「いやぁ、やっと着きました。意外と遠かったですねファウストさん」
「確かにそうですねェ。これは洞窟から採取できる鉱石に期待したいところですねェ」
いやぁ、遠かった。滅茶苦茶ってほどじゃあないけど案外遠かった。でも、どれほど鉱石がいるのだろうか?あの様子だと全身分作りそうだけど。仮に全身分を作るとしてどれくらい鉱石がいるんだろう?百、二百個くらいかな?よし、聞いてみるか。
「あのォ、リーテンサン」
「はい、なんですか?ファウストさん?」
「鉱石はどれくらい必要なのですかァ?」
「えーっと、少なくとも千個以上は欲しいですね」
リーテンが綺麗な笑みでそう答えた瞬間、俺は確かにフリーズした。いや流石に聞き間違いだろ。
「今、なんとおっしゃいましたか?」
「あはは、千個以上必要と言ったんですよ。ファウストさん」
今度は苦笑いしながら同じセリフを口にしたリーテンを見て聞き間違いではないことを確信した。
そして、脳内で大声で叫んだ。ハアァァァァ!?いやいやいやいや、ふざけんなよ!なんだそのふざけた量は!え!?千個以上!?モン○ンでもそんなに使わねぇぞ、オイ!仮に使うとして、一パーツに付き二百個!?使いすぎだろ!どんだけ頑丈に作るつもりだよ!え!?この子が騙されてるとかいうオチじゃないの!?いや、でも、セリフからして色んなゲームやってるっぽいし嘘ついてる訳でも騙されてる訳でもないのか!?(この間約0.5秒)
「あのぉ、大丈夫ですか?ファウストさん。ていうか流石に驚きすぎですよ」
「おや、失礼顔にでてましたか?こういう時はこの世界が不便だと思いますよねェ」
「あはは、確かに隠し事がし難いですしね」
リーテンの言葉で現実に戻ってくるのと同時に自分の迂闊さに内心で苦虫を噛み潰したような顔をする。そうだった忘れてたこの世界は心で思ったことがまんま外にでてしまうことを。ある程度は隠せるがさっきみたいに油断すると顔にでてしまう。
「いやァ、それにしても多すぎでは?」
「うーん、こんなものだよ。他のMMOでもこれくらいかそれ以上は必要だったしね」
「因みに一つのスポットで取れる量はいくつですかァ?リーテンサン」
「えーっと、多くても十個、少なかったら五、六個くらいかな?」
割に合わなさすぎんだろ。その数だと大体最低でも十箇所は探らないといけないよ?鉱石集めって聖地巡礼かなんかだったの?
「いやはや、途方もないですねェ」
「うん、だけど頑張るよ!頑張って笑ってきた奴らを見返してやるんだ!」
やだ、不屈すぎません?この子。一体誰がこんなに立派にしたんだろうか?あ、俺か。少し、現実逃避していると、ふとある事を思い出す。
「あ、ワタクシ今ピッケルを持ってないのですが」
「え!?嘘、壊れちゃったのに買い直してなかったの?」
「いやはや、恥ずかしいですねェ」
「今から戻るにしても時間が惜しいし。仕方ないから貸してあげるよ。私は二本持ってるし」
勿論嘘である。そもそも採掘自体初挑戦である。だから、今はこの女の好意に甘えさせて貰おう。目の前で差し出された一本のピッケルを持つリーテンから受け取る。
「では、お言葉に甘えて。ありがとうございますねェ。リーテンサン」
「どういたしましてファウスト」
そう言いながら洞窟に入り作業を開始した。
◇
「リーテンサン。確か一つのスポットに付き鉱石は多くて十個少なくて五、六個くらいなのですよねェ」
「う、うんその筈なんだけど………」
「今のワタクシとアナタのとれた鉱石の数がトータルで二百を超えてますよ」
あれから数分経過した。初めは見様見真似で慣れない作業をすることから上手くいかないと思っていたが。やってみると案外簡単にできてやり始めて十秒もしない内に出来るようになった。
しかし、ここでいい意味で予想外なことが発生した。それはやり始めて直ぐに起こった。
初めは俺の方でもリーテンの方でも鉱石がゴロゴロと採掘された。互いに運がいいことに喜んでいると十個以上掘れたのにも関わらずまだまだ採掘されたのだ。一分経過する頃には互いに採掘された量が四十を超えてリーテンは困惑しながら俺は興奮しながら採掘を続けているとリーテンに後ろから一度手を止める様声を掛けられて今に至る。
「リーテンサン。もしやこれは、当たり鉱山なのでは?ここまで採掘出来るのならば全身分作るのにそこまで苦労しませんよォ」
「ううん、ファウストさん。これは多分無限湧きバグだと思います」
「無限湧きバグ、ですかァ?」
