剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
シリアス「えっ?」
コミカル「俺の出番か…」
よかったー!と思われる方は是非とも高評価お願いします、
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『○○くーん、やっほー』
川越の拠点にて暇していると突如、俺の脳内に見知らぬ少女が囁きかけてきた。いったい誰だと思って声主の姿を確認したが、光に包まれていて誰だかよく分からない。
『…聞こえてるかな?』
聞き覚えのない名前に、聞き覚えのない声、もはや人違いを疑うしかなかった。
「誰だお前は」
仕方ないので俺も返事を返す。
ただ、こんな馴れ馴れしい奴と、俺は知り合いだった記憶などない。
『ヤダなぁ、本当に忘れちゃってるんだ…』
忘れちゃってると奴は零す。しかし、親父と刀を交えて鍛錬に明け暮れていたあの日から今日に至るまで、俺は恋雪さんを除いて人の女の知り合いなど作ったことがない。ましてや恋雪さんは故人だし、コイツの声質も恋雪さんとは異なっている。
『まあいいや。いつか思い出して…』
一方的に喋ると、彼女は眩い光を放って俺の脳内からスっと消えていく。
「おい!なんだよ!お前は誰なんだよ!」
俺がそう発破をかけるも、奴は留まることなく透明化するかの如く段々とその姿を消して行った。
『………いつか……分かるよ』
「おい!待てよ!」
俺の言葉は奴を留まらせることは一切できず、奴は返事をせずして消えていった。
「なんなんだいったい……」
よく分からない奴だった。もはや、俺は幻聴幻覚を見ていたのかもしれないな。もしくは、長年念動力の血鬼術を使ってきた弊害か、詳細は分からずのまま。
ただ、俺はあんな奴知らないし、会ったことも無いのは確かだ。
「…鬼人族の死骸食ったからか……?」
研究用や無惨様への献上用に数体残して、あとは食う用で一部猗窩座と一緒に食ったからな。鬼人族を食すと、何か幻覚幻聴の症状が出るのかもしれないな。
…とはいえ、俺より位が下の猗窩座に未だ何かしら症状が出たという報告がない以上、その線は薄いのだが。
「…はァ、これ以上考えても埒が開かないわな」
キリのないことを考えすぎると、面倒くさいし無駄に疲れる。まあ、鬼だから疲労こそはしないんだけどね。
こういう時はやはり、何もかも忘れて気分転換するに限る。せっかくだし、今日は日も差さぬ良い曇り空。久々に武士に扮して
そうと決まれば、善は急げと言わんばかりに、実行に移るのは速い。
(…まあ、
(さあ行くか)
____男女の見栄と欲で溢れ満ちた場所、吉原へ。
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(いつ来ても華やかだなここは…)
吉原、別名遊女のための街。
貧しさ故に自分の体を売ることで食べていっている女性と、金と性欲を持て余した男性の、需要と供給が釣り合う形で発展した文化である。
「…さてと」
今から向かうのは、吉原でも名の知れた場所。歌舞伎屋という名の店。
(元気にやってるかねぇ)
しばらく来れていなかったが、ようやく天候やら任務完遂して暇と条件が色々揃ったので、こうして足を運べている。
「お兄ちゃん!寄ってかない?」
「いやウチに来なよ!」
「可愛い娘沢山いるよ〜!ウチ来なって!」
…刀を差しているので、武士階級でいい金づるだと睨まれてるのか、やたらと周囲の客引きに声をかけられる。正直邪魔くさい。
「退いてくれ」
