アクセル・ワールド/フォーゲット・ジュエル   作:こぶ茶

9 / 13
第06話「name;真名」

 

 

ッドッゴーーーーン!!

 

崩れかけた木造船の甲板の上に爆発音が轟いた。 本来なら爆発した場所に穴が開き木造ゆえそこから燃え広がるのだが、甲板には数秒黒煙を上がり穴は開かず表面上に後が残るだけだった。 ここは《廃船場》というステージで辺り一面に壊れた廃船が捨てられている。 また空には濃霧とどんな原理か不明だが船の残骸が浮いている。

今回の対戦相手は手投げ型爆弾を作成して中距離から攻撃してくる赤紫色M型アバター『ヴァイオレット・ボマー』、頭部が犬のような耳付きヘルメットでバイパーのような機動タイプの濃い青色M型アバター『ディープ・ウルフ』である。

 

 「爆ぜて!」

 

 「ぬわぁ!!」

 

 「ボム!?」

 

先程まで爆破合戦を繰り広げてたモルフォとボマーは、どうやらモルフォに軍配が上がったらしくモルフォの《フレア・フェアリー》がヴァイオレット・ボマーを焼いた。

 

 「くっ!ボムお前の仇は俺が取ってやるぜ。《シェイプ・チェンジ》!」

 

 「まだ生きとるわーーーーーー!!」

 

そして俺と対峙していたディープ・ウルフが必殺技を叫び飛び出すと、今まで人の姿をしていたのが瞬時に四肢の形状が変わり四足歩行の獣“狼”の姿へ変った。 ウルフはそのままバイパーの横をすり抜けると、ボマーと対峙しているモルフォへと飛び掛かった。

 

 「その首貰った!!」

 

 「ふぇ!?」

 

ウルフが飛び掛かって来たことにモルフォは即座に反応が出来ず、咄嗟に両腕を顔の前でガードした。

が、それが功を奏したのかたまたま袖から出かけていた《フレア・フェアリー》ごとウルフが噛みついた為、モルフォとウルフはフェアリーの爆発を受け後方へ吹き飛び再度2人の距離が離れた。 しかしモルフォのダメージの方が大きい。

 

 「きゃ!?」

 

 「うぉ熱つつつつつっ!! 糞っ、タイミングをミスったぜ。だが次こそ仕留める。《ウルフバっうぉ!?」

 

 「させるかーーーー!!」

 

仮にも機動タイプのバイパーも急いでウルフの元へ追いつくとウルフの左足、この場合は後ろ左足を掴むと思いっきりモルフォとは逆の方へ投げ返した。 そして不幸にも投げた方向には先程から投げていた爆弾より大きめの爆弾をせっせと作成しているボマーの姿がいた。

 

 「うっしゃー、俺特性のスペシャル爆弾の完成だぜ。」

 

 「うわぁぁぁぁ、ボム、どけ!どけ!どけーー!」

 

 「え?」

 

 「「どぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

ウルフがボマーに激しくぶつかり更に後方へ転がる。 更に彼らが不幸なことはボマーが頑張って作った爆弾がそのまま地面に落としてしまったことだ。 モルフォの蝶と同じく衝撃で爆発する爆弾はそのまま地面に落ちた衝撃で激しく爆炎を上げボマーとウルフの残り少ないHPを綺麗に吹き飛ばした。

 

【KO!! YOU WIN!!】

 

 

 「やった!これで十連勝目。絶好調だね♪」

 

 「最後はちょっと危なかったけどな。」

 

ボマーとウルフの身体がポリゴン片となって見送った後、日向が宏斗の元へ駆け寄ってきた。

宏斗と日向がタッグを組んで1週間、互いのアバターの相性がいいのかソロ対戦と違って好調に勝ち星を掴んでいった。

そんなことをふと考えていると日向が再度声をかけてきた

 

 「宏斗君、『 YOU CAN LEVEL 2 』って出てるんだけど・・・・これって!?」

 

 「やったな日向。レベルアップメッセージだ!!」

 

