すっかりいつものふてぶてしい表情に戻った《鼠》は、腕を組みながら言った。
「何でも教えるって言ったからには、約束は守るヨ。でも、約束シロ。どんな結果になっても、オイラを恨まない、ってナ!」
「先ほどの忍者の方々との会話を聞いて思っていましたが、普段のアナタならば情報料の値上げを行うために粘ることはあれど、情報提供を渋ることは随分と珍しいですねぇ。何か理由がおありで?」
俺の問いに、鼠はいつも通りのふてぶてしい笑みを見せる。
「そっちの情報は有料だヨ、メッフィー」
だよなぁ、仕方ない。ボス戦で得た情報を交換材料にしてみるか。
「アルゴサァン、実はワタクシ、ボス戦にて面白いものを手に入れたのですよぉ〜。アナタが提示する情報とワタクシの情報とで交換しませんかねぇ」
そう言うと、先ほどとは一転。口元に笑みを残したまま、目が真剣味を帯びた。
「へぇ、面白そうダナ。内容次第じゃあ教えてやるヨ」
「ええ、そうしましょうか。さて、キリトサァンすみませんが少しの間、二人きりで話したいことがあるので移動してもらっても?」
「ああ、わかった。だけど、出来るだけ手短にしたほうがいいぞ。同じところに止まっているとモンスターにタゲられるからな」
そう言うと、キリトは声の届かない場所まで移動した。なんていうか素直だなぁ。さてと、
「では、アルゴサァン。ワタクシがボス戦で得た情報とはこれです」
そう言うと、俺は懐から禍々しいダガーを取り出した。
「なんダそれ?スゲー禍々しいナ」
「ええ、ワタクシをそう思いましたとも、因みにこの武器の総合値は今ワタクシが保有しているアニールダガーよりも上ですよぉ」
「そりゃすごいナ!で、この武器の出所ハ?」
「これは、ワタクシがボス戦にて手に入れた武器です」
アルゴは少し眉間にシワを寄せながら拍子抜けしたように言った。
「つまりお前が言いたいことは、ボスのLAが変化してるってことカ?だったら、それはあまり交換材料としては不十分だゾ」
「ええ、確かにその通りだ。しかし、これはボス戦のLAで手に入れた武器ではありません」
その言葉とともにアルゴは目を見開いた。その反応を見ながら俺は言葉を続ける。
「何故そう言い切れるのかという問いに関しては既にキリトサンがLAをとっていますからねぇ。確認したければ聞きに行ってくださいな」
少し、考えるような素振りを見せた後、アルゴはキリトに向けて確認するためなのかメールを送った。少ししてから帰ってきたメールに目を通すと俺に向き直った。
「驚いたナ。本当だったとは」
「信じてなかったとは酷いデスねぇ」
「当たり前ダロ。じゃあ、それはなんなんだヨ」
「ワタクシの予想ですが、このデスゲームにはMVPが存在するのではないかと思っているのですよ」
すると、アルゴは首を傾げながら疑問を含めながら尋ねてきた。
「MVP?どういうことダ?」
「単純に言ってしまえば、ボスの討伐の途中までに最も働いたもの又はボスに最も喰らい付いたものに特別なアイテムを渡す、と言ったものだと思うんですよぉ。まあ、詳しい内容は省きますがワタクシ今回のボス戦でボス相手に単騎で何分も前線を維持し続けたのですがぁ、最後の最後でキリトサンにLAをとられてしまったのです。ワタクシ、そのことに少しショックを受けているといきなり目の前に《congratulation》という文字が現れたと同時にストレージにこのダガーが入っていたのです」
「なるほどナ、だからMVPカ。確かにこの情報はとても有益ダナ。うし、じゃあ約束通りオレっちも教えるヨ」
おお、理解が早いなぁ。いや、ここまで言えば理解できるのか?何にせよ情報交換できて安心したわ。
「一応言っておきますが。嘘偽りはやめてくださいねぇ」
「んなことするカヨ」
「ヒヒ、一応ですよぉ、い・ち・お・う」
「その言い方やめろとけヨ、イラッとするからナ。じゃあ、教えるゾ。
クエストで得られるエクストラスキルの名前は《体術》っていうんだけどナ。オレっちがこのクエを教えない訳はナ、習得条件がクソ難しいからなんダ」
「ハイ?」
え?それだけ?難しいからってだけ?《体術》ってことは武器なしでもソードスキルを発動できるってことだよな。だったら、多少難しくても問題ないんじゃないか。
