剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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20話 束の間の平穏

 

 

どうしてこうなった。

 

 

「…黒死牟さん…?」

 

上弦の陸と相対した入れ替わりの血戦から翌日、黒死牟さんがいきなり俺を無限城に呼び付けるなり『刀を取れ…』って言うもんだからいったいなんだと思ったら、まさかの稽古つけてくれるとのこと。

 

「本気で…来い」

「…いいんですか?」

「あぁ、お前の今の力を見せてくれ」

 

連日で無限城来てないかなと思いつつ刀をとると、そこでまさかの黒死牟さん直々鬼の3日間全集中戦闘とかいう耐久戦宣言がなされた。

無惨様も不在の中、何故にこんなことをするのかときけば『朱雨よ…お前は、その伍という数字に収まるような鬼じゃない』と、いきなり『お前は上弦の陸がお似合いだ!』と言わんばかりの罵倒をされた。

 

ナンデ?

 

「…分かりました、容赦しませんよ!」

 

入れ替わりの血戦場という昨日いた狭い空間でもなく、黒死牟さんは飛び道具で弾幕を貼ってくる血鬼術の持ち主ではない。そして黒死牟さん自身が本気で来いと言った以上、この前みたく剣術だけの戦闘ではないと見た。

ならば、久々に思いっきり血鬼術を使って戦ってもいいよね。

 

【血鬼術 念動竜巻】

 

無限城に散らばる障子や畳を念力で引き剥がし、そのまま竜巻のように渦を巻かせて自在に移動させることで巨大な暴風をも生み出す。

 

ところがどっこい。

 

「あーっ!鳴女さーん!」

 

完全に加減調整を誤って無限城全域に念動力の大嵐を吹かせてしまい、鳴女さんを吹っ飛ばしてしまうという巻き込み事故が発生。

そしてそれを筆頭に、次々と事件が起こりまくる。主に3日目。

耐久戦稽古3日目の夕方、いよいよ過剰な疲れからか、戦闘のさなかでぶった斬った黒死牟さんの両腕を念力で投擲武器にするという普段の俺なら思いつきすらしない暴挙に出始める。上司の腕を斬った上で自分用に武器転用だぜ?不敬にも程がある。更には黒死牟さんの刀を念力で奪い取って二刀流で星の呼吸やってたら、俺の肺が空気量に耐えきれずに破裂。まあ鬼だから肺ごときすぐ元に戻るけど。その他、普段やらないような自由な戦闘を続けてたら黒死牟さんより

 

『もう、お前に教えることは無い』

 

と言われ、その時にようやく我に返った。確実に調子乗りすぎて呆れられた。多分、俺このままじゃ上弦の鬼どころか十二鬼月じゃ居られなくなるかもしれないなと感じた。いや、最悪この世からサヨナラかもしれん。

しかも、3日目の途中から無惨様が我々の全力稽古をご覧になっていたらしい。これは詰みですね…。

 

と思いきや、まさかの無惨様より衝撃のお言葉を頂いた。

 

「…朱雨、お前の実力しかと見た。無限城を荒らし回った点は鳴女がどうにかするからいいとして、お前の階級を特例で上げたい。お前は上弦の伍では収まらぬ実力があるようだ。よって、今日からお前は上弦の参だ」

「はっ、はぁ……」

 

こうして俺は上弦の参まで階級を上げた。黒死牟さんの『朱雨よ…お前は、その伍という数字に収まるような鬼じゃない』という言葉、どうやら俺は勘違いしてたようで、黒死牟さんは俺の実力を高評価していて階級をもっと上げるべしだと思っていてくれたことに、俺はようやく気付けたのだった。

 

 

 

 

「…ってなことなんだけど」

「いや知らん」

 

このことを早速狛治に報告に行ったら、狛治は頭を抱えてた。

何も連絡寄越さずに3日素流道場にも来なくて、いざやって来て何をするかと思えば謎の報告とか、我ながらだいぶ狂っているとしか言えない。

 

「…お前、戦闘で力使いすぎると頭狂うんじゃないのか?」

「あはは、そんなまさかぁ……」

 

