剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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☆10
H2Oライトさん
☆9
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☆8
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高評価大変深く感謝致します。


30話 暴走

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(…上弦ノ弐を降りたい……か)

 

先日のことだった。上弦ノ弐である朱雨が、私と話したいことがあると謁見を申し込んできた。

特に断る理由もなかった故きいてやることにしたのだが、そこで奴が申し出てきたことは前代未聞のとんでもないことだった。

 

"上弦を降りて専念したいことがある"

 

つくづくコイツは私への要望が多い奴だ。とはいえ、奴が優秀なことに変わりはない上、わざわざ光栄である十二鬼月を降りてまでやりたい事とは相当なことなのだろう。

それに、そんなことを言う馬鹿な鬼など、今の今までいなかった。私とあろうものが、思わず拍子抜けして声高らかに笑ってしまった。

 

それで、十二鬼月を降りてまでやりたいことをきけば、内容的には決して納得出来ぬものではなかった。

 

最初の血鬼術が暴走しているという件だが、まあこれは詳しいことを聞きそびれてしまった。何しろそれ以上に、別の案件の方が興味深かったからな。

 

まずは鬼人族の研究の完了。

あんな裏切り者の末裔など、絶滅させた以上放置しておけば良いと思ったが、奴らは鬼の血を継ぎながら日光を克服している連中だ。奴らを詳しく調べれば、最終的に日の下を恐れる必要もなくなる可能性がある故、決して意味の無いことではなさそうだ。

 

次に朱雨が打診してきたのが、次世代の十二鬼月たちの育成。

ここ60年は鬼狩り共も鬼人族を失って壊滅状態となり、目まぐるしく変わっていた十二鬼月の面子もある程度固定され、上弦の顔触れに至っては40年以上も同じだ。四半世紀に1度は上弦でも討たれていたというのに、確実に進歩したのだ。鬼狩りはどんなに壊滅状態に追い込もうと、世代交代を利用して幾度となく息を吹き返して来るからな。経験上、あと50年もすれば何事も無かったかのように復興してくる。

ならば今のうちに戦力は固めておくべきだ。幸運にも、朱雨には上弦ノ肆と陸をここまで引っ張ってきた実績もあるからな。適材適所というやつだ。

 

そして最後。これが実質朱雨の十二鬼月離脱を許可した最大の理由。

それは青い彼岸花の大掛かりな捜索だ。

朱雨の持つ血鬼術には、確かに数多もの探索に長けた技がある。遠隔透視に加えて瞬間移動、加えていざという時の戦闘力も申し分ない。日陰から日陰に移動を繰り返すことで日中でも捜索活動が可能だ。もはや、青い彼岸花に関しては朱雨に一任する他ない。私が数百年追って発見できないとなると、恐らく普通の探し方では決して見つからないのだろう。

 

…ただ、上弦ノ弐が欠けるのは些か戦力的に不安が残る。朱雨は黒死牟に次ぐ実力者だからな。離脱の代償は大きい。しかし青い彼岸花含め、その他任務は朱雨にしか務まらない。朱雨には早速、上弦の実力に相応しい者を育成するなりしてその手腕を発揮してもらおうじゃないかと、そう思った矢先のことだ。

 

朱雨が、私も見たことの無い血鬼術でいきなり目の前に鬼を召喚した。奴によれば式神(・・)のようなものとのことだが、これまた随分と気色の悪い醜い姿をしていた。全身コブだらけの小さい老人の鬼だ。ただ、内に秘めたる力は相当なものを感じる。朱雨曰く、既にある程度の自我も持ち戦力としても使えるとのこと。ならば、あとで私の血を入れた後にでも戦闘力を測って、上弦における数字を測定するとしようか。

 

そして最後に、今回の任務完了までの期限を50年とした。ただ、青い彼岸花だけは例外扱い。青い彼岸花は未だ未知なる存在。少し余裕を持たせることとせねばな。とはいえ、50年もあればその間に少しぐらいは青い彼岸花に纏わる吉報を持ち帰ってくるべきだな。

 

さあ朱雨よ。お前の望みは全て叶えてやったぞ。

お前に授けた銘、"満月ノ鬼"として、同じく新たに新月ノ鬼となった鳴女と同じように、その腕を存分に奮うといい。

 

 

________________

 

 

 

無惨様に50年の猶予を頂いた。この間に何としてでも全て終わらせる。俺はそれを行動に移すべく、まず最初に血鬼術暴走から手をつけていく。

 

「……いつだ」

 

