『今からボスと一対一で戦ってきてくれヨ!』
先程アルゴが口にした遠回しの殺害宣告を聞きながらどうアルゴを泣かせるか思考を巡らせていると俺の様子がおかしいことに気づいたのかアルゴが声をかけてきた。
「お、おい、メッフィー。大丈夫カ?」
「大丈夫ですよ。ところでアルゴサン」
「お、おう、なんダ?」
「麻婆は口と尻どちらから食べる派ですかァ?」
「今の話を聞いてどうしてそうなるんダァァァァ!!」
アルゴが絶叫した。むしろ俺が聞きたい。今の頼みを聞いて素面でいられるプレイヤーがいるのだろうか?少なくとも俺は見たことない。
「あの日、ワタクシに死なないで欲しいと願ったアナタのあの言葉は嘘だったんですねェ!」
「ちょ!馬鹿!やめろ!あの時の言葉を掘り返すナ!思い出すで体がムズムズするくらいには小っ恥ずかしいんダ!」
顔を赤くしながら止めてくるアルゴ。当たり前だけどやめません。ていうか、なんだってそんな無茶振りをするんだ?アルゴは。いや、確かに第一層の時は一人で前線が立て直すまでの間はずっと一人で戦ってましたよ。アルゴ曰く俺のレベルは現段階ではSAO内最強だからいけるんじゃないかと思って言ったのかもしんないけどさぁ。いくらなんでも一対一でボスとバトルはキツすぎるよ。だって、あの時俺が善戦できたのは相手の動きに慣れるまで時間があったからなんだよ。だから、
「流石に無茶振りが過ぎますよォ、アルゴサン」
「前もってボスの戦闘スタイルの情報は教えル!それに万が一やばくなった時にメッフィーを回収する為にオレっちもついて行くから!ダメカ?」
まあ、流石に前もって情報を教えるのは当たり前として。アルゴもく来るのかぁ。んーと、
「アルゴサァン、アナタのレベルはおいくつで?」
「フフン、レベルは15ダ!」
俺の質問にアルゴは胸を張りながら答えた。うーん!レベルが6つも離れてるのかぁ。少し不安だなぁ。まぁ、この際レベルは置いといて。一番気になるのは、
「ワタクシを回収すると言いましたがどのようにして回収するのですかァ?」
そう仮に死にかけたとしてどうやってアルゴは俺を回収するつもりなのか?ボス戦ってほぼ間違いなく混戦状態になるから俺を助ける暇なんてないから助けようものなら巻き込まれて共倒れするのがオチだよ?
「まあ、確かにメッフィーの疑問ももっともダナ。だけど、そんな問題を解決できるアイテムがあるんダ!それがこの《ロープ・オブ・アリアドネ》ダ!」
自信満々にそう言いながらアルゴがアイテムストレージから出したのは少しだけ古びているだけの普通のロープだった。ん?これだけ?えーっと、実はこれはハードなギャグとかいうオチじゃあないの?そんな事を考えながらアルゴの顔を見てみると。自信満々という言葉が似合う見事な笑みを浮かべていた。うむ、殴りたいその笑顔。
って、おっとダメだぞメフィスト・ファウストいくらなんの説明もなく対策が古びたロープ一本って言われて苛立ちを覚えるのはよくわかる。でも、今は抑えろ落ち着け。平和主義の俺らしくないぞ。俺は内心で少し深呼吸をした後に話し始めた。
「アルゴサァン」
「ん?なんダ?メッフィー?」
「遺言はそれだけでよろしいでしょうかァ?」
「ハァァ!?」
おっと、ダメだな抑えきれなかった。いかんぞ俺自制できない者は未熟な証拠だ。そう思いながら笑い顔の状態で目をうっすらと開く。すると、それを見たアルゴが何を勘違いしたのか顔を真っ青にして必死に弁明を始めた。
「い、いや、違うからナ!メッフィー!これはふざけてる訳じゃあないんダ!」
「ほうほう、ではどのようにしてそのロープを使うのですかァ?」
「いいカ?まず初めにこのロープをオレっちとメッフィーの体に括り付けるんダ!」
はい、ふざけてますねぇ。俺はそう確信した瞬間背を向けて帰ろうとする。
「いや、まてまて!メッフィー待ってクレ!いいカ!このアイテムは少し特殊で、括り付けられた相手以外からは視認出来なくなるんダ!」
「ハイィ?」
俺は歩みを止めてアルゴと向き直る。えーっと、つまりどういうこと?