俺はソイツらを躱すように道の端に寄った。
(邪魔だなぁ…)
今日は特別に目を瞑っておいてやるが、目的地がなければコイツら全員斬り伏せていたところだ。もしくは人との接触を避けて瞬間移動で直接店内に侵入していただろう。
そうして人を掻き分けること数軒、ようやく目的の店の門を潜った。
「いらっしゃいませお客様!」
俺より幼く見える年端のいかない若き下層の花魁が俺を出迎える。
「今日はどなたをご指名されますか?」
「
「…つ、月姫花魁ですか?」
月姫花魁、それはこの店どころか、この街で1番であると誰もが認める花魁。その美しさは、精神の弱い者であれば失神してしまう程だという。
「…ご、ごめんなさい。月姫花魁はただいま取り込み中でして……」
ただ、当然ながらその人気故に彼女とは簡単に会わせて貰うことは出来ない。いきなりは流石に断られる。幾度も店に通い詰め、常連客として大量の金を落とした先に、彼女との邂逅が待ち受けている。
「…じゃあ月姫に言ってくれ。朱雨の名前を出せば通してくれる筈だ」
「…いえ、しかし」
ただの伝言すら渋られるとは、月姫花魁は随分と多忙で格式高い位置にいるみたいだ。
ただどういうわけか、目の前の下層花魁は、まるで彼女と顔を合わせることすら避けたい事案と言わんばかりに脅えている様子も窺える。
(これは簡単にはいかないかぁ…)
多少手荒で悪目立ちしそうな苦肉の策ではあるが、実力行使といくしかなさそうだ。
「いいから伝えて来い!伝わんなかったら素直に帰るから!」
「は、はい!ただいま!」
ドスの効いた声音で脅してやったら結果的に伝わったようで、目の前の下層花魁は店の奥に駆け足で消えていった。
(…ようやく、会えるな)
今度は戦いの師弟関係ではなく、同じ志を持つ鬼として。
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今から約5年ほど前、無限城にて。
「…お前に、任務を与える」
「はい、何なりとお申し付けください」
旧上弦の弐が鬼狩りに討伐され、俺がその数字を新たに継ぐことになったその日、無惨様より直々の任務が下された。
「…お前に頼みたいのは他でもない。猗窩座を下弦の参にまで育成したお前の教育術を存分に奮って欲しい鬼がいる」
「畏まりました」
現在下弦の壱になった猗窩座が、まだ下弦の参だった5年前。既に猗窩座は将来的な上弦入りを約束された実力を保持しており、猗窩座がまずは下弦の陸を拝命するまで、そしてそれ以降も、下弦の参になるまで鍛錬や合同任務で長らく彼を教育かつ支援し続けていたことが、今こうして無惨様により評価されている。
「…近年、どの鬼狩りによって討たれたのか特定する間もないほどに、十二鬼月の鬼たちが瞬殺されている。奴らはどうもここ最近力を着々と蓄えているようだ」
そう、この頃、十二鬼月の特に下弦、稀に上弦の鬼までもが、鬼狩り共に一瞬で討伐されるという事態が異常なまでに急増していた。無惨様は、常に配下の鬼たちの動向をご覧になっており、それ故に十二鬼月が討たれた際は即座に情報共有が出来るようになっているのだが、瞬殺されてしまうと無惨様も誰がその鬼を斬ったのか特定のしょうがないとのこと。
…というか今思えば、この時からなのだろうな。鬼人族が鬼狩りに加担し幅を効かせ始めてきていたのは。
「鬼狩り共の戦力拡充に対抗すべく、5年以内に十二鬼月に加入させられる実力を持たせろ」
「はい、お任せ下さい」
そうして無惨様より育成の指令を受けた俺が鍛えることになったのが、かの
