剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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原作崩壊ありますタグがここでようやく発揮。


29話 満月ノ鬼

あれから60年くらい経ったか。もう鬼として160年以上は生きてるからか、あんまり時間経過の感触というものを思い出せない。ただ、桜が咲いて葉が生い茂って紅葉が散って木が侘しくなってを60回ぐらいは繰り返したなという不確かな感触によって、おおよそ60年程と断定している。

 

「そうそう、筋いいね君ら」

 

そして今は、無限城にて俺より下の数字を持つ参から陸の上弦たちの訓練をしている。

 

…下弦? 下弦は入れ替わりが激しいので、俺か無惨様が育成に値するとすればやる。今は上弦の鬼だけ。

 

1人ずつ俺と全力の手合わせをし、参から陸の階級が高い者から低い者まで順々にそれ相応の手加減を加えていき、ただひたすら戦闘を繰り広げていく。そして最終的には、この場の全員と一斉に手合わせをし、俺自身も苦手だった多対戦へ順応することを目指している。

 

「いやはや、朱雨殿の剣には毎度驚かされる」

 

上弦ノ参 童磨

つい60年前まで上弦ノ陸の座についていたコイツは、旧上弦ノ参との入れ替わりの血戦を制して、俺の1つ下まであっという間に辿り着いた。相変わらず何から何まで気に食わない性格をしているが、コイツもその育成対象である。本当はコイツなんぞ指導するのも嫌なのだが、上弦だし戦力面でもやっておく他ないからな。複雑な心境ではあるが公私混同せずやっている。

 

 

「相変わらず強いなぁ、朱雨は」

 

上弦ノ肆 猗窩座

60年前、鬼人族の郷を俺と合同で壊滅させた功績から下弦ノ壱より一気に昇格した我が友、猗窩座。あの童磨より数字は下になってしまったが、栄養豊富な女しか食わない童磨と、若干栄養面で劣る男しか食わない猗窩座とではこの差も仕方ないのかもしれない。とはいえ、そんな拘りの差があれど猗窩座の実力は上弦ノ肆に恥じぬもので、あれから鬼狩りの柱を5人も殺した。血鬼術の破壊殺にも益々磨きが掛かっており、かつて彼の育成を担当した我が身としては嬉しい所存ではある。

 

 

「ヒョヒョヒョ…やはり朱雨殿は恐ろしく強い」

 

上弦ノ伍 玉壺

影薄いながら、実は60年前は下弦ノ弐であった玉壺。旧上弦の伍を入れ替わりの血戦にて圧倒。新しく上弦ノ伍に就任した。普段は自作の壺の中に潜んでおり、主に魚に関連する血鬼術を使用する。十二鬼月の上弦にしては珍しい人型ではない者で、目と口の位置も上下左右に2つあるという、もはや人とはかけ離れすぎた半魚人のような異形鬼。ちなみに任務外でコイツとは正直あまり交流もないし興味もない。

ただ、芸術家としての側面があり、よく変な壺を作っており、どういう訳だか世間からは良い評価をされてるようでいい値段で売れる。それ故、資金源になることから珍しく無惨様より特別扱いを受けている。その点は高く評価できる。

 

 

「やっぱり…強い……」

「師匠だからなぁ"ぁ"ぁ"……」

 

上弦ノ陸 堕姫及び妓夫太郎

かつて俺が手塩をかけてじっくり育てた2人の鬼は、60年の時を経て下弦ノ肆から上弦ノ陸まで這い上がってきた。童磨と入れ替わる形で上弦ノ陸まで落ちてきた旧上弦ノ参は、格下だと思っていた童磨に敗北したことがきっかけとなりその後失意の底で日光に自ら飛び込んで自殺。空席となった上弦ノ陸には本来下弦ノ壱が繰り上がりでなるのが定石だが、そこに待ったをかけたのが2人。2人で1つの鬼として下弦ノ壱相手に挑んで勝利し、無事新上弦ノ陸の座を掴み取った。そして今に至るというわけだ。

 

 