俺はアハハと柄にもなく笑い、狛治と珍しく談笑しながらその日を終えた。

 

 

尚、この翌日俺は猛烈な食欲に襲われ、慌てて人を食ったら、入れ替わりの血戦以降の自分の行いが途端に恥ずかしくなったので、狛治の言っていたことは正しかったと証明された。

 

「…疲れたし」

 

俺は、もう2度と入れ替わりの血戦はやりたくないと、心から願うのであった。

 

 

________________

 

 

俺がこの道場に来てから、3年の月日が流れた。俺は18歳となり、恋雪は16歳となった。朱雨は…本人曰く50と少しぐらい? 見た目は15歳ぐらいだが、彼は人ではなく鬼なので、そこは人間の常識を意識してはならない。

 

2週間ほど前の話になるのだが、俺と師範が稽古に打ち込むなかで恋雪と朱雨が縁側で楽しそうに談笑している姿をチラッと目にした。彼らが何を話していたのかはよく聞こえなかったが、鬼である朱雨とそんな朱雨を怖がることなく受け入れる恋雪の楽しそうな姿を見て安堵する自分がいる一方で、何かモヤモヤするような不思議な感覚に襲われた。

朱雨は人を何人も殺してる人喰い鬼。だが、罪人である俺からしてみれば同じ罪を背負う者という同志みたいな関係で、今俺と朱雨は種族を超えて親友の関係だ。

だが親友だからこそなのか、朱雨と恋雪が楽しそうにしていたあの姿がどうも引っかかってしまう。

 

「…どうした?狛治?」

「い、いや、なんでもない…」

 

師範に集中力の欠如を見抜かれたらしい。やはり、日々の稽古にも支障を来している。稽古中は一旦そのことは忘れようとしているものの、中々頭から離れてくれない。俺は強者として無我の境地を目指しているんだ。これしきのことに動じてどうするんだ俺は。

 

そう心に言い聞かせている。なのに心の何処かで恋雪の事が常に頭を過る。

 

(どうしてだ…?)

 

3年間昼間は付きっきりで看病していたこともあり、恋雪の顔は四六時中ずっと見ていた筈。それなのに、今は彼女の顔を見ることすら恥ずかしくて仕方ない。

 

「…朱雨、俺はどうすれば」

 

そこにいない筈の、道場の縁側に座る親友に、俺は尋ねた。もう、3日も彼の顔を見ていない。彼の身に何かあったのだろうか。朱雨の事だし、鬼狩りに負けたとは無さそうだけど…。

 

 

 

「…おひっさー!」

「うぉ!」

 

縁側に滑り込む形で朱雨が到来。だが少しばかし彼の勢いがおかしいような…。

 

「3日間ごめんね…色々あったんだけどさ…まずね……」

「え、あ、うん」

 

そしてここから朱雨による怒涛の大演説自分語りが始まった。

4日前に自分以下の階級の奴と死闘を繰り広げて、その次の日から3日間食も眠も休みも無しで上司とガチバトル繰り広げてきたそう。

それで階級が上弦の参まで上がったとか。

 

 

「…ってなことなんだけど」

「いや知らん」

 

俺は人間だから(・・・・・)、鬼の事情なんてものはよく分からない。

恋雪に対するモヤモヤの正体についてせっかく朱雨に相談しようと思ってたのに、もはや完全にその気が失せてしまった。

今日ばかりはマジで帰ってくれ。

 

 

尚後日、大量に人を食べてきたと言う朱雨から、調子乗りすぎたと土下座で謝罪された。

戦闘続きで栄養不足になると、彼の頭は部品が外れて狂ってしまうらしい。なんだそれ。

 

 

 

 

 

 

そういえば、最近隣の剣術道場で怪しい動きが見られる。

なんでも、現道場主が病で死亡したとのこと。あの時(・・・)、金属の真剣を振り回して俺目掛けて斬りかかってきた跡取り息子が正式に道場を継ぐこととなり、素流道場にも否応なしに不穏な空気が流れてくるのを感じた。





ー江戸コソコソ噂話ー

朱雨の無惨様からの評価
『子どもっぽく遅刻も多いが将来性と実績があるので割と気に入ってる』
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