メッフィー(偽)in SAO   作:アーロニーロ

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 遅くなってすみません!好きだったハーメルンの小説がいきなり消えていて創作意欲が失せていました。なので今回は大分長めに書きました。どうぞ28話です。


28話

 

——いい?——

 

 仰向けのまま動けない俺の上にまたがりながら手を掛けて問いかけてくる。誰なのか顔を見るも顔には黒いモヤのようなものが覆っていてわからない。声もまるでノイズが混じったような感じでわかりにくい。ただ、体の肉付きから女だということはわかる。そんなことを考えていると女は言葉を進めていく。

 

——世の中には二つの種類の人間がいるの———

 

——一つは怪物のふりをした人間。そしてもう一つは———

 

 その言葉と共に首にかかる手の力が強くなっていく。呼吸が阻害されて少しずつ息が出来なくなる。咄嗟に抵抗しようにも体がピクリとも動かない。時間が経つにつれて体が寒くなり血液の音が煩く感じて視界が点滅したようになる。少しずつ意識が遠のいていくと同時に声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——貴方の様な人間のふりをした怪物よ——

 

 

「—い!おい!聞こえるカ!?メッフィー!」

 

 ………誰だ?声からしてアルゴか?だとしたらなんでこんなに慌ててるんだ?覚醒して間もない意識をフルで稼働させて思考を回す。……ああ、思い出した、思い出した。確か、二層のフロアボスに挑んでボロ負けしたんだっけか?それにしても一番強いボスなんだから攻撃の範囲が広がってることくらい考えとけよ俺。あー恥ずかしい。「いやァ、情けないとこ見せましたねェェ!」そう言おうとアルゴの顔を見ると。

 

 何というかボロボロだった。別に殴られたというわけではなく涙やら鼻水やらでとにかくボロボロだった。普段の可愛らしい顔をあまりにも見事に汚らしい顔へと変貌させてみせたアルゴに思わず。

 

「汚っ」

 

 と、言ってしまった。この言葉にアルゴは一瞬時が止まったかの様に動きを止めた。すると、数秒後、俺の言葉の意味を正確に捉えたのか顔を真っ赤にしながら大きく息を吸い込み、そして。

 

「フザケンナァァァァァァ!!!!!」

 

 マジギレした。本気で怒り狂っているのかすぐに「いやァ、冗談ですよォ〜。じょ・う・だ・ん♡」と茶化したがまるで意に返さずに言葉を続けた。

 

「オ、オレっちがどんだけ心配したと思ってんダ!!あれから一日中眠ったまんまだったから、このまま死ぬんじゃないかと気が気じゃなかったんダ!!」

 

「ちょっと待ってくださいアルゴサン。あれから丸一日経過してたんですかァ?だとしたら不味いですよォ!経験値稼gじゃなくてボス戦が間に合わなくなってしまいますよォ!?」

 

「ンなこと今どうでもいいだろうガァァ!!ツーカ今、経験値稼ぎって言おうとしたよナァァ!!」

 

「ハ、ハァ」

 

 め、面倒臭ぇ。なんつーか、話の長いNPCとは違うベクトルで面倒臭ぇ。そんなことを考えていると俺の気の抜けたような返事が燃料となったのかさらに苛烈になり説教は軽く三十分に及んだ。

 

 

「つーことダ!わかったナ!」

 

「ハァイ、わかりましたよォ」

 

 お、終わった。あの後、死なないようにプレイすることの重要性を長々と語られた。長かったというかキツかった。正座しながら数十分近く説教は精神的にもくるなぁ。それはさて置き、ないと思うけど。

 

「アルゴサァン。当たり前ですけど、あの日のボスのモーションの変更などは全部まとめて冊子にしましたよねェ」

 

「ア」

 

 ……おい。冗談だよな?