「多少難しくても問題ないって思ってるダロ」
「ええ、それほど有益ですからねぇ。《体術》というスキルは」
「確かに有益ダナ。だけど習得条件はナ、《破壊不能オブジェクト一歩手前》くらいの強度の岩を素手で割ることダ。しかも、逃げられないよう顔に筆で落書きされるおまけ付き」
……今、なんつった?《破壊不能オブジェクト一歩手前》程の強度を持つ岩を素手で破壊する?顔に落書きされる?いや、なんて言うか
「なるほど、無理ゲーですねぇ。アナタが教えたくないと思うのも納得できる。そのお顔のペイントはその時のもので?」
「お見事!エクセレントな推理だヨ!いやー、得したナ、メッフィー!結果として《おヒゲの理由》と《エクストラスキル》の情報を両方ゲットしたんだからナ!」
「それはワタクシも嬉しいことですが、割るのにどれくらいかかると思いマスゥ?」
「うーん、メッフィーのステータスやレベルを考えたとしても二日はかかるナ」
うわぁ、面倒臭っ!なんか、釣り合ってるのか疑問に思うなそのクエスト。まあ、それはさておき。
「アルゴサァン、ひとつだけ質問ですが、よろしいですか?」
「ん?内容によるナ」
「何故、ワタクシとこうして顔を合わせるような行動をとったので?」
メールをもらった時にも思ったことだが、アルゴが殺人を犯した俺につるむことは百害はあれども一利もない。この光景を見られただけでも変な勘違いでもされた日には商売の妨げにもなる。だからこそ疑問に思う。義理やけじめなど生真面目なところはあるが、基本的に損得で動くアルゴがなんだってこんな真似をしてるのか。
「お答えできませんか?」
「……まぁ、確かにそうだナ。お前と行動すれば情報交換の妨げになるナ」
「まさかとは思いますが。あのボス部屋での行動がアナタのためにやったとは思っていませんよねぇ」
「当たり前ダロ、お前の性格はこの一か月とちょっとの間で少しは理解できてるつもりなんだからナ」
「では?何故?」
そう尋ねると少し気恥ずかしそうに頭を掻いた後、答えた。
「お前がどう思ったにせよ、あの行動で確かにオレっちは救われたンダ。だから、一度だけお前がどうしようもなく後戻りできなくなった時助けてやろうって思ったンダ」
は?助ける?俺を?
「こ、こんなこと小っ恥ずかしいから一回しか言わねーゾ」
「ええ、なんですか?」
アルゴは一度息を吸った後、見惚れそうなほど優しい笑みを見せながら言った。
「ありがとう、メッフィー。オレっちを助けてくれて」
「————」
目を見開き絶句する。ありがとう?今そう言ったのか?誰に?俺に?アルゴの言った言葉を咀嚼して理解すると、
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼︎」
笑った。
「な、なんだヨ。らしくないのは自分でもわかってるけど、笑うことねぇダロ」
アルゴは顔を赤くしながら俯いている。おいおい、勘違いしてるな。
「ヒヒヒヒ、いえいえ、嗤ってはいませんよ笑ってるだけです」
「同じじゃねぇカァァァァァ!」
顔を真っ赤にしながら激昂するアルゴを見ながらもう一度笑った。今のセリフを俺が嗤うわけがない。キリトと同じく俺の本質を理解しながら俺を助けたり礼をする奴はあいつらが初めてだからだ。
だから、
「ねえ、アルゴ」
「なんだヨ、メッフィー」
「今後ともワタクシを笑わせてくださいねぇ」
「ンなことするカァァァァ‼︎」
二人とも最後の最後まで俺を笑わせてくれよ。
◇
俺の爆笑がひと段落して、モンスターに襲われてるキリトを助けた後、エクストラスキルの習得のためにイベント場所へと向かった。道中にモンスターと戦ったが限界までレベリングした俺とキリトにはさして難敵ではなかった。
二十分程歩いていると。
「そういや、メッフィー。お前、街中でなんて呼ばれてるか知ってるカ?」
「知りませんねぇ。そもそも、街には入れないのでワタクシが知り得るわけないでしょう」
「《クラウン》または《ジョーカー》ダ。お前の見た目が二つ名の由来だろうナ。因みによく呼ばれてるのは《ジョーカー》ダナ」