「それじゃ、少しばかし休憩入れる。差し入れ用意してるから各々自由に飲んでくれ」

 

そうして俺は、手の平ほどの竹水筒を5本懐から取り出して、それぞれ5人の手元へ念動の血鬼術でヒョイっと送り渡した。

 

「…少し席を外す。すぐに戻る」

 

上弦ノ参から上弦ノ陸との合同訓練。この稽古は、平等かつ武士道に則って行うようにしている。ここには師弟も友も不仲もない。私情や私怨は一切持ち込まないよう心掛け、純粋に鬼としての実力を奮うのみ。

 

「おっ!これは例の鬼人族の血じゃないか朱雨殿!」

「…かわいた喉を潤すには確かに良いかもな」

「ヒョヒョヒョ、鍛錬だけじゃなく休息にも手を抜かないとは……」

「初めて飲むけどこれ美味しい!」

「…美味いなあ"ぁ"」

 

早速皆俺からの差し入れを味わってくれてる模様。外見は単なる竹水筒にしか見えないが、中に入れてるのは童磨の言った通り60年前に殺した鬼人族共の血。あの日から多少鮮度こそ落ちたが、鬼人族ともあってか未だに腐る気配がない。それ故に、鬼人族の研究は未知の出来事多数につき60年前から中々進展しないのだが、今こうして差し入れとして利用できる点ではまあ良いだろう。

 

 

 

 

「…黒死牟さん、例の件(・・・)に関してですが……」

「……来たか」

 

5人の元を一旦離れた俺がやってきたのは、十二鬼月結成当時から最強の座である上弦ノ壱の位を守り続ける、俺の唯一の上司の元だ。

 

「…まずは俺の実力を高く評価して頂いていること、大変感謝します」

 

黒死牟さんは、鍛錬場を見下ろせる御殿造りのような場所に1人佇んでいた。無限城に黒死牟さんが来る時は、だいたいの場合ここにいる。

 

「……それは朱雨の腕がかつてなく向上しているが故の正当な評価。今更感謝を述べるまでもないだろう」

「……左様ではありますが」

 

正直に言うと、俺の実力が高まっていることは自分でも把握している。そもそも自分のことは自分が1番よく知っているからな。

けど、黒死牟さんは1つだけ勘違いをしている。

 

それは、何故か俺を取り巻く周囲が鬼狩り含め劣化(・・)状態にあること。いや、十二鬼月に関してはあまり劣化はしていない。むしろ鬼人族を滅ぼしたことで鬼狩りの戦力を大きく削ることに成功し、その結果討伐される鬼の数もここ数年でかなりの減少傾向にあり、相対的に鬼側の戦力は補強されつつあるのだ。

 

(まあ、そんな余裕があるからこそ、今こうして上弦同士で鍛錬とか出来ているんだけどねぇ)

 

とはいえ、それでも尚俺が周囲に対して劣化を感じる理由。

それは、俺の実力が周囲と比較しても有り得ないほど上がりすぎていることで、周りが弱体化したという錯覚を抱いているところにある。

純粋に考えれば、実力の向上というのは決して悪いことじゃない。が、俺の場合は少し事情が異なる。俺の場合、向上ではなく暴走(・・)しかかってるところがある。

前まで絶対に考えられなかった実力者相手の多人数戦闘も、今ではすっかり対応出来てしまっている自分がいる。十二鬼月の上弦を参から陸まで一斉に相手など、60年前の俺ならあっという間に即死していたろうに、今ではそれが容易く出来てしまう。

 

少し話が脱線した。黒死牟さんの本題へと戻そう。

 

「朱雨よ、お前は何故いつまで経っても私に入れ替わりの血戦を挑まない?」

「…その話について答えを出しに来ました」

 

120年程前、俺が疲労によって最初の暴走(・・・・・)を起こしたあの日、黒死牟さん直々に教えることは無いと言われ上弦ノ参まで昇格し、鳴女さんを巻き込んでしまった思い出すだけでも色々大変なあの日のこと。妙に鳴女さんに避けられるようになったあの日のことだよ。