曰く、モンスターやアイテムが正常な数を超えて出現し続けるプログラムの異常である。ぶっちゃけ、あり得ない話じゃあない。この世界だってゲームなのだからバグの一つや二つ発生してもおかしくはない。リーテンの言動からしてこれほどの量が採掘されるのはおかしいっぽいしね。
それにしても、バグがあんのかぁ。少し不安になってきたなぁ。こっから先、有利なバグがあんだから自身に対して不利なバグがあってもおかしくないしなぁ。まあ、何にせよ、この機会を逃す理由はないな。そう思いながらピッケルを構えると、
「ま、待って!バグを利用すると《グリッチ》って言って、MMOだと運営側にバレてデータを巻き戻されたり、BANされたりすることもあるの!」
なぬ。そんなことがあるのか、危険だなぁ、初めて知ったなぁ。まぁ、どうでもいいんだけどね。そう思いながらピッケルを振り下ろし採掘を続けた。
「ちょ、ちょっと!話を聞いてましたか!?」
「ええ、聞いていましたとも。要は採掘する前に戻るのですよね?でしたら、採掘した後に巻き戻されたら運が悪かった、巻き戻らなかったら運が良かったでいいではありませんか?」
そう言うとリーテンは口をつぐんだが直ぐに口を開き反論してきた。
「で、ですけど、《グリッチ》で手に入れた装備を使ってもいいのでしょうか。それに運営にバレてBANされたらどうしようもないじゃないですか」
こいつ面倒臭っ。そう思いながら手を止めてリーテンと向き合い話す。
「はぁ、いいですかァ?リーテンサン。まず初めに《グリッチ》で手に入れた装備を使うことに躊躇いを憶えてるようですが。アナタは宝くじが当たった時も同じ反応をするのですか?第二に運営にバレるバレないの件ですがァ。穴を作ってる運営が悪いのです。それにどうせバレるならやった後にバレなさい。まあ、要はやらずに後悔するよりやって後悔しなさいな」
はい!QED!!反論は受け付けませんよぉ。リーテンさん。
「いや、でも……」
未だに渋るリーテン。アアアア!面倒臭ぇ!まだ納得しないのか!仕方ない奥の手だ。
「見返してやりたいんでしょう?彼等を」
「!」
そう言うと目を見開きながら固まった。フッ、堕ちたな。俺の大勝利だ。いやぁ、話術が得意でよかったぁ。リーテンは少し下を向き考える様な素振りを見せた後直ぐに顔を上げてピッケルを持ち直す。
「ファウストさん。続けましょう」
「ええ、続けましょうか、リーテンサン」
その後俺たちは三十分間ひたすら掘り続け、採掘できなくなる頃には
俺とリーテン、トータルで四千個以上採掘できた。
◇
「いやぁ、沢山とれましたね!ファウストさん!これだけ有れば全身分作っても余りますよ!」
「ええ、まさしく運がいいとしか言いようがありませんねェ」
やや、興奮した様に話すリーテンを見ながら俺も上機嫌な声で返した。いやぁ、本当にラッキーだ。こんだけゲットできたんだからさぁ。
しかし、まぁ、なんだ。
「まさか、出た瞬間崩れてしまうとは残念ですねェ」
無限湧きバグに運営側が気づいたのか出た瞬間に洞窟が倒壊したのだ。流石にあの時はビビった。仮にあのままいたらどうなってたんだろう?まあ、ろくな終わり方じゃあないだろうな。
「あ、あのぉ、ファウストさん」
「ハァイ、なんでしょうか。リーテンサン?」
「あの、ファウストさんで良ければフレンド交換しませんか?」
あー、フレンドの交換かぁ。まあ、答えは一つだけだよね。
「すみませんが、お断りします」
「え?なんでですか?」
リーテンは少し凹みながら質問してきた。そんな顔するなよ。うーん、なんて言おうか?まあ、こんなんでいっか。
「まぁ単純にワタクシは余程親しくない限りフレンドを交換しないのですよォ」
「そ、そうですか。それは残念です」
そうそう、残念だねぇー。よし、会話は終了したな。
「では、ワタクシはこれにて」
全力でその場から離れてアルゴに鉱石で武器を作ってきて貰う様に頼もうとウィンドウを開こうとすると。
「あ、あの、ファウストさん」
「ハァイ、なんでしょうか?」
後ろから声をかけられた。もう、なんだよ。早くレベル上げさせてくれよ。街に入れない以上強くないといけないんだよ。
「気をつけてくださいね?」
「?ええ、お互いに」
そう言うとリーテンは早足でその場を離れた。え?それだけ?しょうもなっ!えー、まぁ、いっか。偶然と言えど無限湧きバグで沢山利益が得られたし。さてと、アルゴ呼び出そー!あの時仕事があるからしばらく会うことは無理とか言ってたけど一時間以上たったし流石にそろそろ暇でしょ!
