「ふぅ……ごちそうさま」
口の中に広がる出汁の風味を愉しみつつ箸を置く。やはり鍋のシメにはうどんが一番だ。そう実感すると共に、ほわんの料理の腕前を再認識した。何というか彼女の料理には、人を病みつきにさせるような深みがある。もし彼女にステージで歌を歌いたいという目標が無ければ、料理人になることを勧めていたかもしれないくらいに。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」
「ごちそうさま! やっぱほわんの料理は最高だねー!」
「いえいえ~、お粗末様でしたー」
家に集まって鍋をやるのは、みんながあたしの家に集まった時の決まりのようになっていた。はじめはもたついていた後片付けも、四人でやればあっという間だ。
そうしてそのあとはいつも、ルフユの「さて、今日は何やるー?」の一言で何かを始めるのだ。心地の良いルーティーンだった。この間みたく家の中でかくれんぼを始めたりしなければ。
「はい! 提案があります!」
元気よく手を挙げたのはほわんだった。あらかじめ何かを準備していた様子はなかったようだけど、なんて思っていたらおもむろに楽器ケースを開け、中から取り出したのは―――
「じゃん、今日はこれをやりたいなって思ってー」
積み木がきっちりと入った入れ物。いわゆるジェンガというやつだった。これなら散らかりもしないし、確かにちょうど良いだろう。一つの懸念事項を除いて。
「おっ、ジェンガね! 私のルナティックオペレイションを炸裂させてみせるわ!」
「ルフユさん、炸裂しちゃダメですよ。ちゃんとやってください」
「っていうか、楽器ケースを入れ物代わりにしないの」
「えへへ……」
ほわんが箱から取り出し、ちゃぶ台の上に立てる。あたしはそれを言い出さないか、言い出したらどうしようかと思案を巡らせながら様子を見ていた。
「で、罰ゲームどうするー?」
「しないわよ」
さも当然の如く提案するルフユに温まりもしないくらい温めていた却下を突っ込む。また秘密を明かそう、なんて言い始めたらたまったもんじゃない。
「おぉ? ヒメコちゃん自信ないの~?」
「別にそんなことはないけど」
「それなら、決まりですね」
「あのねぇ……」
意外にもデルミンが乗り気だったので押し切られてしまった。ほわんも楽しそうにしていて助け船を出してくれる予感はしない。
「負けた人は今度みんなでカラオケに行ったときに、負けた人の一つ前の番の人のリクエストをきく、でどう?」
「いいですね、普段歌うことのない歌を歌う機会があるというのは、とても良い事です」
「そのくらいなら……」
「じゃあ、最初はウチから……っへっくしょんっ! ほわわぁ!」
ほわんの悲痛な叫びとともにばらばらと崩れる木の塔。
「あはは、ほわんったら最初に崩すの面白すぎー」
「これどうすんのよ、リクエストする人いないわよ」
「ノーカン、ですね」
「気を取り直して、再開、です」
慣れた手つきで積み直したデルミンが、最初の一本を引き抜く。その手つきといい罰ゲームに乗り気だったことといい、どうやら自信があるのだろうか。次はあたしの番だ、油断しないようにしておこう。
そうしてほわん、ルフユと順番が回るにつれ、塔は少しずつ不安定になってゆく。何度か崩れそうになりながらも、奇跡的に形を保っていた。
「次はあたしの番ね……」
既にみんなの口数は減っていて、じっと積みあがった塔を見つめている。外れそうな場所を見極めそっと指先で触れる。視線はぐらつく塔に留まり、そして通り過ぎ、隣で同じくして塔を見つめるほわんの視線と交差し―――
がしゃん、と音がした。
「はーい罰ゲームはヒメコちゃんねー」
「やりました、今度リクエストしますね」
「ちょっと! ずるいわよ! だって―――」
「だって?」
顔が近かったから、なんだというのだろうか。喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。
「もっ、もっかいやるわよ!」
「お、いいねぇー。ノってきたぁー!」
夜は中々に長くなりそうだ。熱い頬をさますにはぴったりだろう。