剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
お話のストックが切れまして、加えて私が老眼なのか小さい文字が見えづらくなるようになってしまい、多忙も積み重なって執筆時間の確保が難しくなっております。今後も毎週日曜投稿は守っていきたいと感じておりますが、現実はそうも行きそうにないです。来週はおやすみ頂いて翌週の日曜までお待ちいただくかもしれません。ご了承くださいませ。
私は黒死牟。今は無限城にて無惨様と茶を酌み交わしている。
「ふぅ…」
普段剣しか振っていなかった身としても、たまには上司である無惨様の茶の誘いを受けるのもなお光栄と考えていた、が、その直後。
「なっ、何故あの痣持ちの人間が………!?」
「…無惨様!」
突如、無惨様がその場で膝をつき頭をお抱えになりご乱心なされた。
「…はぁ、あのような化け物がまた……朱雨や妓夫太郎が単独で苦戦する相手など、早々現れていいものじゃない………」
「……無惨様?」
この様子、私はかつてこのような状態に陥った際の無惨様を見たことがある。それは忘れもしない300年も前に、私の
…まさか、同じような痣者が再来したというのか。
「…鳴女、回収だ!」
そんな中でも、無惨様は英断というか、貴重な戦力の消耗を失うことを恐れてか、即刻琵琶による回収を鳴女に命じた。
「…無惨様、たった今上弦ノ陸が朱雨に瞬間移動されて座標点が乱れました……」
「な、何だと!!? ただでさえ朱雨は居場所の特定がしづらいというのにまた勝手な行動に出たか!!こっちに任せてればいいものを!!」
どうやら朱雨が血鬼術を用いて上弦ノ陸の2人を遠くに飛ばしたらしい。相変わらず、朱雨の瞬間移動の血鬼術は琵琶を困惑させるらしい。今思えば、朱雨は昔から十二鬼月集合の際も瞬間移動を頻繁に使うものだから居場所の特定に難航して無惨様の怒りを買っていたと記憶している。
「…もういい!上弦ノ陸を回収した後、朱雨は様子見だ。余程奴が死にかけるような事態がない限りは朱雨にはその場拭いでもしていてもらう!」
「わ、分かりました……」
怒涛の勢いで現場では何かしら起こっているようだ。
私の分かる限りで解釈するに、どうも
「…とは言ったが、朱雨を失うのは痛いな。近くに
「…かしこまりました」
と言いつつも、万が一単独で当たらせて朱雨を失うのは愚策と考えられたのか、無惨様は近くまで
それが誰なのか、私にも明確に分からないが、これは無惨様も恐らく朱雨を失うことを危惧しての増援派遣。故に朱雨の隣に立って共に戦うことを許せる実力と連携力を持った者となるが、上弦ノ陸が朱雨の手で転移させられた以上、朱雨は上弦ノ陸をまだあの鬼狩りと張り合うには実力不足と捉えた。
つまり必然的に派遣されるのは彼らより上の数字の持ち主となるが、そんな者限られてくる。
故に、それが誰なのか、凡そ
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「…そうか、お前らが」
数年前から俺の体を蝕み始めた血鬼術暴走。その元凶と疑わしき輩がわざわざ俺の意識下にひょっこり出てきてくれたというわけか。
『勘違いするな。お前の身を案じて私は現れたのではない』
ドスの効いた声でそう醸してくる鬼人族の魂。加えて集合体というのだから実に数十数百にも迫る魂の覇気というものを感じた。
「じゃあ何? 俺の呼びかけも無しに勝手にこんな時に現れてんだからそれなりに俺にとって都合のいいことだろうな?なあ鬼人族の魂さんよ?」
『ふん、表では命の危機が迫ってると言うのに、随分と口が回るな』
「…それはどうも」
何かと饒舌に喋っているように見えるが、実の所あの鬼狩り相手に苦戦して焦りに焦っているのは紛れもない事実だ。そこは仕方ないが認めてやるとする。
『…まあ良い。私がお前の呼びかけ無しに現れたのは、お前が今悩む血鬼術暴走とやらの解決に近づくための情報を教えるためだ』
「はあ……?」
血鬼術暴走の答え、それは俺が3年近くの時間を費やしてまで追っていること。知りたくて知りたくて仕方ない事だが、ここで1つ疑問が浮かぶ。
「…ちょっと待て。お前たち鬼人族にとって俺は憎しみの象徴みたいなものだろう。そんな奴の悩み事など永久に悩んでろと放っておくのが定石じゃないのか?」
『…ふん、それぐらい分かってる。私としても一族の恨みがある以上教えたくなどないわ。しかしこちらにも事情ってのがある』
…事情がある、か。だとしても俺の事は鬼人族総出で死ぬほど恨み憎んでいるのだろう。それを踏まえた上でもコイツらを情報提供させているものがあるというのか、あるいは俺を陥れるために嘘をついてるのか。…確かめておく必要はありそうだ。
