剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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神天宮さん、評価8ありがとうございます。

今回は今までの勘違い回収会なのでやたらと無惨様が説明口調。


10話 無限城再来

周囲を障子やら畳やらで無作為に囲った、上下左右の概念が存在しない異次元空間。

 

「久方ぶりだな、朱雨」

 

我が鬼の頭領である無惨様の居城、無限城に俺は召喚されていた。

地面に着地するや即座に無惨様に向けて膝をついて頭を下げる。

 

「お久しぶりです」

 

前にお顔を合わせた際は、普通に血も涙もなく嬲り殺されると思ったのに、1年半という長く短い時を経ってお顔を合わせてみれば、まるで聖母のごとく偉大な御方に謁見させていただいているような、我ながら恐れ多い貴重な体験の事のように感じる。

 

「ずっと、お前の様子を陰ながら見ていたぞ」

「ははっ、有り難きことです」

 

俺は、どうやら無惨様に見張られていたらしい。

なんと心地好いことか。俺のような人を捨てきれてなかった下級鬼にお目をつけて頂くだなんて、鬼生冥利に尽きることこの上ないですな。

 

 

「今日お前を呼んだのは他でもない。…が、その前に少し言うことがある」

「はい、なんでしょうか?」

 

何だろう?無惨様のなさることは先が読めないことが多い故、何をするにしても楽しみでしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グボォ!!」

 

今の声にならぬ喉から空気が洩れたような声は俺の声。

無惨様は、自身の爪を俺の首に突き立てている。いや、突き立てるどころか完全に首の皮を貫通している。

 

「…ずっと見ていたがお前は、未だに行動やら言動が人間臭すぎる。お前は鬼であるという自覚がないのか?」

 

無惨様の血が俺の体内にドクドクと流れ込んでくる。それと同時に、鬼としての本能を呼び覚ますようにという、無惨様の潜在内に潜んでいるかのような声が、ずっと俺の脳内で木霊している。

 

「加えて鬼となった矢先、墓荒らしなどくだらないことをして上から2番目の位に位置する鬼狩りと遭遇し、越後の国でも鬼狩りの柱と遭遇するとは、いつまでも先見性に欠ける奴だ」

 

あれ…?無惨様、上から2番目の位の鬼狩りって…?

もしかして俺、癸だと勝手に思ってた?上から2番目といえば乙だ。乙が拳で死ぬのか。鬼狩りの柱以外はそんな大したことないな…。

 

越後の国に関しては、返す言葉もないです。

 

 

「お前は何の為に黒死牟の推薦を受けたのだ」

 

(…黒死牟の、推薦?)

 

あの時の俺は、殺される為に連れてこられたわけじゃなかったのか?

ずっと、俺は鬼として、無惨様直々に期待されていた……のか?

 

「…人を捨てきれぬ点は愚かだが、お前の血鬼術、念力とやらは将来性があって興味がある。加えて貴様は黒死牟と同様に刀も扱える。お前には、期待しているぞ」

 

「…あ、有り難きお言葉……」

 

流れ込んでくる無惨様の血と、寛大なお言葉が俺を昂らせる。俺は掠れた声で感謝の意を述べた。

 

「…ついでに…だ」

「あ"っ"!!」

 

無惨様が俺に血を注ぎながら、目の中に手を入れてきた。物凄い激痛に、俺は打ち上げられた魚のごとくその場で跳ね悶える。

 

 

「……ようやく、強い鬼を12体ほど揃える手筈が整った。まだ試験的段階ではあるが、今日からお前を"十二鬼月"の、"下弦の陸"とする」

 

意識が朦朧とする中、無惨様のその声が俺の脳内で響き渡った。

 

「…十二鬼月…ですか?」

「あぁ、私直属の精鋭の12体だ。既に鬼狩りの柱を殺しているお前なら、決して力不足な立ち位置では無いだろう?」

「…はい」

 

確かに俺は湯沢で、炎柱を殺して食った。

その戦果も、無惨様は見てくれていた…。

 

 

…人間はすぐ裏切るのに、無惨様は、ずっとこんな俺の事を見てくれて…いた……。

 

 

「お前には期待している。今後も私の為に励め」

 

そうして無惨様は俺の目から腕を離した。目に残る確かな鬼としての感触が、俺の心を昂らせた。

 

(…そうか、俺のやりたかったことは)

 

無惨様の有り難き声を聞き届けた私の意識は、その場で一瞬にして暗転した。

 

 

 

 

 

(__鬼として力を蓄え、無惨様の為に生涯尽くす事だ)

 

________________

 

 

「……………」

 

完全に気を失っていた。パッと目が覚めたらそこは見覚えのある無限城の畳の上。けど、今はこの場所が前と違ってかなり心地好い。鬼にとって、この場所は極楽も等しい。

 

(…ってか何してたんだっけ)

 

無惨様に血を頂いて、ついでに有難いお言葉をかけていただき、俺の目に新たな称号を刻印して頂いて…。

 

 

 

「目覚めたか?」

「おわぁ!」

 

仰向けになって倒れ伏す俺を覗き込む侍の風貌を纏った鬼、黒死牟。その目に書いてあるのは、上弦の壱…。

 

「…刀を取れ」

「はい?」

「模擬戦…するぞ……」

「あっ、やるやる!やります!」

 

どうやら相手は俺を推薦してくれた黒死牟みたいだ。俺は勢いよく飛び起き、刀を抜いた。

 

「…整ったな」

「はい……」

 

上弦の壱、つまり俺の直属の上司になる訳か。

 

…ってことは今、敬語使わなかったの不味くない?あと、さっきまでずっと心の中で呼び捨てしてました。これからは黒死牟さんと呼ばせて頂きます。

 

