アクセル・ワールド/フォーゲット・ジュエル   作:こぶ茶

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第10話「secret;内緒」

 

 「モッ、モルフォォォォォォォ!!」

 

バイパーの声に気付いたのか、モルフォが観戦位置にいたバイパーらに向かって手を振っている。

だが、その行為が一瞬の隙を生んでしまった。

 

 「飛べ!《ブック・マーカ『クリスタル・ブレイク』》!!」

 

爆炎の中から紫に輝く何かが2つ紫電のごとく飛び出し、モルフォの背中に突き刺ささり吹き飛ばす。

 

 「ッア゙、クゥゥゥ!」

 

背中に刺さったのは腕くらいの大きさを持つ紫の水晶。 そして煙の中から現れたのは全身ボロボロになりながらも、本型の強化外装をモルフォに向けて突きだすメモリーの姿であった。

 

 「はぁ、はぁ、どうして、一撃で倒せる威力なはずなのに。」

 

 「なんとかギリギリでしたよ。 ネタばれは後でするとして、()()は整いました。さぁ、反撃を開始させて頂きますよ。」

 

攻守逆転というべく、今度は目の前の相手を倒すべくメモリーは駈け出した。

 

 「反撃?後1度攻撃を当たれば、どの道私の勝ちです。《フレア・フェアリー》!!」

 

モルフォの腕から、赤い蝶達が再び飛び立つ。 だが、メモリーは駆けることを止めない。

そして今度は、本型の強化外装をめくり上に向けゲージを消費させる。

 

 「開放!《ブック・マーカ『アトラクション・スフィア』》!!」

 

開かれたページから飛び出たのは、直径50㎝程の黒い球体。 モルフォとバイパーはその球体を見て絶句する。 何故なら2人はこの球体を知っているし、この球体がもたらす結果を一度味わったことがあるのだ。

 

 「も、戻って、《フレア・フェ――」

 

 「吸いこんじゃえ!!」

 

本から飛び出た黒い球体はある一定の高さまで浮かぶと小刻みに振動を始めた。 メモリーへと飛び立った赤い蝶達(フレア・フェアリー)は、モルフォの(めい)でも戻ることなくメモリーの元へと飛んでいく。

いや、正確には宙に浮く黒い球体へと引き寄せられているのだ。 それも範囲は広く50m頭上で待機している《オブサベイション・フェアリー》でさえも引き寄せている。

2度言うが2人はこの球体を知っている。 何故ならこの技は、ブレイン・バーストでの友人である『ビリジアン・トータス』の技なのだ。

 

 「ダメ。これじゃフェアリー達を召喚できない。確か《アトラクション・スフィア》の効果は20カウントのはずだから、時間切れまで逃げ切れば――。」

 

 「逃がしませんよ。突貫!《ブック・マーカ『クォーツ・ホーン・ラッシュ』》!!」

 

上空の黒い球体に気を取られていた為、気付いた時にはメモリーはすぐそばまで来ていた。

メモリーは再び本型の強化外装をめくり、今度はモルフォに向けて突きだすと本の中心から青い水晶がまとわり付き3本のトゲを持つスパイクシールドが出来上がった。

そしてそのまま……

 

 「ッウォリャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 「…………――――――――――――――!!」

 

3本のトゲがモルフォの身体を捕え、激しい突進の威力で受けたモルフォはHPゲージを吹き飛ばす。そして、その身体も勢いよく吹き飛ばされ、後方の壁をぶつかり瓦礫の山を作りだした。

 

 「――っごほぉ、ごほぉ、くぅっ…。ま、まだ終わりじゃ……。」

 

 「《ブック・マーカ『フレア・フェアリー』》。」

 

 「え!?どうして!?」

 

再び絶句する。起き上がろうとしたモルフォに、メモリーが放ったのはモルフォの得意技の《フレア・フェアリー》であった。蝶達はモルフォの身体に止まり、傍から見れば爆発物とは思えないくらいに優雅に翅を動かしている。しかし、数からして1匹でも爆発すれば連鎖を起こして、モルフォのHPは全損する数だ。

 

 「ハァ…、ハァ…、そう言えばネタばれするって言いましたっけ。 最初に言っておきますが、本当は2つしかないんですよ。」

 

 「え!でも、さっきまでいろんな技や私の技だって――」

 

 「私のアバターの特徴は“模倣”。《ブック・メモリー》で記憶して、《ブック・マーカ》で再現しているだけです。」

 

思い返してみると、技を出す際に《ブック・マーカ》という単語を発言している。 《フレア・フェアリー》を受ける際に《ブック・メモリー》という技を使っていた。

 