バーストポイントが300ポイント貯まった事により日向のフローライト・モルフォもついにLv2へ上がれる権利を得たのだ。 レベルアップすると、新しい必殺技を得たり、既存の技やステータスを能力を向上させたり、強化外装と呼ばれる武器・防具がGET・強化出来たりと1つだけアバターを強化出来る。

ちなみに宏斗のバーストポイントはというと現在70ポイント。 というのもすでにLv2へ上がっているからだ。 ではなぜレベルアップしてるのにポイントが少ないかと言うとそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

つまり、Lv2に上がるのに300ポイントきっちり貯めて即刻レベルアップすると300ポイント消費して残存0ポイントになりその場でブレイン・バーストが強制アンインストールされてしまうという何ともマヌケな話しである。

『宏斗はどっか抜けてるからな。もしかしたら同じ失敗しそうだ。』と姉の由貴からレベルアップの説明を受けた時に散々からかわれた。 だからしっかりと忘れずに安全圏までポイントを貯めてからレベルアップし、現在減った分のポイントの回復とレベルアップによる強化の方向性の思案中な訳だ。

なお、最初のレベルアップで出た強化の選択肢は『速度値強化』『アビリティ強化』『必殺技取得』『強化外装強化』の4つだ。

 

 「えっと・・まずはOKを押して・・・YESかな?」

 

 「そうそう、そこでYES押しちゃうとレベルアップしちゃうんだよな・・・え?」

 

その日向の言葉に宏斗は振り向くと、日向は英語で表示されるポイントを消費してレベルアップしてよいかのダイアルログにYESのボタンをしているところだった。

 

 「バ、バーストアウト!!」

 

宏斗は加速世界から現実世界へ戻るなり、隣でベンチに座っている日向の首に付いているニューロリンカーを引っこ抜いた。  姉さん、やっぱ俺抜けてたわ。日向に教えるのを忘れてました。

 

 

現在、宏斗と日向は対戦する為に江戸川1戦域(エリア)にあるあまり人気のない公園からローカルネットへアクセスしていた。 というのも今年の入学する中学校がある場所がここ江戸川1戦域(エリア)な為、どんなバーストリンカーが居るのか下調べに訪れていた。

なお、宏斗の家は江戸川4戦域(エリア)、日向の家は江戸川2戦域(エリア)に分類されている。

そんな訳で公園のベンチで宏斗は日向に手遅れであるがレベルアップの最大注意点と、対戦を挑まれない為に緊急処置としてニューロリンカーを外したことを説明していた。

 

 「・・・と言う訳で、マナー違反承知でニューロリンカーを外しました。本当に申し訳ない。」

 

 「そんな、私がしっかりと文章を読めば分かる事だったのに・・・ ごめんなさい。」

 

 「それで残りのバーストポイントはどれくらいなの?」

 

 「それが・・・・残り5ポイントでした。」

 

本当に危ないところだったみたいだ。 もし今対戦を挑まれ負けていれば日向はブレイン・バーストをアンインストールされバーストリンカーでなくなっていたところだ。 さて、問題はどうやって日向のポイントを回復させるかだ・・・。

 

 「ひとまず俺のポイントを半分分けて、即死から回避しないと。」

 

 「駄目だよ!そんなことしたら宏斗君までポイントが危なくなっちゃう!」

 

 「でも、安全にポイントを回復させる状態にさせるにはそれしかないよ。」

 

 「・・・・・・ わかった。」

 

やっと納得してくれたことに宏斗は一安心したが、

 

 「宏斗君がポイント分けても()()()()()()()()()()()()、ポイント分けてもらいます。」

 

 「な、何を言っているんだ日向!大丈夫なまでって――」

 

 「さっきも言った通り、今回の粗相は私が少し考えれば分かることだと思うの。だからやっぱり私の為に宏斗君まで危険な橋を渡る必要なんてないんだよ。」

 

 「でも俺が分けても大丈夫な安全圏までって、それまでどうするんだ?家のホームサーバなら対戦を挑まれる心配はないけど、一歩でも外に出てローカルネットに繋がってしまえば対戦挑まれる危険ががあるんだぞ。」

