メッフィー(偽)in SAO   作:アーロニーロ

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14話

 クソベルことディアベルの指揮能力は、弁舌だけでなく実務面でもなかなかのものだった。

腹立つことにあの男は、出来上がった7つの六人パーティを検分し、最小限の人数を入れ替えただけでその七つを目的別の部隊へと編成したのだ。壁部隊が二つ。高機動高火力の攻撃部隊が三つ。長物装備の支援部隊が二つ。

壁隊二つはボスのコボルトロードのタゲを交互に受け持つ。火力隊は二つがボス攻撃専門、残りの一つが取り巻き殲滅優先。支援隊は長柄武器に多く設定されている行動遅延スキルをメインに使い、ボスや取り巻きの攻撃を可能な限り阻害する。

シンプルだが、それゆえに破綻しにくい、いい作戦だ。いい作戦を考案したクソベルに少しイラッとしていると、ナイト様は最後の余り物の三人パーティの前にやってきて、しばし考え込む様子を見せてから、中指立てたくなるほど爽やかに言った。

 

「君達は、取り巻きの潰し残しが出ないように、E隊のサポートをお願いしていいかな?」

 

まあ、通常より半分しかいないパーティを見れば妥当な判断だな。隣にいるアスナが何か言い出しそうな予感がした為、キリトに止めさせて、ニヤリと笑いながら答えた。

 

「ええ、わかりました。重要な役目ですねぇ、任せておいて下さいねぇ」

 

「あ…ああ、頼んだよ」

 

第一回の元βテスター皆殺し発言をした俺が受け答えたからか、少し顔をこわばらせながら吃った様に答えた。いや、今吃ったのは案外あの時の発言が理由じゃないのかな?そう考えている間にナイト様は噴水のほうに戻っていった。すると、すぐ後ろから剣呑な響きを孕んだ声が聞こえた。

 

「……何処が重要な役目よ。ボスに一度も攻撃出来ずに終わっちゃうじゃない」

 

「し、仕方ないだろ、三人しかいないんだから」

 

「ええ、それではスイッチやPOTローテするにも時間が足りないかもしれませんしねぇ」

 

「……スイッチ?ポット?」

 

………ああ、そういえばそこまで教えてなかったなぁ。

 

「キリトサァン、仲良いのでしょう?後の説明頼みますよぉ〜」

 

「仲良いかどうかはわからんが、ああ、わかってる。後で、全部詳しく説明する。この場で立ち話じゃとても終わらないからな」

 

キリトがアスナにそう言うと、数秒間だけ沈黙した後、極微細な動きで頷いた。

 

二回目のボス攻略会議の内容をまとめるとAからGまでナンバリングされた各部隊リーダーの挨拶とボス戦でドロップしたコルやアイテムの分配方針についての確認で終了した。俺たち余り物トリオはキバオウの手伝いということになった。これを知った時クソベルに再度中指を立てたくなった。

ドロップ分配のほうは、コルに関してはレイドを構成する四十五人で自動均等割り、アイテムはゲットした人のものという単純なルールが採択された。普段のMMOではサイコロ転がしで取り合うのが一般的なのに対してSAOはこの辺りは前時代的で、アイテムはいきなり誰かのストレージにドロップし、しかもそれを他人が知ることはできないらしい。仮にボスの出したアイテムは改めてダイスロールというルールを設定した場合だと自己申告しなければならない。申告しなければギスギスした空気で解散することも少なくない。恐らく、それを避ける為にドロップした人の物といったルールにしたのだろう。

…………腹立つが気の利くナイト様だなぁ、おい。

それはさて置き、

 

「後の説明は任せましたよ、キリトサァン。ではワタクシはこれにて」

 

そう言いながらサッサと帰ろうとすると

 

「待て、メフィスト。明日の攻略の為にも話し合う必要があるから今日は残れ」

 

ど正論を言って俺を引き止めてきた。まあ、確かに明日第一層の攻略をやる訳だし話し合う必要あるわな。そう考えていると、

 

「………で?説明って、何処でするの?」

 

後ろからアスナに声を掛けられた。って、そうだった。

 

「キリトサァン」

 

「あ、ああ……俺はどこでもいいけど、その辺の酒場にするか?」

 

「嫌。誰かに見られたくない」

 

それは俺達と一緒にいるところを?それとも男プレイヤー全般と一緒にいるのを?

 

「ならば、どこかのNPCハウスはどうでしょう」

 

「いや、それじゃあ誰か入ってくる。でも、どっちかの宿屋の個室なら鍵がかかるけど、それもナシだよなぁ」

 

「当たり前だわ」

 

ええ、面倒くさっ。いいじゃん別に女子かお前は。女子だったよ。つーか、見られるのが嫌っていうけど今更じゃん俺達が一緒に行動するのを見られてんの。アスナの発言にイラッとしていると。アスナがため息混じりに続けた。

 

「だいたい、この世界の宿屋の個室なんて、部屋とも呼べないのばっかりじゃない。六畳もない一間にベッドとテーブルがあるだけで、それで一晩五十コルも取るなんて。食事とかはどうでもいいけど、睡眠は本物なんだから、もう少しいい部屋で寝たいわ」

 

「え・・・・?」

 

「ハイィ??」

 

え?どゆこと?俺、アルゴと同棲してるけど結構広いし風呂までついてるぞ?

 

「探せばいいとこあるだろ」

 

「ええ、確かに。まぁ、多少は値は張りますがねぇ」

 

「探すっていっても、この町に宿屋は三軒しかないじゃない。どこも部屋は同じようなものだったわ」

 

ああ、なるほどそういうことね。話を聞いてようやく得心がゆく。

 

「アスナサァン、アナタ【INN】と書かれた看板の出てる店しかチェックしていないでしょう」

 

「だってINNって宿屋って意味でしょう?」

 

「ええですが、この世界の低層フロアでは最安値でとりあえず寝泊まりできる店って意味なんですよぉ。コルを払って借りれる部屋は宿屋以外でも結構ありますよ」

 

そう言った途端、アスナの口がぽかんと丸くなった。うむ、面白い。

 

「な…そ、それを早く言いなさいよ…」

 

いやぁ、驚いた顔初めて見たなぁ。高飛車な奴だったから見れないもんかと思ってたよ。隣を見るとキリトかニヤリと笑いながら自らの部屋自慢を始めた。

 

「俺が借りてるのは、農家の二階で一晩八十コルだけど、二部屋着ってミルク飲み放題のおまけ付き。ベッドもデカいし眺めもいいしんだ」

 

「おや、それは羨ましいですねぇ。ワタクシが借りてる部屋にはミルクの飲み放題はありませんから。ああ、でも風呂はありますねぇ」

 

「ふふ、俺の部屋にもついてるぜ」

 

調子に乗っているのかいつになく流暢に話しているキリトと部屋の自慢をしあっていると。神速で伸びたアスナの右手がキリトの灰色コートの襟元を左手で俺の紫色コートの襟元を犯罪防止コードすれすれの勢いでがっしりと掴んでいた。続いて低く掠れた声が迫力たっぷりと響いた。

 

「・・・・・なんですって?」

 

 


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