適当な提督と艦娘達の日常   作:現実から乖離したい

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一度目から二度目へ。

ある日の執務室。

一人書類を片付ける提督。

少し書類を早目に片付け散歩に行こうと考えテキパキと執務をこなしていたが、執務室の窓際からポツリポツリと音が聞こえ、なんとなく嫌な予感と共に振り返る。

窓には水滴が幾つか付いており、それは急激に増え大雨になった事を意味していた。

 

「運がない。これじゃ散歩所じゃないな…」

 

一人ごちるとまた書類に向かい合い、執務を再開する。

散歩に行けなくともまたダラダラ過ごす理由にはなるだろうと思考を切り替えた為、執務の速度は変わらず落ちない。

今日の執務の最低限まで終わらせるとまた一度顔を上げ窓に打ち付ける雨が降る空を見上げた。

陰り、雲が掛かった空は暫く雨が続く事を物語っている様だった。

嘆息し、茶でも飲むかと立ち上がった所で執務室の扉からノックの音が聞こえた。

 

「司令官!雷よ!お手紙を届けに来たわ!」

 

「おぉ、入ってくれ」

 

ガチャっと音を立て勢いよく扉が開かれ、茶髪のボブヘアーに瞳に生き生きとした光を宿す少女、駆逐艦の艦娘、雷が入ってきた。

手には封筒を持っており入室して直ぐに提督に駆け寄り封筒を差し出してくる。

 

「はい!お手紙!今日の秘書艦はこの雷さまよ!このまま執務に入るわね!」

 

「ん、ありがとう。丁度よかった。茶が飲みたいんだが頼めるか?」

 

そのお願いに目を輝かせて雷は大きく頷いてくれる。

 

「分かったわ!直ぐに入れてくるわね!あ!お茶菓子も用意した方が良いかしら?」

 

「…そうだな、生憎の雨となってしまったし、少し一息入れるか。茶菓子はいつもの棚に入ってるから雷のセンスで選んできてくれ」

 

「今日は沢山頼ってくれるのね!嬉しいわ!直ぐに準備してくるから少し待っててね!」

 

そそくさと給湯室へ入って姿が見えなくなる。

その間に封筒の中身を確認してしまおうとソファーに座り封を開く。

広げた書面を読み進めて行く内に段々と表情が険しくなっていく。

 

「…ふむ。なんともまぁ…良いけどさ」

 

「どうしたの司令官?顔が怖くなってるわ。暁が泣くからそんな顔をしてちゃダメよ!」

 

お茶汲みを頼んだ雷が戻って来てそう言い、淹れてきたお茶と一口大の饅頭が幾つか乗った皿をテーブルに置く。

提督の隣りに直ぐ腰を下ろすとくっつく様にして手紙を覗き込む。

 

「…これ、大本営から?」

 

「そうだな。うちに素体となる少女を送るから一人艦娘を建造しろとさ。…多分建造した事がないってのが心象よく思われなかったみたいだな」

 

事実、此処は提督自身が他鎮守府から召集した第六駆逐隊以外、他鎮守府から"訳有り"で送られてきた艦娘で構成されており進んで建造はしてこなかった。

理由としては必要かと言われれば現状そこまでではなかったし、最初期に集めた第六駆逐隊と他鎮守府から移籍してきた鳳翔の活躍により近海の危機は去っていたからだ。

他に理由があるとすれば、提督の進んで戦う為に少女を艦娘に変える行為がどこか引っかかり、行動してこなかったというだけ。

 

「そういえば司令官は建造して来なかったわね。初めの苦しい時も私達と鳳翔さん、最後の方に榛名さんが来て…その皆だけでやり遂げたものね」

 

雷の言葉にうーん、と呻き、手紙を畳んでまた封筒に仕舞う。

 

「俺らだけでいけると思ってたしな。鳳翔って強みもあったし、最終近海制圧作戦の時は榛名も居たし。まぁ榛名には大分無理をさせてしまったが」

 

「そうね。でも榛名さんは強いから、大丈夫よ!それよりどうするつもりなの?建造するの?」

 

「…家族が増える分には良いんだがな。気は進んな」

 

「そう…。ほら!折角美味しく出来たお茶が冷めちゃうわ!どうぞ、司令官!」

 

元気付ける為に笑顔でお茶を勧めて来る雷の健気さに少し気を落ち着かせ、雷の淹れたお茶に口を付ける。

 

「…む」

 

お茶を口に含んだ瞬間、お茶の香ばしい香りがし、味も適度な渋さ…提督好みの味に仕上がっていた。

これには提督も驚き雷の頭を撫でる。

 

「文句なしに美味い。…ここまで俺の好みを知ってると思うと逆に怖いぞ」

 

その言葉に気を良くしたのか、余りにも似合い過ぎるドヤ顔で慎ましやかな胸を張る。

 

「研究を重ねた結果ね!司令官の好みにどんどん近付いて行っちゃうんだから!お料理も研究中よ!その内お見舞いして上げるから覚悟なさい!」

 

