剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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4/23、日刊ランキング76位に載ってました…。

津京さん、Maccyanさん、世界は人の認識によって変わるさん、高評価9ありがとうございます。


21話 恋路

最近、朱雨も恋雪も師範も、何か俺に隠し事をしているような気がする。

何故そう思うかって? この前、俺がたまたま1人で稽古をしていた時、少し休憩がてらに水を飲もうと道場備え付けの井戸前に向かおうとしたら、その前に例の3人がいたんだ。3人はヒソヒソと俺に聞こえないくらいの声で会話してて、何を話してるのかと思って声をかけたんだ。

そしたら__

 

「…は、は、は、狛治さん!?」

「は、狛治?何しにここへ?」

「狛治ー、個人稽古終わったのかー?」

 

恋雪と師範が慌てるような素振りを見せ、朱雨だけは至って冷静な様子、と見せかけて朱雨にも何か底なしの違和感を感じる。上手く誤魔化してるつもりなのだろうけど、普段の朱雨はこんな間の抜けたような喋り方しない。

それに、仮に朱雨がちゃんとした喋りをしてても、2人が妙によそよそしいせいで違和感がありまくりだ。

特に、恋雪に関しては俺が声をかけた瞬間、ビクリと背筋を震わせていたし、その後もかなり動転した様子だった。

 

「…どうした3人とも?」

 

俺は何かあるなと睨んでそう尋ねるも、3人とも各々「ちょっと用事を思い出した」と言ってそそくさと退散してしまった。

俺はこの場に1人取り残された。

 

(…これ絶対俺になにか隠してるな)

 

罪人だった俺を受け入れてくれてから3年、恋雪も師範も生活を共にしてきて心が通ってきたと思っていたのだが、全て幻だったのだろうか…?

いや、朱雨まであちら(・・・)側だとするならばそれはない。朱雨だって鬼という枷を背負ってるし、俺と似たようなものだろう。

こうなれば聞き耳立てるなりして3人の会話を盗み聞きしてみるのもありか。

 

(といっても、深く模索するのはダメだよなぁ)

 

何か俺が知ってはいけない事があるかもしれない。人というのは誰しも1つぐらいは秘密なるものを隠しているもの。皆と良い関係が築けている今だからこそ、そういったことを深堀りして気まずくなったり関係に亀裂を入れるようなことはあってはならない。

 

(…でも、凄く気になる)

 

恋雪のことを想うと胸が弾けそうになっている今、3人に隠し事されてるとなると、日々の稽古もそれが気になって気合いが入らず集中力を欠いてしまう。

 

(…だからといって盗聴なんて)

 

俺って意外と小心者なのかもなあと思う。とりあえず、今後は身体的な成長とは別に、精神的な面も鍛錬を積んでいかねば。

 

「よし!」

 

俺は頬を両手で叩き、自分を奮い立たせる。いつまでも気にしていたらダメだし、俺はそんなことで動じるような小物じゃないだろう。

師範も恋雪も、生涯かけて共に生きていこうと心に誓った大事な人だ。疑ってどうする。

 

 

と、自分に言い聞かせつつも、この葛藤は真相が判明するまで、恋雪へのモヤモヤ感共々、数日の間続いた。

 

 

________________

 

 

私です。恋雪です。

 

狛治さんがこの家に来てから、3年もの月日が経ちました。

3年前、病に伏すばかりで何も出来なかった私も、今は日中万事屋家業で忙しい父に代わり、家事を手伝うようになりました。

____狛治さんと、一緒に。

 

(…狛治さん)

 

狛治さんは、かつて江戸の町を追放されてこの町にやってきたと、ご本人の口からお聞きしました。当初はそのような事情から、看病される身でありながら不安も当然ありました。でも、狛治さんは罪人の烙印を押されているとは思えない、人間的にとても出来た方でした。過去にやっていたという盗みも、狛治さんのお父様が病で、薬代を稼ぐために止むを得ずだったこと。そして、お父様の為なら何度だって罰を甘んじて受けるという、大切な人を護ろうと自らはどうなっても良いという自己犠牲の元で動く強靭な精神。

 