場所は移り変わって、江戸の中心部より少々離れた街の外れ。そこには、今にも壊れそうなボロボロの小屋が建っていた。
「お邪魔するよ〜」
無惨様に育成を委ねられた鬼がいるらしき家に辿り着くも、早速1つ驚いたことがあったのだ。
「なるほど、2人か…面白い」
例の鬼はなんと2人いたのだ。男と女の兄妹鬼。中々面白いのが鬼になったと思ったよ。
一瞬、2人は突然の部外者来訪でポカンと呆気に取られていたが、すぐに血相を変えて戦闘態勢に入った。
「何?アンタは?私に何か用か?」
妹の鬼の方が、首を傾げながら下目で睨めつけてくる。これはかなり警戒されている模様。
「俺は用があって来たんだよ」
「…じゃあぁ、なんだぁぁ?」
今度は男の鬼の方が、その細い両腕に歪な形をした鎌をブンブンと振り回しながらこちらを威嚇していた。
第一印象は最底辺確定だな。
「失礼失礼、俺は上弦の弐の朱雨」
彼女らとの最初の出会いは、もしかすると鬼狩りと対峙した時以上に最悪だったかもしれない。
「君たちを、十二鬼月の一員として迎え入れられるようになるまで、徹底的に鍛えるよう、無惨様よりご命令を受けた。よって、今日から俺が君たち2人の師匠だ。よろしく頼むぞ」
無惨様の命令とあれば、歯向かったり異議を唱えることは決して許されない。そう直感で感じたのだろう。以後、彼女らが文句を言うことはなくなった。
そうして始まった、彼女たちを立派で強力な鬼にするための訓練。兄も妹も、男鬼でも女鬼でも関係なく、血反吐を吐くかのような過酷な鍛錬を行わせた。兄の方は、ひたすら血の毒鎌を自由に扱うための鍛錬。妹の方は、帯を自在に操る血鬼術を既に開花させているとのことなので、その帯を自在に操作する他、枝分かれできる帯の数をひたすら増やすための鍛錬。
「さあ、俺に触れてみろ」
最終的な鍛錬における達成条件は、2人同時に俺相手に挑み、俺の服やら体の何処かしらを掠めること。もちろん、俺も血鬼術や星の呼吸はある程度鍛錬の中で使っていく。俺が持ってる刀は日輪刀だから、誤って頸斬らないようにとか手加減はある程度しているがね。
「お疲れ様、また成長してるね。今後も日々邁進して行けば、きっと無惨様にも認められる存在になれるよ」
ただ、流石に彼女らに鬱憤が溜まりすぎて、鍛錬の苦しさ故に自ら日光のあたる場所に飛び込んだりされては元も子もない。そこら辺は師匠として目を張っているし、限界を超えるようなことはさせない。彼女らは猗窩座とは違って、元々武闘家として肝が座っている訳ではないからね。
だからこそ、毎度
「師匠ォ〜、聞いてよ〜!また私、童磨に口説かれたの〜!アイツ、マジで心にも思ってないこと言うから〜!」
「ホント、童磨は女にやたら執着してるしどうしようもなく腐ってるからねぇ」
まあ、彼女らの話や愚痴をきいてあげたり、鍛錬の時は厳しくしているけど、それ以外の時はやれるだけの支援はしている。そうすることで、結果的に彼女らの気合も上昇志向に寄っていっていった訳だし、いわゆる飴と鞭ってところだな。
「…妹に、触るな"ぁぁぁぁー!!」
ただ、鍛錬外で妹鬼の相談役をやる度に、兄鬼が剣幕変えて唸ってくるという事態が度々起きている。妹を大事に思うことはいいのだけど、少々行きすぎている気はする。兄鬼からの評価は相変わらず低いらしい。
「まずはひたすら食え!美味いぞ!」
人を食えば食うほど、鬼というのは持っている力が増す種族。故に、鍛錬の中でも、とにかく人間を食べることは最優先。
「…もう少しマシな顔面の人間はいないの?」
「えぇ…」
