剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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久々に5000文字超えた。
不安定だなぁw

kasaphkkkさん、高評価9ありがとうございます。
みにさん、高評価8ありがとうございます。


17話 決闘

それは前触れもなく突然にやってきた。

 

「…今日で恋雪のことは諦めてもらう」

「そう上手くいくといいけどねぇ」

 

剣術道場と素流武術道場の、互いの理念を掛けた試合が行われようとしていた。俺は剣術道場から漂う40年振りの懐かしい匂いに鼻を燻らせてるが、それ以上に気になることがある。

 

(なんで俺はここにいるんだろうか…)

 

こうなったのは、昨夜の出来事にあった。

 

 

 

 

 

「__俺は明日、隣の剣術道場の連中と試合をする」

 

唐突に狛治の口から発せられた言葉は、俺の過去の記憶を呼び覚ました。

親父と切磋琢磨して己を鍛えていたあの頃のこと。その後、俺が居なくなったことで道場が武士崩れの者たちに乗っ取られてしまったことを。

 

(…そうだ、俺は)

 

俺が狛治と会ったのも、かつての剣術道場の様子が気になって近くまで足を運んだからじゃないか。

 

「…何故?」

「奴らが許せねえからだ」

 

狛治がここまで怒りに燃える理由。聞けば先日、何者かが病弱の恋雪さんを狛治のいない隙を狙って強引に外に連れ出したという事件が発生したらしい。

狛治はその時用を足していたらしく手を洗って恋雪さんの元に戻ると、そこには恋雪さんの姿は無くあるのは恋雪さんの寝ていた布団だけ。狛治は大慌てで外に探しに行き、あちこち走り回ってやっとの思いで恋雪さんを発見した時には、恋雪さんは発作を起こしてその場に倒れ込んでいたという。あと少しでも見つけるのが遅れていたら、恋雪さんの命はなかったかもしれなかったらしい。

そして恋雪さんを連れ出した犯人は誰なのか、今日の昼ようやく意識を取り戻した恋雪さんの口から犯人が判明した。

 

隣の剣術道場の跡取り息子が犯人だという。

 

その跡取り息子、きけばかつて剣術道場を乗っ取った武士崩れ連中のうちの1人の子どもの子ども、つまりは孫にあたるやつらしい。つまり、俺にとっても先祖の仇にあたるやつとなる。

んで、ソイツがどうも恋雪さんのことを一方的に好いてるらしく、それが動機となって恋雪さんを強引に連れ出したそうだ。その連れ出した道中、恋雪さんは持病により発作を起こしてしまった。それで剣術道場の跡取り息子の馬鹿者は、いきなりの事で怖くなって恋雪さんを置いて逃亡してしまったらしい。それに激怒した慶蔵さんが剣術道場に文句を言いに行ったところ、明日決闘して今後の付き合いに関して白黒つける手運びになったそうだ。

 

「…そんなことが?」

「元々この素流道場は剣術道場にありもしない噂話広められたりとか嫌がらせされまくってる。そのせいで俺以外にこの道場には門下生が増えないんだ。遂に今日、堪忍袋の緒が切れたって感じだな」

 

剣術道場はこれまた3代で落ちるところまで落ちるどころか地面を突き破る勢いで腐りきっていったらしい。

 

「無責任かつ我儘とは随分イカれた跡取りだな」

「あの跡取り含め隣の道場連中は、20年前に武士階級でもない師範が道場を譲り受けたことが気に食わないんだってさ」

「そういう事か…」

 

 

40年前、武士崩れ共に大金をチラつかされても一切動じなかった婆さんは、20年前には存命だったみたいだけど、常識的に考えればもうこの世にはいない。この道場はあの婆さんが生前、いつか強い武人に託すまで護ろうとしていたんだ。それで選ばれたのが慶蔵さん。金の問題でもなく、武士という身分でもなく、ただこの道場に相応しい武人かが決め手になった。

 

それはそれとして剣術道場だ。俺は人間だった頃の話を狛治に一切していない。40年前、自分はあの剣術道場の跡継ぎの一人息子だったことを、まだ狛治には話してない。

 

___今思えば、俺が人のままで剣術道場の跡取りになってれば、ここまで人間に失望することなんて無かったのかもしれないしな。

 

「…狛治」

「なんだ?」

「俺の昔の話、少し聞いてくれるか…?」

 

俺はこの際だから、狛治にも全てを打ち明けておこうとした。剣術道場の人間だった頃の俺と、鬼になったことで剣術道場に齎した腐敗のことを。

 

「…朱雨がそんな意味ありげな面構えするのは初めてだよな。大事なことなら、是非聞かせてくれ」

 

神妙な顔持ちをしていた俺を察してか、狛治もじっくりと聞いてくれるようだった。

 

____しかし、そんな時だった。

 

 

「…狛治?こんな夜に誰と会話してるんだ?」

「「え?」」

 