盗みは褒められたものじゃありません。狛治さんのお父様は、そんな自分のために罪を重ねる息子の姿に心を痛めて、自ら命を絶ちました。

でも、1つ違えば私もそうだったんじゃないかなって思います。実際、私の病弱っぷりを見た母は、私が無惨に死んでいくのを恐らくは見たくなかったのでしょう。私の看病を毎日繰り返した疲労の末に、入水自殺してしまいましたし。

 

でも、狛治さんは私の将来のことを常に考えてくれたんです。花火を来年再来年か見に行こうって。江戸では彼は罪人だったかもしれません。けど、今の私にとっては救世主だった。母が亡くなって以降、明日か明後日に死んでもおかしくない、いつ死ぬのか分からない不明瞭な未来しか見えなくなっていた私に、1年2年先のことを話してくれる。それは私にとって生きる希望であり、糧になったんです。

それに、私が隣の剣術道場の跡取りに無理矢理連れ出されて危うく死にかけた際は、死に物狂いで見つけて下さったおかげで、一命を取り留めることが出来ました。そして、私がお医者様の所にいる間に、剣術道場に決闘を申し込んだりと、しっかり後処理までして私の無念を晴らしてくれましたし。

 

だからでしょう。私はいつの日か、狛治さんに心惹かれるようになりました。

心の底から、彼に護られたいと、そう思うようになったんです。

 

 

そしてもう1つ、私にとって大変嬉しいことがありました。

狛治さんは昼間、私の世話に付きっきり。そして夜間や時間の合間に自己鍛錬をしており、やりたいことというのがないと仰っておられました。私の世話ばかりさせて、私のせいでこんなにも退屈な毎日を送らせているのではないかと、酷い罪悪感に駆られることも多々ありました。

 

そんな彼に、いつの間にか親友なる存在が出来ていました。

 

名前を朱雨というらしいです。

ただ、朱雨さんは普通の人間ではありませんでした。巷で噂に聞く、人喰い鬼という種族で、普段の食事は人間だと言います。最初は噂にしか聞いていなかった鬼。どんな恐ろしい姿をしているのかと思えば、狛治さん含め私たちには凄い友好的な方で、普段は人間を主食にしていることなど、その人間の少年みたいな容姿からは想像もつかない程でした。

ただ、もう50年は生きているとのことで、父よりも年上だそうです。

 

狛治さん、朱雨さん、この2人の友好的な関係のおかげもあり、狛治さんも毎日楽しく過ごせているらしくて、気づけば私が狛治さんに抱いていた罪悪感が薄くなりました。

結果論ではありますが、そんなお2人の健気な姿が私にも良い影響となり、徐々に私の病状が回復していくことにも繋がっていったのだと思います。

 

 

 

「…なら、やるしかないですね」

 

朱雨さんも言ってました。何も1人でやることは無い。誰かに間に入ってもらえばいいのだと。

____だからこそ、この溢れるばかりの狛治さんへの想いを、狛治さんと生涯を共にしたいという想いを、今こそ父を介して、狛治さんにしっかりお伝えしようと思います。

 

 

 

 

その件をまずはと朱雨さんに話したところ、朱雨さんはフッと悪い笑みを浮かべた後に、

 

「…よし、やろう。慶蔵さんを連れてくる」

 

とのことで、朱雨さんはその場からフッと跡形もなく一瞬で消えると、また1度の瞬きのうちにパッと現れた。何故か父の肩に手を置いて。3年も朱雨さんと交流してるので見慣れてる筈なんですけど、毎度これ心臓に悪いですね。あと、体に触れていたら一緒に瞬間移動できるの、今初めて知りました。

 

「毎度心臓に悪いよ朱雨…」

 

父も同じことを考えていた様子。加えて父の場合はいきなり転送させられたのだから、驚きも私の倍以上なんだろうなぁと察します。

 

というわけで、いつも私たちが利用している井戸の前にて、朱雨さんと父、そして私の3人で私の狛治さんへの告白の作戦会議に移行しました。

すると、ここで予想外のことが起こりました。

 

「3人ともそこで何してるんだ?」

 

みんな背筋を震わせました。

何せそこには、さっきまで道場にて1人稽古していた狛治さんの姿があったのですから。

 

「…は、は、は、狛治さん!?」

「は、狛治?何しにここへ?」

「狛治ー、個人稽古終わったのかー?」

 