ただ、妹鬼の方は美男美女しか食べないという拘りを持っていた。少し我儘だとは感じていたが、普段の鍛錬では厳しく接してるし、その辺は妥協して美男美女を狩って来てあげた。
「ありがとう!」
少々子供っぽい所はあるけど、伸び代のある大変良い子だった。
「師匠、俺はどう過ごせばいいかな"ぁぁぁあ?」
「…まあ、それは仕方がないよね」
一方で、相変わらず俺への好感度が低い兄鬼の方にも妹鬼と異なる面で問題があった。
それは、戦闘時以外における体力消耗の激しさであった。その痩せ細った体が原因なのか、とにかく彼は燃費の悪い体をしていた。鎌を使用した戦闘術においては、もはや鎌が人間時代から生活の一部と化していたために影響しなかったのだが、一度戦闘や鍛錬が終わるとどう足掻いても燃費の悪さが目立ってしまう。
勿論様々な対策は練った。呼吸法習得の鍛錬や、戦闘術の変化、体質改造など、俺が出来る範囲でやれることは全てやった。
しかし、人を幾ら食べようとも、稀血を与えても、彼のその特性が変わることはなかった。全集中の呼吸による術も、痩せ細った体が呼吸法と相性的に悪かったのか失敗。戦闘術においても、そもそも彼は戦闘中に燃費の悪さは出ない。体質改造の方は、少々乱暴ではあるが念力の血鬼術で全身の骨格を強引に改造。
しかし、どれもこれも失敗。兄鬼からの評価をほぼ最底辺まで落とすという骨折り損で幕を下ろした。
そうして頭を悩ませる中、ようやく解決策が浮上。それは、普段は妹鬼の背中で、寄生するように眠り続けること。つまり、不必要な彼の活動を制限し、その上で妹鬼に寄生することで無駄な体力消耗を抑え、妹鬼から栄養を分けてもらう。尚且つ戦闘時や必要な時には彼も出てきて一緒に戦うというもの。
戦闘力でいえば兄鬼が上回るため、鬼狩りに対抗する奥の手的な面でもこれは良いかもしれない。
そして何よりこの兄鬼の寄生が、結果的にではあるが思いがけない特異性を彼女らに齎すことになった。
それは鍛錬を始めて3年ほど経ったある日のこと。
「鬼め、覚悟しろ」
「…2人でかかれば上弦も怖くないさ」
山奥で2人の鍛錬中、運悪く鬼狩りの柱と鉢合わせてしまった。しかも1人だけならまだしも2人。
「こんな時に柱共かよ…」
しかも、それぞれ熱の呼吸と氷の呼吸とかいう今までに会ったことのない未知の呼吸の使い手。炎と水の呼吸の派生みたいだったが、初見の型が多く、加えて2人を護りながら柱複数人を相手するのは少々骨が折れた。
(…クソっ、俺は複数人相手が苦手なんだよ!)
俺が今まで柱を大量に殺せたのは、いつも闇討ちや1対1の状況を作り出せていたから。星の呼吸は、単独への強烈な一撃や、周囲を無視した無差別攻撃にはめっぽう強いものの、鬼狩りの柱などの対実力者の多人数戦、加えて護衛までも合わさると、もはや不得意以外の何者でも無くなる。
つまりこの状況、俺が幾ら無惨様配下で2番目の数字を持つとはいえ、2人を守りきりながらの勝利は難しいということだ。
(どうすれば…)
そうこう思考を巡らせた所で敵は待ってくれない。そんなこと、鬼狩りを柱から癸まで容赦なく狩ってきた俺だから嫌と言うほど理解している。
【氷の呼吸 壱ノ型 凍結斬り】
そうして、氷を纏った斬撃が飛来してくる。
俺は刀を構え、応戦の体勢を整える。
【星の呼吸 壱ノ型 光年】
すかさず応戦。鍔迫り合いとなり、氷柱の動きを一時的に拘束する。
(この間に熱柱の位置を把握すれば…)
熱柱を念力で封じ、氷柱は星の呼吸の呼吸で上手く打倒すればいい。さすれば活路は見い出せる筈
(逃がすが先か完全に守り抜くか…どっちだ?)
