剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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タイトルを久々に真面目にか書かなかった気がする笑


15話 パワハラ会議は素流道場の後で

 

 

 

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(ここか…)

 

音を辿り、隣の道場までやってきた。板の床を力強く踏み込む音が塀を挟んだここまで響いてくる。

 

「どれどれ…?」

 

その塀を跳躍でよじ登り、中の様子を窺う。提灯も持ってない以上、もはやしてる事コソ泥と何も変わらないし、誰かに見つかったら騒がれそう。

 

「ふん!ふん!」

 

そこには、短髪の少年が自らを鍛えんと正拳突きの鍛錬をしている姿があった。

 

(…よく頑張るなぁ)

 

彼を見て、ふと人だった頃をぼんやりと思い出す。俺もかつては剣術道場で毎日無心に刀を振っていた。親父にいつもぶちのめされて、絶対親父を超えてやるって…感じだった。人間だった頃は黒歴史だしあんまり思い出したくはないんだけど、この件に関してはまた別。

 

「あと50回!」

 

熱心に頑張る彼の姿が、毎日脇目も振らずに刀を握っていた昔の自分の姿と重なる。

 

(感心するな…)

 

人間は脆く醜い下等生物。そう信じるようになったあの日以降、40年間感じたことの無い"感心"という感覚が俺を支配する。

 

「ふぅ…今日はこれで終了だ」

 

俺は鬼になって初めて(・・・)、顔も名前も知らない部外の人間に興味を抱いたかもしれない。

 

 

 

 

 

「…いるんだろう?出てこいよ」

 

これで終わると思いきや、道場を去ろうとしていた彼が、ふとその足を止めてそう口にした。

 

(…へぇ)

 

こっそり覗いていたつもりだったのに、彼は微かな俺の気配に勘づいた模様。

…こうなっちゃ、黙って去る訳にもいかないか。

 

「…これは凄いなぁ。人間の癖して俺の気配に気付けるんだ?」

 

俺は瞬間移動の血鬼術で奴の背後に移動する。彼は、背後の俺に気づくなり即刻身構えた。

人間の身でありながら俺の気配に気づいた奴なんて、鬼狩り以外ではこれが初だ。素直に賞賛の意を送りたい。

 

「お前、何者だ」

「俺は朱雨。上弦の陸の鬼だ」

「…その上弦の鬼とやらが、何をしに来た」

 

この間にも彼が向けてくる殺気は凄まじい。俺が鬼であるという事にも怯む様子を見せず、まるで部外者である俺に対して『何しに来た殺すぞ』と言わんばかりの迫力。

 

「いやいや身構えんなって。俺は今回ばかしは殺し合いをしに来た訳じゃない」

 

本当に今回ばかしは殺し合いをしに来た訳じゃない。

今回ばかし(・・・)、はね。

いつも俺の気配に気付くのは鬼狩りの柱とかだし、その時はちゃんと残酷な鬼らしくズタズタにして殺してる。

 

「…じゃあ何をしに来た」

「それはだねぇ…フフフ…」

 

俺の気配に気づけても、やっぱり彼は鬼狩りとは無縁の人間なんだなと思う。彼、俺を見据えて少し恐怖で震えているんだ。

武人でありながら、人間らしさも一緒に兼ね備えているものだから、思わず笑ってしまった。

 

…こんな感情、この俺が人間風情相手に抱くのは柄でもないが、少し彼が可哀想に思えてきた。

 

「…でも、君もうすぐ寝ようとしてたんだよね? 何だか邪魔しちゃったみたいだし、また明日の夜来るよ。それじゃあね」

 

そう言って、俺はこの場を後にした。

初めて、こんなに興味を持てる人間を見つけた。せめて、お楽しみは明日まで取っておきたい。

 

(…あの健気に修行に打ち込む努力家の姿。彼がもし鬼になったのなら、俺と同じ上弦の鬼になれるかもねぇ)

 

そう、彼の将来の姿を思い浮かべている矢先の事だった。

 

ベベン

 

いつもの軽快な琵琶の音が鳴り、俺の真下に突如障子が現れ、重力に逆らえない俺はそのまま落下する。この特徴が示すもの、そんなもの1つしかない。

 

「緊急事態だ。早く来い!」

 

無惨様による、俺ら十二鬼月のご招集だ。

でも、何だか無惨様は少々お怒りの様子だった。

 

________________

 

 

私は今日、あまり機嫌が良くない。また十二鬼月の1人、しかも今回は上弦が鬼狩りによって討たれたのだ。十二鬼月を結成して40年になるが、つくづくコイツらの存在価値を疑ってしまう。

例により、今回も十二鬼月が討伐された際に恒例となる緊急集会を開く。

 

「まだ全員揃わないのか鳴女」

「…申し訳ありません。上弦の陸(・・・・)の朱雨なのですが、今現在拠点にいないらしく、未だ座標が掴めません」

 

またアイツか。既に他の連中は揃っているというのに、朱雨はいつも来るのが最後になる。

奴の瞬間移動は、戦闘にも応用が効く強力な血鬼術だが、こうして招集かける際、鳴女に言わせれば『座標が掴みづらくなるから不便』だとのことで、鳴女と私は今回も朱雨を見失っている。

