剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
その代わり、アンケートをしますのでお答え下さると有難いです。
高評価9、皆様ありがとうございます。
翌日、俺と狛治は恋雪さんと慶蔵さんの葬式を終え、墓石の前で手を合わせていた。
「…ごめんな」
俺はあの日、2人が井戸で水を飲んでいたのを見て見ぬふりをして、狛治の元へ行ってしまった。
俺が真っ先に水を飲んでいれば、2人が水を飲むのを制止していれば、こんなことにはならなかったというのに。
「悪いのは朱雨じゃないよ。悪いのは…お前じゃないから……」
狛治は自身の悲しみを押し殺すような震えた声でそう言った。まるで自分に言い聞かせるように繰り返されたその言葉が、またとても悲しみに満ちた声色だった。
「そんなこと言ったって…」
「あの日悪かったのは俺だ!!俺なんだよ!!2人を命に代えても守ると誓ったのに、俺は呑気に親父の墓参りなんか行っちまった…」
「…狛治」
溢れんばかりの涙を流して悲しみに暮れる狛治の姿。
予知した通りの未来になってしまった。俺が予知で見た狛治の光景はこれだったんだ。あの時は背景こそ霞んで見えなかったけど、今思えばこの墓地の背景だった。
「…これから先、俺はどうやって生きていけばいいんだ?」
「………………」
「守るものを守れなかった俺は、何をして生きていけばいい!!?」
答えることが出来なかった。俺みたいな部外者には、そんな簡単に答えを出す資格なんてないんだ。
「…だったら、鬼になれば良いのだ」
突如背後より、聞く度に体を昂らせて頂ける麗しの頭領様の声がした。
「な、何故ここにいらして?」
いつの間にか無惨様が、俺たちの背後にいらっしゃった。
「朱雨、3日こそ経ってないがふと気になったから来てやったぞ」
そう仰る無惨様の口角が、何か良い事を考えている際と同じようなつり上がり方をしていることに気づいた。
「…朱雨、誰だそれは」
膝をついて頭を下げる俺を見た狛治が、何事かと不思議そうに首を傾げている。
「…我が鬼の頭領様だ。お前も頭下げろ」
「えっ?」
俺は狛治の肩を掴んでその場で強引に膝をつかせる。先程まで涙でぐちゃぐちゃだった彼の顔は、一瞬で事態に追いつけてないキョトンとした感じの表情へと変わった。
「…なるほど、確かに数日待って正解だった」
無惨様はそう仰ると、俺の隣で頭を下げていた狛治の首に爪を突き立てた。
「ガハッ…」
無惨様に血を注入されている狛治は、魚のようにその場でのたうち回る。かつて、俺が無惨様に血を頂いた際も同じような行動を取った気がする。鬼となって痛覚が無くなってきたとはいえ、これは鬼として50年生きてる俺でも未だにかなり悶える痛みだったりする。
「…狛治とやら、お前も私の役に立て。太陽の克服と、青い彼岸花の捜索。それがお前たち鬼に与えられた使命だ」
そうして無惨様が血を注入し終えて手を離されると、狛治はその場に打ち上げられた魚のように倒れ伏した。
「…朱雨、コイツを頼むぞ」
「かしこまりました」
そう仰った無惨様は、狛治の襟元を掴んで俺の元に投げ込まれる。そして、琵琶の音と共に無限城の内部へ戻って行かれた。
(…頼むぞ…か)
最後に、無惨様が俺に対して仰った狛治を頼むというお言葉、恐らく狛治が十二鬼月に上がれるまで全力で支援していけということだろう。
「ならば…」
俺は狛治を肩に担ぐと、墓地から川越の町へ一目散に駆け出した。
「共に、人間を恨もうじゃないか」
狛治が鬼となり、恋雪さんたちが亡き今、もう心の底から大事にしようと思える人間はいない。寧ろ、大事にしようと思った彼女たちを奪った人間を、決して許しはしない。
「なあ?狛治もそう思うだろう?」
俺は気を失っている狛治に、そう問い掛けた。
________________
その頃、川越の町にある剣術道場はと言うと……
「そうか、死んだか」