「…1つ確認したいが、お前らの情報提供によって俺が何か被害を被ることとかあったりしないよな?」
『ふっ、無駄に用心深いな』
当然だろう。明らかに不自然だ。何しろ俺は仇同然なのだから。
『安心しろ。鬼人族の誇りに誓って嘘はつかん。こちらにも事情があるとさっき言っただろう。その目的の為にも、お前には私たちの知り得ること全てを理解してもらわねばならん』
「…ふーん」
疑ってみたはいいものの、どうもコイツらに嘘をつくような雰囲気はしていない。寧ろ血鬼術暴走解決の糸口を示すこと自体、わざわざ教えると言ってから嘘をつくことによって背負う
「…分かった、さっさと話せ」
『ふん、やっと聞く姿勢を見せたか。…まあいい、率直に言うぞ』
別に素直に聞く姿勢を見せた訳では無い。話を聞くか否かを天秤にかけて、聞いた方が得策であると判断したまでだ。
『…お前の血鬼術暴走の正体。それは所謂呪いの類だ』
「……呪い?」
『あぁ、そうだ』
何をふざけたことを。やはり聞く価値などなかったか。
「馬鹿馬鹿しい…そんなものに俺は悩まされてんのか……」
数百年の時を過ごしていれば、稀にそういった奇天烈な物に遭遇することはある。とはいえ鬼としての種族的優位がそれらをいつも跳ね返していた。現に俺が今拠点にしている屋敷も元は霊屋敷だったしな。
『話を最後まできけ』
「呪いという話の入り方でこれ以上聞く価値を見い出せると思うのか?」
『ふん、信じないのは勝手だ。だが、お前はそもそも今のこの場所から私の判断なしに出られると思ってるのか?』
「……………」
辺りは真っ暗。よく良く考えればこの空間から普通にまず出られない。ここを出るには話を最後まで聞くことが条件、そう考えて大人しくしていた方がいいと。
「…分かった。最後まで聞く」
『そうだ、決してお前にとって悪い話ではないのだからな』
全く情けないが、こうするしかない以上潔く話を聞こう。
『話の続きだ。…私は先程、お前の血鬼術暴走は呪いであると言った。尤もお前はそれを真っ先に否定したがな…。とはいえ、お前の身体には血鬼術暴走が起きる前からずっと存在している呪いが1つあるぞ』
「…存在している、呪いか……」
心当たりがない。鬼となって100年も経ち、近況で自分の身を蝕んでいると感覚として残っているものが血鬼術暴走しかない以上、あまり実感がない。
『…自覚がないのか? 鬼であるならば、基本無惨の呪いに蝕まれている筈だ』
「無惨様の…呪い……?」
無惨様は俺に呪いをかけているというのか。そんなの有り得ない。最近は感覚が薄くこそなっているが、あるのは無惨様が近くで俺を見て下さっているという有り難さかつ幸福感だけだ。これは呪いなどでは無い。
『…分からぬなら良い。兎に角だ。お前の血鬼術暴走における呪いの正体はな、
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「…同族、殺し………?」
何を言っているのかまるで意味が分からない。俺は鬼で確かに同族である鬼を殺したことはある。特に十二鬼月内では、入れ替わりの血戦でここ数十年でも頻繁に殺し合いが起きてる。でもそれは上弦の鬼ならず大体の鬼が経験している事であり、何なら俺はまだ少ない方。でも呪いが発動したのは俺だけ。
(…どういうことだ?)
理解出来ない。俺は鬼になる前は人でその頃に人を殺した経験もない。
…人だった頃、鬼になって殺した。もし、仮に俺が何か勘違いしていることがあるとするなら…。
(………まさか!)
ふと、自分が鬼ではなく人だった頃を思い出す。微かに残る記憶を辿ると、妙に腑に落ちない点があった。
明らかに幼少期から他の連中とは一線を駕した剣技と、そんな俺を鍛えた俺以上に強かった親父。
『…その顔を見るにどうやら察したらしいな』
「あぁ、全て察した」
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(…クソッ!間に合え!)
俺は人目につかぬよう、屋根伝いに全速力で江戸の街を駆け抜けて行った。
(まさか朱雨が危機的状況に陥るとは……)
先程、朱雨が3年ぶりに横濱の俺の拠点を訪ねて来た。軽い会話を交わすだけ交わし、行くところがあるとのことで朱雨を見送ってから僅か数刻、嫌な予感を感じ取って日が沈んで即拠点を飛び出せば、暫くした後に突如頭を伝って無惨様より吉原にいる朱雨の救援に向かうよう指令を頂いた。
横濱から吉原は結構な距離があるが、既に全力で横濱から江戸まで駆け抜けていたこともあって、無惨様より指示を頂いた際には既に新橋の辺りまで辿り着いていた。
(朱雨は俺の希望だ。死なせる訳には行かない!)
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(…これは?)