そこからアルゴは身振り手振りでロープの能力について説明を始めた。曰く先程説明した通りこのロープは体に括り付けられた相手以外から視認出来なくなるらしく。それ以外にも括り付けている相手以外からはロープを干渉することが出来なくなるというものらしい。因みに不可視及び不干渉状態はONOFFがしっかりとできるらしい。うんなんつーか、
「随分とまぁ、都合の良いと言うか優れた代物ですねェ。これ以上疑いたくないですがその効力は本物なのですかァ?」
「まぁ、流石に信じて貰えないよナ。仕方ない実演するゾ」
そう言った瞬間アルゴが持っているロープが少しずつ消えていくのをはっきりと目にした。この現象に驚きを隠せないが本当に干渉できないのか確かめてみる為にロープを握っていたアルゴの手に手を伸ばした。
すると、ロープに触れずアルゴの手を握り締めるという結果になった。
いやぁ、マジで?でも、目の前で起きてる以上嘘じゃあないんだよなぁ。アルゴの手を握り締めながらまじまじと見ていると。
「あー、メッフィーそろそろ離してくれねぇカ?」
アルゴは顔を赤くしながら手を離すように言ってきた。
「おやおや、これは失礼しました。しかし、こんな古びたロープにこんな魔法のような効果があるとは」
「良いヨ、オレっちも初めは半信半疑だったからナ!」
優しいなぁ、オイ。そして今回の一件で身にしみてわかったことだけど人の話は最後まで聞くべきだな。確かにこの案ならいけないこともないのか?まあ、なんにせよ一度だけでもやってみるか。
「ええ、いいでしょう。アルゴサンその案に乗りましょう」
「いいのカ!?じゃあいつ実行する?」
「今すぐにでも」
「言うと思ったヨ!」
そう言いながら俺とアルゴは迷宮区へと足を運んだ。
◇
俺たちは今やたら厳格そうな巨大な扉の前で作戦会議をしている。
「いいか?まずは撤退するまでの条件についてなんだガ。ボスのHPバーを二段目まで削った後に三十秒ほど戦ってクレ。そうすれば相手の攻撃のパターンは大体わかるからナ。一応β時代の情報は道中で話したけど覚えるカ?」
「ええ、第二層ボスのタウロスの攻撃で気をつけるべきなのはデバフ付きソードスキルの《ナミング・インパクト》と麻痺ブレスですねェ」
「さっきも言ったがボスの《ナミング・インパクト》は広範囲だから気を付けロ。それに取り巻きもいるからなおのことダ」
「わかりました。では、ワタクシから質問なのですが。仮にボス自体が違った場合はどうするのですかァ?」
「悪いけど1分程戦った後に逃げてクレ」
「カシコマリィィッッ、マシタァァァァ!!」
「うし、じゃあ行って来イ!オレっちも出来る限り援護スル!」
その言葉を聞きながら俺は目の前の扉を開けた。そこには王冠を被り歪曲した大きなツノを頭から生やした巨大な青いタウロスがそこにはいた。トーラス王は俺を視認すると、息を大きく吸い込み。
「ヴゥゥヴォオオオオオオオ———————ッ!!」
天高く吠えた。それ自体が遠隔攻撃だと錯覚するほどの声が空気を震わせる。その咆哮と同時に俺はボスに向けて突貫した。
◇
「ガァァァァァァ—————ッ!!」
戦い始めて5分後俺は青いタウロスの断末魔を聞きながら呆然と立ち尽くしていた。正直言ってなんの苦戦もしなかった。HPバーも少なくアルゴの前情報の取り巻きも現れることもなかった上に範囲攻撃はあったけどデバフ有りの《ナミング・インパクト》もなかった。念の為アルゴの方を見るとぽかんと口を開けながら絶句していた。うん、アルゴも予想外ぽかったらしい。えー、終わり?ンな訳ないよな?いくらなんでも呆気なさすぎるだろ。そう思いながら警戒していると天から赤いタウロスが突然降ってきた。俺に向かって。
「おっとォォォォ!!」
危なっ!!俺は降ってきた赤いタウロスを回避しながらソードスキルを放った。すると、先程よりもHP量は変わらないが与えられたダメージの量が少なかったことに気づいた。
「おやおや、思いのほか効いていませんねェ。HP量が変わらないのは救いでしょうか?」
さてと、どうしようか?効きにくいってことは単純に強くなったか、もしくは先程の青いタウロスとは効く属性が違う可能性がある可能性がある。
この世界に魔法はないが属性という概念は存在する。例えば、短剣や片手剣などは斬属性、両手斧や棍などの打属性、槍や細剣などの突属性の三種類である。中には火など属性を持った剣などが存在するがこれほどの上層で属性持ちの武器はない為、説明は割愛させてもらう。
それはさて置き、他の武器も試してみるか。そう思いながらストレージから一本の《アニール・レイピア》を取り出し相手の出方を窺う。
え?なんでレイピアを持ってるのかって?第一層でレベル上げの為にひたすらホルンカで植物型モンスターの《リトルネペント》を乱獲しまくってたら花もちの《リトルネペント》と何度も戦闘することになって結果的にダガーだけじゃなくてアニールシリーズを全部手に入ったんだよね。そんな事を考えていると、赤いタウロスは手に持ったハンマーを掲げた。
「避けロ!!メッフィー!!」