「師範と付き合わずに罪人の刺青があるような奴と結婚しようとする方が悪いんですよ〜」
「お前悪いやつだなー!」
「アッハッハッハッハッ!!」
剣術道場と銘打ってるにも関わらず、その刀を振らずにただ酒と談笑に花を咲かせる道場主と67人の門下たちの姿があった。
「奴らは化け物だと思っていたが、毒には適わなかったみたいだな」
「そりゃ人間だし、向こうの娘は元々病弱だ。耐えられるわけないだろう?」
その場に高らかに響き渡る下卑た笑い声。
何を隠そう、井戸に毒を投げ入れて恋雪と慶蔵の2人を毒殺したのは彼らである。
しかし彼らは罪悪感を感じるどころか、思い切った行動をとる新たな道場主に感心している始末。道場主も自分の行いに悪びれる様子もない。もはや、武術の道を歩む人間とは思えぬ堕落っぷりだった。
「ちょっくら隣の素流道場の様子覗いて来ますよ〜」
「おいおい、向こうは今悲しみに満ちてるのに、そんなことしたら悪いだろう?」
「でも首謀犯は師範じゃないですか!可哀想だなんてアンタもいい人だな〜」
「それ元想い人殺した人に言う言葉じゃないよねぇ」
悪意に満ちた言動の数々。けど、欠落した良心の持ち主である彼らには、その自覚など存在しない。
「まあまあ、どっちにしろ俺たちがそんな下衆なことに及んだなんて証拠もないしなぁ」
「だな、誰が俺たちが行為に及んだところを見たというんだろうねぇ」
そんな彼らに報いか制裁か、今日この日、天罰が下るとは知らずに…。
「それじゃ、行ってくる」
「あいよー、戻ってきたら感想よろしく〜」
そうして門下生の1人が剣術道場の外へと出ようと引き戸を開けた次の瞬間、彼は不自然に空中に浮いた。
「グエッ…」
その門下は間抜けな声と共に、道場主の元まで吹っ飛んでいった。
「お、おい!どうした?」
まるで念力のようにフワフワ浮かされた後に吹っ飛んできた門下を見た新たな道場主が、次にその目にしたのは、剣術道場の正面から堂々と侵入してくる鬼2人の姿であった。
「…随分と楽しそうにしてるじゃねえかよ」
「下衆共ガァ…」
刀を持つ猛者の雰囲気を纏った鬼と、まだ鬼になりたてで我を失っている鬼が、明確な殺意を持って目の前に立っていた。
「なんだ貴様ら!」
「…アイツらは……素流道場の奴ら!」
「やっぱり生きてやがったのか!」
「総員!武器を取れェ!」
そうしてそこの門下たちは、一斉に近くにあった木刀や真剣を手に取るが、その僅かな瞬間にも5人の門下生が首と胴体を分裂させていた。
「…さあ、狩りの時間だ」
「ウガァァァァ!!」
その2体の鬼に襲撃を受けた剣術道場は、あっという間に華々しい宴会ムードから阿鼻叫喚の地獄へと形を変えていった。
「人間のクズが」
「…死ネェェエエ工!!」
1体の刀を持った鬼は、剣術道場の門下たちを次々と刀で斬り伏せていき、両手両足を切り刻んで達磨状態にした。そしてそのまま放置し、幾人もの門下生を苦痛の中で失血死させていた。一方で、もう1体の我を失っている鬼は、蹴りや拳を主体とした攻撃技で門下生たちの頭部や腹部、内蔵組織を次々と破壊していき、後には脳や内蔵が血と共に飛び散るといった、普通に死ぬよりも惨たらしい最恐の地獄絵図と化していた。
やがて剣術道場の稽古場には、血と内蔵を散らして息絶えた幾数もの門下の屍と、未だ傷1つ負わされずに敢えて生かされた新道場主たった1人だけが残された。
「…ひっ、ヒィィィ!」
その光景を目にした道場主は、刀も放り出して一目散にこの場から逃げ出そうとする。
「おっと」
すかさず刀を持った鬼が、不可思議な力で道場主の体をふわふわと宙に浮かせる。
「ヒィィィ…や、やめてください…ごめんなさい…俺が悪かった……」
やがて上下逆さに空中でフワフワと浮かされた彼は、咽び泣きながら手を合わせて命乞いを始めた。
「…何が悪かった?なんだ?お前は何かしたというのか?」
「ヒェェ…わっ、私は…何もしてない……何もしていないんだァ!!」
