剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
ー追記ー
しばらく投稿おやすみです。多忙のため執筆時間が確保できないのです。
あれから数日、俺は拠点に籠りながら只管同じことを繰り返す日々を送っていた。
「…コイツらも無関係か」
依然として続く血鬼術暴走。その打開策を求めて、日々喰い散らかした人間共の魂への尋問。今日もまた、暴走とは無関係の魂を最終的に強制成仏させて終わりを迎える。
(…次からは一旦、人間相手は終わりか)
いよいよ次から取り掛かるのは、100年前に郷ごと壊滅させた鬼人族共の魂。
1000人以上もの霊魂を握り潰すことで冥府に送り、数年という時を経てようやく鬼人族を尋問する順番が回ってきた。鬼になってから、それほど途方もない人間を腹の中に消してきたと考えると、自分の事ながら感心してしまう。
(…とはいえ3年近く休み無くやってきたしな。そろそろ息抜きするのもありか…)
順々に魂を辿り、ようやく鬼人族まで追いついたということは、記憶上長くてもあと200人ぐらいということになる。となると、もうあと1年以内にこの血鬼術暴走については確実な答えが出るということとなる。
…ん、なんだ? そもそも血鬼術暴走解決の鍵を、過去に殺した人間が必ずしも持ってるとは限らないって?
普通に考えれば、この方法は時間もかかるし愚策だと思われがちだが、割とこれに関しては否定出来ない案件だったりする。
実はこうして毎日のように魂へ尋問を行う中で、塵は積もれば山となるというか、1歩1歩着々と血鬼術暴走の要因となった存在に近づいているような確信を得てきている。
ちゃんとした理由になってないと言われるかもしれないが、元より自分の体なのだから自分が1番理解していなくてどうする。故に、言葉では説明することの出来ない、俺に血鬼術暴走という症状を植え付けた
(さて、どうするか)
終わりが見えてきたこともあり、俺は久々に一息休息することとした。3年間誰とも会わずに拠点にこもり、唯一会話したのは既にこの世のものではない輩。陽の光こそ浴びれないが、外の風は久々に体で感じたい。無駄に広々とした拠点で1人でいるのも飽きたし、何処か行きたいし誰かと会いたい。
(…そうだ)
確か少し前に書状が届いた。文のやり取りをする仲なんて俺には少ないので、差出人は当然限られるわけだが、猗窩座は横濱の拠点まで直接会いに行けば良いし、無惨様は書でのやり取りはあまり好まれないのでこちらもやはり直接お会いする形となる。となると、わざわざ文通という手段を取らざるを得ない仲は必然的に限られてくる。
(久々に会うか…)
___
拝啓 朱雨様
朱雨様が十二鬼月を降りられてから
早3年が経ちました。
この3年で私は、年老いぬ容姿から
人としての立場を危ぶまれる前に
歌舞伎座と月姫の名を改め、
新たに水女ノ郷にて姫華という
名を用いて再出致しました。
是非ともまたいらしてください。
堕姫
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彼女のように、人間社会に溶け込んでいる者がその例だ。
________________
「…よし、いいわね」
次の客が来るまでと、私は髪や服装といった身嗜みを整えていた。私のような最上位に位置する花魁にとって美は、大工にとっての金槌と同じくらい必須な仕事道具。空いた時間が少しでもあれば手入れは必須ね。
「…よし」
髪型を整え、いざ次の手順へ踏もうとしたその時、それは突然起きてしまった。
「…姫華花魁に会わせてく"れ"ぇ"!!!!」
突如、下層の受付より品のない附子男の聞くにも耐えない喚き声が、私のいる部屋まで響き渡ってくる。
(…また来たのね)
私はコイツの声を幾度となく聞いている。数日おきにこの店の前に来ては馬鹿の一つ覚えかのように私と会わせろと叫び喚く。
異常な執着というか執拗さだけは評価してやってもいいけど、それ以外は生物としてゴミ以下の存在に値するような俗物でしかない。なんともその生物的価値を疑いかねる。
「姫華花魁、非常に申し上げにくいのですが…」
「いい、声ならここまで届いてるから。とにかくさっさと店の外に追い出して頂戴」
こんな店の奥まで響く大きな声を持ってるのなら素直に町火消でもやったらどうなのかしらね。
