剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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9話 その後の剣術道場は

剛さん死亡の一報は、瞬く間に道場内全ての人間とその家族に知れ渡り、誰しもがその死を嘆き悲しんだ。

中には、剛さんの後を追おうとして切腹しようとする者まで現れた。

 

 

「大変だ!」

「なんてことだ…」

「下ろせ下ろせ!」

「嫁さんまで…」

 

それからすぐのこと、唯一家に取り残されてしまった、朱雨の母であり剛さんが生前愛してやまなかった嫁さんまでもが、この短い期間で夫と息子という2人の家族を一気に失った悲しみ故か、後を追うように首を吊って自殺してしまった。

 

 

「どうすんだよ」

「後継ぎいないぞ…」

「ってかアレ(・・)と張り合えるやついるのかよ」

 

やがて、師範なるものが消えた道場は見る影もなく落ちぶれていった。剛さんと朱雨という圧倒的な実力者であり纏め役なる者がいなくなったことから、道場内の治安や風紀は乱れに乱れ始めた。

そして、その道場主不在の噂を聞きつけてか、混乱に乗じた有象無象が足を運んできた。

 

 

 

 

「ここかぁ?しょうもない剣術道場なんてやってるのはぁ?」

「いい所にあるじゃねえか」

「さっさと受け渡してもらおうかねぇ」

 

まるでこの時を待っていたかのように、変な輩が道場の看板を奪いにやって来た。

鋭く尖った目付きに腐ってそうな性根。いかにも悪人の風貌をした武士崩れの男3人組だった。

 

「なんだお前ら!」

「まあまあ、話を聞けって」

「何が目的で来た!」

「いきなりだな?まあいい。剛って輩がいなくなって可哀想な道場の後を繋ぎに来たんだよ」

「ふざけんな!」

 

何を言い出すかと思えばこんなこと。こんな奴らなんかに道場を取られるわけにはいかない。そういった思いで俺たちは奴ら相手に奮戦するも、剛さんのいなくなった道場は士気が落ちるところまで落ちており、呆気なく看板は取られてしまった。

 

そうして道場は乗っ取られ、新たな道場主とその取り巻きには奴ら3人がついた。

 

それに伴い、俺を含めて半数以上の人間が、この道場を辞めていった。

その後、あっという間にかつての道場は没落の道を辿り、風紀の乱れた崩れ者の巣窟と化した。

 

 

「剣術道場は手に入った!次は隣だ!」

 

そして次に奴らが目標に定めたのは、この剣術道場に隣接した別の道場施設。

そこは元々、剛さんが幼い子どもだった数十年前までは空手系の道場をやっていたらしいのだが、俺が剣術道場に入った頃には婆さん1人がいるだけの、何もやってない場所でしかなかった。どうも、そこも後継者不在によって廃れ、先代主の妻である婆さんがたった1人で管理していたらしい。

そんな中、空っぽ状態の道場が奴ら3人組に屈さずにいられるのかと案じたが、ここで奴らにとって想定外のことが起こる。

 

"婆さんが道場の管理権の譲渡を断固拒否した"

 

奴ら3人組は道場の跡取りとして相応しくないとの事で、大金を弾まれたにも関わらず、婆さんは固い意思で道場を護ったのだ。

 

これに関しては、まさかの事態に奴らも一瞬狼狽えたらしい。そのまんま勢力拡大もしないで、というか剣術道場からもいなくなって欲しかったのだが…。

 

けど、その出来事が奴らを止める原動力にはならない。

 

奴らは陰湿な嫌がらせを開始。落書きだの物を投げ込むだのやりたい放題だった。

 

もう正直、見てられない。

 

 

 

(…朱雨、もし生きているのなら、早く戻ってきてくれ)

 

剛さんが生前にずっと信じていた、朱雨が今もどこかで生きているという可能性に俺はかけた。

 

 

 

…そして今、1年半の時を経て、朱雨は戻ってきた。

歴戦の猛者を風貌を纏い、

 

 

 

__人間を辞めて(・・・・・・)

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

「…そんな事が」

「そうだ、お前がいなくなってからの事だ。すっかりあの道場は腐り果ててしまった」

 

なんて酷い話だ。俺が何も言わず、鬼になってしまったことが、こんな事態を招いてるなんて。

俺はただその場で自身を悔いるしか無かった。

希望に満ちた第2の人生がこうも…まるで人間の醜さが詰まったような…。

 

(人間の醜さ…?)

 

その言葉が、何処か俺の中で引っかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「返せよ!ふざけんな!」

「…悪いが精神鑑定の結果だ」

「嘘をつくな!俺はソイツが呑気にお茶してるのを見たぞ!」

「…っ!いいから帰れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くたばれ老害!」

「お前!警察だぞ…」

「…お前が裁かれなくて…俺だけが…?ふざけんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは…俺の前世か何かか?)

 

 

 

 

その時、妙に俺の心の詰まりがストンと落ちた気がした。

 

前世に感じた"世界への復讐"という強い思念が蘇り、今日に至るまでの第2の人生でもまた人はそこまでの蛮行に及べることを知った。

 

 

 

 

 

 

「…朱雨、今すぐじゃなくてもいい。ただ、時間の空いてる時でいい。1度、お前自身の目で道場を見て欲しい」

 

そうとだけ言うと、彼は踵を返してこの場を後にした。

 

 

「……人間の醜さ…か」

 

あの時の剣術道場の面影は、人の死に付け入る武士崩れのクソ共に壊され、かつての仲間たちも一部はソイツらと一緒に、事に及んでるって訳か。そいで別道場にまで嫌がらせを行うとはもはや人のやることでは無い。

 

「…ははは。俺は、どうすればいいのかな…?」

 

乾いた笑いしか出なかった。

 

(この怒りの矛先はどこへ向ければいい?人の死を利用するクソどもか?鬼狩りか?俺か?道場をやめたやつか?)

 

ただ、明確な人間への恨みと殺意だけが俺の生き様へと繋がり、俺の鬼としての力に繋がっていくような、そんな感覚がしており、その矛先の向けられる相手なんて…

 

 

「俺のやりたいことって……」

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

ベベン

 

聞き慣れた琵琶の音が聞こえた。

 

「久方ぶりだな、朱雨」

 

地面が割れ、俺の体は重力に従って自由落下する。それと共に、我が頭領である無惨様の声が聴こえた。

 

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

朱雨の母と朱雨の同門(この話の語り手)はメインキャラでもないので名無しです。また、この人はかつて1話で朱雨と剛の他にもう1人いた語り手だった人と同一人物です。
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