振り返ってみても、十二鬼月結成当時に下弦ノ陸だった俺が僅か40年で上弦に昇格してその後数年で上弦ノ参に、そして60年前には上弦ノ弐となったのに、ここまで来て何故か上弦ノ壱になろうとする気を一切見せないのは、現上弦ノ壱である黒死牟さんからすれば不思議でしかないのだろう。今までの俺の出世速度的にも、ここで途端に熱が冷めたかのごとく出世欲が見られなくなったのは、1つ上にいる黒死牟さんの目からは異様に映ったのかもしれない。

 

…でも、だからこそ、ここでその件に関して白黒つける必要がある。

 

「…そうか」

「はい、近々無惨様にも打診予定です…」

 

入れ替わりの血戦を挑まない理由。そしてこの60年、そして俺が鬼として過ごしてきた160年近くの年月によって俺が示した答えを、黒死牟さんに伝えた。

 

「……にしても、何故今更になって第1線(・・・)から下がりたい(・・・・・)と?」

「これには深い理由がありまして……」

 

この60年で俺の考えは大きく変わった。数々の任務を遂行していく上で、自分は十二鬼月とはまた別の(・・)位を持つ鬼として活動する必要性を感じ始めた。

それこそ、十二鬼月ではなくとも、俺が鬼となる前から無限城の管理を一任されている鳴女さんみたいな、数字を持たざる特別格な鬼がいても良いのではないか。

 

「…まあ、理に適った要望ではある。だが、無惨様が朱雨の考えを尊重して下さるかは此方も分からまい。根気よく、相談してみると良い……」

「はい、ありがとうございます。それではこれにて」

 

そうして俺は踵を返しながら、他の上弦たちが休息を挟み待つ鍛錬場へと引き返して行った。

 

 

________________

 

 

(…朱雨)

 

かつて彼のような鬼がいただろうか。私はつくづくそう思わせられる。今、私が見下ろす形で眺めているのは、上弦ノ弐である朱雨による上弦合同訓練の様子。

 

そもそも、鬼というのは種族的に群れることを良しとしないと無惨様より伺っているのだが、彼に関してはその常識というのが全く存在していない。

本来、十二鬼月は無惨様直属の精鋭鬼集団であるのだが、精鋭集団とは名ばかりにその実十二鬼月内でより上の数字を勝ち取るために競い合っている現状。ようは、集団内で常に冷たい抗争が起きているなもの。

 

___しかし、上弦ノ弐である朱雨だけは競い合っているような感じをまるで一切見せない。それどころか共に高め合うことを良しとしている。

 

私は確かに、朱雨の実力を剣においても血鬼術においても上弦ノ弐に相応しいものと非常に高く評価している。それは紛れもない事実であるし、それ相応の情けのなさも持ち合わせている。

だが、歴代の十二鬼月の中に、朱雨のような協調性に長けた変わり者がいたかというと、私はそうは思わない。

 

かつて上弦の鬼による合同訓練なんて過去に開催されただろうか。上弦だろうと、鬼というのは常に自らが上へ上へと行くことしか考えない。故に、自分さえ良ければそれでいいのだ。

にも関わらず、朱雨は今日に至るまで、様々な鬼らしさを感じさせないことを実行している。

 

まず、朱雨と童磨。ついでに玉壺。主に朱雨と童磨の2人に関して。この件、まず前者となる、童磨が一方的に朱雨を強者と認めてるだけで朱雨は童磨を全く快く思っていないと、片想いでしかない両者共にお世辞にも良い関係とは言えない。が、彼は上弦合同訓練の場において、そういった私情は出さない。ただ純粋に、鍛錬仲間として接するのみである。

後者の玉壺に関しても、朱雨は面識が殆ど無いはず。しかし、今は公私混同せずと、上の階級の者として鍛錬にあたっていた。

 

次に、猗窩座と堕姫と妓夫太郎。この3人は比較的朱雨と交流があり、尚且つその関係も非常に友好的なもの。きけば、猗窩座が鬼になる切欠を出したのも朱雨であり、堕姫と妓夫太郎に至っては朱雨が師匠らしい。しかも弟子からは相当慕われている様子。

