メッフィー(偽)in SAO   作:アーロニーロ

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20話です。


20話

 あの後、スキップしながら歩みを進めて玉座の後ろに設けられた、第二層へと繋がる扉を押し開けた。

気分良く狭い螺旋階段を登ると、再び扉が出現した。

そっと開けると、いきなり途轍もない絶景が眼に飛び込んだ。

 

「いやはや、やはりこの世界は素晴らしい」

 

扉の出口は急角度の断崖の中腹に設けられていた。狭いテラス状の下り階段が岩肌に沿って左に伸びているが、俺はまだ第二層の光景を眺めていた。

様々な地形が複合した第一層と異なり、二層はテーブル状の岩山が端から端まで連なっている。山の上部は緑の草に覆われていて、そこを大型の牛型モンスターが闊歩していた。

第二層の主街区は、眼下のテーブルマウンテンを丸ごとくり抜いたような街だ。因みに俺のカーソルはオレンジな為、街には入れない。

しばらく目の前に広がる絶景を眺めていると、

 

「やはり、アナタが来ましたかぁ。キリトサン」

 

「まあな、それにしてもえらく上機嫌だな、メフィスト」

 

「ヒヒ、当たり前でしょう、あんなことがあったんですから」

 

振り向くとキリトが立っていた。その表情は怒りも悲しみも何も刻まれてはいなくて、ただ、いつも通りの表情だった。

 

「なんだって、あんなことしたんだ?」

 

「おや?わからないのですか?自らの愉悦の為ですよぉ」

 

「その果てに恨まれて殺されたとしてもか?」

 

「以前も言いましたが、自らの悦楽の為に命をかけない人生に何の意味もないとは思いませんかぁ?」

 

そう言うと、キリトは呆れたように笑っていた。

 

「アスナとエギルから伝言だ。『恐れてごめん』だそうだ」

 

「ワタクシ、エギルサンからそう言われるのは嬉しいですが、アスナサンは嫌いなので余り嬉しくないですねぇ」

 

「なんでだ?」

 

「あの、諦めを享受した目が気に入らなかった、ただそれだけですよ」

 

「でも、最後の目は違ったろ?」

 

「……ええ、少しはマシになりましたねぇ。あの調子でしたら、ルックスも相まって惚れそうなのですが」

 

すると、今度は苦笑いをしていた。キリトの奴、今日は妙によく喋るし、表情を変えるなぁ。なんかあったのかなぁ?

 

「メフィスト」

 

「ハァイ、なんでしょう」

 

「やっぱり、俺はお前が嫌いだよ」

 

「そんなこと、あの日アナタの目の前で名を忘れてしまった青年を殺した時から知っていましたよ」

 

二度目の生を受けてから俺はずっと死んでいた。選択権を他人に握らせて、判断も出来ず、生きているか死んでいるのかもわからない状態だった。恐らく、このゲームを始めたことがきっかけなのだろう。ゲームのせいにするのはあれだが、あれがきっかけで俺は名も知らない青年を見殺しにすることできっかけを深めて、ボス部屋の出来事を引き起こした。そこで、初めて俺はこの第二の生で産声を挙げることが出来た。

後悔なんて一切していない。だから、同情は侮辱にしかならない。そう言おうとすると、

 

「一応言っとくが、お前の行動が俺たちを助ける為にやったなんて一つも考えちゃいないさ」

 

「では、何故声をかけたのです?」

 

「不服にもお前に助けられて貸しが一つできたからな。一度だけお前のことを助けてやろうと思ってな」

 

「—————————」

 

は?今なんて言った?助ける?俺を?人殺しの俺を?キリトの言葉を聞き、意味を理解した瞬間、噴き出した。

 

「プッ、アハハハハハハ!ワタクシをw助けるwそうおっしゃいましたか?」

 

「ああ、そう言った。笑われると思ってたが本当に笑われると腹が立つな」

 

これが笑わずにいられるか。ディアベルが主人公に見えていた俺の目が節穴だった。今のキリトの一挙一動全てが主人公のそれじゃないか。

 

「ええ、ええ、確かに言質は取りましたよ、キリトサン。それでは、フレンド交換といたしましょう」

 

「ああ、わかってる」

 

そう言うと互いにフレンドを交換した。いやぁ、主人公は本当に面白い。

 

「では、これにて。ワタクシのカーソルはオレンジなので街には入れません。ですから、次会った時、街の感想を聞かせて下さい」

 

「せいぜい、羨ましがってろよ。メフィスト」

 

そう言うとキリトはその場で座り込んだ。キリトはもう少しだけこの景色を眺めていくつもりらしい。

 

「では、また会いましょう」

 

「ああ、またな」

 

