メッフィー(偽)in SAO   作:アーロニーロ

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17話です。


17話

 十二月四日、日曜日、午前十時。

このデスゲームが始まったのが十一月、六日、日曜日、午後一時なので、あと三時間でピッタリ四週間が経過することになる。

正直言って、これ程時間が経っても、一層もクリアできてないことは、茅場も想定外だったのではないのだろうか。

しかし今日の攻略戦の結果次第では、解放までの時間を云々するどころではない状況に叩き落とされる。万が一、今回の攻略で全滅か半壊しようものなら、噂が一瞬で広まり≪SAOは攻略不可能≫という諦念が全プレイヤーに襲いかかるだろう。

一応、今回集まった面子で死人をゼロにするのは難しいことではない。勿論、全員が最後まで冷静であることが条件だが。

ふと、隣に立つプレイヤーを見ると視線に気づいたのかギロリと睨み返してきた。

 

「………何見てるの」

 

かすかだが、しかし迫力のある囁き声が聞こえる。隣にいるもう一人の相方はプルプル首を横に振っている。アスナが朝から不機嫌な理由を追及すると、相方と俺が腐った牛乳を樽一個分飲ませられることが確定している。だが、しかし、

 

「おやおや、アスナサン朝っぱらから不機嫌そうですねぇ。何かありましたか?」

 

あえて、話題に出した。アスナはさらに不機嫌そうな顔をして、キリトは

 

「ちょ、お前。なにしてくれてんの?腐った牛乳を樽一個だぞ?流石に死ぬぞ」

 

「自らの愉悦に命を賭けない人生に何の意味も無いとは思わないませんかねぇ。キリトサァン」

 

そう言うと、キリトは「マジかコイツ」とでも言いたげな顔をしながらこちらを見てきた。すると、

 

「おい」

 

後ろから、友好的とは言い難い声が聞こえ、俺達は振り向いた。

立っていたのは、ついこの間言葉の暴力で一方的にボコボコにしてまった、人型サボテンことキバオウだった。

話しかけられることを予想していなかった為、少し驚いていると、やや低い位置から剣呑極まる目つきで舐め付けてたキバオウは、いっそう低い声で言った。

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、ワイのパーティのサポ役なんやからな」

 

「ええ、勿論分かっていますとも。仲良くやらないとパーティが、バラバラになってしまうかもしれませんからねぇ。このタイミングで友好的でない程、ワタクシは馬鹿ではありませんよ」

 

つい、この昨日キリトに四万コルという大金での買い取りをあっさり断られ、しかも代理人を立ててまで隠していた男の態度とは思えず、だいぶ皮肉を込めて返すと顔を少し強張らせながら憎々しげにもう一段階突き出し、吐き捨てる。

 

「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コバルトの相手だけしとれや」

 

「ハハ、そうさせて頂きましょう」

 

特に応えた様子を見せない俺を見て、忌々しそうに仮想の唾を地面に叩きつけて、のしのしと仲間の方へ戻っていった。

はー、面倒くさ。そんなにかまって欲しいのかなぁ。でも、ちょっと妙だなあ。

 

「メフィスト、受け応えてくれてありがとう。でも、なんなの、あれ」

 

「さ、さあ……。ソロプレイヤーは調子に乗んなってことなのかな?」

 

≪ジブンら≫の片割れ達であるアスナとキリトが互いにキバオウに関しての感想を言い合う。アスナの方は先程よりも三割増して不機嫌だ。

それはそうと、

 

「キリトサァン、妙だと思いません?」

 

「な、なにがだ?」

 

「四万コルも持っているのに、何故、装備品に何の変化もないのでしょうか?」

 

そう言うと、キリトはハッとした顔でキバオウのほうを見やる。いやぁ、本当に疑問だ。いったい、何がしたいんだ?アイツ。

そんなことを考えていると、 

 

「みんな、いきなりだけどありがとう!たった今、全パーティーが一人も欠かずに集まった!」

 

ディアベルがそう言うと、うおおっという歓声が広場を揺らす。次いで、滝のような拍手。周りの喧しさに流石に思考を止めさせられた。

一同を見渡してから、騎士はぐっと右拳を突き出して、叫んだ。

 