激しい殺意に怯える道場主は、この期に及んでまた嘘をついた。道場主は、2体の鬼の大事なものを奪った罪がある。そんなこと当然熟知している2体の鬼は、怒りを募らせていく。
「…おまえは、嘘をつくのか?」
刀の鬼が道場主を強く睨みつける。
「ヒィィェ!嘘でした!私は…素流道場の井戸に……毒を投げ込んだ!ほら!正直に罪を白状しました!奉行所に行くから…命だけは…命だけはお助けを……何卒命だけは………」
もはやどれ程時間が経ったのか、彼には知る由もない。ただ生への渇望を目の前の鬼に示して、大粒の涙を流しながらどうにか死だけは回避しようとする。それだけしか彼の頭にはなかった。
「…そうか、お前がやったんだな。恋雪さん、慶蔵さん、2人を毒殺したのはお前がやったんだな」
「……!」
彼にとってふと見えた、生への兆し。正直に言った方が得策だと、彼はこの短い時間でそう思考する。
「はいそうです!私がやりました!本当にごめんなさい…ごめんなさい……」
だが、現実は無情かつ厳かなもので、それが再び鬼たちの地雷を踏み抜いたのだった。
「ならば尚その行いを見逃す訳にはいかない。やれ、狛治」
「オゥ…」
そうして狛治という名の鬼が、その場で跳躍により飛び上がり、鬼の速さと剛力を生かした蹴りで彼の片脚をあっという間にもぎ取る。
「ギャァァァ!!俺の…脚がァァァ!!」
脚から血を垂らして喚き叫ぶ彼に対し、ここにいる鬼たちは実に冷酷かつ無情だった。
「うるさい喚くな」
「がァァァァァァァッ!!!」
刀の鬼が持つ念力により、彼の腕が本来曲がらない方に曲げられ、ぷらーんと重力に従って垂れ下がった。
「…あとどうするかは狛治に任せる。狛治、どうする?」
そうして狛治という名の鬼が前に出て、宙に浮く彼を見据える。
「キサマァ…」
「ヒィ……ほ、ほら!許してくれよ…もう剣は振るえねえ…腕を折れて超痛い…可哀想だろう?な?な?これにて落着ってことで……あーイタタ!痛いよー!」
この期に及んで命乞いに走る道場主。それを見た鬼たちの視線は未だ厳しいものだった。
「死ネ」
それが彼の耳にした最後の言葉だった。
________________
「やるねぇ」
俺の介護の元、鬼へと変貌した狛治を早速実戦投入した。その場所は、俺と狛治の両者にとって共に因縁の場所、かの剣術道場だ。
俺の思惑通り、狛治は鬼になったばかりだというのに、その力を遺憾なく発揮し、俺との連携で剣術道場の人間を次々と殺傷していった。
「ウガァァァァ!!」
鬼になりたてなこともあって理性の方はまるで獣のようだが、これは人を食い続ければいずれ元に戻るので、今特段に気にすることではない。
「ヒィ……」
それに、元より俺は狛治と会う前は人間を嫌っていた。狛治と出会ったことで忘れかけていた俺の本来の鬼としての本能が、今ここで蘇ってきている。
狛治が俺と同じ鬼となってくれたことと、今ここに俺は鬼として原点回帰することが出来たのだ。
___それで、先程から然るべき復讐を加えているコイツ。俺と狛治で仕返しとばかりに散々痛めつけさせてもらったコイツの存在。鬱陶しいし煩いし、加えて仇でもあるから複雑な感情を向けざるを得ない奴だ。
「…あとどうするかは狛治に任せる。狛治、どうする?」
コイツの最後は、婚約相手を奪われた悲劇の鬼こと狛治の手に委ねる。奴の生死も最後の瞬間も、命運を全て狛治に託そうじゃないか。
「キサマァ…」
「ヒィ……ほ、ほら!許してくれよ…もう剣は振るえねえ…腕を折れて超痛い…可哀想だろう?な?な?これにて落着ってことで……あーイタタ!痛いよー!」
狛治の威嚇に、宙吊り状態で相変わらず痛快なほど怯える様子を見せるソイツ。最後の独り言のような言葉に至っては、自らを哀れな者に見せることで情けを掛けてもらおうという目論見なのが誰も目から見ても丸わかりだった。
(さて、ここから狛治はどうするのかな?)