ダメだ!普通にやることが多すぎる。
「2人とも!俺のことはいいから遠くへ逃げろ!」
瞬間移動で2人を遠くへ連れていく時間もなさそうだ。それに瞬間移動の使用には必ず1秒の合間を挟まなくてはならない以上、まず2人の元へ移動するのも大きな隙を晒してしまう。その上、そもそも転移先の安全確保が出来る確証がない。それに万が一、瞬間移動を使用した際に熱柱が俺たちに触れていたら、一緒に転移してしまう。
…やむを得ない。彼女らのこれまでの成果と実力を信じて、俺は目の前の氷柱に集中するしかない。
【血鬼術 念力】
そしてもう1つ。
【星の呼吸 伍ノ型 流星斬り】
相手の氷柱の動きを念力で封じた上で、単調な伍ノ型で奴の息の根を止める。
「死ね!」
「熱柱ァ!あとは任」
最後にそう言い残して氷柱は首を落とされた。
そして、俺がもう一方の熱柱の位置を探ってる際、俺の目の前では目を疑うような大事態が起きていた。
【熱の呼吸 壱ノ型 沸騰】
「なっ……」
妹鬼の方が、熱柱によってその頸を撥ねられていた。
兄鬼の血鎌が熱柱の命を掠め取ろうとしたその時には、妹の頸は地面に転がっていた。
【星の呼吸 捌ノ型 星雲】
その瞬間、俺は目の前での出来事に感情が追いつかなくなったのか、今まで使ったことの無い、新しい型を発動していた。
「…俺の弟子に何しやがる!!」
霞の呼吸を意識して使用した型。星が爆発を起こした後に、残骸として残ったものが辺りを漂って星雲となるように、兄鬼から熱柱までのここら一帯を霞のようなものが覆う。
やがて視界不良の中で、敵目掛けて複数の斬撃が飛ぶ。
「死ねぇ!!」
斬撃のうち幾つかは躱すことが出来ようとも、突きに斬りにあらゆる方向から降り注ぐ斬撃にはどうしようもないようだ。
「ゲホッ…」
そしてこの型は、星雲の広がり型が疎らであるように、斬撃も非常に不安定。敵1人を執拗なまでに狙う故に、兄鬼など周囲に影響は及ばないものの、足やら腕やら、はたまた急所やら、型を出すまで何処に当たるか検討がつかない、少々不安定な面も併せ持つ型。
「き、きさ……ま………」
故に、こうして運悪く心臓や脳などの急所を斬られなかったことで、血塗れとなりながらも一瞬で死ぬことが出来ず、苦しみながら失血して絶命していってしまう輩も出てくる。
「…弟子を傷つけたんだ。お前は苦しみながら死んで当然だよ」
そう吐き捨てるように言ってやると、奴は糸が切れたかのようにその場に倒れ伏し、息絶えた。
「…終わったよ」
といっても、失ったものは戻ってこない。妹鬼の方は、もう体が崩壊を始めている頃だろう…。
「……妹の意思も継いで、お前だけは立派に育ててやるからな」
そうして俺が、満身創痍になってその場で膝を着く兄鬼の肩に手を置くと、
「……あ"ぁぁ…、仕方ない……たのむぜ……」
細く擦り切れたかのような声で、兄鬼は頷いた。悲しみに暮れた彼の背中が、いつも以上に痩せ細く見えてくる。
が、ここで予想外の声が飛んでくる。
「ちょっとちょっと!!勝手に殺さないでよ!!」
「「え?」」
兄鬼と俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「待って!?体の崩壊全然始まらないんだけど!鬼狩りの刀で頸斬られたら鬼って死ぬんじゃなかったの!!?」
そこには、頸を斬られながらも、未だに体の崩壊が始まらずに首と胴体が離れたままの妹鬼の姿があった。
「な、なんでだあ"ぁぁぁぁぁ?」
この異常現象には兄鬼もびっくり仰天。俺も目をパチクリして疑った。
「とりあえず頭を!」
我に返った俺たちは、すぐに妹鬼の頸を、斬られた断面に合わせるように胴体の上に置いた。
「……くっついた?」
鬼狩りに斬られた筈の頸は、やがて最初から斬られてなどいなかったかのように胴体部分としっかりくっついた。
原因不明だが、妹鬼は何か特殊な存在になったのだろうか…。そうとしか言いようがない。
「師匠ォ、そういえばあの熱柱に妹が斬られた時、何故だか直接攻撃を受けてない俺にまで衝撃来たんだよなぁぁぁァ」
「……まさか」
そう。兄鬼が体力消耗を抑えるために妹鬼に寄生するようにしたことから、それを切欠にやがて2人の体質に変化が起こり、兄鬼と妹鬼、2人の頸を同時に胴体から斬られた状態にしないと死なないということが判明してしまったのだ。