「…来い」

「はい、行かせていただきます」

 

俺は全身の集中力を研ぎ澄まし、黒死牟さんに斬り掛かる。

 

「でやぁァァァッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンと鋼同士がぶつかる音が鳴った。

 

「…ぐぅ」

「ほう、前より強くなったな」

 

俺の刀は黒死牟さんに受け止められる。が、以前より黒死牟さんに少し本気を出させているのが、自分でもわかる。明らかに、黒死牟さんが俺に向ける闘気が前より圧倒的に強い。

 

「…まだ行けるだろう?」

「当然です!」

 

鍔迫り合いをやめ、俺は黒死牟さんと距離を置く。

 

(…とはいったものの、この人の剣技には普通では届かない気がする)

 

だからといって、念動力の血鬼術を用いる訳にはいかない。

俺は今、黒死牟さんによって試されているんだ。それ即ち、鬼による呼吸使い同士のぶつかり合いであり、同じ侍という刀を用いて戦う者達の白刃戦。

 

 

「ならば…」

 

全身に呼吸を巡らせる。いつもの全集中の呼吸だが、それを今回は俺だけじゃなく、剣にも纏わせる。

 

 

「…全集中、……の呼吸」

 

俺の呼吸に、名前はまだない。

 

 

________________

 

 

 

無惨様が、12体の精鋭鬼集団、"十二鬼月"を結成してすぐのことだ。

 

 

『朱雨を…十二鬼月に入れる』

 

 

無惨様はそう宣言なさった。推薦した私としては、ほんの少しではあるが数年ぶりに嬉しいという感情を抱いた。

もっと効率的に鬼狩りを殺害し、この世のどこかにある筈の青い彼岸花を探し出す為にと、新参古参の鬼問わず実力ある鬼に上弦と下弦の壱から陸の数字で強弱の基準を用いて、今後は無惨様直属の精鋭集団として活動していくとのこと。

 

かくいう私も、この度十二鬼月最強の各位である"上弦の壱"の位を拝命した。

とはいえ、まだ試験的な面を含んでいるため、一部の席は未だ空白となっている。例を挙げるなら上弦の弐から伍、下弦の壱と肆と陸の席が埋まっていない。それ故、十二鬼月と銘打ってるが、実質的な人数は現在5体と半分で、朱雨が加入することでようやく半分となる。

 

(朱雨、かつてお前が人の頃に私に見せた実力なら、1年半程の経過で何処まで行ける?)

 

そうして私は、意識を取り戻した朱雨の下へと歩を進めた。

 

「目覚めたか?」

「おわぁ!」

 

…驚かれる筋合いはないのだが。

私は無惨様と朱雨のやり取りの頃には近くにいなかったが、少なくとも気を失っている間は隣にいたぞ。

 

(…さて)

 

朱雨、お前の無惨様から見た十二鬼月として相応しい地位は何処なのだ。

そういった期待の思いで、私は目を開けた朱雨の顔を覗き込んだ。

 

 

 

(…下弦?)

 

朱雨の、無惨様から見た十二鬼月としての位置は下弦。加えて、まさかの最下層の陸だった。

 

(…練度が足りぬか)

 

この1年半、お前は何をしていたのだ?

刀の腕が落ちたか?それとも血鬼術の問題か?

 

「…刀を取れ」

「はい?」

 

お前を、下弦の陸に留まらせる訳にはいかない。ここで、試す。

 

「模擬戦…するぞ……」

「あっ、やるやる!やります!」

 

朱雨も立ち上がり、刀に手をかけてやる気のようだ。意欲的ならなお好都合。

 

「…整ったな?」

「はい……」

 

お前の剣が磨かれれば、いずれ私と同じ上弦にまで上り詰めることが出来るはずだ。

 

「…来い」

「はい、行かせていただきます」

 

随分と律儀になったものだと思いつつも、私はひしひしと朱雨から漂う覇気に武者震いを感じていた。

 

 

 

 

 

(…気配が、前までと違う)

 

先程、無惨様から新たに血を貰っていた。恐らく、それで朱雨には精神的に大きな変化が訪れている。

 

(…これは、来る)

 

「でやぁァァァッッ!!!」

 

そうして、朱雨が掛け声と共に私目掛けて斬り掛かってきた。

 

 

(速い!)

 

斬り掛かる速度が前より明らかに上がっている。鬼としての邁進か、あるいは朱雨個人としての実力か、どちらにしろやはり大きな成長が起きている。

 

 

 

「…ぐぅ」

「ほう、前より強くなったな」

 

私は朱雨の刀を正面で受け切る。

…確実に、身体的にも前より進歩している。それに、全身で朱雨から感じる全集中の呼吸の精度も、前より遥かに上だ。

 

だからこそ、こちらも本気で挑むのが礼儀というもの。

 

「…まだ行けるだろう?」

「当然です!」

 

持久力にも高みがかかっているのか、あれほどの強い力がぶつかった鍔迫り合いの後にも関わらず、朱雨の動きには乱れというものがない。

 

やがて朱雨は呼吸を全身、そして刀にも纏わせる。

 

 

「…ならば」

 

(…来たか)

 

…お前も遂に、全集中だけでは無い、自身の呼吸を身につけたのだな。

 

 

「…全集中、……の呼吸」

 

まだ、朱雨は自身の呼吸に名前をつけていないようだ。

 

(だが、気配は始まりの呼吸に近い)

 

 

 

 

それも、日の呼吸(・・・・)に、だ。

 

「…全力で、お前に応えよう」

 

私は改めて刀を握り直した。

 

 

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

朱雨は若干サイコパスの素質がある。
今後はそれを念頭に彼を見てほしいシーンがチラホラある。
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