剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
独自設定また入ります。今回は原作でもあるあのシステムが導入されます。
俺は素流道場の縁側にて、恋雪さんと軽く小話をしていた。
「…もう、体は大丈夫なのか?」
「はい、皆さんのおかげで」
俺が素流道場に入り浸るようになってから3年の年の月日が経過した。相変わらず俺は空いた時間に鬼狩りを返り討ちにして食し、狛治と慶蔵さんは日々の稽古で自らの技を磨く。
剣術道場からの嫌がらせもぱったりと止み、俺も安定して毎晩素流道場にお邪魔している。
___そして、恋雪さんも病に伏せることが少なくなった。
「狛治さんも…お父様も…貴方が夜来て私たちを見てくれるおかげで、伸び伸びと夜の時間を使えるようになって………」
道場の中で、狛治と慶蔵さんの2人が稽古に臨んでいる姿がここから見える。そんな彼らを見て、恋雪さんも俺も自然と笑顔になる。誰がどう見ても、幸せの色がこの一家には溢れていた。
「俺だって君たち3人にはいつも救われている。今までこんな人に対して愛しいだなんて感情、抱いたこと無かったから…。それに、剣術道場の未練を、彼らにはぶっ飛ばしてもらったしね」
「そうですね、私も剣術道場には命を奪われかけたから…」
厄介な剣術道場は見る影もない。特に、現道場主が今病に伏せたとのことで、跡取り息子が新たな道場主に選ばれる1歩手前との事だが、それによって道場を離反する者が増えているという。100人に迫る勢いだった剣術道場も、今や残る人数は70人を切ったとのこと。
「…そういえば狛治には
「例の…件…?」
「ほらほら、この前結婚だとか言っていたじゃん?」
「…そ、その件……ですか?」
先日、恋雪さんはあることを言っていた。狛治は、先が長くないかもしれない自分に対し、『また花火なら来年も再来年も上がるから』と言ってくれた。今年を生きられるかすら分からなかった恋雪さんにとって、狛治のその言葉は生きる希望に繋がり、恋雪さんは狛治のことを意識するようになった。病に伏せることが少なくなった今、狛治と将来を共に出来るとして、この想いを伝えたいとのこと。
「わ、私にはそのような度胸というものが…」
「まあまあ、恋は当たって砕けろだ。狛治なら例えフラれてもキツく当たったりはしないさ」
「それ撃沈前提の話じゃないですか!」
「…それに1人じゃない。慶蔵さんだっているし、俺も夕刻から夜までにならいる。誰かに合間に入ってもらうのも有りだぞ」
「そ、それは……」
2人ともいい歳だ。結婚を考えてもいいし、何なら2人揃って鬼にするのも手だ。まあ、人のままである方が絶対に幸せだったと言い切れる輩は、鬼になったところであんまり強さを追い求めない傾向があるから、どの道無惨様はお気に召すとは思えないが。
それに、例え鬼としての器が揃わなくても、俺は彼らを人として尊重していける。鬼として有能な器は、また日本各地を転々として青い彼岸花共々探し回ればいいだけの話。
「まあ、また来るし、その時吉報を待っているさ」
そうして俺は時間も時間なので素流道場を後にした。
2人の結婚の話については、また別の機会になりそうだ。その時は、俺も彼らの力になろう。
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1週間後、久々に日の差さない濃い雲が空を覆った事もあり、俺は昼間ながら町に繰り出していた。
(…川越もだいぶ賑わってきたなぁ)
40年の時を経て、この川越という町にもだいぶ変化が訪れた。10年以上前に八代将軍より発令された享保の改革が実を結び、ようやく川越の庶民も飢饉からの立ち直りを見せていた。
「…久々に団子でも食うか」