このことは、俺が恐らく生きてる中で驚いたこと3つのうち1つには入るだろうな。
(やれやれだぜ…)
手塩にかけて育てた2人が、こうも簡単にやられるとは思ってもいなかったし、こんな特異体質が発覚するとも思っていなかった。
(師匠に対する口の悪さ諸々、1から鍛え直しておくかなぁ…)
そうして修行内容にある程度の修正を加えること数ヶ月、彼女たちはヒィヒィ言いながらも修行に着いてきた。
「さあ!来い!」
そうして、只管血鬼術を伸ばし、各々にやれる手解きを全てやり終えたという確実な実感が出たその日。もう、早4年の月日が経っていた。
【血鬼術 血鎌】
【血鬼術 帯】
2人の兄妹としての連携力、そして鬼としての技量、全てが確実に4年前より進歩を遂げていた。
「…見事だ」
妹鬼の帯が俺の周囲を埋めつくし、俺は例によって刀で帯を薙ぎ払った。するとその間に、兄鬼の鎌が弧を描いて飛んできて、俺の服を掠めた。帯の方に気を引き付け、その間に本命の血鎌が飛んでくるという、2人が実践の中で突発的に編み出した、立派な連携だった。
まあ、俺が氷と熱の柱共との戦闘で自らの弱点を露呈してしまったこともあるが、結局のところ合格点や最終的な鍛錬の達成条件としては充分なもの。
彼女らは俺から1本取った。これは紛れもない事実なのだから。
「…その実力なら、十二鬼月の下弦に相応しいだろう。君たちは合格だ」
そうして俺は少し休憩を挟むと、すぐ彼女らを入れ替わりの血戦へと招いた。2人で1つの鬼として、彼女らは見事旧下弦の肆を十二鬼月の座から引きずり落とし、新しい下弦の肆となった。
下弦の伍と陸をすっ飛ばし、彼女らは一気に下弦の肆まで上がったのだ。
俺は2人の師匠として、やれることは全てやった。もうこれからは、俺に頼らずとも上手くやって行ける筈だろう。そう判断した俺は、一言別れを告げて彼女らの元を離れた。
…あとは2人の実力次第だ。人を喰い、強くなって上弦まで上がって来い。
そういった思いで、俺は4年ぶりに川越の拠点に戻った。
そうして2人が十二鬼月となって暫く経った頃、普段兄鬼諸共その身体を動かしている妹鬼の方が、ある仕事を始めたと手紙を寄越してくれた。
妹鬼は中々染まりやすい性格しているから、何か最近の環境で変化があったかもしれない。
そう思い、何が書かれているのかと便箋を捲ってみると、そこには以下のことが書かれていた。
"
拝啓 上弦の弐 朱雨師匠
下弦の肆として十二鬼月に加入し、早半年が経ちました。鍛錬にも区切りがつきました故、人間社会に溶け込むべく吉原にて花魁として身を置くこととなりましたのでここに報告致します。
場所は歌舞伎屋。名を月姫花魁。
朱雨の名前を女中や看板娘に仰って下されば、いつでも師匠とお顔を合わさせて頂きます。
どうか、いつでもよろしいので1度いらしてください。
"
「…………」
綺麗な文字で書かれた手紙を見て一言。
「染まりやすいなぁ…」
僅か半年で、かなり上品な雰囲気に染まりきっていた。
(いつか、時間が出来たら赴くか…)
まあすぐに行けるだろうと甘い感覚でそう計画を立てた。
が、この後多忙につき、半年ほど彼女らを放置してしまうのは内緒である。
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9000文字行きました笑
ー江戸コソコソ噂話ー
朱雨の人間嫌いの要因は単に道場の件だけではありません。いずれ話すことにします。
また、朱雨は無惨様からも人間嫌いであることやその高い実力、更には強い鬼を育成することに定評があってお気に入りの評価なのですが、一方で気に入った者や鬼という同族には同情的かつ友や師として接することから、鬼同士で群れることを良しとしない無惨様からはそこだけ人間臭いと悪く思われてます。ただ、無惨様の元で数々の任務をこなしてきた実績がある故にほぼ許容範囲だそうです。
が、実際のところ朱雨は全ての鬼を快く思ってはおらず、1つは童磨みたいなタイプで、どういう訳か妙に癪に障るらしいです。これに関してはいずれ話します。もう2つほどあり、1つは鬼でありながら人間に対して協力的な輩。原作における珠世や禰豆子みたいな人間側にいるのは嫌悪してます。もう1つは6月初頭投稿予定の29話以降で判明予定。