照明の蝋燭を片手に、狛治の回想でしか聞いた事のない、あの(・・)人が足音を立てず静かにやって来た。

 

「師範…」

「日没後に来る客人とは珍しいねぇ」

 

俺はこの時、彼も狛治と似た匂いを持つ男だということを改めて認識した。

 

「…まあ、ゆっくりしていってくれな」

 

武人の気質を持つ、人間の醜い部分を極限まで削り取って出来たような人格、俺が抱く理想の人間像を成した人物、慶蔵さん(・・・・)がそこにいた。

 

 

「…いや待て。狛治の隣にいるお前は…さては人間じゃないな?…鬼か?」

「……………」

 

どうやら、俺の白い肌や紅い目などの人離れした見た目もあり、速攻で鬼であることがバレてしまった模様。狛治と話す時は擬態とか特にしないからまあ、当然っちゃ当然だけども。

けど、鬼は人を襲って食うってのが人間の間での常識。慶蔵さんが俺相手に一瞬で警戒し身構え始めたのも仕方の無いことだ。

 

「…まってくれ師範、コイツは鬼だが俺の友人だ。危険に思うことは無い」

 

すかさず狛治が慶蔵さんを宥める。

…しかし、狛治ですら俺と初めて会った時は身構えたんだ。慶蔵さんともあろう根っからの武人が鬼を前にあっさり警戒を解くとは思えないが。

 

「…なんだそうか、すまなかったなぁ。名前はなんというんだ?」

「…朱雨、朱色の雨で朱雨です」

「そうかそうか、朱雨というのか!」

 

俺は思わずキョトンとした。慶蔵さんは狛治の言うことならと言わんばかりにあっさり警戒を解いたのだ。これには俺も予想外。今思えば、元罪人の狛治をこうして受け入れている以上、元々そういったことに関しては寛容なのかもしれない。

 

「…まあ、そのなんだ。狛治には普段色々してもらっててな。忙しくて友人とかいなかったんだ。話し相手になれる友人が出来たのは俺にとっても嬉しいんだ」

 

彼の口からは、嘘偽りを感じない。そして慶蔵さんという人からも、嘘をついている雰囲気はしない。

この慶蔵さんという人は、改めて心の底から聖人なんだと感じた。

 

「…なら、慶蔵さんにもお願いがあります」

「ん?どうした?」

「…狛治と一緒に、俺の過去の話を聞いてください。剣術道場に、関わることですから…」

「師範、俺も朱雨の過去話は初めて聞くんだ。聞こうじゃないか」

「へぇ、そういうことなら是非ともききたい」

 

 

そうして2人は聞いてくれる姿勢となり、俺は昔のことを語り始めた。

 

 

俺が人間だった40年前、俺はかつて隣の剣術道場の跡取り息子だったことを。

けれども鬼になったため道場を離れることになり、跡取りにはなれず、親父も亡くなって後継者が不在となった所で、武士崩れ連中が現れて道場を全て乗っ取られてしまったことを。

そして剣術道場は腐った連中だらけの場所になってしまったことを。

 

 

「…2人には大変申し訳ないことをした」

「「…………」」

 

俺は全て明かした。人間だった頃のこと全てをだ。結果的に俺が原因で、間接的に素流道場が迷惑を被ることになってしまった。

「…確か、そんな噂を聞いたことがある。師範がこの素流道場を継ぐ前、隣の剣術道場はかつて跡取りがいたが、それが行方不明になったことで道場主が変わり、急激に形を変えてしまったと」

「…あぁ、それが俺だ」

 

普段はこんな人に対して罪悪感なんて抱かないのに、いつからこんな感情を抱くようになったのか。

きっと、狛治のおかげなんだろう。

 

「…なら朱雨、明日の師範と俺の試合、見に来てくれないか?」

「え?」

 

俺は斜め上の狛治の提案に思わずキョトンとした回答をする。一瞬まさかとは思ったけど、狛治の目は嘘偽りない、本気でものを言っている時の目だ。

 

「…確かに。もし剣術道場に負い目があるなら、朱雨の未練ごと俺と狛治が目の前で全部ボコボコにしてやれる」

「狛治…、慶蔵さん…」

 

加えて慶蔵さんまで賛同の意をくれた。

本音を言うと、彼らの試合は是非とも見に行きたい。でも、俺は鬼だ。この前だって襲ってきた鬼狩りを返り討ちにして殺している。そんな奴が、2人の試合なんて見に行っていいのだろうか。

 

「それにウチら側の観客いないと寂しいだろ?」

「あ、うん」

 

次々と不安の芽を潰されてる感じがする。結果、俺は彼らの試合にお邪魔することになった。

 

 

 

 

 

そうして俺はここにいる。人離れした見た目を隠すために鬼の力で上手く擬態し、素流道場側の見物人として端の方で2人の戦いを眺めることになった。

 

(しかし、これ2人に不利すぎるよなぁ…)

 

俺は決して2人の実力を低く評価している訳では無い。寧ろ人離れした強者であると認識している。

 