 

「アルゴサァン?」

 

「し、仕方ないダロ!メッフィーの介護に忙しくて情報をまとめるとかする暇がなかったんダ!」

 

 ほーほーほーほー、つまりあれか?アルゴは今、俺が一日意識を失ってまで得た情報を無駄にしたってことか?ハハハハハハ!そうかそうか。なるほどねェ。俺はストレージから《イビル・ダガー》を取り出した。

 

「ちょ、ちょっと待テ!待ってクレ!メッフィー!」

 

「なるほどォ、それがアナタの遺言ですかァ」

 

「そーじゃねぇヨ!!つーか、恩着せがましいかもしんねぇケド。メッフィーこそ命を助けてもらったんだからありがとうくらいは言えよナ!」

 

「ああ、そうでしたね。アルゴサン命を助けてくれてありがとうございました。お礼に殺して差し上げますねェ」

 

「確かに命はって情報を集めて貰ったのに纏めず無駄にしたのは謝るケド怒り過ぎだロ!って、危ネェェ!!」

 

 ちぃ!避けやがったか!まぁ、いいだろう。怒りのあまり我を忘れてたけど確かに少し大人気なかったしな。仕方ない。

 

「これでチャラにしますよォ。アルゴサン」

 

「なんか釈然しねぇケド。ありがとヨ、メッフィー」

 

 さてと、じゃあ。

 

「行きますか」

 

「お、おい?本当に大丈夫なのカ?」

 

「ええ、レベル上げのためにもあのボスを倒す必要がありますし。それに」

 

「それに?」

 

「ワタクシ、意外と根に持つタイプなので」

 

 そう言うと、アルゴはキョトンとした顔をしたかと思うとすぐに吹き出したように笑った。ん?どゆこと?

 

「ワタクシが寝ている間に何か面白いことでも?」

 

「い、いや、メッフィーも意外とそういうところがあんだナァーって思ってナ」

 

「ハ、ハァ」

 

 俺の問いにアルゴは腹を抱えながら答えた。ん?本当にどゆこと?まぁ、今はボス部屋に急ぐか。アルゴのだせる最高速度に合わせながら走っているとアルゴがたずねてきた。

 

「そーいやぁ、メッフィー」

 

「なんですかァ?アルゴサァン?」

 

「あん時どんな夢見てたんダ?」

 

「まるで、ワタクシが夢を見ていた前提で話が進んでますが、どうしてそのような質問を?」

 

「なんでって、寝てる時のメッフィーがサァ。スゲェー幸せそうに笑ってたからどんな夢見たんだろうナァって」

 

 寝ながら幸せそうに笑ってた?なんだそれ気持ち悪っ。それにしても夢かぁ。確かにあの時、なーんか懐かしい感じがしたけど。

 

「覚えてませんねェ」

 

 忘れちゃったし。まぁ、いっかぁ。俺は何十通も届いたPoHからのメールを返しながらボス部屋に向かった。

 

 

 ボス部屋に到着したと同時に入ってみるとそこには満身創痍のプレイヤーや麻痺って動けないプレイヤーたちで溢れかえっていた。って、三体目のボスかぁ。早いなぁ。いや、一、二体は弱かったし当然か?あ、麻痺ブレス放ちそう。あの近くにいるプレイヤー大丈夫か?装備からして紙装甲だけど。俺はぼーっと近くのプレイヤーを眺めていると。

 

「避けろ!!」

 

 すぐ隣から大きな声が聞こえた。いったい!!耳がぁー!!

 

「アルゴサァン、大声出すなら一声かけてくださいな」

 

「んなもん。ぼーっとしてたお前が悪イ」

 

 ごもっともな返事をありがとう。って、あれはキリトか?おー、麻痺ってる。珍しいなぁ。俺みたく慢心してたのか?そう思いながらふと隣を見てみるとアスナも転がっていた。あー、なるほどねアスナを守ったわけだ。そんなことを考えながら俺とアルゴはキリトに駆け寄った。

 

「ブレスを吐く時、ボスの目が光るんですよォ〜。知ってましたァ?」

 

 床にへたり込んでいるキリトに声を掛けると口をぽかんと開けて驚いていた。いいねぇ、その顔。まぁ、それはさて置き。

 

「どうしたのですかァ?キリトサァン。麻痺、とっくに解けてますよォ?」

 

 俺が指摘するとようやく気づいたのかバネ仕掛けようにはね起き、何故か遠くにあるアニールブレードとウインドフルーレを回収して回復の為か壁際まで駆け寄りアスナも回復させた。それを見届けるとアルゴはキバオウのところに俺はリンドの元に向かった。

 

「お久しぶりですねェ!リンドサァン!アナタが今や皆を率いる側とは驚きですよォ〜!」

 