…妓夫太郎の方は若干違うかもしれないが。

 

そして休息時間には、貴重な鬼人族の血を皆に分け隔てなく差し入れとして与えるという、鬼として珍しい気前の良さ。

 

ここまでの話での結論を致そう。

彼は、他の鬼のことも常に同族と捉えており、我々を根絶やしにさせんとする鬼狩りを潰す鬼という同族同士争う理由なんてなく、共に高め合い結託すべきものだと思っているんだ。

 

そして、彼が口に漏らした前線からの退き希望。いわゆる上弦ノ弐以下の数字を下の者たちに譲り渡し、自分は別働隊として大きな任務を担当すべく、そのために何か例えるなら上弦ノ零のような自分に新しい処号が欲しいというものだ。

 

…理由をきけば、どうも彼はここ最近訪れた大きな体質の変化に全く追いついて行けてないらしく、その調整を行いたいとのことだそうだ。そしてそれと同時に彼が自主的に行っている鬼人族の研究が手詰まりとなり、十二鬼月としての任務に割く時間もないとのこと。また、これまで猗窩座と堕姫、妓夫太郎を十二鬼月として認められるまで育成してきた実績から、鬼殺隊が鬼人族を失って壊滅寸前状態の今だからこそ、じっくり鬼の戦力増強を行うべく教育係としても今後の十二鬼月を磐石なものにしていきたいとのこと。

 

(…朱雨、いったいお前はどこを目指しているんだ?)

 

もはや私には分からない。

ここ最近の無惨様は、朱雨が思い通りに責務を果たしているために150年以上も長い間に渡り上機嫌のまま。もしこの勢いで朱雨の提案が受け入れられれば鬼という種族はどれだけ躍進するのか、想像もつかない。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

後日無限城にて、無惨様と一対一で謁見する機会を設けて頂けた。此度の無惨様は和服に身を包み、相変わらずの高潔な様相で佇んでいらっしゃる。

 

「…つくづくお前は私に意見を零すことが多いな」

「はい、申し訳ございません」

 

俺は無惨様の前でいつも通り膝をついて頭を垂れる。本来、無惨様とお顔を合わせて頂くだけでも身に余る有難きことであるのに、俺はこうして様々なことを無惨様に打診させて頂いてる。非常に光栄なことだ。

 

「……まあ良い。お前はいつもよく働いてくれている。そしてそれが負の方向に傾いたこともない上、お前にしか出来ないことも多々ある。然るべき役を果たしている分、此度の望みも聞いてやらない訳でもない…」

「ははっ、有難き幸せ」

 

そうして俺は無惨様に例の件を申し上げた。上弦ノ弐の座を降り、今後の未来を見据えた上で様々なことに手を出して行きたいという希望を、無惨様に示した。

 

 

「…なっ?今更上弦を降りたいと……?」

「……はい」

 

上弦の数字なんて、この世にいる殆ど鬼が辿り着きたくても手を伸ばそうとも、結局恵まれた環境と才能が無ければ手の届くことない境地。それを自ら手放そうとしているのだから、無惨様からは実に滑稽に思われるだろう。

けど、そんなことは承知の上でなければわざわざ無惨様に打診などしない。自信を持って言える、ちゃんとした理に適う理由があるのだ。

 

 

「…ふっ」

「…?」

「ふっはっはっはっはっは!!!」

 

俺は思わずポカンとしてしまう。無惨様が高笑いするなんて初めて目にしたし、何より然るべき罰として頸を失う覚悟もしていたというのに、無惨様は今目の前で大きく笑っておられる。

 

「そんなこと言うやつはお前が初めてだ。今までもこれからも、そんな自ら数字を捨てたいなんて言う奴現れないだろうな」

 

ここが1番の正念場だったが、全く杞憂だったようだ。むしろ無惨様からは好意的に受け取られたような、そんな感じだった。

 

 

「…一応きくが、将来を見据えてお前がしたいこととはなんだ?」

「はい、内容につきましては……」

 