 

 「その対策は今宏斗君がしているじゃない。」

 

そう言って日向が指を射す先には、俺が右手に握っているカメラ付き日向の白いニューロリンカーがあった。

 

 「宏斗君が貯めるまで、私がニューロリンカーを付けなければいいんだよ!」

 

 「な!?」

 

宏斗は絶句した。 このご時世ニュローリンカーは必須道具だ。 他者との連絡や情報収集、お金の支払いや宿題の受け渡しまで全てのやり取りがこのニューロリンカーを介して行われている。

さらに目の見えない日向にとっては新たな目と言ってもいい。 日向のニューロリンカーは特殊で小型のカメラが付属されている。 そのカメラが写している映像をニューロリンカーが処理して日向の脳内部にある医療用硬膜内留置型通信機、通称BIC(BrainImplantChip(ブレイン・インプラント・チップ))に送信して日向にカメラが見ている風景を見させているのだという。

 

 「・・・・本当にいいのかそれで?」

 

 「多少生活に不自由が出るけど、これからも2人でブレイン・バーストやってく為だもん。大丈夫だよ。」

 

 「・・・はぁ~。そこまでの覚悟でいられちゃ、後は俺が頑張るしかないな。」

 

 「ごめんね頼っちゃって。あとね、もう一つ頼みたいことがあるんだけど・・・今何も見えてないから家まで送ってほしいんだけど・・・」

 

 「・・・・」

 

それから日向を家まで送る為に手を繋いで誘導していたところを、姉ちゃんズに見られて茶化されたのは言うまでもない。

 

 

――――江戸川4戦域(エリア) ステージ:《水没街》

 

 「って訳なんだよ。一体ど~すればいいんだろ。」

 

 「それを僕に聞かれてもな・・・」

 

宏斗は日向を家に送った後、ブレイン・バーストのデビュー戦で対戦したネイビー・ゲーターのギャラリーとして観戦に来ていた。 なお現在ゲーターは対戦相手の青の機動型アバターに苦戦中である。

そして、同じく観戦に来ていた『ビリジアン・トータス』へ現状の悩みを相談していた。

彼は宏斗が日向に会う前に1度戦った相手で、なかなか彩度の高い緑色型アバターで背中には超大型のカイトシールド背負い、丸みのある頭に嘴形の口が付いている。 一言でいえば目の前で熱い戦闘を繰り広げているゲーターと同じような獣人タイプ、大型のカメである。

 

 「でも安心したよ。女性バーストリンカーは少ない上に、江戸川区は過疎区だから余計お目にかかれないからね。

  江戸川バーストリンカーの楽しみの一つが無くならずに済んだよ。」

 

 「楽しみって・・・」

 

 「どんなゲームでも女性キャラクターってのは人気になるからね。そういうことだよ。」

 

そもそも何故彼とこんなにも親しくなったというと言うのも宏斗達が住む江戸川区は過疎区と呼ばれ、バーストリンカーの数が極めて少ない。 だから何度か同じ戦域《エリア》で対戦していれば戦っていない相手はいなくなってしい、そう言う意味では顔見知りが多くなるのでご近所付き合い並みに仲が良くなったりもする。 彼もその一人だ。 仲良くなったきっかけも今日と同じようにたまたまギャラリー観戦していたところ、彼から気軽に話しかけられたのが縁だ。

 

 「ところで、トータスもLv2になったんだよね。おめでとう、ボーナスはもう使ったの?」

 

 「うん、今回は『必殺技取得』を選んだよ。」

 

 「それでどんな技だったんだ?」

 

 「それは秘密。なんなら今から直接対戦で教えてあげようか?」

 

 「こっちはまだボーナス振ってないので遠慮しときます。」

 

 「あれ?まだ決めてなかったの?」

 

 「まだアバターの強化方向性が定まんなくて・・・トータスはどうやって決めたんだ。」

 