「オレ、実は一人でも欠けたら今日の作戦は中止しようって思ってた!でも、そんな心配、みんなへの侮辱だったな!まあ、人数は上限に少し足りて無いけどさ!」

 

笑うもの、口笛を鳴らす者、右手を突き出す者。うーん、少し盛り上げすぎては?緊張しすぎはダメだけど楽観しすぎも油断を生む。過去に各下相手に死にかけた俺がいうのだから間違いない。

皆がひとしきり喚いたところで、ディアベルが両手をあげて歓声を抑えた。

 

「みんな、オレから言えることはたった一つだ!」

 

右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を引き抜き、

 

「勝とうぜ!!」

 

沸き起こった巨大な鬨の声は、デスゲームが始まった時に聞いた一万人のプレイヤーの絶叫に少し似ていた。

 

 

あれだけ大口叩いておいて討ち漏らしが多いなあ!おい!ボス部屋に到着して攻略が始まって思ったことがこれだ。悪意を感じるディアベルの指示通りに分断してキバオウのもとで戦うことになった俺達は、即席とは思えない程の精度で連携を繰り返していく。ボスの取り巻きのモンスターは雑魚と呼ばれていたが、純粋な強さではいままで戦ってきた中で一番強く、弱点が喉元にしか存在しない為、一番面倒くさい相手だったが。互いに迎撃と決定打を与える。これをローテーションで繰り返すことで問題なく倒していく。あ、今アスナが二体目を倒した。いやぁ、アスナがいてよかったぁ。今んとこ一番活躍してる気がするもん。え?キバオウ?知らない子ですね。だって、仕方ないじゃん。討ち漏らしがマジで多いんだよ!ぶっちゃけ、三人だけの俺達のほうが活躍してるのって色々とおかしいからね?これで文句言おうもんなら、本気で切れるよ?俺。

 

「アテが外れたやろ。ええ気味や」

 

「なんだって?」

 

三ターン目に湧いたセンチネル三匹をキリトと俺の連携で倒した後、キバオウの声がひそっと響いた。………おい、本気でいい加減にしろよ。

確かに、今俺達が倒したことで次の湧きまでなら会話する隙もあるんだろうけど、今攻略中だからね?

そう思っていると、キリトを舐めつけながら、ややボリュームを上げて吐き捨てた。

 

「下手の芝居すなや、こっちはもう知っとんのや、ジブンがこの攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅうやつをな」

 

「何を言ってんだ。ボスを倒す以外に、何があるって言うんだ?」

 

「何や、開き直りかい。まさにそれを狙う取ったんやろうが!」

 

ん?なんだこれ?なんか、話が全然噛み合って無いぞ。

 

「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくっとったことをな!」

 

「な………」

 

は?キリトが?あの殺されかけた相手も助けようとするあのキリトが?いや無い、断言できる。このお人好しがそうゆう打算ありありの様なマネ出来るはずがない。それに、何でコイツはキリトが元βテスターだと知ってるんだ?

 

あ、まさか、そういうことか。確かにそれなら装備品を新調できないわな。いやぁ、まさかキバオウも代理人とはねぇ。だから、平然とキリトに話しかけられたのか。

真の依頼人は他にいる。金の出所はそいつだ。

 

その黒幕は、キバオウにテスター時代の情報を与えて、元テスターへの敵意を煽って操った。単細胞なコイツのことだ、操るのは容易かっただろうなぁ。となると、黒幕の目的は自身の攻撃力の上昇じゃなくて、キリトの戦力を削ぐことか。アルゴ曰くβ時代のキリトは強かったらしいし、弱体化目的だとすれば納得がいく。

 

「キバオウサァン、アナタにその情報を渡した人はどうやってβ時代の情報を入手したと言ってましたかぁ?」

 

「決まっとるやろ。ハイエナを割り出す為に、えろう大金積んで、≪鼠≫からネタを買ったっちゅうとったわ」

 

「ハァイ、ダウト。あり得ませんねぇ。以前、≪鼠≫に十万程積んで元βテスターの情報を買おうとしたのですがぁ、ワタクシ普通に断られてしまいましたよぉ?」

 