40年前の旅路でもありついた団子屋に入る。
え?旅路なんてあったっけだって?察しろ。俺が鬼になったあの日だよ。
(…味も変わらないな)
先代の味は受け継がれてるようで、仄かに懐かしい味がした。
「…朱雨、お前朱雨か?」
「ん?」
俺の名前を呼ぶ掠れた声。でもそれと同時に懐かしさもあり、似たような声をかつて40年前にも聞いた気がする。
「……誰だっけ?」
ごめん、聞き覚えあるんだけど全く覚えてないや。言ってること矛盾してるって?自分でもそう思う。
「俺だよ!お前の親父さんの墓まで案内したの忘れたのかよ!」
「あっ、あぁ…」
そういえばそんな人いた。同じ剣術道場で幾度も手合わせしたんだっけ。名前は正直興味ないから覚えてない。
「…まったく、横失礼するぞ」
「あぁ、うん」
そうして彼は俺の隣に座る。口調は変わってないけど、見た目と声は40年の時を経てすっかり初老の男性のものになっていた。
「…見た目変わらないな」
「ははは…そりゃあね…」
鬼だもの。肌の色こそ若干白くなってるけど、両目にそれぞれ上弦の伍と刻まれていること以外は鬼特有の角もないし、人間だった頃とあんまり変化ない。
というより、表に出る時はある程度擬態してるから人間の真似は上手くできていると思う。
…あれ?なんか違和感…。
「…お前、40年前から今までどんくらい人を食べた?」
あーこれ、完全に鬼だとバレているな。まあ仕方ないか。彼が40年しっかり老け込んでるのに対し、俺は全くといっていいほど顔変わってないもんね。強いていえば上弦の鬼らしく少し体が大きくなったことぐらい?
「まあ、ざっと400人ぐらいかな…」
正直に答えておく。ぶっちゃけ、稀血も10人ぐらい食ったから、実質鬼の力量的に1000人相当にはなると思う。
「…お前…!まあ鬼だもんな。生きてくには仕方ないよな」
…あれ?思ったより反応が薄い。もっと掴みかかって来たりとか想像してたのに。
「…あれから剣術道場、行ったか?」
「あぁ、しかと見届けたよ」
「そうか…」
こんな暗号めいたやり取りである程度通じる。
そりゃ、隣の素流道場のことは噂になっていたからね。20年近く剣術道場の輩が忙しなく素流道場の悪い噂をばら蒔いていたのに、つい最近パタリと無くなって町人の間でもヒソヒソ囁かれていた訳だから。
「…俺はもう長く生きられない。お前と会うのは恐らく今日が最後になるだろうな」
「…そうなのか?」
「あぁ、どうも俺はかつての剛さんと同じく、例の病に侵され始めてるらしい」
なるほど、かつての彼の言葉を借りるとするならば、自分のことは自分が1番よく知ってるわけか。
「…最後にお前の顔を見れて良かった」
「…そうか、世話になったな」
「あぁ、お前は長生きしろよ」
「そうだな、幕府が倒れるぐらいまでは生きてみるよ」
「お前それデカい声で言うなよ」
「分かってるって…」
「…それじゃ、俺はそろそろお暇させてもらうよ。ありがとうな」
そうして軽く小話を交わすと、彼は初老らしくヨボヨボとゆっくり立ち上がった。
「…そういえば、最後に言い忘れていたんだが、剣術道場の動きが怪しい。つい最近道場主が病に倒れてからの事だ。もし現道場主が息絶え、代が跡取りの男に変わった時、きっと何か起こる。用心しとけよ…」
最後に、彼はそう言い残し、この場を立ち去った。もう2度と彼の顔を見ることは無いんだなぁ。そう考えると虚しさもあるが、俺が鬼として生きてく上では、これから先も数えきれないほど起こり得ることなんだろうなぁ。
(さて、今日は昼間からお邪魔することにでもしようかな)
どの道暇な訳だし、行く所なんて1つしかない。そうして、瞬間移動で屋根の上に登った矢先の事だった。
ベベン
「…この音ってもしや」
いつも通り鳴り響く琵琶の音。周囲に人がいないのを確認し、俺は身構える。