 

「…!いました!川越の町から自分の拠点に戻ってる最中みたいですね」

「そうか、すぐ呼べ」

 

そうして鳴女の琵琶と共に、宙の穴から朱雨が落ちてくる。

 

「緊急事態だ。早く来い!」

「分かりました!」

 

私が強い口調でそう言うと、朱雨は自分の立ち位置を理解したのか、即座に降りてくるなり上弦の伍の…といっても今回の議題はソイツの死についてだからな。

朱雨は見当たらない上弦の伍の姿をキョロキョロと探していたが、やつがこの場に居ないことを把握し、上弦の肆の隣に膝を着いて頭を下げる。

やはり朱雨は不器用な点こそあるのだが、心の中を覗く限り私に対する忠誠も、血鬼術と刀を用いた実力も、どちらとも本物だ。その点は評価してやっても構わない。私が鴉を黄色だと言えば奴も黄色だと言うし、実力で鬼狩りを10人以上葬った点に関しても、既に他の上弦にも劣らない才の持ち主なのだ。

 

「…さて、上弦の陸も揃ったところで本題に移る」

 

その場にいる11人が、頭を下げながら私の話を聞く姿勢となる。

 

「…先日、上弦の伍が鬼狩りに討たれた。つくづくお前たちは私の期待を裏切ってくれるな。何故お前たちは私の役に立てない」

 

これに関して、残った十二鬼月の面々は様々な事を心の中に浮かべていた。面目ないと反省の念を示す上弦の壱の黒死牟に、俺らに言われても知らんと恍ける下弦の肆、上弦の伍より自分の方が役に立てると自信に溢れる下弦の壱など、心の中で考えてる事は各々で異なった。とりあえず下弦の肆は後で処分だ。

 

(…朱雨は)

 

頭を下げつつコイツは何を思っているのか読み取る。いつもなら、『そんなヤツより俺の方が柱を粉々にして潰せる。いっそ殺すより四肢ちぎり取って放置してやろうか』などといった残虐かつ自信に満ちた私の期待通りの答えが帰って来る。

さて、今日はどんな答えを頭に思い浮かべているのか。

 

(…素流道場のあの子、普段何してる子なんだろう。鬼になったら絶対上弦の伍なんて屁じゃないぐらいには強くなるんだろうなぁ…)

 

もはや私の問いに対する答えにすらなっていない。最後にここに来ておきながら、随分と上の空な空想をしている。

まったく期待外れかと思ったが、最後の上弦の伍なんてから続いた後の内容には少し興味がある。

 

元々、私としては同族()というのはあまり増やしたくない。それ故、元から将来性のある鬼を選別して少数精鋭でやるか、なんなら最初から太陽克服か青い彼岸花のどっちかを持った奴さえ現れれば良いと思っている。元より、その素質を持った輩を効率良く探すために、わざわざ十二鬼月なんてものを作ったのだ。だから最初から将来的に満ちた強者がおり、ソイツが一騎当千の活躍なり青い彼岸花を見つけてくるなりする活躍を私に見せるのなら、私は無駄に人を鬼に変えたりなどせず、進んで前者をとる。

 

何より、あれほどまでに人間は醜いものだと嫌う朱雨が、ここに来て1人の人間に関心を持ったということに驚きが隠せぬし、私としてもソイツがどんな奴か興味がある。

果たしてソイツはどんな人間か、後ほど直接聞き出す価値はある。

…元より人間になど期待はしてないのだがな。今回は話を聞くぐらいはしてやっても良い。

 

「…まあ良い、今回の件は私の寛大な心で不問としよう。別件で少し気になることが出来た。全員の位を1つずつ上げ、下弦の陸に新しい者を入れれば良かろう」

 

目の前の者たちは『え?』と心の中で拍子抜けしている。こういった集会も長くなる時は一人一人尋問していたからな。緊急招集と謳っておきながらこんなに早く終わったのは初めてかもしれない。

あと、下弦の肆は『はよ帰りてぇ』だそうだ。やっぱりお前は死刑。

 

「…下弦の肆と上弦の陸は残れ。話がある。それ以外は解散だ、鳴女」

「…はい」

 

そうして2人を除く連中は、鳴女の血鬼術によって元いた場所に返された。この場には私と件の2人だけが残り、2人は頭の中でそれぞれ違うことを思い浮かべていた。

上弦の陸は『心当たりないなぁ。何だろう?』と思っており、下弦の肆は『さっさと帰して』と思っている。

下弦の肆、やはりお前は生きて返さん。

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

度重なる無惨様からの血液注入により、朱雨は初期の頃に持っていた鬼滅の刃原作知識及び江戸時代の歴史知識を喪失。これが第2の人生で転生したということすら彼の頭にはありません。彼の頭に残ってるのは、剣術道場で培った剣技とその剣術道場が乗っ取られたという事実、そして微かに残る前世の記憶の残滓のみです。当然ながら、彼の前世は1話冒頭で言ってた普通の大学生じゃ済みません。シリアスさんの出番です。
あとは鬼になってのことが記憶を埋めつくしています。鬼は人を食い続けて鬼の血が濃くなると、人間時代の記憶が段々薄くなるという設定があるので、つまりはそういうことです。
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