かつて、人でありながら、気配を消した俺の存在に勘づけた狛治。そんな人の頃から類稀な才を持っていた狛治が、鬼となった今もその才を遺憾なく発揮出来るのか、そしてどういった行動に及ぶのか、この誰の目にも見え透いた命乞いに走る仇敵を前にどう行動を取るか、俺は興味を抱いた。
奴を許すか?それとも殺すか?それとも惨たらしく殺すか?
「死ネ」
そして狛治の答えはこれだ。
「ア"ア"ア"ア"アア"ア"」
最初に奴の耳の中に手を突っ込み、鼓膜をぶち破る。そして叫び回る奴の目玉をグリグリとほじくり回し、全ての歯を拳で叩き砕く。
「死ネェ!」
「やめでぐれぇぇ"!」
更に喚こうものならその原因となる口に手を突っ込み、舌を全力で引っこ抜いて喉奥の声帯を握り潰す。やがて枯れた声を出し続けるようになった奴の腕に噛み付いた。
「腕が…ぁ……腕が……」
俺が先程血鬼術でへし折った腕とは反対側の腕が、丸ごと狛治の口の中に消えていった。
「ギィヤァァァァァァァ!!!」
奴はつい先程声帯を壊されたにも関わらず、人生最後であった所以か、最高ともあろう掠れに掠れた断末魔をその場にけたたましく鳴り響かせた。
「…ガァ…ガァ」
狛治が最後にトドメを刺し、この後間もなく奴は息絶えた。
奴の最後を飾ったのは、狛治の全力蹴りによる睾丸砕き。男である以上その痛みは勿論知っている。だが奴という人殺しの悪魔は、その報いを受けるに相応しいことをした故の当然の末路なのだ。
「…さて、終わったな」
奴の死骸が目の前に転がった。
「…虚しいな」
失ったものは2度と戻ることはない。俺も狛治も、身をもってそれを知った。
どこぞの意識高い馬鹿共の視点から、俺たちのこの行為を『無益な奪い合いを繰り返すのは愚か』だと非難されるかもしれない。
____けど、だからといって何も行動に出ず
"復讐"
奪われたら奪い返す。これを実行した今、俺は実に清々しく、そして虚しい。
でも、決して悪いことだけじゃない。なにせ、目の前にそれなりの収穫だってあるのだから。
「よし、食べようぜ狛治」
俺たちの目の前に広がるのは、辺り一面の血肉血肉血肉に大量の内臓。ようは鬼にとってのご馳走の山。
「…ウメェ」
狛治は肉と成り果てた道場主をポイっとそこら辺に捨てると、速攻で次の転がってる死体に美味そうに齧り付いた。
「ハァァ……」
鬼となって初となる人間の肉に、狛治は鬼の本能のまま無我夢中でかぶりつき、そのまま貪るように食っていた。
「…いいぞ狛治、もっと食え。人を食うことこそが、更なる高みへの近道だ」
そうして狛治に優先的に肉を与えつつも、俺も落ちている肉を口に放り込む。久々の人間食べ放題に
___そしてようこそ、鬼の世界へ。
鬼となったからには、太陽さえ無ければ永遠の時を過ごせるぞ狛治。共に弱者を心の底から憎み、人間に復讐しよう。そして共に切磋琢磨し、至高の領域を目指していこうじゃないか。