宏斗の質問にトータスが少し考えているとふと顔を横に向けたので、宏人も顔を横に向けると対戦中のゲーターが対戦相手と一緒に水面へ落ちるのが横目で見えた。 現在の対戦ステージは《水没街》と言うステージで都市一体が水没しており、水面から突き出ているビルの屋上で対戦が繰り広げられるのが一般的だ。 対戦相手の青のアバターが水面に浮上してきたが、ゲーターは一向に浮上してこない。

 

 「ゲーター君って名前の通り、ワニ見たく泳ぎが上手いというか多分泳ぎ関連のアビリティ持ってるっぽいんだよね。」

 

 「え?」

 

宏斗とゲーターが対戦した回数はまだ指で数える程しかないが、そのほとんどが泳げるような対戦ステージでなかったので初耳の情報だ。というか、強化方向性の質問をしたのに何故その回答でなくゲーターの話をしたのか宏斗は不思議に思った。だがその答えは彼の話で直ぐ判明した。

 

 「そういう意味では大抵のアバター能力は名前から連想される特徴が出て来るんだと思うだよね。

  僕も色と名前の連想通り防御値も高いし盾型の強化装甲は持っているんだけど・・・・

  ただ一つ不満があるとしたら防御系の技がないんだよね!」

 

 「なるほど!だから『必殺技取得』を選択したのか。」

 

 「うん、僕の最初の強化方向性を一言で言うなら『名前のインパクト性強化』かな。」

 

 「名前のインパクト性か・・・・」

 

 「だけど、今回の会得した技は防御系じゃないからLv3ボーナスも『必殺技取得』かな(笑)。」

 

アバターの特徴表す大体の部分は必殺技とアビリティがほとんどと言っていい。 そして先のトータスの話通り、アバター特徴が名から連想に密接関係するのであれば、『必殺技取得』『アビリティ取得』を選べば名前の特徴を捉えた力が身につけられる可能性が高い。 トータスは惜しくもそうではなかったがそう言った強化方向もありかもしれない。 では、宏斗のアバター『オブシディアン・バイパー』(黒曜石の蛇)から連想される特徴とはなんなのか。 今度は宏斗が腕を組んで考だすとあることに気付いた。

 

 「あ!」

 

その時、周りのギャラリーが一斉に歓声を上げた。

 

 「砕け散れ!《フィジカル・クラァァァァァッシュ》!!」

 

 「グァァァァァ!!」

 

いつの間にか浮上していたゲーターが技名を叫んで対戦相手の胴に噛み付き持ち上げていた。

技をまともに喰らった相手は上半身と下半身が真っ二つに分断されると、HPを全損してポリゴン片として退場していく。

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ、俺様の勝ちだぁぁぁぁ!!」

 

ゲーターは水面から俺達ギャラリーのいるビル屋上へ向けて勝利のアピールをし始めた。

 

 「いや~、おめでとう。おめでとう。ゲーター君もそろそろレベルアップかな。

  そしてバイパー君も何か見えたようだね。」

 

 「1つ思うことがあるけど、トータスと同じで想像通りいくかはまだ分からん。」

 

 「どんな結果になっても強化なんだから問題ないさ。それじゃ良い結果がでるか楽しみにしてるよ。」

 

 「ああ、楽しみにしていてくれ。それじゃ、バーストアウト!」

 

宏斗は友人に別れを告げその場を後にした。次は宏斗が戦う番だ。

 

 

――――江戸川4戦域(エリア) ステージ:《樹海》

 

針葉樹・広葉樹が青々と茂る木々の中に1匹の巨大な青いトカゲが出現した。いや、それはトカゲと言うには余りにも大きな口を持ち2足歩行で歩いている。 彼の名は『ネイビー・ゲーター』、先程まで《水没街》と呼ばれる対戦ステージで勝利をもぎ取り見事にバーストポイントが300を超えたところだ。ゲーターは今度は誰に挑まれたかと気合を入れ直そうとしたがHPゲージの上には彼の名ではなく彼が最近知り合った友人の名が刻まれていた。

その時横から緑のアバターが姿を現した。

 

 「やぁ、ゲーター君。さっきの試合はおめでとう。」

 

 「おう!トータスか。しかし、バイパーがソロ試合とは久しぶりだな。」

 

