食事風景をもっと上手に表現出来る様になりたい。
鳳翔さんのドヤ顔拝みたい。
「し……か……」
遠くで声が聞こえる。
「…れ……ん……」
それはいつもひた向きで、迷いながらも結局愚直で。
「しれ……さ……」
痛々しい位に優しくて、臆病な癖に手は伸ばす。
「し…いかん……!」
そんな
「しれいか……ん!!」
その姿が自分と重なったから。
此処で戦うと決めたんだ。
「朝なのですお仕事なのです起きるのですというかなんで机で寝てるんですか起きるのですぅぅーー!!!」
「おぅっ…!?」
唐突な叫び声に変な声が出てしまった。
唐突で何が起きたか理解出来ない脳は未だ覚醒せず、鈍い感覚のまま辺りを見回す。
いつもの執務室。
が、視界の端には見慣れたセーラー服を着た少女。
長い栗色の髪を後ろで上げ、薄い金色をした瞳。
駆逐艦の艦娘、電であった。
「…おはよう電。調子は良いか?」
「…お陰様で朝から元気いっぱいなのです。…司令官さんはなんで机で寝てるのですか?」
提督の挨拶にしかめ面で明らかに少し不機嫌そうな返答を返す電。
「いやなに、部屋に戻るのが億劫になってな。なら机に突っ伏して寝てやろうと自分への反骨精神から…だな!」
「…書類、終わらなかったんですか?」
「ぐっ…いや、昨日のはないぞ。しっかりと終わらせてある」
「机で寝てしまう位に時間を掛けてですか?」
「……………。」
電の問い詰めに無言で視線を逸らし誤魔化そうとするも、電の睨み顔はそれを許そうとはせず、提督は何か適当に言葉を漏らそうとした辺りで一つ、ため息が溢れた。
「…はぁ。やっぱり残るべきだったのです。司令官さんは不真面目ではないけれど気分屋さんである事を考慮するべきだったのです」
肩を落としてまるで自分の落ち度かの様に話す電に、提督は苦笑を漏らして電の頭を優しく撫でる。
「そう言うな。昨日は良い日和で昼寝をしただけだ。電に頑張るなと言った手前、必死に仕事を行うのも何か違うなと思っただけさ」
撫でられながらもジト目で提督を見る電は机に人差し指をとんとんと当て、それでも抗議する。
「それで夜更かしをしていたら本末転倒なのです。…電は力になりませんか?」
「それこそ電が居なくてはならない証明だろ?居なきゃ終わってないんだからさ」
「…その言い方はズルいと思うのです。…司令官さん、もう0800になるのです。シャワー浴びて身嗜み。整えてくるのです。電は朝ご飯をお願いして来るのです」
「おう、そうするよ。…今日の朝飯には卵焼き付いてた?」
すっとぼけた様な提督の言葉に電も漸くクスリと笑みを浮かべて大きく頷く。
「はい、なのです。鳳翔さん特製のが付いていたのです。甘くてふわふわで美味しかったのです!」
「お、そりゃ重畳。いいね、腹減ってきた。頼むよ電」
そんな言葉を掛けて立ち上がると、電は可愛らしく敬礼し「了解しました!司令官さん!」と快諾する。
そんな姿に微笑んで見せ、自室へ向かおうと歩を進め、扉に手を掛けた時、また声を掛けられた。
「あっ…し、司令官さん!」
「…ん?どうした?」
振り返るともじもじとした様に指を合わせ、えっと、等と呟く電の言葉を待つ。
意を決したのか、最初は真剣味を帯びた目をし、その後、ほにゃっとした表情になり、電は朝に相応しい笑顔でこう言った。
「お、おはようございます!今日も宜しくお願いします、なのです!」
その挨拶が嬉しくも愛しくも感じ、笑みを浮かべ頷き、執務室を後にした。
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時刻1230
「司令官さん、そろそろお昼ご飯の時間なのです、食堂に行きましょう!」
執務中、隣からそんな提案をする電はにこにことした笑顔。
「ん、そんな時間か。そういや腹が減った。行くか」
伸びをし、息を吐いてそう言い電を連れ立って執務室を出る。
食堂へ向かう最中も電はにこにことしており、そんなに良い事があったのかと思うも特に追求もせずに歩く。
最近ではいつも通りとなった、穏やかで平和な昼餉時。
違うのは一応秘書艦が交代制である為、隣に居るのが電じゃなかったりする位だ。
秘書艦交代制は提督と艦娘のコミュニケーションを図る為に提督が提案し、艦娘達が了承し成立した。
秘書艦をやりたくない、という艦娘は無理にしなくても良いとは言ってあるものの、未だその進言がされた事はなかった。
電は初期からの付き合いになる為、一週間のうちいずれか二日秘書艦をやる事になっている。