とにかく、身の程知らずな輩には早々にご退場願うに限る。
「…それが、今回は自棄になってるのか、私たちの制止を振り切ってまでこちらに来ようとしています!」
「はぁ?そんな奴に何手こずってるのよ!ここの人間総出でもいいからさっさと追い出しなさいよ!」
身の程知らずに加えて性根も腐ってるとは、流石の私も想定外。本音を言えば今すぐにでもその客を殺してやりたいけど、それは出来ないわね。いくら人より力量で勝る鬼且つその上位に属する十二鬼月の上弦ノ陸を拝命しているとはいえ、それは実行に移せない。鬼狩りでもない人間を目の前に牙を向いて狩場を失っては元も子もない。故にアイツには人のままで対応しなくてはならない。
(とはいったものの、本当どうすればいいのよ……こんな所で鬼の力なんて出したら今まで人間社会に上手く溶け込んでいたのが全て水の泡になる……)
鬼の特性である不老を悟られる前に店を変え、特に十二鬼月に加入して以降は長らく人間社会がどう揺れ動いているかの動向を探る役割を果たしていたというのに、ここに来て帯の血鬼術を振るおうものなら、その役目はここで潰える。
「どこ"た"ァ"!!」
そんなことを考えている間にも、奴はここの人間を振り切って只管こちらに向かってきているみたい。もはや策を興じている暇はなさそう。
(…このままだと部屋が割れるのも時間の問題ね。なら、早いうちに帯の通り道を伝ってここを離れるべきみたい……)
ならば、客にここを探り当てられる前に、早いところ離脱を図った方がいいかもしれない。まだアイツのドタドタした騒がしい足音はそこそこ遠くにある印象を受けるが、それも他の花魁を次々掻き分けて音は段々と近づいてきている。もはや、奴はここに勤める人間総動員でも止められそうにない。
「姫華ちゃ"あ"ん"!!どこにい"る"のお゛ぉ゛ん"!!!」
もう奴の声はすぐ近くにまで迫っていた。奴が私の居場所を探り当てるまでそう時間は掛からないだろう。
「…退散するしかなさそうね」
そう思って屋外に出ようとした矢先の事だった。
(あつっ…!)
先陣として一足先に建物の隙間を利用して外へと送り出した帯の分身体第1陣が、突如熱く燃える感触の後に消えて無くなってしまった。
「………さっきまで曇っていたのに……外が晴れてきたのね………」
もはや外へ逃げるという選択肢は消えてしまった。ここで素直に附子男が来るのを待つしかない。脱出も出来ず血鬼術も使えないと来た。こんな日光降り注ぐ白昼堂々客を殺す訳にもいかないし、八方塞がりでしか無かった。
(…こんな時、朱雨さんならどうしたんだろう……)
ふと、あの方のことが頭に過る。もう3年近く姿を見ていないけど、あの方は今無惨様によれば"満月ノ鬼"としてここ暫くは十二鬼月と別に動くみたいだから、下手するともう会えないかもしれない…。
(…やだ、やだよ……! 朱雨さん……こういう時どうすればいいの……)
頼みの綱のお兄ちゃんも、いつ誰かがここに入ってくるか分からないこの状況下では呼べないし、変に出して疲労させる訳にはいかない。こんなことなら、常に天井裏にでも帯を張り巡らせて脱出出来るような状況を作っておけばよかった。
「…いたぁ"」
「ヒィッ」
遂に奴が襖を開けて入ってきた。獣のように呼吸を乱して部屋に入ってきた奴を目の前に、私は鬼としてではなく1人の女性として恐怖し慄いた。
「姫華ちゃん"!!見つけたァ!」
奴は1歩1歩ゆっくりと私の方にじわじわと迫ってきた。
「…た、助けて……朱雨さん………」
私はボソリと小さな声で、あの方の名前を呼んだ。こんな所からでは、何処にいるかも分からないあの方に届くか分からないのに。
そうして、恐怖に駆られ限界を迎えた私はその場で丸くなるように屈み、頭を抱えて奴から目を背けた。
「…おい、お前ウチの弟子に何してる」
「あ?」
ふとその時、私が愛してやまない、あの方の声が聞こえた気がした。
「グエッ」
腑抜けた声が一瞬聞こえる同時に、そこそこ大人な体格をした奴の体が一瞬で私の頭上を飛び越して吹っ飛んできた。
「なんだよお前…いきなり何しやがる!お前は、お前はいったい姫華花魁の何なんだよ!」
奴の激昂する声が響き渡る。この状況、私の身に何も触れてきてない以上、間違いなく何か予想外の出来事が起きている。
(…朱雨さん?)