可愛らしい戦線布告が執務室に響き、純粋な気持ちで有り難く、嬉しく思う提督。

この鎮守府に居る艦娘達は皆良い子で、問題どころか率先して手伝いをしようとしてくる。

こう良くして貰ってばかりだと自分も何かしてあげたくなるのが人としての通りだろう。

 

「この雷様が側に居るのよ?どんな事からでも守ってあげるわ!だから司令官は自分の出来る事をすれば良いのよ!ドンと構えて胸を張っていたらいいわ!」

 

その一言はきっと、どんな絶望に居たとしても救い上げてしまう力を持っている。

雷の魅力は、困っている人や苦しんでる人を見過ごさないその姿勢にあると提督は思う。

積極性のある包容力は謂わば気遣いの暴力である。

提督は偶にそんな積極性包容力(ひとをだめにするちから)に負けそうになるも日々踏ん張っているのである。

響の言う"雷を頼らない"のでは無く、ダメにならない様必死なだけ。

提督の安い自尊心(プライド)の問題である。

 

「そうだな。そうするよ。…この建造に関しては多分拒否権のないものだろうし…もう少し気楽に考えるさ」

 

「うん、司令官はそれで良いのよ!司令官が頑張れない事は私達が頑張るわ!それはきっと皆同じ気持ちよ!」

 

心なしか真剣味を帯びている言葉にまた頭を撫でる事で返答する。

 

さて、どうなるかな。

等と頭の中ではぐるぐると同じ事を考えていた。

 

ーーーーーーーーー

 

大本営からの手紙から数日後、鎮守府に二人の護衛が付いた少女がやってきた。

提督は少女から艦娘になる事は自分の意思だという事。

両親からの了承は得ているという事。

そして艦娘になると決めた瞬間の事を聞いた。

 

少女が艦娘になる切っ掛けというのが、なんの因果かこの鎮守府の艦娘に助けられ憧れたからだと少女は言う。

先日護衛していた区間移動の為の船に少女は乗っており、深海棲艦の駆逐イ級二隻、軽巡ホ級一隻に襲われた際、護衛していた暁、雷、電が見事無傷で蹴散らした所を見たのだ。

その時少女は電の肩に妖精を見たという。

 

そして大本営へ連絡、適正診断をした結果、艦娘の魂を宿している事が分かったらしい。

少女は喜んだが、両親の表情は暗い物だった。

 

そして顛末は建造を行わずにいたこの鎮守府にて艦娘へと転生、任務をこなしつつ練度を上げよとの御達しに相成ったという事だ。

 

奇運にも程があると思い、艦娘になる事を一から説明し、決して楽ではなく辛く苦しい事の方が多い事を強く言い聞かせた。

これは優しさではなく、義務である。

艦娘への転生とは一度その人間の生を終える事だと言っても過言ではない。

どう足掻いてもそれは変えられない。

その覚悟を問う。

隣に秘書艦として同席していた電が少し怯える程の口調。

必要な事と分かってはいるものの、少女相手に此処まで厳しい口調で話すのは提督自身胸を痛めた。

 

だが、少女は物怖じせず提督に真っ直ぐ視線を向けて言ったのだ。

 

「私は私に可能性を与えてくれたこの船の心に応える義務があります。人を、お父さんお母さんを守れるなら、戦います」

 

それでもと提督は尚も説得を試みようとするも、電に服の袖を引かれ、其方を見ると静かに首を横に振ったのだ。

それだけで分かったのだ。今、自分は諌められているのだと。

 

提督は観念し、少女の艦娘への転生を受け入れ、日取りを決めて話し合いは終了を告げた。

 

ーーーーーーーーー

 

その深夜。

自室で久々に提督は酒を飲んでいた。

どうにも寝れず、気分が落ち着かず、どうしても苛立ちに似た感情を隠し切れない。

少女の決意や電の行動に対してでは無く、自分の不甲斐なさに対して。

また、何故そう簡単に言えてしまうのだろうかという純粋な疑問。

 

思考が止まる事無く回り、巡り、疑問は解けず堂々巡りを繰り返す。

 

そもそも何故こんなにも少女が艦娘へと転生する事に拒否感を感じるのだろうか。

どの様な理由があってもその答えは尊い物であり、一個人が否定してはいけないものなのではないだろうか。

 

「…このままではままならんな」

 

立ち上がり部屋を出る。

 

向かう先は埠頭の端。

静かに海を眺める時に提督が使う場所だ。

そこは余り人が近寄らず、一人で酒を飲んだりする時に丁度良い。

心が落ち着かない時は頭の中を一度空っぽにしてしまおうと考えたのだ。

 

隠して置いてある御座と座布団を引っ張り出し、持って来た酒を飲みながら海を眺める。

どれだけそうしていただろうか。

 

ふと、背後から気配を感じた時声を掛けられた。

 

「司令官さん。そろそろ戻らないと身体が障るのです」

 

「そうよ!黙って見ていたけど、もう我慢できないわ!」

 

聞き覚えのある声に振り向くと、寝巻き姿の電と雷が立っていた。

 

「…こんな夜更けに出歩くな。明日キツくなるぞ」

 