互いに別れを告げて、キリトは景色を眺め、俺は体の向きを変えて階段を降りる為に前へと進んだ。

さらに、上機嫌になった俺は踊りながら階段を降りていると、何度目かの踊り場に到達した時、視界の右側に、小さな手紙のアイコンが点滅した。同じ層にいなくても届くフレンドメッセージだ。そして、フレンド登録しているプレイヤーは二人しかいない。一人はキリト、もう一人はアルゴだ。

どちらが送ってきたのか確認する為、メッセージを開くと後者だとわかった。

 

【とんでもないことしたナ。メッフィー】

 

という書き出しに、思わず笑みが溢れる。続きを読むとこう書いてあった。

 

【そんな気はないのは知ってるガ、迷惑をかけた詫びになんでも一つだけタダで情報を売るヨ】

 

—————ほう。

思わず踊るのをやめて笑みを深めながら、ホロキーボードを出し、素早く返事を打った。

 

【おヒゲの理由を口頭で教えてくださいな】

 

そして送信ボタンを押し、今度はクツクツと声を出しながら笑うと、辿り着いた第二層の大地を踏み締めた。

 

 

探索中に出くわしたモンスターの強さとタフさに驚きながらも問題なく倒していくと、気がつけばウルバスの西側にいた。

しかし、参った。アイテムとかどうしよう。街には入れないし、無理に入ろうもんなら、確かガーディアン?ってのに襲われるらしいし、などと今後の身の振りかたに頭を悩ませていると。見慣れた姿が見たことのない連中に追いかけまわされていた。って、大丈夫か?アルゴの奴、今一人だけど、ここのモンスター達結構強いしタゲられると面倒くさいよ?

そう思っていると追いつかれたアルゴが声を荒げる。

 

「何度も言ってるダロ!この情報だけは、幾ら積まれても売らないんダ!」

 

おー、何だろ。久々に聞いた感じがする。ていうか珍しいな、あいつが情報を売りたくないなんて。つーか、本当に苛立ってんな。そう考えていると、続けて聞こえた声も刺々しい声だった。

 

「情報を独占する気はない。しかし公開するつもりもない。それでは、値段の吊り上げを狙っているとしか思えないでござるよ!」

 

語尾に疑問を抱きながらも相手の言い分も正しいものだと思った。それと同時に俺は壁を登り始めた。え?何でこんなことしてるのかって?まあ、ふざけてる訳じゃなくて理由はちゃんとあるんだけどね。九メートル程登ったところに狭い平面があり、その上をバランスをとりながら進んだ。やり合う声の発生源は、ほぼ真下である。

 

「値段の問題じゃないヨ!オイラは情報を売った挙げ句に恨まれるのはゴメンだって言ってるンダ!」

 

その台詞に対して、二人目の男の声が言い返す。

 

「なぜ拙者たちが貴様を恨むのだ⁉︎言い値で払うし感謝もすると言ったでござる‼︎この層に隠された《エクストラスキル》獲得クエストの情報を売ってくれればな‼︎」

 

…………マジっすか。

 

俺は気配を消しながら驚いた。エクストラスキルとは、言ってしまえば特殊な条件が無ければ会得できない隠しスキルのようなものだ。ああ、なるほどね、それは欲しがるはずだわ。でも、恨まれるってどういうことだ?そう考えていると、男たちの声がいっそう大きくなった。

 

「今日という今日は、絶対に引き下がらないでござる!」

 

「あのエクストラスキルは、拙者たちが完成するのに絶対必要なのでござる!」

 

「わっかんない奴らだナー!何と言われようとあれの情報は売らないでゴザ……じゃない、売らないんダヨ‼︎」

 

頑なだなぁ、どんだけ会得が難しいの?そう考えていると空気の流れが嫌な意味で変わった。それと同時に岩棚から飛び降りた。狙いは外さず、アルゴと男たちの間に二人同時に着地した。

ん?二人?

隣を見てみるとそこにはキリトが立っていた。アルゴの話を聞くのに集中していた為か気づかなかった。お互いに顔を見合わせて驚いていると。

 

「何者でござる⁉︎」

 

「他藩の透波か⁉︎」

 

同時に叫ぶござる口調の格好を見た時、予想通りの格好をしていると思った。男たちの見た目は創作工夫で再現したのか《忍者》に似ていた。

すると、隣からキリトが何か考えながら話しかけた。

 

「えーっと、あんたら確か、フード、じゃなくてフーガでもなくて…」

 

「風魔では?」

 

「その通りでござる‼︎」

 

「ギルド《風魔忍軍》のコタローとイスケとは拙者たちのことでござる‼︎」

 

「そう!それだ!」

 

《風魔忍軍》?初めて聞くな。つーか、赤髪じゃないのにコタロー名乗るな。ぶっ殺すぞ。物騒なことを考えながらアルゴを下がらせていると、調子に乗ったのか、キリトが背中の片手剣に指を走らせながら言った。