そういえばこの血鬼術の暴走について、無惨様に一切申し上げることが出来なかった。まあそれ以上に青い彼岸花の方がよっぽど重要案件だったからなぁ。

 

…けど、この血鬼術暴走は決して看過して置けない問題。

 

「…っ!きやがった…またこれか!」

 

頭を劈くような激痛が走る。

その瞬間、室内に置いてあるあらゆる家具や物品が、騒霊たちの仕業の如く部屋中を舞う。

今回は(・・・)念力の血鬼術が暴走したようだ。

やがて部屋は一瞬のうちに嵐が過ぎ去ったかのような家具が飛び散る荒れた様相へと変化した。

 

この血鬼術暴走、ただ単に血鬼術の威力が上がったとかいう楽観視できる問題ではない。

明確な使用する意思がなくとも、勝手に(・・・)作動してしまう。

ただ唯一幸いなのが、この暴走が起きる時というのはおおよそ決まっていて、どういうわけか1人でいるときに限って発生するという条件がある。

 

「…クソッタレ」

 

加えて毎度暴走前には無惨様に新しい血を注がれる時以上の激痛が迸るものだから、頻発されてはとてもじゃないが耐えられたものではない。しかも無惨様の血は鬼にとって大変有難いものだから甘んじて受け入れられても、これに関しては無意味な痛みに無意味な暴走と泣きっ面に蜂。これでは単独任務どころか今後生きていく上で不便でしかないし、早急な解決を急ぐ必要がある。

 

(埒が明かない…)

 

この件に関与していると思わしき奴に聞く他ない。そうして俺は、体内に潜む何者かの意思に語りかける。

 

「…これは、お前が関与してるのではないか?」

『ん〜?何〜?』

 

名前も素顔も正体もただただ不明の謎の存在が、間の抜けた声で返事をする。

 

「惚けるなクソ女が!お前が俺の脳内に現れるようになった60年前(・・・・)から、わざわざ俺が1人でいる時を狙って血鬼術を暴発させてるのは分かってるんだよ!」

 

そう、コイツは俺が60年前に鬼人族を絶滅させた後に突如俺の脳内に現れるようになり、以降ちょくちょく語りかけてくるようになった奴だ。名前も名乗らず、ただただ俺に厄介な症状まで付けてきた迷惑極まりないやつでしかないが、いなくならない以上はこれからも末永く付き合っていくしかないんだよな。

 

『だから〜、私は君の頭痛とか知らないし〜!』

 

とまあ、俺はコイツが元凶に違いないと踏んでるわけだが、どういうわけか奴は未だに罪を自白する気はないらしい。

 

「…嘘をつけ、だったら何故俺が1人でいる時しか症状が起こらなかったり、この症状が初めて現れた少し前にお前は俺の脳内に潜むようになった? 意地の悪いお前がしかけたことじゃないのか?」

『だから私じゃないって〜!』

 

と、こいつはいつも通り、しらばっくれるだけだ。いつまでも埒が明かない討論を続けるだけ、そう思ってた。

 

『そんなに毎度辛いなら、かつて食い散らかした魂の残滓の1つや2つぐらいにきいてみれば〜?それなりに力持ってるんだし、できない事じゃないでしょ?』

「…っ!?」

 

コイツは今、妙にこの件の核心に迫るようなことを言ったような気がした。かつて俺が食った輩に原因があると、コイツはボソリと口にこぼした。

 

『…あっ、やべ。ま、まあ、とりあえずご参考程度に〜。じゃ』

「おい、勝手に消えんな」

 

そう言って奴は俺を制止を振り切る形でフッと消えていった。

とはいえ、60年という長い時の中でようやく奴が口に零した解決への糸口。奴の手に乗るのは癪だが、解決策がそれしかないと言うのなら………

 

「…ッ!また……」

 

時を待たずして今度は未来予知の血鬼術が暴発。

目まぐるしい程の未曾有の光景が、俺の頭を幾度もグルグルと巡り廻る。

 

(…なんだよ、この2人は)

 

映し出されたのは、少なくとも今の時代では存在していないものの数々。空は暗いのに、鬼人族の郷以上に賑わう夜の街に、その街を昼間の如く明るく照らす人工の明かりみたいなもの。更に何処に行っても目にかかることが出来ない日本古来の文化を錯誤した異様な雰囲気を醸し出す建築物。