その言葉に雷は憤慨した様に提督の側に歩み近寄る。

 

「司令官に言われたくないわ!電が宿舎から出て行く司令官を見て心配して此処にきたの!なのに司令官ったら一人でこんな所でお酒飲んで…飲むなら食堂にしなさい!」

 

その勢いに少し気圧され、言葉が出ない提督に更に詰め寄ろうとする雷を電が手を引っ張り静止する。

 

「い、雷ちゃん…司令官さんも色々あるのです」

 

「色々って何よ!」

 

喧嘩になりそうな勢いに漸く慌てて二人の肩を優しく掴んでそれを止める。

 

「わ、悪かった悪かった。柄にも無く悩んでしまっただけだ!二人が心配してくれた事は十分に「分かってない!!」…っ!」

 

言葉を遮られ言葉に詰まる提督を雷は強く睨み付ける。

それから顔を俯かせわなわなと震わせる肩は何かを我慢する様で、電はそれを心配そうに見ていた。

 

「い、雷…?」

 

恐る恐る声を掛けると雷は顔を上げた。

その瞳に一杯の涙を浮かべ、決してそれを零さない様にしようと我慢していた。

その姿にまた言葉が詰り、黙ってしまう。

 

「し、司令官は…頼ってくれない。この前皆を頼ってって言ったのに!相談もしてくれない!苦しい時は苦しいでいいの!!辛い時は辛いで良いの!!」

 

その言葉に優しさを感じつつも自分の気持ちと折り合いが付かず、苦虫を噛み潰したように苦悶な表情が浮かぶ。

一瞬、悲しげな表情が浮かぶが雷は引かず、言葉を投げ付ける。

 

「苦しい時は苦しいでいい!辛い時は辛いで良い!はい!復唱!!」

 

最後の言葉に条件反射で立ち上がり背筋は伸びるが言葉は出ず、それが気に入らなかったのか雷は更に大声を上げる。

 

「復唱!!」

 

「はっ!!苦しい時は苦しいで良い!!辛い時は辛いで良い!!」

 

その声に詰まっていた喉は開き雷に負けない程の声を張り上げる。

 

「一人で悩む位なら皆で悩む!復唱!」

 

「一人で悩む位なら皆で悩む!!」

 

その応答に満足したのか。涙を拭って腕を組む。

後は電に任せるつもりなのか、それからは口を開かなかった。

その頑なな態度に提督は小さな笑いを溢した。

 

「…はは…雷は厳しい(やさしい)なぁ」

 

参ったと言わんばかりに肩を落とした提督に、電は優しい口調で話し掛ける。

 

「電も、言いたい事は雷ちゃんと一緒なのです。…一人で悩んでも大した事は思いつかない、だから一緒に悩んでみようかって。そう教えてくれたのは他でもない司令官さんなのです」

 

「あぁ…そうだな。最初、そんな話したな」

 

「司令官さんはきっと、他の誰より皆が大好きなのです。だから、色々背負ってしまっただけなのです。だから、私達にもその荷物を背負わせて貰えませんか?そしたらきっと、皆で司令官さんも一緒に抱え上げてあげるのです!」

 

屈託のない笑顔に嘘偽りはなく、事実、今自分はこの小さな二人に支えられている。

 

「悪かった。…もう少しだけ頼らせてくれるか。電、雷」

 

その言葉に二人は笑い、勿論!と快諾してみせた。

敵わないと心底から思い、二人に連れられ宿舎へと戻る。

 

「今日は一緒に寝てあげるわ!司令官一人にしたら心配だもの!」

 

「はわわ…い、一緒に寝るのは緊張するのです…」

 

「秘書艦筆頭がそんなのじゃダメよ!いつも寄り添わないと!ね?司令官!」

 

先程とは打って変わり、優しく明るい会話をする二人。

そんな二人に両腕を引かれて自分はきっと恵まれて居るのだろうと考えながら、そのまま引っ張られていく。

きっと、相談しても話し合ったとしても、今の暗い気持ちは拭い去れないだろう。

だけどきっと、間違いではないんだと気付けた。

それはこの二人の功績であり、忘れてはならない事なんだと思わされた。

 

「…いや、まったく…俺には勿体ない位の家族だな」

 

ポツリと溢した言葉に、雷は何を言ってるの!と強く言ってきた。

 

「家族に勿体ないも何もないわ!司令官が私達を大好きな様に、私達だって司令官の事が大好きなんだから!」

 

「なのです!」

 

そんな二人の笑顔は輝いていて、自分の悩みが小さく感じる程で、その夜は三人で仲良く就寝したのだった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

数日後。

とある少女は艦娘へと転生した。

その艦娘の目の前には純白の軍服を着た青年と、この鎮守府に在籍する艦娘が揃い、出迎えていた。

軍服を着た青年が一歩前に立ち、手を差し伸べながら新たな艦娘に声を掛ける。

 

 

「貴艦の着任を心より歓迎する。ようこそ、我が家へ。そして、君の思いが成就する事を心より願う」

 

こうして、この小さな鎮守府で初の建造が成された。

 




雷にお世話されたい。
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