 

「公儀の隠密としては、風魔忍者の悪行は見過ごせないな」

 

途端、ニセ忍頭巾の下で、二人の両眼が揃ってびかーんと光った。

 

「「おのれ、きさま伊賀者かッ‼︎」」

 

「は⁉︎」

 

どうやら、キリトが調子に乗ってほざいたセリフは、彼らの重要なスイッチを押したらしい。腹が立つ程完璧に同期した動きで、二人の右手がじりじりと背中の小型のシミターへと伸びる。

 

「おやおやおや、敵対ですか?ワタクシ、平和主義なのですがねぇ」

 

シミター使いは俺に喧嘩売らないと死ぬ病でも患うのか。そう思いながらボス戦で手に入れた、禍々しいダガーを手に取り相対しようとした。

しかし、事態の解決は、思わぬ方向からもたらされた。先程、俺が岩壁を登った理由は必要ない戦闘を避ける為だ。もし、一箇所でぼーっと立ち止まっていれば、いつか必ず起きることがある。

キリトと俺は一歩下がりながら言った。

 

「「後ろ」」

 

「「その手は喰わないでござる‼︎」」

 

「何の手でもないよ、後ろを見ろって」

 

「ええ、その通りですよぉ〜。人の忠告は受け取っとくものですよぉ」

 

俺たちの声に含まれた何が、疑り深い忍者達を動かしたらしい。そろって顔を背後に向けると、軽く飛び上がった。なぜなら、目と鼻の先に、いつの間にか《トランブリングオックス》という肩までの大きさが二メートル以上に達するモンスターが屹立していたからだ。

このモンスターは二度三度戦ったが、タフな上に攻撃力も高いこともさることながら、一度タゲられたらひたすら追いかけ回されるという面倒くさいモンスターなのだ。

 

「ブモォォォォッ‼︎」

 

牛が吠えて、

 

「「ご、ござるうううう‼︎」」

 

忍者達の悲鳴がそれに続いた。直後、牛と忍者のレースが開始した。五秒ほどで地響きと悲鳴が地平線の彼方に消えてった。

あー、面倒くさかった。ていうか、流石に武器以外の装備品を変えたいなぁ、どうしよう。

そんなことを考えていると先程とは比べものにならない予想外の事象が発生した。

背後から伸びてきた小さな見慣れた二つの手が、俺の体をギュッと包み込んだのだ。背中に温かく柔らかい触覚が生まれて、微かな囁き声が聴覚を揺らした。

 

「………カッコつけすぎだヨ、メッフィー」

 

その声は、今まで大人しく沈黙したアルゴのものだった。しかし、含まれる音成分が普段と違った。

 

「そんなことされると、オネーサン、情報屋のオキテ第一条を破りそうになっちゃうじゃないカ」

 

は?オネーサン?情報屋のオキテ?

いや待て、そんなの気にしてる暇はないぞ俺。今世も前世も童貞な俺にこのシュチュエーションは刺激が強すぎる!身も心もキャスターな俺には相性が悪すぎる!不服だが、目線でキリトに助けを求めるが顔を赤くしながら口元を手で覆っている。

ダメだ役に立たない。つーか、なんだその反応は乙女か貴様は。

必死に考えながら、浮かんだ言葉を口にした。

 

「ヒ、ヒヒ、アナタには、一つ貸しがありますからねぇ。おヒゲの理由を聞くまでは、どうにかなっては困りますからねぇ」

 

アルゴの顔には左右のほっぺたに三本ずつ、くっきりと黒いヒゲのフェイスペイントが施されている。それが、鼠というあだ名の由来なのだが、ペイントの理由は誰にもわからない。その情報は二十万コルという値段が付けられているからだ。

先のボス戦が終わりこのフロアへ向かう途中に得た《情報をなんでも一つ無料で売る》というメッセージが届いたので《ヒゲの理由を教えてくれ》と送った。

状況を冗談で紛らすための俺の台詞だったが、それを聞いたアルゴはいっそう強く顔を俺の背中に押しつけ、囁いた。

 

「………いいヨ、教えてあげル。でもちょっと待って、ペイントを取るカラ………」

 

へ?ペイントつまりあのヒゲを取る?そこには何か深慮すべき何かがあるのでは?瞬間的に精神的負荷が危機的に上昇した俺は、アルゴの体が離れる前に言った。

 

「アルゴサァン、やはり変更でお願いします!先程話していたエクストラスキルについて教えて下さいな」

 

俺の背中から離れ、前に回り込んだアルゴの顔には、左右三本ずつのおヒゲが残っていた。離れる直前に、めっふぃーの、いくじなし、という声が聞こえたのは気のせいだろう。




長かった……
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