「朱雨、招集だ」
地面に現れた障子の奥から無惨様に呼ばれ、俺は障子に飛び込んだ。
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「…来たな、朱雨」
「はい、お待たせしました」
無惨様に呼ばれて無限城に入ると、周りには十二鬼月の全員が揃っていた。
また、俺が最後か。既に並んでる上弦の陸がめっちゃ睨んでくる。
「では、本題に入るとしよう」
そうして俺たちは膝をつき、無惨様の有難いお言葉を伺う姿勢となる。誰1人十二鬼月が欠けていない中での招集は初めてなので、その場には新鮮かつ楽観的な空気が流れていた。
…上弦の陸だけは隣にいる俺にキツい視線を浴びせまくっているが。
「最近、十二鬼月内での実力が偏り始めている。十二鬼月に数えられて以降、向上心を持つ者もいれば怠慢を働く者もいる。それ故、目に刻まれた数字が明確な実力を示す目安としての機能を果たさなくなってきている」
無惨様の言葉に伴い、ギクッと身体を震わせる者が数人いた。どうやらドンピシャらしい。
「最近では下弦の伍の実力が下弦の弐を上回り、下弦の弐が下弦の伍に殺されたこともあった。必ずしも、実力と数字は一致しないことがこの件を受けて判明した」
無惨様のこの言葉が示す意味、この瞬間十二鬼月の全員が理解した。
「今までは欠員が出ることで以下の鬼の位を1つ上げ、新たな下弦の陸を迎えることで十二鬼月の戦力調整をしていたが、この仕組みに加えて新たな試みを行う。それが"入れ替わりの血戦"だ」
無惨様直々の新たな試みに、この場にいる全ての鬼が、恐れか、昂りの感情を抱いていた。上弦の陸は完全に俺に殺意を向けている。
「位が下の者が上の者を誰かしら指名し、戦いに勝利すれば目の数字を入れ替えてやろう。ただし敗者は位が下がるだけでなく、戦闘の最中で死ぬかもしれない。心してかかれ」
そうして新たに導入された下克上の機会に、隣の上弦の陸がウキウキしているような気がする。
…ほんと、まさかこれって。
「では本日、早速だが入れ替わりの血戦を希望する者はこの場にいるか?」
すると、待ってましたと言わんばかりに隣にいる上弦の陸が手をあげる。
…マジかよ、この流れ絶対俺じゃん。
「はい、入れ替わりの血戦、是非やらせてください」
「ほぅ……相手は誰を指名する?」
「もちろん、上弦の伍で…」
やっぱり俺かよ。黒死牟さん辺りにでも挑んでぶっ飛ばされておきゃいいのに。
「…ちなみにだが、何故上弦の伍を指名した?」
「いつも遅刻ばっかしてる奴に、負ける気がしないからですね」
奴はハッキリ言い切った。奴はこの俺を完全に舐め腐っている。確かに俺の見た目は、人を食って成長したとはいえ人間の年齢的な見た目でいえば16歳ぐらいで、この中では1番小柄で弱そうには見える。
「いいだろう、すぐに準備せよ」
「はっ!」
「…分かりました」
とはいえ、偉大なる無惨様がこの勝負を認めるとなれば、俺も認めざるを得ない。
俺は体の埃をパンパンと払い、刀を持って立ち上がった。
「…鳴女、場を整えろ」
「はい……」
そうして、鳴女さんによって即座に広い平らな空間が出来上がり、壁から天井にかけては透明で半円なドーム状の壁が広がった。そして、そのドーム状の外からは、他の十二鬼月の連中が観戦するかの如く俺たちを眺めている。
戦闘を行うフィールドは、あっという間に完成した。
「決着をつけようぜ上弦の伍!」
「はぁ……」
まったく、面倒事に巻き込まれてしまった。本当に嫌なんだけどなぁ…。
____勢い余って殺しちゃいそうだからね。
ー江戸コソコソ噂話ー
朱雨の念動の血鬼術は
の他にもまだまだバリエーションがあり、現在登場が確定してるのはこの他に4つです。
次回、更に1つ血鬼術が追加されます。