へえ、ジョーカーか悪くないな。男はいつまで経っても厨二病を患うからな。痛くないけどカッコいい二つ名は本当に嬉しい。そう考えているとそわそわしているキリトがアルゴに尋ねた。
「な、なぁ、俺にはないのか?メフィストと似たようなの」
おおっと、二つ名的なやつが気になるってことはキリトくんも厨二病ですかな?わかるよその気持ち。
「ん、キー坊もあるゾ」
「本当か!」
「元βテスターとチーターを合わせた《ビーター》、後は殺人鬼とつるんでるけど正義なのか悪なのかどっちつかずだからなのか《バット》多分この呼び方はキー坊の見た目にも関係してると思うナ」
ビーターはともかくバットって、アメコミファンにぶっ飛ばされそうな名前だな。俺もキリトも。
「ヒヒ、永遠のライバルとか言われたらどうします?ねぇ、《バット》」
「確かに名前的にも正義の味方と極悪ヴィランだもんなぁ」
俺が笑いながらそう言うとキリトは苦笑いしながらそう答えた。そんな雑談をしながら十分程進んでいると、一つの小屋が建っていた。
「二人とも着いたゾ」
アルゴが躊躇せずに小屋に歩み寄るのを見るとまだ危険ではないらしい。続いた俺たちの目の前で、勢いよく扉を開け放つ。
中には幾つかの家具と、NPCが一人存在した。小柄で細身の初老の男で、髪の色は白く、黒塗りのサングラスのような眼鏡をかけている。俺とキリトが視線で問うと、アルゴはもう一度こくりと頷いた。
「アイツが、エクストラスキル《体術》をくれるNPCだヨ。オレっちの提供する情報はここまで。受けるかどうかは二人が決めるんダナ」
「た、体術?」
ん?ああ、そうか。キリトは知らなかったよな。エクストラスキルの内容。キリトの反応をみてアルゴが説明する。
「《体術》は、武器無しの素手で攻撃するためこスキルだと思う。武器を落としたり、壊れた時に有効だろうナ」
「おお、確かに使えそうだな。さっきの忍者達がこだわってたのはそういうわけか」
きょとんとした顔のアルゴをみて俺が解説する。
「忍者の武器は手裏剣や忍者刀というイメージですが、実際は体術などがメインだったとも言われているのですよぉ」
「忍者として完成するには欲しかったんだろうな。ただ、アイツらこの場所は知らないくせに、なんで《体術》スキルの中身とかアルゴがその情報を持ってることとか知ってたんだ?」
「………サービスだヨ。βテストの終わりの間際、七層にいたNPCから《二層の体術マスター》の情報が発見されたんダ。オレっちはそのずっと前に、自力で見つけたんだけどナ。あの忍者どもは、β中に七層のNPCに話を聞いたんだろうサ。そんで、本サービスになってからオレっちに、二層のエクストラスキルについての情報を買いにきたってわけダ」
「なら、なんであの時『知らない』って言わなかったんだ?そうすりゃ、しつこく付き纏われるこもと……」
キリトの当然の疑問に、アルゴはバツの悪そうな顔をする。まあ、なんでそんなことしたのか予想できるけどね。
「大方、プライドが邪魔したってところではないでしょうか?ねえ、アルゴサン?」
「………まぁ、当たりダ」
「ああ、だから『知ってるけど売らない』って言っちゃったわけか」
そう言うと二人で座禅を組んでいるNPCを見やり、小屋に踏み込むとNPCの前に立った。赤いチャイナ服のような服を纏ったオッサンは、俺たちを見ると言った。
「入門希望者か?」
「ええ」
「そうだ」
「道のりは長く険しいぞ?」
「「望むところ」」
短い問答に答えると、頭上のマークがあの時のババアと同じく【!】から【?】に変化して受領ログが流れた。
オッサンが俺たちを連れていったのは、小屋の外、岩壁に囲まれた庭の端にある巨大な岩の前だった。うん、思った以上にでかいな。
「お主らの修行はただ一つ。両の拳でこの岩を叩き割る、ただそれだけだ。成し遂げれば、お主らに技の全てを授けよう」
「………」
「ちょ、ちょっとタンマ」
予想外の展開だったのか少し慌てているキリトの声を聞きながら岩の強度を確かめる。……うん、アルゴの情報に間違いはなかったなぁ。そう考えていると、
「この岩を叩き割るまで、山を下りることは許さん。お主らには、その後証を立ててもらうぞ」