こんな突然のことにも動じず普通に会話に移れる朱雨さん凄いですね。父も結構驚いてる様子でしたけど、私は彼ら以上に何かいけない事を狛治さんに隠してるかのような不自然な口調になってしまいました。

 

「…どうした3人とも?」

 

参りましたね。今回の件は狛治さんには秘密裏に行うようにと朱雨さんに念を押されているのに、既に狛治さんにはかなり怪しまれています。

 

「…ちょっと用事思い出したー」

 

ここですかさず朱雨さんが上手く誤魔化そうと行動に出ました。

 

「…そうだ、俺もあったな」

 

父も朱雨さんに便乗する形で乗っかりました。

 

「…わ、私も…」

 

2人に便乗し、私もこの場を離れます。

 

結局、この日はその後も怪しまれる故に集まることが出来ず、話は後日に回されることになりました。

 

 

そして後日、狛治さんが完全にいないのを見計らい、作戦を練り始めました。父も歳だということで引退を考えており、この道場の未来を狛治さんに託そうと思っていたところらしく、その件も踏まえて後日狛治さんをお呼びして全て伝えるという算段になりました。

 

 

 

________________

 

 

 

「狛治、ちょっと来てくれるか?」

 

道場内の掃除をしてる最中、俺は師範からお呼びを受けた。なんだろうと思いつつ呼ばれた部屋へ向かうと、そこには恋雪と朱雨、そして師範の3人が、机を挟んだ向こうで並んでいた。

 

「…この道場、継いでくれないか?狛治」

「は?」

「そうだ、それに恋雪も、狛治のことが好きなんだってよ」

「え?」

 

俺はじっと恋雪も見つめる。恋雪は恥ずかしさから口をギュッとつぐんでおり、何か言いたげな様子だった。

 

「狛治、恋雪と結婚してこの道場を継いでくれ」

 

俺は…俺は…

 

「お、俺なんかが継いでしまってよろしいのでしょうか?」

「…あぁ、いい」

 

師範の言葉で俺はスっと自分の右手を見てしまう。こんな罪人の刺青がある自分が、道場と恋雪を貰い受けてもいいのだろうか。

今思うと、不安になってきてしまった。

 

確かに俺は恋雪のことを好いていたのかもしれない。前からずっと感じていたこのモヤモヤ感の正体はこれだったんだきっと。

正直に言えば凄く嬉しい。俺だって恋雪のことが好きだ。結婚したいとさえ思っていた。

 

でも、今だからこそ感じてしまう。俺は江戸の罪人なんだと。そんな奴が恋雪を貰っていいのかと。朱雨といった親友も祝福してくれる様子だったが、俺はここで自分の刺青が気になってしまった。俺はどうしようも無い小心者だなと感じた。

 

けど、もし許されるのなら、この道場と2人のことを命に代えても護っていきたい。

 

「…狛治、悩むな。お前の気持ちに素直になれ」

「そうだ、罪人だったお前はとっくの昔にボコボコにしただろう?」

 

朱雨も師範も、俺の背中を押してくれている。2人の意志を、無下にするわけにはいかない。

 

「わ、分かりました。その件、お受け致します」

 

そうして、俺は彼女の婚約の誘いとこの道場の跡取りとなることを承諾した。

 

そして俺は、師範と恋雪、この2人を一生かけて守り抜こうと固く心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその2人が、まさか何者かに毒殺されるなんて、俺は夢にも思ってもいなかったんだ。

 




ー江戸コソコソ噂話ー

朱雨とその他素流道場メンバー同士の評価

朱雨
→狛治 良き友
→恋雪 鬼になれば病も楽になるのになぁ
→慶蔵 狛治の師範か〜

狛治
→朱雨 鬼だけど親友 コイツは俺を食おうとはしない
→恋雪 モヤモヤする
→慶蔵 師範

慶蔵
→朱雨 鬼だけどまあ狛治が言うなら…
→恋雪 病に伏せなくなって一安心
→狛治 弟子。恋雪が病に伏せなくなった理由には狛治も絡んでるんじゃないかと睨んでいる。

恋雪
→朱雨 鬼っぽくない…(注:あまり3人の前では表に出してないだけ)
→慶蔵 大切な父親、病弱でごめんなさい
→狛治 ずっと一緒にいて欲しいかけがえのない人。
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