薄らと背け瞑った目を音のなる方へ向けた私が見たのは、例の迷惑客を部屋の隅に追い詰め、その前に立ち塞がる前に見た時より背がひと回り大きくなった彼の姿。
「…コイツにとっての1番客は俺だ。お前みたいな雑魚には不相応なんだよ。とっとと帰れ」
朱雨さんの言葉は、奴の足を止めるには完璧なまでに充分だったらしい。その証拠に、奴は一言も言葉を発することなくその場で固まっている。
(…朱雨さん)
この空気が丸ごと入れ替わるような重い殺気、出せる人なんて私は無惨様と朱雨さん以外に知らない。
鬼狩りでも歴戦の武士でもない普通の人間なら、失神する輩がいてもおかしくない。
「…くっ、覚えてやがれ!」
奴は負け惜しみの如くそう洩らし、元来た通路をそのまま引き返して受付からまっすぐ逃げ帰っていった。
私は、また彼に助けられた。
「……朱雨さん!」
感極まった私は、彼に思い切り飛びついた。
「朱雨さん!会いたかった!」
柄にもなく、彼の胸に私は頭を擦り付けて精一杯の感謝を伝えた。
「…気づいたら、来ちゃったよ」
「ありがとう!来てくれて!」
朱雨さんも笑顔で応えてくれている。彼が来てくれたことが、私はとにかく嬉しく、何処か心の奥の
「…けど、ごめんな」
いやいや、ちょっとなんで貴方が謝るのよ。
「返事の手紙も出せず3年も待たせたし」
そうよ、3年間1日も忘れることなくずっと待ってたんだから。
「挙句こんな時に現れて」
何言ってるの。貴方は私を救い出してくれた救世主でしょ。
「…研究に区切りがついたからな、大事なヤツのところにと思ってな……(猗窩座のところ)」
そうね、満月ノ鬼としてやることはいっぱいあるものね。まあ研究をある程度進め、区切りが着き次第
「…久しぶり、堕姫」
朱雨さん、やっぱり私の所を真っ先に訪れてくれているあたり、私のことを
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俺が上弦ノ弐を降りたことで繰り上がる形で数字を上弦ノ参に上がった親友の猗窩座の元を訪ね、元気してるかなどの軽い雑談を交わした後、次に俺が大事に思ってる弟子の堕姫たちのいる店を訪ねようとした時、それは起こっていた。
「…騒がしいなぁ」
確か堕姫はこの目の前の水女ノ郷という所で月華花魁を名乗っていたはず。そして、目の前には月華花魁の名前を叫びながら、立ち塞がる女中を押し退けて店の中へ中へと突き進まんとする、これまた醜い見た目の男。
「なるほど、これは時間の問題だなぁ」
あの男の暴れっぷりを見る限り、奴が月華花魁の所に辿り着くのにそう時間は掛からなそうだ。それに、先程まで曇り空だったというのに、今にも太陽が姿を現しそうだ。これは、表でこの騒動が収まるまで静かに待ってられないと踏んだ。
何より弟子に危ない虫が近寄ろうとしてるんだから、ほっとくわけにはいかない。
【血鬼術 瞬間移動】
ひとまず日光が出る前に日陰へと移動した俺は、そこから建物の中へ瞬間移動した。
そうそう、昔は一切出来なかったのだけど、今は障害物があっても瞬間移動の範囲内且つ密閉空間でさえなければ転移可能になった。
(…さて着いた。ここは?)