 煽った。割と本気で煽った。面白さ8割どんな反応を見せるのか興味2割の気持ちで煽った。すると、

 

「言いたいことはそれだけか?悪いが煽る為に来たのなら帰ってくれないか?お前がいるだけで足並みが崩れるんだ」

 

 言い過ぎだろ!っと思ったが周りの雰囲気からして大袈裟に言ったのではないと確信する。いや、嫌われ過ぎだろ俺。

 

「いやいや、煽る為に来たなんてとんでもない!ワタクシは純粋に戦いに来ただけですよォ〜。そ・れ・に、アナタ様の大人な対応にメッフィー、涙が抑えられないほどですよォォ〜!」

 

 よよ〜っと、泣き真似をするように答える。実際、殴りかかるか最悪切りかかるぐらいは覚悟してたんだけどなぁ。まぁ、それでも。

 

「その嫌悪感を隠せてたら百点満点をプレゼント出来たのですがねェ」

 

「お前っ!」

 

「まぁ、それはさて置き。どうします?作戦を続け「続けるに決まってるだろ」……なるほど、なるほど。では、ワタクシの問いに即答した礼としてボスの弱点やモーションについて教えようじゃあありませんか」

 

「何?」

 

 おー、驚いてる驚いてる。

 

「何処で知った?」

 

「単純に《鼠》からいい値で買い取っただけですよォ。嘘だと思うなら無視しても構いませんよォ?」

 

 そう言うとリンドは本気で嫌そうな顔をしながら俺の話に耳を傾けた。

 

 

 俺とアルゴが二分程時間をかけてそれぞれ情報を伝達すると、リンドが剣を抜き叫んだ。

 

「よし……攻撃、始めるぞ!A隊D隊、前進!」

 

 リンドの指示に従い、重装甲の壁部隊がアステリオス王に突っ込んでいく。彼らの攻撃を受けた瞬間タゲが軽装のプレイヤーから外れる。つーか、俺たちが説明している間、ずっと一人でボスの相手をしてたのかすごいなぁ。それにしても、なんだあのパーティ。なんで、ボスのナミングをモロに喰らってもスタンしないの?

 

 …まさか、キリトの言ってた《レジェンドブレイブス》とか言う連中か?そう思いながらキリトの方を見てみると複雑そうな顔でG隊を見ていた。という事は間違いない例のギルドだ。ハハ!マジか!なんつー偶然だ!もしこの場でこいつらの悪行を話せばどうなるんだ!ああ、やってみたいなぁ!でも、俺の言葉じゃあ信用ならないだろうしどうしよう?ああ、誰かバラしてくんねぇかなぁ。そんなことを考えていると。

 

「E隊、後退準備!H隊、前進準備!」

 

 お、出番か。采配も平等だし私情も挟まないところをみると中々いい指揮官なんだなぁ、リンドは。

 

「よし、行くぞ……ゴー!」

 

 キリトの声を合図に全力で加速した。結果的に移動途中に後ろから飛んできたチャクラムのようなものを除けば誰よりも早くボスに近づきボスの王冠目掛けて右手で《ラピッドバイト》を放った後、左手で《ファッドエッジ》を放った。瞬間、ボスの王冠が粉々に砕けて、次いでに、アステリオス王の巨体も砕け散った。

 

 

「ヒャッハー!ボスのLAとったどー!!」

 

 どーだ!見たか!アステリオスくぅ〜ん、あん時のリベンジになったぞ!あ!ごっめーん!死んじゃったから見れないんだよね!オニィさん言い間違えちゃった♡ごめーんね♡あー、スッキリした!そう思いながら振り向いてみると半泣きのアルゴと殺意のこもった目線をこちらに向けてくるプレイヤー達がそこにはいた。

 

「おやァ?ワタクシ、なにかしてしまったのでしょうか?」

 

「ふ、ふざけんな!遅れてきた分際でLA取るとか何様のつもりだ!」

 

「これまた失礼なことを言うかたですねェ。LAが誰がとるかは暗黙の了解では?」

 

 そう言うと名も知らないプレイヤーは口をつぐみながら悔しそうに下がっていった。はー、面倒くさっ。さーてと、帰るか。俺は次の階層に向けて足を進めようとすると。

 

「あんた……何日か前まで、ウルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな」

 

「……はい」

 