そしてそんな明るい街で俺は、見覚えのない2人の小さな鬼らしき手を両の手で握りしめ、ひたすらに何処かへ駆け出していた。1人は2つの鬼角に赤い眼をしたサラサラ髪の小さい女の袴を身に纏った鬼で、もう1人は片目を隠すほどの首まで伸ばした円を描くようなクセのある白い喪服のような格好に白髪の小さな男鬼。女鬼の方はとても無邪気な笑みを浮かべていて、男鬼の方は物凄く固い表情をしていると見せ掛けて、内心嬉しそうであった。

周りの光景から予測するに、見えた光景は1週間どころか数年のものでは無い。恐らく、暴発の果てで開花したかなり先の時代の予知。本来、未来予知で見えるのは1週間が限度なのだが、暴走の渦中で相当先まで見通せるようになったようだが、それでも数十年は先のものだろう。

 

(…早くしないと)

 

いずれにせよ、未来予知の果てで見えたこの時代までに、何としてでもこの事態を収束に導いてみせる。

 

 

________________

 

 

3年の時が経った。

俺がかつて十二鬼月脱退の代わりとして無惨様に差し出した霊人形は無事に活躍しているようで、『半天狗』という名前がつけられた上に、その実力が高く評価されて上弦ノ肆に据えられたとのこと。ただ、相変わらず霊人形の見た目は気色悪いし、当然鬼である以上は霊人形といえど人間を喰いまくるので、結果的に奴の気色悪さに拍車がかかった。

一方、血鬼術は案の定1度斬られることで発動する技となり、斬られると喜怒哀楽の4つの強力な分身に分かれて鬼狩りを数的優位で追い詰める血鬼術だそう。そして、その初見殺しの血鬼術により、出会した鬼狩り全てを殺害することから未だ鬼狩りにもその存在が把握されていないという快挙まで成し遂げていた。そんな朗報に1人沸き立つ中、俺自身に関してはただ悲報というか可もなく不可もない進捗なしの無報状態が続いていた。

 

「…お前は無関係か」

 

1日に1人という頻度で、かつて俺に喰われたことで俺の中で生き死ぬことになった人間の魂と、こうした形で対話している。

無駄に時間をかけすぎと思いがちだが、人間というのは保身の為に割と平気で嘘をつく。それは魂だけの存在となっても同じで、本音と建前の境界を炙り出すにはそこそこの時間がかかる。それ故にすぐ尋ねてすぐ終わりじゃなく、1日じっくりかけて尋問していく必要がある。

 

「あばよ、役立たずが」

 

そうして色々と魂に尋問を加えた後、1日の終わり際に最後の仕上げとして魂を粉々に握り潰す。そうすることで、どんなに未練や悔恨があろうと強制成仏。俺はこれを、ただひたすら3年も繰り返していた。

 

(…まったく、俺はどんだけ人を喰らって来たのか……)

 

毎日欠かさずやって未だに残ってるのだから、喰った人の数は優に1000は超えてるのだろう。この大食いのおかげでかつて上弦ノ弐にこそ上がれたけど、まさかこんなところで墓穴を掘ることになるとはな。

 

(墓荒らして喰ってた頃が懐かしい…)

 

今思えば、墓に埋めてあった死体は既に丁重な葬儀がなされた死体だから、魂はとっくに成仏済みなんだよな。その癖、俺に殺されて喰われた人間ってのは、どいつもこいつも肉体を失いながらも現世に留まりたがる。俺が死んだら地獄に導こうとでもしてるんじゃないかってぐらいにはね。

 

(…地獄なんて行って溜まるかよ)

 

そのために人を喰らって強くなった。俺を認めて下さった無惨様のため、鬼という種族の繁栄のために、俺はこの命を未来永劫無惨様に捧げると誓ったのだ。

 

 

(…さあ、次の魂は何処のどんな奴だ)

 

今日もまた、俺は魂に問い掛ける。

 

ここまで来ると、もはや俺の血鬼術の域は念動を超え、霊媒を含めた超能力全般を操るものになろうとしていたのだが、俺はまだそのことを自覚していない。

…そして、それがやがて血鬼術暴走の解決の糸口になる。




ー江戸コソコソ噂話ー

江戸時代に存在しないカタカナ語は使用を避けてます。アイデンティティやらイノベーションやら、グループやメッセージといった言葉を使わずに全て日本語で表記するよう心掛けてます。ただ、マジ?は江戸時代から使われていたそうなので時折朱雨も用いてたり。
また、朱雨の記憶がなくなってからは、明治以降に生まれた概念や技術についてもノータッチ。知らない前提で話を進めていきます。


※現在、来週末予定の次話がまだ書けていないため、今後投稿が遅れる可能性がございます。
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