そうして俺は建物内に潜入成功した訳だが、当然屋外から内部の様子は分からないので、何処か分からない薄汚れた部屋に辿り着いてしまった。
「…物置かここ」
どうやら瞬間移動で辿り着いたのは、店内の外れに位置するあまり使われていない物置。その部屋を出ると、近くでは既に堕姫と例の男が対面してるかのような物音が聞こえる。
「んじゃ、アイツ潰すか」
本来であれば惨たらしく殺してやってもいいが、今日は人に擬態して堕姫の元を訪れているのだし、追い出すだけにしておこう。
ただ、弟子に軽々しく会おうとしたことを踏まえその他不法侵入などの無礼の数々。その罪は重くなるな。
「…おい、お前ウチの弟子に何してる」
「あ?」
精々この場所が人の往来の激しい場所の近くだったことだけを感謝するんだな。
「なんだよお前…いきなり何しやがる!お前は、お前はいったい姫華花魁の何なんだよ!」
いったい何なんだと言われても、師弟関係であり大事な大事な後輩としか言いようがない。
「…コイツにとっての1番客は俺だ。お前みたいな雑魚には不相応なんだよ。とっとと帰れ」
といっても、人間風情には俺たちの本当の関係など明かすまでもない。あくまで1番の客として振る舞い、お前のような雑魚には早々に退場してもらおう。
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「それでね!この前出禁処分にしたのよ!それなのにアイツと来たら今日もまた来て…」
堕姫が仕事柄延々抱いてる愚痴を聞いて久々の自己休暇を過ごすこと数時間。酒も程よく進み、お互いの近況報告に会話が弾んでいた。
まあ、鬼だからお酒には滅法強いんだが。
この…鬼ころしとかいう銘柄の酒を浴びるように飲んではいるものの、その銘の通りには至ってない。現に俺は酒を大量に浴び飲んでるけど、例え今すぐに無惨様に徴収されても何一ついつもと変わらない対応を取れるだろう。
「もう〜!朱雨さんぐらいしかマトモな客来ないんですけど!お金要らないから朱雨さんに定期的に愚痴りたいんだけど!ってか朱雨さんが1番お金落としてくれてるからもう他の人間共要らないんですけど!」
堕姫の口が恐ろしい速さで回る回る。けど、これは別に酔ってる訳じゃなかったりする。そもそも鬼は酔わないってさっきも。
…実を言うと、これは堕姫にとっての信頼の証だったりする。堕姫は、信頼を寄せている人には本音でこのように捲し立てるように話すのだ。といっても無惨様は圧倒的かつ遠くて高貴な御方だし、実質この特徴をさらけ出すのは俺と妓夫太郎ぐらいか…?
「…こうして朱雨さんとずっと過ごせればいいのになぁ」
しかし、そうもこうも言ってられない。荒れ狂う刃は、俺たちの否応を問うことなく突然に襲ってくる。
(…殺気)
急激に冷気を纏ったような空気がこの場を包み込むのを感じた。暑さ寒さを感じない鬼という種族である俺たちにとってはこれは……。
「堕姫!妓夫太郎!伏せろ!!」
俺が叫んだ時には、それはもうすぐそばまで迫っていた。
【天の呼吸 壱ノ型 虹道】
壁を突き破って曲線を描く虹色の強力な斬撃が飛来してくる。水女ノ郷の一室は壁天井諸共あっという間に瓦礫へと姿を変え、大量の土煙が舞った。
「なあ"!!なんだあ"!!!!」
かつて感じたことのない強力な気配に、妓夫太郎も一瞬で眠りから覚めて堕姫の背中より飛び出した。
「…あらあら、外しちゃった」
そして土煙の中から出てきたのは、これまでの柱とは一線を駕す闘気を纏った女の鬼狩りの姿だった。間違いなく、俺が今まで戦ってきた鬼狩りとはひと味もふた味も異なる者の匂いだった。
「…けど、次は殺す」
「やれるもんならやってみろメスガキ」
俺は即座に刀を抜き、血鬼術を使用するために応戦の姿勢をとった。
【星の呼吸 弐ノ型 超新星】
【天の呼吸 参ノ型 快晴天】
爆発する斬撃と、日の如く光を発する呼吸が、空中でぶつかり合う。
水女ノ郷どころか、吉原全域に戦端が開かれようとしていた。
ー江戸コソコソ噂話ー
本当は、朱雨は堕姫のことを1番大事に思っていると勘違いしている妓夫太郎と、実は本当に1番なのは猗窩座だけど妓夫太郎が勘違いしていることには気づいてない朱雨で、例のネタをやるつもりでした。それが3週間前の話。が、例の浮気騒動につき全削除。それの編集のために結構時間を使う羽目になる。
最初にミルク○ーイやってしまった以上、また何かやろうかと思ってましたがそれも叶わず終了。