 「モルフォちゃんが、ニアデスミスしちゃったみたいだよ。」

 

 「かかかかか! そいつはバイパーの奴も災難だな。」

 

 「それでモルフォちゃんの分も稼がないといけないんだって。」

 

 「ほぉ・・・なら俺にいい案があるぜ。」

 

 「うぁ~、嫌な予感しかしないよ~。」

 

ゲーターとトータスが談笑している中、対戦スタート告げる文字が表示された。

今回のバイパーの対戦相手は『セラドン・モンク』。全身を丸みの帯びた青緑色の装甲に包まれ、自分の硬さを活かしたインファイトの殴り合いを好むのが特徴だ。 対戦開始から50カウント経過したが、モンクはバイパーがガイドカーソルで表示されない以上周囲を警戒しつつ無作為に進むしかなかった。 その時、樹上からで待ち構えていたバイパーが上空からモンクへ躍りかかる。 モンクもバイパーの存在に1テンポ遅れて気付いたが回避するにも防御するにも既に間に合わず、右肩を斬られ鈍い金属音が響いた。

対戦相手に居場所を特定させないバイパーの索敵妨害(サーチジャミング)は、相手に警戒を誘発させるので初手を封じさせ初撃を与えられるのは、もはやバイパーの基本戦術になりつつある。

 

 「っぐぅ・・・」

 

 「!! 硬い、ならもう一撃。」

 

 「甘い!」

 

初撃ダメージがあまり大きなものではなかったバイパーは追撃で斬りにかかったが、モンクはそれに合わせる様にカウンターの拳をバイパーの腹部に叩き込んだ。

 

 「がはっ」

 

重い拳に息が詰まりそうになるが、直ぐに呼吸を正常に戻しモンクから距離をおく。

モンクがガチで殴り合うインファイトを得意とするなら、バイパーはスピードを活かしたヒット・アンド・ウェイを得意とする。 今度は焦らずに樹々を利用した撹乱奇襲を繰り出してみるが、やはりモンクは合わせたかのようにカウンターで返してくる。 激しい攻防を繰り返し攻撃の手数ではバイパーが勝っているものの、モンクの硬い鎧と重い拳の一撃で結果としてはバイパーの方がダメージは大きくなってしまっている。

バイパーは一度攻撃の手を休め樹の後ろに隠れつつ、自分のHPと必殺技ゲージを見比べた。

 

 (う~ん・・・、ゲージはMAXまで溜まったけど、このまま撃ち合えば確実に負けるな。)

 

その時、先程から口数が少ないモンクがバイパーに向けて声を上げた。

 

 「悪いがこのまま続けても、貴様の攻撃力じゃ俺に決定打を与えることは無理だ。そして《ビルド・アップ》!!」

 

必殺技名を叫ぶと、突如モンクの身体から白い湯気のような靄が立ち上り始める。

 

 「これで攻撃力・防御力共に向上させた。貴様の勝つ見込みは0だ。」

 

 (まじかよ。ならもう()()使()()()()()()。)

 「そいつは残念だけど、その考えをひっくり返す奥の手ってのが俺にもあるんだよ!」

 

 「なら、証明して見せろ!」

 

宏斗はモンクに向かって駈け出す、モンクもそれを迎え撃とうとファイティングポーズを構え直した。

勝負は次の一瞬で決まる。決まれば宏斗にとってこれが()()()()()となるはずだから。

 

 「さぁ来い蛇。」

 

 「うおぉぉぉぉぉぉ!《エクリプス・ベナム》!!」

 

サリテュードバイト(孤独な牙)の刃が紫色の光り出し、モンクに向けてその刃を付き出した。

しかし、その刃モンクに突き刺さらずモンクの頬を掠めただけに終わる。 逆にモンクの拳がバイパーの顔にヒットしバイパーの身体を吹き飛ばした。 HPはモンクは残り3割、バイパーは残り1割も残っていない。 それでも宏斗は立ち上がり心の中で笑みを浮かべた。

 

 「残念だったな。奥の手というのも当たらなければ意味がない。

  さぁ、その半端に残ったHP吹き飛ばしてやるから掛ってこい。」

 