ただ、明らかに不利なハンデがある。

形式は1対1の勝ち抜き戦。ここまではいいが、素流道場の戦闘員2人に対して、相手は剣術道場の門下生100人近くである。加えて、こちらが素手で戦うのに対し、向こうは剣術道場ともあって木刀を使用。流石に骨が折れる戦いになるのではないかと、俺ですら疑っていた。

 

「試合開始!」

 

そうして始まった剣術道場と素流道場のお互いの理念をかけた試合、俺はここにいる誰よりも素流道場の勝利を望んで試合の行く末を見守っていた。

 

すると、当初は俺ですらも疑っていた素流道場の圧勝が、そこまで遠いものでは無いことを実感させられた。

 

 

「1本!」

 

先発の狛治が、9人連続で勝ち抜いていったのだ。1人、また1人と、狛治の拳と蹴りによって木刀ごと散っていった。中には、規則違反ギリギリの二刀流で挑んでくるような輩もいたのだが、狛治は側面からソイツの木刀を蹴りで叩き落とし、奴の顔面に裏拳を決めた。

 

「クソが…」

 

これには道場の跡取り息子も不快感を顕にし、悔しそうな顔を浮かべていた。

 

「もう2度と素流道場と恋雪に関わるな」

 

狛治は跡取り息子相手に冷静なままそう言い放った。狛治の圧倒的な強さを見た剣術道場の門下たちは、もう勝負するだけ無駄だとすっかり戦意喪失していた。

 

「…ふざけるなよ」

 

跡取り息子は悔しさで体を震わせる。そんな奴の表情が、まるで40年越しに剣術道場に復讐出来たみたいで、胸がスっとして気持ちが良かった。狛治と慶蔵さんが、昨夜俺の思いを背負って全部ボコボコにしてやると言葉通りのことを目の前でやってくれた。

剣術道場も落ちるところまで落ちぶれたのだろう。その実力は俺と親父には遠く及ばない程までになっていた。

 

「ざまあみやがれ」

 

俺は奴の耳に届かないぐらいの小さな声でボソッと呟いた。

だがそれが原因か定かではないものの、奴は怒りが頂点に達したようで思いがけぬ行動に出た。

 

 

「認めて……たまるかぁ!」

 

 

自暴自棄になり、奴は木刀でも竹刀でもなく真剣で狛治に斬りかかったのだ。

 

「あんの…」

 

俺は最悪奴を殺してでも動きを止めるべく即座に刀を抜くが、そこであることに気づく。

 

(野郎…丁度日の下にいやがる…)

 

剣術道場の複数の窓から降り注ぐ八つ時の傾き始めた日光が、狛治と跡取り息子を覆い尽くしていた。剣術道場との戦いの中で、日の向きの関係上俺は殆ど身動きが取れなくなっていた。

 

「狛治ィーーーーーーッ!!!」

 

俺が叫ぶ中、狛治は至って冷静だった。

次の瞬間____

 

 

「なっ…」

 

 

パキンという音を立てて、跡取り息子の持った真剣は根元から真っ二つに割れた。

 

(…なるほど、これは1本取られた)

 

今思えば、狛治ほどの実力者がこの程度のことに動じるわけがない。

___鈴割り、拳で側面から刀を割ってしまう技で、後で聞くに狛治が最も得意としている技らしい。

 

「…素晴らしい」

 

これには、相手方の道場主も豪く感心した様子で、素直に手を叩いていた。

 

「ウチの息子がすまない…、そして今までの数々の非礼、気づくことが出来ず誠に申し訳なかった。今後は息子を含め、こちらの人間がそちらの娘や素流道場とは一切絡まないよう、しっかり念を押しておく」

 

それに狛治と慶蔵さんが頷き、この1件は素流道場の意思が尊重される形で解決の方向となった。

 

それより、武士崩れのせいで完璧に腐りきっていたと思っていたのに、違った(・・・)。剣術道場にて今にも消え入りそうな人としての人情は、まだ辛うじて火を灯していた。

 

けど、だからといって俺の未練が完全に断ち切れた訳ではなかった。

 

(…まあ、いいか)

 

跡取りは隔世遺伝したのかまるで駄目だが、その間に挟まれた現道場主は、まだ(・・)悪くなかった。それだけでも、ある程度の収穫だったとこちらが妥協するしか無さそうだ。

 

「さて、戻るぞ朱雨」

「あぁ」

 

俺は一足先に瞬間移動で素流道場へと戻った。

暫くは素流道場も安定だと信じて。




ー江戸コソコソ噂話ー

なんか朱雨、昼間なのにアクティブすぎない?と思った方もおられるでしょう。朱雨は瞬間移動の血鬼術で日陰移動してたり、曇りの日を狙って街を歩いてたりします。日が差したら即死なのに謎の命懸け外出を頻繁にしております。
彼は念動の血鬼術のためか、少し頭の方も特異体質の模様です。
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