そう言うとキバオウは目を見開きながら驚いていた。

何か言おうとしたのかキバオウが口を開くと同時に、前線のほうで、あおおっしゃ!というような歓声が弾けた。ボスの長大な四段HPゲージが最後の一本に突入した。

そちらを見ると、ポールウェポン部隊のF隊とG隊が後退して、代わりに全回復したC隊がボスに向かって突進していくところだった。

 

「ウグルゥオオオオオオ!!」

 

ボスモンスターである≪インファング・ザ・コボルトロード≫が、ひときわ猛々しい雄叫びを放つ。同時に、壁の穴から最後の取り巻き三匹が飛び出してくる。

 

「ま、まあ、ええ。雑魚コボ、もう一匹くれたるわ。あんじょうLA取りや」

 

少し、戸惑いを含めた声でそう告げると、キバオウは仲間の元へと走っていった。何者が黒幕なのか考えながら、二人でアスナの元へと向かう。

 

「何を話してたの?」

 

小声で聞いてくるが今は構ってる暇がない。

 

「いえいえ、特に何も。ねぇ?」

 

「ああ、まずは敵を倒そう」

 

「ええ」

 

こちらに突っ込んでくるセンチネル一匹に意識を向けながら、もう一方向に意識を向けると、ちょうどコボルト王が、持っていた盾と骨斧を同時に捨てるところだった。そして、凶悪なまでに長いタルワールを抜…く……。いや待て、あれタルワールか?どっちかって言うあれは、

 

「来るよ!」

 

アスナの鋭い声に一瞬の思考から脱した。センチネルが振り下ろしたハルバードの側面を叩き、パリィして、

 

「ハァイ、スイッチ!」

 

叫び、飛び退くと、アスナが代わりに前に出た。恐らく黒幕はLAを取りに行くだろうなぁ。そう思いながらボスの方へと目を向けると、ボスの無敵モーションが終了して、再度戦闘が行われるところだった。

そして、それと同時に青髪の騎士が動いた。

 

「下がれ、俺が出る!」

 

武器を持ち替えたコボルト王の正面にディアベルが躍り出る。

は?黒幕ってディアベル?嘘でしょ?何の為に?

そう思っているとすぐ近くから引き攣れた様な声が聞こえた。

 

「あ………ああ……!だ、ためだ、下がれ!!全力で後ろに跳べ!!」

 

しかし、遅かった。瞬間、ボスは床を揺らしながら垂直に跳んだ。空中で体を捻り、武器に威力を溜める。落下すると同時に、蓄積されたパワーが、深紅の輝きを持った竜巻の如く三百六十度全てを吹き飛ばした。

C隊の恐らく全てのプレイヤー達が一気に五割を下回ったると同時に床に倒れ込んだ六人の頭を、回転する朧げな黄色い光が取り巻いている。あれは確か、スタン状態か?

前線のほうで、両手斧使いのエギルと以下の数名が援護に動こうとするが間に合わなかった。

 

「ウグルオッ!!」

 

獣人が吠え、両手に握った野太刀を床スレスレの軌道から高く斬り上げた。狙われたのは、正面に倒れるディアベルだった。薄赤い光の円弧に引っ掛けられたかの様に体が高く宙を舞う。HPはそこまで減らなかったが、コボルト王の動きは止まらない。ニヤリと獰猛に笑うのと同時に目にも止まらぬ上、下の連撃を放ち、一拍溜めての突き。計三連撃技を放った。聞き慣れた音からしてクリティカルらしい。ディアベルがレイドメンバーの頭を越えて、俺達のすぐ近くに落下してきた。HPが面白い様に減っていき真っ赤に染まっていく。正面に迫ったセンチネルを俺が倒した後、キリトがディアベルに向き直る。

予想通り、ディアベルは元βテスターだった。恐らく、先頭に立つ騎士としてレア装備を欲しのだろう。そして、結果はこの様。

蒼い双眸が一瞬歪み、しかし、直ぐに、純粋な光を宿した。唇が震えて、そして、

 

「————」

 

恐らく、キリトにしか聞こえない程の大きさの声で何か言った後、ディアベルのアバターは四散した。

 

 




思った以上に長くなりました。

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