その台詞と同時にいつの間にか右手に握られていた墨をたっぷりと含んだ筆が閃くと同時に俺たちの顔に炸裂。
「お、おわああ!」
「ハァァ!」
筆の衝撃でのけぞった俺と、少し離れたところに立つアルゴの目が合った。アルゴの目には哀しみと共感、そして抑え切れていない喜悦が含まれていた。な、殴りてぇ。白髪のジジイは俺たちをみて頷くと、衝撃的かつ予想できていた台詞を口にした。
「その証は、お主らがこの岩を叩き割り、修行を終えるまで消えることはない。信じているぞ、我が弟子よ」
そう言うと、移動した。アルゴの目の前に。
「へ?オ、オレっちになんの用ダ?」
「今から岩を用意するからそれを叩き割れ」
「ナ!なんでだヨ!オレっち関係ねえダロ!」
「何を言っておる。我が弟子の一人であろう。ワシが刻んだその証が何よりの証拠だ」
「ち、ちげぇヨ!」
「ほう、そうなのか?あの二人に聞いてみるとしよう」
「な、なぁ、二人ともちげぇよナ!」
余程トラウマなのか涙目になりながらこちらに同意を求めてくるアルゴ。そんなアルゴに口を開きかけてるキリトの口を押さえて答える。
「アナタの弟子です」
「やはりな、岩を用意しておくからまっておれ。カカカカ、なぁに心配するな岩なら幾らでもある」
「メッフィー、テメェェェェェェェェェ!!」
ガチギレしたアルゴが殴りかかってきた。拳を受け止めて笑いながら話しかける。
「ヒヒヒヒヒヒ!どうしたのですか?アルゴサァン。手数は多いことに損はないですよぉ〜」
「メッフィー!テメェマジでふざけんなヨ!オレっち完全に巻き込まれてんじゃねぇカ!」
「お、落ち着けってアルゴ。今争っても何の意味もないだろう」
「その通りですよぉ」
キリトの言葉に便乗した俺にアルゴが更なる罵倒を言おうとした背後から凄まじい轟音と共に岩が降ってきた。アルゴはぎこちない動きで音のする方を向き涙目になった。
「では、期待しているぞ。我が弟子達よ」
そう言うと今度こそ自らの家に帰っていった。いやあ、思わぬことが起きたなぁ。ああ、そうだ。
「アルゴサァン、ワタクシ達の顔どうなってます?」
「メフィえもんとキリえもんって感じだよこの野郎」
涙声でそう答えた。
その後、アルゴの岩はβ時代に受けていた状態からスタートだったらしく一日でクリアして見たことない程はしゃぎながら帰っていった。因みに、俺はその次の日に叩き割ることができた。
◇
ああ、疲れた。肉体的にも精神的にもキツかった。まあ、これで手札が増えて生存率も上がった。しかし、キリトの奴大丈夫か?まあ、後ちょっとだし大丈夫か。それはさておき、なんかつけられてるなぁ。
「誰ですかぁ?いるなら返事をしてくださぁい!」
そう言うと茂みからナイフが複数本顔に向けて飛んできた。俺はそれを首を傾けることで回避した。その後、茂みに向けて全力で突貫してナイフを投げたと思われるフードを被ったプレイヤーに向けてイビルダガーを振り下ろす。しかし、予測していたのか相手は攻撃を受け止めた。
「Great!ナイフを回避した能力も躊躇なく武器を振り下ろしたことどれをとっても素晴らしいな」
「アナタァ、誰デスか?どこか出会いましたかねぇ?」
「Non、初対面さ。だが、俺はアンタを知っている。大層イカれてることで有名だぜ、《Joker》」
「だとしたら、その噂はデマですねぇ。ワタクシは狂っていない。常に最先端を突っ走っているだけですよぉ〜」
そう言うとフード被ったプレイヤーは驚愕した雰囲気を出し、笑った。
「HAHA!確かにな!噂以上だ!」
「あのぉ、いい加減に自己紹介くらいしてくれませんかねぇ。ワタクシ、クエスト終わりでイラついているんですよぉ」
そう言いながらダガーに更に力を加える。
「sorry、失礼したな。確かに自己紹介がまだだった。だから、これ退けてくんない?」
俺のダガーを見ながらそう言う。俺は渋々、ダガーを退けると立ち上がり薄気味悪い笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「俺はPohだよろしくな。単刀直入に言おうジョーカー。お前、俺の仲間にならないか?」
フードを被った不審者は意味のわからん提案をしてきた。
長めになりました。