それは本人の強い希望と、慣れていない子が秘書艦になると執務が溜まってしまう為それを解消する、という意味合いもある。
提督は有能ではあるが気紛れをたまに起こす事もあり、それを加味しての
会話がなくとも問題はないのだが、提督は昨日の事を聞いてみる事にした。
「電、昨日は間宮に行ったんだろ?どうだった?」
「はいなのです。暁ちゃんはパフェを美味しそうに食べて、響ちゃんはアイス、雷ちゃんは餡蜜を食べたのです」
「そうか、電は?」
「電は暁ちゃんと同じパフェを食べたのです。甘くて冷たくて美味しかったのです」
嬉しそうに言う電にそうか、と相槌を打ち、優しく頭に手を乗せる。
電は不思議そうに提督を見るが、特に嫌そうな顔はせず寧ろ少し嬉しそうに、恥ずかしそうにはにかんでいる。
「偶には良い物だろ?電は俺を良く助けてくれるから纏まった休暇をあげられなかったからな。せめてそういう機会は増やしていこうな」
その言葉に嬉しそうにはするが、やんわりと首を横に振り、テテテっと少し先まで行き振り返る。
「嬉しいですがそうも行かないのです。気分屋さんな司令官さんがいるので気になってゆっくり出来ないのです。だから、偶にで良いのです」
なんて、嬉しそうに言う。
はて、怒ったり呆れたりなら分かるが何故嬉しそうなのか。
提督は首を傾げるが、電が良いなら良いかと歩を早め電に追い付く。
「電はしっかり者だからな。…だが休憩位自由に取りたいのだが」
現状、提督の休憩時間はその日ついた秘書艦の管理によって決まっている。
最初期、自由に休憩を取らせていたらいつの間にか居なくなり中々帰って来ない事がしばしばあったのだ。
それは些か問題行動過ぎるのではないかと艦娘達が集まり
幾ら苦言を呈しても皆首を縦には振らず、仕方なく提督は
「ダメなのです。みんなで決めた事なのです。司令官さんはダメな人だからちゃんと監視しようって」
「随分な言われ様だなおい…」
「自業自得、なのです」
ぴしゃりと言われ、何も言えず溜息を溢す。
「あら…?提督に電ちゃん、今からお昼ですか?」
食堂入口前まで来た時背後から声を掛けられた。
振り返ると長い髪を揺らし女性らしい肩を露出させた巫女服を着た戦艦の艦娘、榛名が笑顔で立っていた。
「榛名さん、そうなのです。今から司令官さんとご飯なのです」
電が答えると、榛名はそうなんですねと2人に近付き電の頭を撫でる。
はわわと言いながらも甘んじて撫でられ、撫でている二人を見ていると仲の良い姉妹の様に見える。
「ま…似たようなものか」
等と呟くと、榛名は何か言いましたか?と首を傾げてくるのでゆるゆる首を振る。
「なんでもない。榛名も今から飯か?なら一緒にどうだ?」
「榛名もご一緒して良いのですか?」
「当たり前だ。わざわざ離れて食べる必要ないしな」
「榛名さんと一緒するのは久々なのです」
榛名な手を電が引き提督は榛名の背後に回りその華奢な体躯の背を押した。
「駆逐艦電、命令だ。戦艦榛名を曳船し食堂に向かうのだ」
そんな巫山戯た命令に電はピシッと敬礼し了解しましたと今度は両手で榛名の手を引き食堂へと入っていく。
そんな二人の様子に榛名はクスクスと笑いながらされるままに引かれ、押されていく。
四人席に辿り着くと二人は榛名を解放し、今日食事出来るメニューを眺める。
「んー…何にするかなぁ。榛名は?」
「榛名はA定食にします。なんでもとても美味しい
今から楽しみなのかにこにこしながら教えてくれる榛名に電も食べたくなったのかA定食を選択した。
ならばと提督はB定食にし、少し分けてくれと交渉、そして成立。
因みにA定食は魚、B定食は肉である。
食堂担当の鳳翔に頼むと直ぐに用意してくれ三人の目の前には美味しそうな食事が並んだ。
A定食はメインの鰈の煮付けに味噌汁、ほうれん草のおひたしにご飯。
B定食はメインが変わり豚の生姜焼き、後は同じである。
更に榛名はいつも食事にサラダを付けて貰っているらしく、鳳翔が気を利かせボウルでサラダを出しシェア出来る様にしてくれた。
三人は手を合わせ頂きますとしっかりと挨拶をし食事に取り掛かる。
「…うん、やっぱ鳳翔の作る飯は美味いなぁ」
それに電、榛名は大きく頷き合う。
「提督、煮付けをどうぞ?」
差し出された煮付けに箸を伸ばし、口に運ぶ。
鰈のふっくらとした食感に甘辛くした味付けの絶妙なこと。
白米をかっ込み至福を感じる。
「生姜焼きも美味いぞ、食え。電もほらほら」
「はわわっ!?い、電はそんなに食べれないのですぅ〜!」
