剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
今回よりあの人が登場!
シリアス「あれ?俺は?」
作者「ごめんね、君の出番はもうちょい先なんだよね」
シリアス「…でもそんな出番ないよな?」
作者「うん、ないね。だから大正時代まで待ってね」
シリアス「え?」
あれから、40年の時が経った。世紀を1つ跨ぐほどの長い年月が経ったが、鬼である俺にはあっという間に感じてしまった。
この40年で俺を取り巻く環境にはだいぶ変化があった。
まず、俺が入りたての頃は欠員と空白だらけだった十二鬼月も、身を置く鬼がちゃんと12体出揃うようになった。在籍する鬼が鬼狩り共に討伐されてその枠が空白となれば、代わりの者を繰り上げで加入させるという流れも出来、既にこの40年で上弦の鬼は3体、下弦の鬼は30体ほどが入れ替わっている。
そんな中、未だに俺はしっかりと十二鬼月の古参として残り続けている。鬼狩りの柱も水柱3人に炎柱1人、鳴柱2人などその他霞や風の柱の計9人ぐらいをこの40年で殺した。
この功績は大きく、下弦として地道に経験を積んできた俺は、1年ほど前から
あと、拠点が進化した。今まで長らく洞窟暮らしをしていたのだが、しょっちゅう武者修行と称してあちこち出かけるので、その度に拠点を変更していた。そしたら、無惨様よりこんなお達しがあった。
『招集かけづらい!無駄に放浪するな。お前の育った川越に拠点をやるからそこに住め』
だとの事です。本当に申し訳ないです無惨様。なんと御広い心で、拠点を下さるとは…。
そうして俺が住むこととなったのは5年ほど前から誰も住まなくなった町外れの屋敷。外観はかなり不気味だったが、鬼の俺が恐れるものなんてないので気にしない。それに、そのおかげで人が寄り付かないので、無駄に鬼狩りを呼び寄せることも無い。たまに刀の音が勝手に鳴ったり呻き声が聞こえたりするものの、『殺すぞ!』って叫ぶと基本止まるから住めないことは無い。ということで5年間ここに足を埋めている。
ところで、だ。話は変わるが、俺は40年の時を経て、ある欲が出てきたんだ。
『今、道場はどうなってるか見に行きたい』
人だった頃の生活など、黒歴史でしかないというのに、帰巣本能か、40年前に酷く絶望したあの道場に、この長い時を経て変化があったかもしれないという、ありもしない僅かな希望を探してみたくなった。
___それに、俺は約束していたんだ。40年前のあの日に。
『…朱雨、今すぐじゃなくてもいい。ただ、時間の空いてる時でいい。1度、お前自身の目で道場を見て欲しい』
すっかり、頭から抜け落ちていた。
心の奥底から人は嫌いだが、元同じ道場仲間の言葉だ。彼がまだこの世にいるかは定かではないが、かつて共に稽古した仲間との約束のため、騙されたと思って1度様子を見に行ってみる価値はある。
ならば善は急げと、太陽が沈んだ後ということもあって、道場へ向かう俺の足は素早く軽かった。
(…何処だったかなぁ)
今の拠点を出るなり、血鬼術で町の入口まで瞬間移動した。いまいち道場があった正確な位置を覚えていないので、提灯を片手に夜の町を歩いて、土地勘を取り戻していこうと思う。
「…懐かしいなぁ」
実際にかつての自分を辿るように歩くと、この川越という町そのものに懐かしさが込み上げてくる。
40年前とは異なり、日が沈んだ夜でも提灯を持って出歩く人が増え、人っ子1人いない路地を闊歩する事は出来なくなった。よく武士や商人とすれ違うようになったし、普通の街道を調子乗って提灯無しで歩くと逆に不審で目立つ。
ならどう移動するのか、上でしょ。色んな建物の屋根を瞬間移動の血鬼術で伝っていくのが、誰にも見つからない1番確実な手段だった。例え誰かに見つかって2度見されても、2度見される頃にはとっくに別の場所に瞬間移動してるからね。
(…確かここだったな)
そうして建物の屋根から、剣術道場の目の前に着地する。
(っつっても誰もいなさそうだな…)
当然である。既に日が沈んで結構な時間が経っている。夜という地を照らす光が月しかない時間帯、下手をすると自宅にすら迷って帰れなくなるし、誰もいないのはよくよく考えれば当たり前のことか。
…夜になって迷って自宅に帰れなくなった奴が40年前にもいたからねぇ、ここに。
「…また天気悪い日にでも来るかぁ」
日光が出てない雨や曇りの昼間にでも出直そう。そう思って踵を返して拠点に戻ろうとした時のことだった。
(…この声、誰かいる?)