「わかってますよォォ!!」
赤いタウロスに背を向けて全力回避。すると、すぐ後ろからバリバリという音と共に大量の紫電が迸った。なるほどねぇ、範囲は見たとこは半径五メートルくらいか?突然放たれても回避出来ないってほどじゃないな。さてと、殺るか。
俺は赤いタウロスに向かって突貫した。すると、俺に気づいた赤いタウロスは体を引き絞った後ハンマーを横に薙いだ。その攻撃を俺は跳ねることで回避しながら赤いタウロスに向けてリニアーを放った。って、通るダメージ量が少ないなぁ、おい。つまり、弱点は突属性じゃないな。仕方ないじゃあ次はこれだな。
俺は赤いタウロスの攻撃を回避しながらストレージから出したのは《アニール・ハンマー》だった。本当だったら両手斧を使おうと思ったんだけど敏捷特化の俺が自分の速度を下げるような真似をしたら自殺と変わらないからね。しかし、麻痺ブレスがこないなぁ。まあ、来ないなら来ないで楽でいいんだけどさ。打属性の武器は慣れないけど頑張りますか。
「では、雄牛サン♪行きますよォォォ!!」
全力で踏み込み俺は赤いタウロスの後ろに回り込みながらソードスキル《パワー・ストライク》を放つ。おお!ダメージの減りが早いなぁ!ってことは、打属性が弱点か!青いタウロスが斬属性に弱くて赤いタウロスは打属性に弱いのか。なるほどね納得したわ。それに、こいつはそこまで強くはない。青いタウロスよりは技が豊富だけど、これなら俺一人でもいけるな。
赤いタウロスの放った《ナミング・インパクト》を回避しながら思考を巡らせて《パワー・ストライク》を放つ。すると、また赤いタウロスはハンマーを上に掲げた。ああ、雷攻撃ね。モーションがわかりやすいから回避しやすいなぁ。バックステップで回避しながら俺はサブウェポンの投剣を取り出し赤いタウロスの眉間に向けて《シングルシュート》を三発放ち寸分違わず着弾してHPを削る。これを十度繰り返していると。お、HPが後一割切った。うーん、弱くはないけど少し手応えがないなぁ。これは三体目もあり得るかな?そう考えながら止めに下から二連続で振り上げ最後に一撃を上から叩きつける《トライスブロウ》を放ち止めを刺した。すると、地面が少し揺れ動いたかと思うと床板がズレた。ああ、やっぱりね。よっしゃあ、秒殺してやりますよォ!
しかし、その考えはすぐさま消え失せた。理由は床下から出てきた三体目のタウロス《アステリオス・ザ・トーラスキング》が現れ表示されたHPバーの量だった。青いタウロスと赤いタウロスのHPバーは一本だけだった。だが、このタウロスは。
「なんでHPバーが三本もあるんですかねェ」
単純計算で先程の三倍はタフということになる。フザケンナ!さっきよりも難易度上がりすぎたろ!さらに悪夢は続く。《アステリオス・ザ・トラースキング》が天高く吠えた瞬間すぐ近くの壁から通常のトーラス族ほどの大きさのタウロスが現れた。いやいや、茅場さんやいくらなんでも難易度あげすぎだろクレームがくるぞ。ていうかあのボスはどの属性が弱いんだ?流れ的に突属性か斬属性か?一応両方用意しとくか。そう思いながら俺は左手に細剣を右手に短剣を持ち構えると取り巻きを無視してボスに向けて《リニアー》を放った。しかし、
「硬すぎませんかねェ?」
弱点じゃないのはわかったけど赤いタウロスでももう少し通ったよ?すぐ様右手に持った短剣で《ラピッド・バイト》を放つすると、目に見える程度にはダメージを与えられることができた。なるほどね弱点は斬属性か。弱点を理解すると、アステリオスが武器を天高く掲げた。おっと、このモーションは雷攻撃だな。すぐにバックステップで攻撃の範囲内からした。しかし、
「ガッ」
上から叩きつけられたような衝撃が全身を駆け巡った。は?いや、回避したはずだ。確かに範囲内から出たはずだなのになんで三割もHPを削られている?てかやばい。麻痺った。麻痺して動けない俺目掛けてアステリオスはハンマーを叩きつけた。俺は紙切れのようにフロアの端まで飛んだ。
「ちょっと、これは不味いですねェ!」
ヤバイもうHPが残り5割になった。このままじゃあ確実に死ぬ!って、なんであいつは武器を下ろしてんだ?すると、アステリオスの目が赤く光り輝くと口を大きく開いた。あ、ヤバイあれ麻痺ブレスだ。ヤバイ!ヤバイ!流石にあれをモロにくらったら死ぬ!って、ああ麻痺が解けた!でも回避しきれない!あ!そうだこうしよう!
俺はすぐに床に向けて体術スキル《閃打》を放ち無理矢理体を麻痺ブレスの射線からズラす。しかし、完全に回避することが出来ず両足が消失した。あ、ヤバイ死んだ。そう確信した瞬間。
「メッフィー!」
焦ったようなアルゴの声が聞こえたのと同時に体が大きく引っ張られる様にアルゴの方へ動いた。いや、マジで助かった!
「ヒヒ、助かりましたァ。ありがとうございますねェ、アルゴサン」
「ハイハイ、どういたしまして!ボスの動きは充分に見れて情報も得られタ!サッサと逃げるゾ!」
そう言いながらアルゴは俺を抱えて全力でボス部屋から脱出した。
思いの外長くなりました。