そんな幸福なひと時。
食事を終え食後のお茶を啜りのんびりとした時間が流れる。
「…はぁ、美味かったな。夜は何を食べようか」
そんな一言に電、榛名がクスクスと笑う。
「食べたばかりなのにもう夜ご飯の事を考えているのです」
「えぇ、提督は食いしん坊ですね」
「飯が美味いのが悪いな。ついつい楽しみになってしまう」
「そう言って頂けると作る励みになりますね」
そう言いながら鳳翔が厨房から出てきて笑った。
「鳳翔さん、今日も美味しかったのです」
「はい、煮付け絶品でした」
二人が絶賛し、少し照れた様な表情で感想にお礼を言う鳳翔に提督は問う。
「鳳翔、最初は料理も簡単な物しか出来なかったのにいつの間にか上手くなったな。どうしてなんだ?」
提督の疑問に対し、鳳翔はさも当然とした様に胸を張る。
「当然ですよ。訓練と同じです。本を開いて知識を学び、実際に行い慣れれば良いのですから。習慣化すれば、自ずと技術は付いてくるものです」
鳳翔にしては珍しくドヤ顔をしていたので提督は珍しい物を見たと思いながらも確かに、と返事を返す。
「電も鳳翔さんの指導の下修行中なのです。いつか美味しいご飯を作って皆に振る舞いたいのです」
電がそんな事を言うので提督は驚き、榛名は感心した様にうんうんと頷いていた。
あの執務の中でいつの間にそんな事をしていたのか。
単純にその行動力と勤勉さに驚いていた。
「真面目とは思っていたがそこまでとはな。…最初期、食事面では苦労したしなぁ…」
しみじみと呟く提督にズーンと効果音が付きそうな勢いで電がガックリとしている。
最初期、電と提督が出会った日から食事面では本当に苦労の連続であった。
電は料理自体ほぼした事が無く、提督は切る、焼く、食う、しか出来ない男だった。
そんな二人の最初の仕事は自分達の食事をなんとかする事であった。
「…一週間連続カレーのみの生活は二度としたくないのです」
電がその頃作れる料理がカレーのみだったので一度に大量に作りなんとかしようとした事があった。
朝昼晩カレー。アレンジを加えても米がうどんや蕎麦に変わる程度で味付けは殆ど変わらず中々の苦行であった。
「あぁ…あったなぁ…。幾らカレー好きでも朝昼晩一週間似た様な味付けは苦痛だったな…。スパイスの摂取のし過ぎで黄色くなるかと思ったぞ」
「鳳翔さんが女神に見えたのです」
比喩なしできっぱり断言する電にあらあら、なんて照れる鳳翔。
そんな中、榛名は少し悲しそうな笑顔で居るのに提督は気付いた。
ある程度察しはつく。
自分が知らない頃を知る仲の中に自分が居る事に、少し気遅れにも似た感情を抱いているのだろう。
寂しさ、だろうか。
榛名は優しく、気遣いが出来る子だ。
だから自己主張が下手なのだ。
末っ子、というのもあるだろう。
「榛名の手料理は食べた事がなかったな。作れるのか?」
提督は素知らぬ顔で榛名に話題を振る。
「榛名ですか?榛名は有る程度、です。金剛お姉様には上手だと褒められましたが…」
「ほぅ、なら榛名の手料理もそのうち食べたいな。あの金剛のお墨付きとあらば、姉妹艦の目抜きにしても美味いんだろ」
他鎮守府に所属している姉の名を聞いたからか、提督に期待されたからなのか、榛名は花が咲く様な笑顔になり手を合わせて言う。
「はい!鳳翔さんにも、電ちゃんにも負けない位立派な手料理、お見舞いしてみせましょう!」
「期待してるよ。電は、そうだな。今日は明日の分の執務も前倒しでやりたいから、早速夜食で披露してもらおうかな」
ガタンッと電が反応しはわわはわわとわたわたし始め、それを笑う。
「無論無理にとは言わないよ。その時は鳳翔か榛名に頼むか」
その言葉に若干ムッとした表情になる電。
「榛名はいつでも構いません!」
「…私はいつもしている事ですから」
そんな二人の言葉に電はムムムと唸ったあと立ち上がり、うにゃあぁと訳の分からない気合いの声を上げた後、提督にビシッと指を突きつけ宣言する。
「良いのです!修行の成果を見せる時なのです!美味しい夜食に恐れ慄くのですうぅ!!」
等と叫ぶ電に、少々煽り過ぎたかと苦笑を漏らし、午後の執務に戻る為鳳翔と榛名に別れを告げ電を引き連れ執務室に戻った。
道中、電の頭を撫でながら興奮を抑えていたのは言うまでも無い。
普段はキャラ目線で書くのですが、俯瞰視点だと難しいですね。
なので、提督に寄ってます。
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