 「悪いけど攻撃はそれが最後だ。」

 

 「攻撃さえあきらめたか。ならばそこを動くな引導を渡してやる。」

 

 「ははっ、まだ気づいてないのか。HPを見てみろよ。」

 

モンクがHPを見直すがHPに変化はない。 と思っていたがHPがジリジリと減り出している。

 

 「なっ!これは!?」

 

 「やっと気付いたか。お前の身体に毒を入れてやった。」

 

宏斗の放った《エクリプス・ベナム》は単なる攻撃技ではあるが、ダメージはおまけにすぎない。

トータスと話した時、宏斗も自分の力に一つ疑問があった。 最初こそ索敵妨害(サーチジャミング)存在迷彩(エグズィステンスステルス)などの隠密アビリティがバイパーの能力と思っていたが、アバター名から連想できる能力ではなかった。 トータスの仮説が本当ならバイパーにもその名の通りの力がまだあるのではないかと。だから宏斗は賭けに出てみた『必殺技取得』を選択することでバイパーの本当の能力が開放されることを。

そして会得した《エクリプス・ベナム》は刃に接触した相手を“毒” 状態にさせる。 この毒は痛みさえないものの相手の防御力に関係なくHP確実に削っていく。

そう、無かったものは“毒牙”。 バイパーは蛇は蛇でも(Snake)ではなく毒蛇(Voper)なのだから。

 

 「ってな訳でギャラリーに申し訳ないけど後は全力で逃げる。時間もまだまだあるし、お前のHPも削りきれるだろう。

  あ、追い掛けてくるなら追い掛けて来てもいいぞ。追いつければの話だけど。」

 

 「ちょ、ちょっと待て!?」

 

宏斗はモンクに背中を向けるやいなや全速力で駆けだした。

後方でモンクの絶叫が聞こえるけど無視。 彼も分かっているのだろうスピードではバイパーに勝てないことを。

そうしてバイパーは時間いっぱい逃げ切り、毒の効果でモンクのHPを削りきった。

ギャラリーにも後半のモンクとのおにごっこが好評だったのは意外だ。

 

 「ふ~。とりあえず毒と隠密アビリティで勝率は上げれそうだな。」

 

その時ギャラリーから聞いたことがある声が聞こえてきた。

 

「HEY!バイパー!俺のマイ フェアリーがニアデスナウってどういうことDA!」

 

声の主はオークル・ギター。というかギターはどこで日向がポイントが危ないことを知ったのか?

あと、日向はお前のものじゃない。 続いて今度はよく知る知人達の声がギャラリーの中から聞こえてきた。

 

 「ごめんねバイパー君。ゲーター君に話したらが周りにバラしちゃったよ。」

 

 「おぅ、バイパー。これで対戦者がこぞって江戸川4戦域(ここ)に集まってくるぜ。」

 

宏斗は再びトータスの言葉を思い出した“江戸川バーストリンカーの楽しみの一つが無くならずに済んだよ。”。

確かにご当地アイドルの危機なればこぞって確認に来るという訳か。

 

 「どうなんだYO、バイパー。MAGIな話なのかYO。」

 

 「さぁ、第2ラウンドといこうぜ。バイパー。」

 

 「あ、ギター君は今来たばかりだから必殺技は見てないよ。」

 

この後バイパーの連戦は続き1日で日向のニアデスを回復できたことは言うまでもなかった。

 

 




ここまで読んで頂き大変ありがとうございますm(_ _)m

今回は原作13巻の発売日に合わせて書いたのでいつもよりボリューム多めになっております。
また今回は、アバター案を頂きました中から『ヴァイオレット・ボマー』、『ディープ・ウルフ』を
ちょこっと出させて頂きました。(後、オークル・ギターも引き続きちょこっと出してみました。)
案を投稿して頂きました方々におかれましては大変有難うございます。
ここで1点か皆さまにご質問です。アバター案を採用させて頂いた方のやはり名前は伏せたほうが
良いのでしょうか? ひとまずは伏せる方向でいきたいと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。