【アルゴさん、一つ頼みたいことがあるので体術クエの場所まで来ていただけませんか?】
はい、送信。すると、十秒足らずで返事が返ってきた。
【おう、いいぞ】
早!って、え?冗談でしょ?忙しいんじゃなかったの?ま、まぁ、いいか。運がいいんだよな?少しだけ、戸惑いながら俺は体術クエの場所に向けて駆けた。
◇
「おう、遅かったナ!メッフィー!」
「……早すぎませんかねぇ?アルゴサン」
「ん?そうカ?」
そうカ?じゃねぇよ。早いよ流石に。えぇ、忙しいんじゃねぇの?少しだけ訝しんでいるとアルゴが話し始めた。
「それでメッフィー、頼みたいことってなんなんダ?」
「ああ、鉱石が大量に手に入ったので武器を製作してきて貰ってもいいですかァ?」
「なんだそんなことカ。全然いいゾ」
どうしたアルゴ。優しすぎるぞ。人肌が恋しすぎておかしくなったのか?なんか罪悪感湧くからやめてほしいなぁ。
「流石にすみませんねェ。何度も何度も呼び出して。代わりにアナタの分の武器も作ってきてもいいですよォ」
「オレっちの分も?オイオイ、馬鹿言っちゃあいけねぇヨ、メッフィー。いいカ?武器を作んのに鉱石って二百個くらいいるんだからナ。流石にメッフィーといえど分かれて一時間で四百個も集められてないダロ?」
「先程無限湧きバグに当たりましてねェ。鉱石が二千個ほと手に入ったのですよォ」
「ちょ、その話詳しく」
おー!食いついた食いついた!いつものアルゴだ!よかったぁ。らしくなさすぎて不安だったんだ。
「残念ですがァ、採掘後に倒壊してしまいましたァ」
「そっかー、それは残念だナァ」
アルゴは先程のテンションとは打って変わってしょぼくれた。うむ、可愛い。でも、なんだってこんなに早く俺の頼みに食いついたんだ?頼みたいことでもあるのかなぁ?まぁ、聞いてみるか。
「ワタクシの頼みを聞いてくれるのは嬉しいのですが。忙しいのではないのですかァ?アルゴサン」
「あー、実はサァ。お願いがあるんだけどナ……」
おー!当たった当たった!最近勘が冴えてるのかなぁ!?よく当たるよ!いやぁ、しかし、頼みたいことってなんだ?ここまで言葉を濁してるってことはそれだけの厄介ごとか?なんつーか、アルゴも遠慮って言葉を覚えたんだなぁ。俺、今すごく感動してるよ。でも、無限湧きバグで思わぬ収入のあった俺の前ではどんな頼み事も些事だと言えるとも。
だから、
「話してくださいよォ。アルゴサン。今のワタクシは機嫌がいいのでどんな頼み事も受け入れますよォ」
「メッフィー……うん、わかっタ!確かに黙ったまんまとかオレっちらしくねぇもんナ!」
そう言うと快活に笑いながら俺に頼み事というか依頼をしてきた。
「メッフィー!今からボスと一対一で戦ってきてくれヨ!」
俺は先程の言葉を撤回してどうやってアルゴを泣かせるか思考を巡らせた。
次回も早めに投稿します。