「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで手に入れて……それ、ドロップオンリーだろ?そんなに儲かったのか?」

 

 俺はこの会話を聞いた瞬間、足を止めてすぐ様振り向いた。

 

 え?もしかして?ワンチャンある?そう期待を込めながら会話している主達を見てみる。そこには(名前は確か)ネズハと思われる少年を名も知らないプレイヤーは疑っている光景が広がっていた。おー!いいぞ、いいぞこの空気!恐らくあのチャクラムは高価なのだろうもし仮にそうじゃなかったとしても尋ねた男の疑念は消えないだろう。一番の不確定要素のキリトを見ると苦悩したような顔で二人を見ているキリトがいた。よし!よし!いい調子だぞ!大方、口を挟もうにも口を挟む権利があるのかという気持ちで苦しんでるんだろ!アスナも同じような顔をしているあたり同じ気持ちなのだろう。後は、ネズハ少年次第だ。そう思いながら目を向けると同時にチャクラムを床にそっと置くと、その隣に両膝を突く。続けて手を床に押し当てて、深く頭を垂れて。

 

「……僕が、シヴァタさんと、そちらのお二人の剣を、強化直前にエンド品にすり替えて騙しとりました」

 

 ボス戦での戦闘よりも張り詰めた、重い静寂がコロシアムを満たした。

 

 き、きたー♪───O(≧∇≦)O────♪!よし!よし!よく言った!ネズハくん!対するシヴァタさんは?おーおー、張り詰めてますねぇ。SAOプレイヤーのアバターは凄まじい精度で再現してるけど。喜怒哀楽の感情表現に関しては大味すぎるらしい。仮に悲しめば涙が出るし、楽しい時はくっきりと笑みが浮かび、怒れば青筋が浮かび上がる。

 

 だから、ネズハの告白を聞いた騙されたプレイヤー達の表情は気の弱い人たちが見ればガチ泣きするほどの激発寸前という顔つきだが、皆がギリギリ自分の怒りを抑えている。

 

 念のためにキリトとアスナを見てみるといつも以上に青白かった。よし、これなら口も挟まないだろう。

 

 しんとした沈黙を破ったのは、シヴァタの嗄れた声だった。

 

「…騙し取った武器は、まだ持っているのか」

 

 その質問にネズハは首を左右に振る。

 

「いえ……。もう、お金に替えてしまいました……」

 

 か細い声が流れた途端、シヴァタは一瞬強く目を閉じて、短く「そうか」とだけ言った。なんつーか我慢強いなぁ。

 

「なら、金で弁償できるか?」

 

 俺はその質問を聞いた瞬間、ギルメンを横目で見ながら出来るわけがないと心の中で鼻で笑った。ボスのスタン攻撃をモロに喰らってもスタンしないだけの鎧を持っているのだ出来るわけがない。仮に払う手段があるとするのならばギルメンの装備を売り払わなければならない。今さっき活躍した彼らが、力の大半を占める武器や防具を手放すか?いや、手放すわけがない。さあさあ!どうする?ネズハ少年!?嘘を通して卑怯者になって生きながらえるか?はたまた、正直に話して愚者になるか?どっちを選んでも地獄だぞ!?

 

 緊迫した空気の中、土下座をしている小柄な元鍛冶屋は。

 

「いえ……弁償も、もうできません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとかで全部残らず使ってしまいました」

 

 愚者になる道を選んだ。

 

 ああ!素晴らしい!素晴らしいよ!ネズハ少年!これほどの空気の中自ら勇気を出して真実を明かし仲間を庇うとは!感服した!鍍金などと言って悪かった!君は本物だよ!そんな君に礼を言おう!泣けたよ!嗤える三文芝居をありがとう!