気づいた時にはそこに先程のような暗闇はなく、どことなく懐かしいような古めかしいようなぼんやりとした光景が拡がっていた。
「親父ィ!」
「甘いぞ!朱雨!」
鬼として過ごしてきた時よりも遥かに幼く低い視点。両手には刀の撃ち合いで出来たであろう幾つもの痣。そこには、声も高く10も行ってないであろうかつての自分の視線で事は進んでいた。
(…これは、俺が人間だった頃の記憶……?)
そこには俺がかつて跡継ぎとして据えられていた道場、天保の今はもう年月が経ちすぎて見る影もなく廃屋と化している剣術道場の姿。周囲にはそんな道場に通う、今は亡き門下たち。
そんな中で、俺は道場主かつ師範である親父と木刀で撃ち合いをしていた。
(あれ…?体が…動かねえ…)
まるで夢かのように体が言うことを効かない。今でならあんな斬撃避けられるのに、俺は目の前の光景では只管親父に打ちのめされるだけだった。
「全然勝てない……」
「まだまだ子どもに負ける訳にはいかないな!」
そうして一勝も出来ぬまま刀の撃ち合いは終わった。昔の自分はまだ未熟だったのだなと感じると共に、思い通りに行かぬ体に少々苛立ちを覚えながら、ふと俺はあることに気がついた。
(そういえば、この時俺まだ親父に1つも攻撃できてないのに、なんで親父の額には痣があるんだ……?)
考えれてみればおかしい。親父の額にくっきりと浮かんでいる火傷痕のような痣。よく見たら刀の撃ち合いで出来た痣じゃない。当時の親父に刀当てられた奴は1人もいない。
しかも、どういう訳かこの痣は、完治することなくずっと父さんの額にあった気がする。
(…そういえば、今俺が表で対峙している鬼狩りにも確か父さんそっくりな痣がある)
あの例を見ない強烈な鬼狩りの柱の額にも、更によく良く考えれば
『…痣者は基本長く生きられない。痣の発動の切り替えが自由に出来ぬ限り、人は25の歳になる前に死ぬ』
ふと、黒死牟さんの声が聞こえた気がした。俺は痣なんて無かったから、痣のことなど一切気に留めていなかったが、今思えば理解すらしようとしていなかったあの時の自分がアホらしく感じてくる。
(…っ! なるほど、そういうことか)
___全て理解した。
既にこの頃から鬼人族はいたんだ。 そして父さんは何かしらの理由で鬼人族の郷を離れたはしたものの、正真正銘の鬼人族の末裔。そこで母さんと出会って俺を産んだと。
そして鬼人族であるが故に25より長くは生きられたけど、俺がいなくなったのを皮切りに痣の寿命に負けて死んだとすれば辻褄が合う。人の血が混じった完全な鬼じゃないから、寿命を完全に克服出来なかったと。
確かに、奴ら鬼人族の魂が零した情報は殆ど当たっている。最初は疑ってかかってしまったが、有益な情報なことには変わりないじゃないか。
(…そしてつまりは俺も)
父さんが鬼人族なら俺もそうだ。けど父さんと異なることを挙げるとするなら、全集中の呼吸を利用して痣なしに父さん相手に1本を取り、そしてやがて鬼人族であることを捨てて人の血も通わぬ鬼となったこと。
今思うと、1年で十二鬼月、100年で上弦ノ弐にまで辿り着くぶっとんだ出世経路は、鬼人族出身の鬼であったことの賜物だったというのか。
(…星の呼吸…念動力)
明らかに鬼としては類稀な呼吸使いに強力な血鬼術。それらを駆使してやったことが、かつての同胞である鬼人族を一族諸共襲撃して根絶やし。それによって今俺は呪いを受けているというわけか。
『理解したか?』
いつの間にか辺りは俺の記憶から先程のような暗闇に戻っていた。
「…あぁ、理解した。この件に関しては感謝の意を述べざるを得んな……」
『くくく……そうか………』
悪い笑みを零す奴の声が辺りに響く。
「…それで、呪いとやらはいつ解けるんだ?」
本題はこれだ。血鬼術暴走を引き起こす鬼人族の呪いを解かねば俺とコイツの対話は終わろうにも終われない。
『…もう解けた。お前自身が自分の正体と向き合った結果だ』
「ほう……」
どうやらもうこんな暗い空間にいる必要もないということか。すると、俺の考えてることに呼応するかのように意識が現実へと戻っていくのを感じる。
「…あばよ、半端もん集団」
『ふん、やはり生意気な口だ。だが忘れるな。お前はいずれ自身の
奴がそう叫ぶのを聞き届けた俺は、やがて現実世界で意識を取り戻した。
ー江戸コソコソ話ー
鬼人族の魂の呪いが消えた理由は、朱雨が自身の過去を見て自らが鬼人族であると認知したためによるもので、鬼人族の魂が呪いを解いた訳では無いです。
また、星の呼吸と天の呼吸、実はこの2つの呼吸はどちらも日の呼吸の派生だったりします。が、その経緯についてはまた…。