こんな時間だと言うのに、微かに人の声と地面に足を何度も強く打ち付ける音がした。
(この道場からじゃあない…?)
耳を澄ませて音を辿ると、どうもその音はこの道場からではなく、
(…誰かが継いだのか?)
そこにはかつて先も短そうな1人の婆さんしかいなかったというのに、この40年で何か変化があったというのか。
(…ちょっと様子見てみるか)
当初の予定にはなかったが、俺はふらりと隣の道場に行ってみることにした。
…不思議と、懐かしい感じを思い出しながら。
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「…あと100回だ」
俺の名は狛治。この素流道場に身を置いて半年になる15歳の門下生。
「ふん!ふん!」
今は日課としている拳の打ち込みの最中。
日中は多忙な師範に代わり、常に付きっきりで病弱である師範の娘を世話しなくてはならない。それ故に昼間は稽古が出来ないため、こうして日の沈んだ夜にこの道場で1人励んでいる。
「あと50回!」
残り回数が半分を切る。勿論、ここで手を抜いたりはしない。
「ふぅ…今日はこれで終了だ」
俺は額に流れた汗を拭った。
明日も朝早くから彼女の看病をしなくてはならないというのに、すっかり遅くなってしまった。
(早いところ床につかなくては…)
俺はひとつ体を伸ばすと、寝支度をしに道場の出口に足をかけた。
____誰かが、俺を覗いている?
妙な気配を察知した。背後か、上か、何処からか、俺に対する妙な視線をぶつけている奴がいる。
「…いるんだろう?出てこいよ」
こんな夜も更けた時間帯に、こっそり俺の稽古を覗くとは不審極まりない奴め。とっ捕まえてやらなくては。
「…これは凄いなぁ。人間の癖して俺の気配に気付けるんだ?」
そうして俺の背後に現れたのは、俺よりも身の丈が僅かに小さい齢15ほどの、不思議かつ不気味な雰囲気を醸し出す、左腰に刀を差した男だった。
(…なんだコイツは?)
人よりも若干白い肌に、人とは思えない宵の明星のような紅い目。そしてその紅い目には、左右にそれぞれ陸と上弦という文字が刻まれていた。
容貌からすれば、町で噂程度に耳にしたことがある化け物、人喰い鬼そのものだった。
「お前、何者だ」
「俺の名は朱雨。上弦の陸の鬼だ」
上弦の陸…?
聞き慣れない単語が聞こえたが、その言葉が圧倒的に強大な意味を持つことには、奴が纏う覇気から一瞬で判断着いた。
「…その上弦の陸とやらが、何をしに来た」
俺でも簡単に分かる。コイツは相当強い。鬼というだけあって、見た目の幼さの割に奴は歴戦の強者の空気の持ち主だ。何故こんな得体の知れない者がここにいるのか、俺には理解が追いつかなかった。
だが俺はこの素流道場の未来のためにも、ここで奴相手に怯むわけにはいかない。勝てるかなんて分からないが、俺にはそれ以上に護るものがある。絶対に引けない。
そうして、俺はいつもの姿勢で奴を見据えた。
「いやいや身構えんなって。俺は今回ばかしは殺し合いをしに来た訳じゃない」
「…じゃあ何をしに来た」
「それはだねぇ…フフフ…」
鬼という人外の化け物らしい悪どい笑みを浮かべる仕草がまた、コイツの異様な不気味さを引き立てている。
(…本当になんだコイツは)
鬼とはこんなものなのか。奴の言動からするに、人間のことはあまり好ましく思っていないようだが、かと言って俺と敵対しようという気力は見えない。段々、無駄に身構えている俺が馬鹿馬鹿しくなってきた。
「…でも、君もうすぐ寝ようとしてたんだよね? 何だか邪魔しちゃったみたいだし、また明日の夜来るよ。それじゃあね」
それだけ言うと奴は最初からそこにいなかったかのように、一瞬で姿を消した。
(…不思議な鬼だったな)
頭の何処かに奴が引っかかってるのを感じつつ、明日に備えて寝支度を始めるのであった。
もう既に、奴が近くにいる気配はなかった。
ー江戸コソコソ噂話ー
前回で可哀想だと思わんのか!って叫んだ老人は将来の半天狗さんで合ってます。朱雨を上弦の鬼に入れるためには1人ドロップアウトしてもらう必要があり、後々詳しいことは書く予定ですが、朱雨が1番憎み嫌うタイプの奴を人間の時点で消し飛ばしておこうと思った所存です。