 

 当然の如く、ネズハの告白は騙されたプレイヤー達の忍耐の限界を容易く超えた。

 

「お前……お前、お前ェェェ!!」

 

 きつく握った拳を振りかざし、何度も床を踏みつける。

 

「お前、解ってるのか!!俺たちが、大事に育てた剣壊されて、どんだけ苦しい思いをしたか!!なのに、俺たちの武器売った金で、美味いもん食っただぁ!?高い部屋に寝泊まりしただぁ!?挙句に、残りの武器でレアもん買って、ヒーロー気取りかよ!!」

 

 続けて、左側のキバオウ隊のメンバーも裏返った声で叫んだ。

 

「俺だって、剣なくなって、もう前線で戦えないと思ってたんだぞ!そしたら、仲間がカンパしてくれて、素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺たちだけじゃない、あいつらも、攻略プレイヤーも全員裏切ったんだ!!」

 

 二人の絶叫を皮切りに騙されたプレイヤー達が激怒した。口々に叫ぶ数十人の声が合わさり、轟音となって部屋を震わせる。いやぁー、テーマパークに来た気分だ。テンション上がるなぁ!ふと、ブレイブスのメンバーに視線を送ると五人で何か囁き合ってる。流石に聞き取れないがあの様子だと割り込まないだろ。

 

 ある程度してから、怒りの声が少なくなった頃、あの一層のボス部屋で俺を糾弾したシミター使いのリンドが口を開いた。

 

「まず、名前を教えてくれるか」

 

 おっと、邪魔が入ったか?リンドのこの場の捌き次第では……

 

「……ネズハ、です」

 

「そうか。ネズハ、お前のカーソルはグリーンのままだが…だからこそ、お前の罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来るが、お前の罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償ももうできないというなら……他の方法で償ってもらうしかない」

 

 お!これは期待してもいいのかな?

 

「お前がシヴァタから奪ったのは、剣だけ彼らがその剣に注ぎ込んだ長い、長い時間もだ。だから、お前は……」

 

 はい、クソですね。信じた俺がアホでした。つーか、ディアベルに似てきたなアイツ。仕方ない、一肌脱ぎますか。

 

「あ〜、なるほど。そう言うことですかァ」

 

 俺の言葉を聞いてリンドが振り向いた。

 

「なるほど、とは?なんのことだ?メフィスト」

 

 反応してくれてありがとうリンド。おかげで大半のプレイヤーの意識がこっちに向いた。俺は声がなるべく響くように答えた。

 

「いやァ〜、最近、プレイヤーの死亡が多い理由は彼にあったのだと勝手に納得しただけですよォ」

 

 瞬間、空気が凍った。

 

「……どういうことだ?」

 

「ほら〜ワタクシ街に入らないじゃあないですかァ。ですので、よくプレイヤーを見るんですよォ。その時、昨日は倒せていたはずのmobを倒せずに逆に殺されたプレイヤーを見かけたんですよォ」

 

 再度、大広間が静まり返った。数秒後、掠れた声で呟いたのは、シヴァタの隣に立つ青メンバーだった。

 

「……し、死人が出たんなら……こいつもう、詐欺師じゃねぇだろ……ピッ…ピ…」

 

 中々最後まで言おうとして言わないので代わりに俺が代弁した。

 

「ええ、ワタクシと同じPKですねェ。いやァ、お仲間が出来てメッフィー大感激!」

 

 周りがざわめく。それと同時に痩せたダガー使いがネズハを指差して叫んだ。

 

「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ!どんだけ謝っても、金積もうが、死んだ奴は戻ってこねぇんだ!どーすんだよ!どー責任取るんだよ!言ってみろよぉ!!」

 

 ん?この声聞き覚えあるなぁ。第一層の時も似たようなこと言ってたなぁ。それにこいつの言葉には断罪じゃなくて相手を舐る悪意しか感じないなぁ。

 

 ダガー使いの糾弾を受け止めたネズハは、敷石の上でぎゅっと両手を握ると震えた声で言った。

 

「……皆さんの、どんな裁きにも、従います」

 

「そうですかァ!アナタにはそれほどの覚悟があるのですかァ!」

 

 ありがとうネズハ少年、その言葉を待っていた。俺はネズハの言葉にすぐに割り込み提案した。

 

「皆さん、ここはワタクシが彼を殺すでしまいにしませんかァ?」

 

 周りが押し黙る。すると、一人のプレイヤーが前に出てきて尋ねた。

 

「つまり、どう言うことだ?」

 

「ですから、PKの始末はPKがするということですよォ♪」

 

 俺は楽しげに提案した。これは割と博打に近い。良心的な奴がすぐ様止めれば見逃されるで終わるが逆に怒りに浮かされた奴が殺すよう言えばネズハは死ぬ。ある意味、この瞬間ネズハの命は俺ではなく皆が握って居ることになる。すると、

 

「そうだ」

 