 「ちなみに《ブック・メモリー》は記録してない必殺技なら1度だけ威力・効果を無効化させて、記録させる技なんですけど、攻撃を受けた時、私のHP分キッチリの数でよかったです。集まってるから全部無効化出来るかなと思ったんですけど、やっぱり1匹分しか無効かできませんでした。後1匹でも多かったらアウトでした。あっ、でも結果的には必殺技ゲージがMAXに出来たので助かりました。」

 

 「そう言えば、対抗手段があるって言っていたのはタートルさんの《アトラクション・スフィア》がフェアリー達の動きを束縛できるとリサーチした上での事でしたか。そして効果が発生してからの繋ぎ技見事です。これは完敗ですね。」

 

モルフォはアイレンズを(つむ)り負けを宣言した。 閉じた為《オブサベイション・フェアリー》の視覚になり、その視覚には黒い球体から解放された赤い蝶達(フレア・フェアリー)の姿も見えるが、どんな命令を出しても負けは覆せなさそうだ。

 

 「……私の技のネタばれをしたので、代わりといっては何ですが2つ質問していいですか?」

 

 「はい、なんですか?」

 

 「何か私に接する態度が刺々しく感じたんですけど、私、何かしましたか?」

 

本日何度目だろう。閉じたアイレンズがまた開き、デュエルアバターは表情が分かりにくいのにモルフォは驚いた表情をしているように見える。

 

 「え!?だ、だって、その……あの………、ひ、宏斗君にすっごく急接近してたし、話し方からきょ、興味があるのかと………。」

 

すごく小さい声で聞きづらかったが、メモリーも何となく意図していることが分かった。

 

 「ぅえ!!いやいや、それは無いです!人様の彼氏を掻っ攫う様な事なんてしませんよ。」

 

 「か、()()彼氏じゃないよ!!」

 

 「でもさっき直結した時、プライベートフォトライブラリに宏斗さんの写――。」

 

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁ、何勝手見ているんですか!!」

 

モルフォは悲鳴を上げるも、何とか動かないように努める。動いて何かの拍子で《フレア・フェアリー》が起爆したら大変だ。それでこそ笑い物である。

 

 「いや~、ごめんなさい。ついうっかり。(っということはお互い知らないってことか。やれやれってとこですね。)それじゃ、お詫びって訳じゃないんだけど安心できる情報を1つ。」

 

モルフォは本型強化外装を脇に抱え、モルフォに数歩近付いてしゃがむとこれまた小さな声で話す。

 

 「実はですね、私にも片思いの人が居るんですよ。あ、宏斗さんじゃありませんよ。」

 

 「え?それって………。」

 

 「シー。内緒ですよ。」

 

左アイレンズを閉じ、右人差し指を口元に当てモルフォは立ち上がった。

 

 「そういえば、もう1つの質問って何ですか?」

 

 「あぁ!そうだった。この蝶って“爆ぜろ”って唱えれば爆発するんですか?」

 

最後の質問は最初の質問とは打って変わって、特にどうでもいい質問だった。

 

 「あはははっ、別に唱えなくても念じれば起爆しますよ。あくまでも“()()()()()”ですから。」

 

 「あはっ、そうでしたか。」

 

最後の質問が終わるとモルフォの身体に止まっていた蝶達は、離れる様に飛んでいき、メモリーは倒れているモルフォへ手を差し伸べる。

 

 「止めを差さなくていいんですか?」

 

 「これから友達になる方にそんな非人道的なことはしませんよ。それに先程、負け宣言していたじゃないですか。あれ嘘じゃないですよね。日向さん。」

 

差しだされた手に捕まり、立ち上がる。

 

 「私もそんな非人道的ではありませんよ。春絵さん。」

 

 「うっふふ。」「あははっ。」

 

 

 

――――――

 

 「なんか、笑ってますね。」

 

 「笑っているな。」

 

試合の行く末を見守っていた金の獣と黒の蛇が口を開く。

現状HPゲージ的にはまだモルフォが勝っているが、見たところメモリーの勝ちのようだ。 さしずめ試合に勝って、勝負に負けたっていうところか。 そんな2人は今、先程まで戦っていたのが嘘だったかのように仲良さそうに話し合っている。

でも、それとは対照的に、こちらは今すぐにでも戦闘が始まりそうな雰囲気が漂っていた。

 

 「ひとまず、この試合はメモリーの勝ちだな。さて………。」

 

金の獣が、黒の蛇に視線を向けた。

 

 「次は俺らの番だ。」

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます(`・ω・)ゝ
今回は結果的にモルフォちゃんの負け回を書いてみました。でも均衡した戦闘って難しいですね~。どっかで骨休めにストーリーとはある意味で関係ない閑話でも挟もうかな。
それでは誤字、脱字、感想・ご質問等あればよろしくお願い致します。
※あと、差し絵機能なんて物が出来たので、試しに『挿絵募集』タグを付けてみました。

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