出ないメモリーに追いつくだけのスピードはある。 そして赤い蝶(フレア・フェアリー)がメモリーの背中まで近づくと……。

 

 「爆ぜて。」

 

 「うわっと!あ、危なかったです。」

 

しかし寸前のところでメモリーは前方へ飛び込み躱し、そのまま前転の勢いで立ち上がり再び駈け出す。 だが、モルフォも手を休めず絶え間ない攻撃で繰り返した。 紙一重のところで赤い蝶(フレア・フェアリー)を回避していくがやはり数の多く、爆発の熱風がメモリーのHPを少しずつ削っていく。 

何度目か回避したその時、絶え間ない攻撃で足元がよろめいたメモリーは前のめりに転倒してしまった。

 

 「今です。これで決着を付けさせて頂きます。 《フレア・フェアリー》達、陣形・(しゅう)!!」

 

袖口から赤い玉が放たれ、一直線に飛んでいく。 それは無数の赤い蝶達(フレア・フェアリー)がまるい形に密集して相手に向かって飛んでいく姿だった。 宏斗が別名:赤玉と密かに呼んでいるモルフォのオリジナル技で、単純ではあるが火力源を一点に集中させることで大ダメージや衝撃をピンポイントに与えるものだ。 別に技名を叫ばなくても出せるが、日向曰くなんというか“()()()()()”らしい。 その赤い玉が再び立ち上がろうとしたメモリーへと襲おうとしていた。

 

 「これはヤバ…、いや、チャンスです!」

 

次の瞬間、何を血迷ったのかメモリーはその赤い玉へと駈け出した。

赤い蝶達(フレア・フェアリー)とメモリーの距離は10m。 メモリーは脇に抱えていた本を見開く。

赤い蝶達(フレア・フェアリー)とメモリーの距離は5m。 見開いたページを前にして本を突き出す。

赤い蝶達(フレア・フェアリー)とメモリーの距離は1m。 そして叫んだ。

 

 「《ブック・メモリー》ィィィ!!」

 

次の瞬間、メモリーのHPゲージが一気に吹き飛ぶと、赤い爆炎に飲まれメモリーの姿が消えた。

 その光景を見たバイパーは、興奮のあまり拳を握りガッツポーズをとる。

 

 「よし!!これでモルフォの勝ちですね。」

 

 「確かに、このままカウントが0になれば終了だが、まだ試合は終わっていないだろ。」

 

 「何言っているんですか、だって現にゲージが0に・・・・」

 

ライガの言葉に宏斗は気付いてしまった。 試合はまだ終わっていない。 何故なら試合の終了を告げるメッセージが表示されていないことを。

 

 「モッ、モルフォォォォォォォ!!」

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます(`・ω・)ゝ
1話でバトルパートをまとめようとしましたが無理だったので2話構成になりますた。
なるべく描写が分かりやすく書こうとしますが、無駄に長かったり、単調な文になっていたらごめんないさい。
それでは誤字、脱字、感想・ご質問等あればよろしくお願い致します。

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