 ごく短い一言が部屋に響いた。しかし、普段ならあまり意味を持たない一言は限界まで膨らんだ不満を爆発させるには十分だった。

 

 途端に部屋いっぱいに声が広がった。それは、プレイヤー達の叫び声だ。「そうだ、責任取れ!」「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」「PKならPKらしく終われ!」徐々にボルテージが上がり最後には

 

「命で償えよ、詐欺師!」

 

「死んでケジメをつけろ!」

 

「惨たらしく殺されろ!クズはクズに殺されちまえ!!」

 

 嗤いが止まらなかった。お前らの言うクズの台詞をあっさりと信じて場に流されるコイツらのことがおかしくてしょうがない。まともな筈のネズハが糾弾されて場を楽しむ俺を一部の人間は讃えてすらいる。おかしくてしょうがない。しかし、同時に俺は起きるべくして起きたことだと思っている。理由は彼らを見ればわかる彼らの怒りには詐欺行為だけでなく閉じ込められた現状にすら含んでいるのだから。そして、今回それが炸裂した。ただ、それだけの話なのだ。

 

 念のために周りを見渡す。リンドもキバオウもキリトもアスナもブレイブスのメンバーも皆俯いている。さて、フィナーレといこう。

 

「さて、皆に質問なのだが。君達は、たった一人で最前線に立つプレイヤーの装備品の金を使い切ることは出来るますかねェ?」

 

 

 ところでネズハ君、僕は君に敬意を評したい。自ら犯罪を犯していることを話すのは容易なことではないのだから。だから、

 

「ワタクシの予想が正しければ彼の協力者がいるのでは?」

 

 俺は君の庇おうと努力したものを踏みにじろうと思うんだ。下を見ると唖然とした顔のネズハがいた。俺の言葉をきっかけに周りのプレイヤーの怒りのボルテージが上昇しようとした瞬間。

 

「待ってくれ!!」

 

 大広間に声が響いた。は?誰?そう思い目を向けると。そこには鎧を脱いだブレイブスのメンバーがいた。は?あり得ない。あり得るはずがない。だって、こいつらは鍍金だ。足掻けるはずがない。俺の思考がフリーズしていると。

 

「ごめんなぁ、本当にごめんなぁ、ネズハ」

 

 おい、止めろ。舞台を壊すな。折角できた舞台を壊すな。ブレイブスのメンバーが膝をつく。すると、俺の意思に反して周りの空気が鎮まり、怒りが萎えていった。

 

 ふざけるな。キリトならわかる。あの英雄様に邪魔されるならわかる。アスナも予想できた。だが、お前らが舞台を壊す?ダメだダメだ!鍍金如きが舞台を壊していいはずないだろ!

 

 やがて、真ん中の男がわなないているが毅然とした声がコロシアム中に響いた。

 

「……ネズハは俺たちの仲間です。ネズハに強化詐欺をやらせてたのは俺たちです」

 

 この言葉と共に俺の描いた脚本は確かに崩れ去った。

 

 

「hey!久しぶりだな《ジョーカー》」

 

「……ええ、久しぶりですねェ。PoH」

 

「おいおい、どうした?不機嫌そうだなぁ。なんかあったか?」

 

 ええ、ありましたとも。鍍金ごときに邪魔されるというこの上なく腹立たしいことが。あー(怒)腹が立つ。思い通りにいかないことがこうも腹が立つとは。ある意味で初体験だ。

 

「知ってるくせに尋ねるとは性格が悪いですねェ」

 

「what?どういう意味だ?」

 

「あの一層の時に叫んだプレイヤーはあなたの手駒でしょう?」

 

 そう尋ねるとPoHはキョトンとした顔をしたと思うとニヤリと笑った。うえ、こんな嬉しくない笑顔初めてだ。まあ、何にせよ。

 

「次は成功してやりますとも」

 

「HAHA!そん時はオレも笑わせろよ」

 

「おこぼれでよければ。ああ、そうでしたPoH」

 

「なんだ?」

 

「強化詐欺危うく騙されるところでしたよ」

 

「Oh Sorry!Next time、I will try not to get out!」

 

 PoHの返答を鼻で嗤いながら背を向けて第三層へと歩を進める。騙しきれなかった悔しさを噛みしめながら俺は次の舞台へと足を進めた。




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