そうして俺は無惨様に具体的な方針を話した。

 

まず、ここ60年で制御の効かなくなった力の調整。原因究明を行い、解決した暁にはこれまで以上の力を振るい、必ずや無惨様の望むものを全て叶えられる鬼となる。

 

そして次に、60年前より続く鬼人族の研究の完了。鬼人族をあの日根絶やしにして半世紀。死してなお未だ腐らない奴らの血や肉体について深く触れていく必要性を感じたこと。実はあの日以降、念の為に郷を何回か行き来して多くの鬼人族の死体を回収していたのだが、一切手をつけていない死体もあるのだが、未だその死体は腐敗していないのだ。どう考えてもこれはおかしい。故に深く調べる必要性を感じた。

 

更に、今後は猗窩座や堕姫などの十二鬼月の上弦戦力だけに留まらず下弦戦力の育成もしていきたいという旨を申し上げた。鬼狩りはこれまで幾度も壊滅の危機に瀕しながらも、しぶとく生き残ってきたという。鬼人族を失って鬼狩りが半壊状態の今だからこそ、いつ来るか分からない鬼狩りの再興に備えて、少しでも戦力向上に努めたいのだ。

 

 

…そして最後になるが、これは無惨様にとっても、俺たち鬼にとっても、長らくの常識を破ることになるかもしれない案件だ。

 

「…なに?それは本当か?」

「はい、もうここまで来ますと、そうとしか考えられません…」

 

俺が十二鬼月の座を捨ててまで専念したいことができた理由。それはこれが主たる原因だった。

 

「……青い彼岸花は、普通に探しても見つからないと?」

「はい、特に青い彼岸花に関しては恐らく普通に探しても見つかりはしません。長い時をかけて根気よく調べていく必要がありそうなのです……」

 

無惨様が遥か昔に鬼となって以降、ずっと行方を追っている青い彼岸花の存在。俺たち十二鬼月がいる理由も、元を辿れば鬼狩りの柱への対抗馬とは他に青い彼岸花を探索するためという理由があるのだが、もはやここまで見つからないと来たらその十二鬼月が青い彼岸花問題の打開となるか怪しい。むしろ、十二鬼月はある程度の自由が許されているとはいえ、臨時には無惨様によって任務が下されることもあり、それ故に青い彼岸花に関して長期的な探索に専念できない。

 

「…………いいだろう。ただし条件がある」

「条件とは………いったいなんでございましょうか?」

 

結果、十二鬼月から離脱してこれらの案件に集中する方針は、渋々ながらも受け入れて頂けそうだった。

…ただ、無惨様は条件があると付け加えて仰られた。

 

「…1つ、これら全ての案件を50年以内に全て解決しろ。青い彼岸花については私も未だ見つけられぬ故、完成に多少時間をかけてもいいが、それでも50年以内にある程度の結果は出せ。もう1つ、上弦から離脱するにあたり、代わりの者を育成するなりして用意することだ。それも下弦程度の力ではなく、上弦に匹敵する力を持った者を用意しろ。話はそれからだ」

「…はい」

 

50年以内の全解決。50年以内に自分の中に潜む暴走の原因を特定し、下弦の戦力もある程度まで増強、そして鬼人族の研究も完了させ、極力青い彼岸花についても早いうちに吉報を出すこと。

…そして、代わりの者を用意するこという条件。だが、これに関しては1つ(・・)、まだ試していない血鬼術がある。これを使えば、充分な代わりは作れる。

 

 

【血鬼術 霊人形(フェンリル)

 

 

俺がかつて殺した人間の魂を呼び覚まし、その名の通り鬼の霊人形として転生させ、何でも言うことをきく式神のような形で顕現させて使役するといったもの。とはいえ、霊人形と銘打ちつつも、ある程度自ら考えて行動する自我は持っている。その思考能力は、さほど人や鬼と遜色ない。

 

(さて、何処か居ないか…)

 

随分と多くの人間を喰らってきたから、候補と成りうる奴は割といる。が、無惨様の要望を満たせる程の強力な鬼の器となれる者は、既に幾許の罪を犯した者や反社会的な歪んだ思考を持っていた者たちのみ。故に探りを入れたところで霊人形に出来るのは僅かにしか出てこない。

 

(おっ、丁度いいのがいたな)

 

150年前くらいだったか、当道座で唯一俺に刃向かってきた運のいい生き残りがいた。まあ、最終的に殺したけど。とはいえ、コイツは盲目を偽って度々盗みを働いていたらしいし、器としては上出来だ。

 

「来い!」

 

そうして俺はソイツを現世に顕現させる。少々の煙が舞い空間が一瞬歪んだ後に、やがてそこには小さな鬼が現れた。

 

「…なんだそれは?」

 

無惨様が首を傾げられる。今まで一切使ってこなった血鬼術だから、十二鬼月どころか頭領の無惨様も全く知らない技。そして何より、俺自身もあまり使いたくなくて今まで使うのを渋ってきた技。

 

「…昔殺した人間を現世に呼び戻し、私の言うこと聞く鬼の霊人形として使役します。ロクな見た目した奴はほぼ出てきませんが、上弦ほどの実力ならある筈です」

 

こうして生み出した式神の特徴としてだが、まず鬼と同じで日光に弱い。その代わり、1度日輪刀で斬られても死なない何かしらの強力な血鬼術をもって顕現してくる特性がある。

ただ、難点というのが幾つか存在する。

 

「…コイツは、まあ上手いこと使ってください。…見た目気持ち悪いですが」

 

そう、この霊人形なのだが、出てくるやつが毎度悍ましいというか率直に言うと気持ち悪い。案の定、ソイツはコブだらけの老人みたいな姿で出てきてしまった。原因は恐らく、1度死んでるために魂が不完全であり、尚且つ強力な霊人形の器が務まるのは罪人であるという特性上、数も少なければ生前の歪みからか見た目に異常が多々見受けられる。このせいで、俺はこの血鬼術を滅多に使用しない。本当に、猗窩座や堕姫の隣に置けないような醜い奴しか出てこないのだ。自分としてもこんな醜い奴の生みの親という肩書きが残るから毎度この技には二の足を踏まざるを得ない。

 

とはいえ、代わりの者を早く用意しろと言われた以上、すぐにそれらを実行するためにはこの血鬼術しかない。

 

「…まあ良い。あとで私の方で血を足しておけば戦力も調節できるだろう。そして朱雨よ」

「はい!」

「…お前は上弦ノ弐から離脱だな。ついでにこの機会だから、鳴女!お前も来い」

 

そうして呼ばれた鳴女さんは、ベベンという琵琶の音ともに俺の真横へと現れた。どうやら鳴女さんは、無限城内であればある程度自由に瞬間移動が出来るらしい。

…鳴女さんも俺が鬼になる前というかなり古い時代から、ずっと無限城の管理をしていたわけで、それほど重大なこと任されていながら名誉の数字なんて貰ってなかったからね。

 

「お前たち2人には此度より十二鬼月とは別の数字をくれてやる」

 

そうしてまずは無惨様が俺の目に指を入れてきて、上弦ノ弐の数字を消す。それと同時に、新たな称号が刻まれる。次に鳴女さんの目に無惨様の手が突っ込まれ、新たに鳴女さんにも称号がつく。

もう幾度も無惨様の指は経験してるので、流石に俺も鳴女さんもマグロのようには跳ねない。

…痛いという事実は変わらないけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

「朱雨に鳴女、今日からお前たちはそれぞれ、満月ノ鬼と新月ノ鬼だ」

 

俺の両目を覆う左右それぞれ満月の文字。鳴女さんの目にも新月の文字が刻まれた。

 

 

 

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

元々この小説、朱雨が鬼になって勘違いされつつ十二鬼月上がっちゃう的な全40話の話の予定だったのですが、鬼滅原作が最終回を迎えてこれ以上話が広がる可能性が低いと見たこともあって鬼人族やら十二鬼月とは別の組織だとかオリ設定てんこ盛りにしようという形になりました。100話超えそうです笑
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