剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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ーお知らせー

先日、12年間連れ添った愛犬が他界しました。
現在ハッキリ言って非常に情緒的にも不安定で、とてもじゃないですが執筆どころじゃ無くなっております。
また、拍車をかけるように大学課題で小説を書くものがありまして、当面はそちらに集中しなくてはなりません。よって8月中旬までおやすみを頂きます。


34話 痣者

【破壊殺 飛遊星千輪】

【天の呼吸 壱ノ型 虹道】

 

その場で互いの大技が全力でぶつかり合う。空気をも裂く正面からの連続蹴り上げによる血鬼術と、虹色の起動を描く曲線の斬撃が火花を散らせていた。

 

「…流石、上弦ノ参の鬼なだけあるね」

「…それはどうも」

 

強者の気配を漂わせる鬼狩りと、その鬼狩りを迎え撃つ上弦ノ参の鬼、猗窩座(・・・)。民衆は誰1人としてこの場に留まらなかったため、邪魔する者もなくただそこにはピリピリとした人と鬼の殺気だけがあった。

 

「お前のその腕に抱えてる(・・・・・・)その鬼さえ手放せばもっと楽に戦えるだろう? 元より私はその鬼に用があってね、さっさとこちらに渡してくれればお互いのためになると思わないか?」

 

鬼狩りが指差す先。そこには意識を飛ばし猗窩座によって脇に抱えられた満月ノ鬼、朱雨の存在。

危うく頸を斬られるすんでのところで猗窩座が駆け付け、朱雨の頸に攻撃が届く前に猗窩座が迎撃し、朱雨を腕に抱えて一旦距離をとって戦闘続行。そして幾許かのぶつかり合いを経て今に至っている。

 

コイツ(朱雨)には死んでもらっちゃ困るからな。悪いがお前に渡す訳には行かない」

「そうか…ならば早いところ私が纏めて斬るだけだ」

 

そんな会話の傍ら、その実猗窩座は朱雨とは別に久々会う強者の気配に心踊っていた。しかし本来の目的も忘れてはいない。少しでも時間を稼ぎ、朱雨が目覚めるまで耐え抜く。

 

【天の呼吸 漆ノ型 夜桜】

 

夜に映える桜の如き無数に枝分かれする漆黒の素早い斬撃が朱雨と猗窩座を襲った。

 

【破壊殺 脚式 流閃郡光】

 

猗窩座は連続した蹴り技で無数の斬撃を蹴りで相殺し、なお且つ回避を繰り返すことで迎え撃っていくも、段々と鬼狩りの放つ技の威力と瞬発力を前に次第と気圧されていった。

 

(…まずい、圧される…っ)

 

そして勝負が着きかけたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…星の呼吸、拾ノ型』

 

目にも止まらぬ速度の人影が猗窩座の手元から飛び出し、また一瞬のうちに刀を抜くと即座に呼吸を整えて型を放った。

 

【星の呼吸 拾ノ型 赤色巨星】

 

真っ赤に燃え上がる強力な斬撃が、鬼狩りによって周囲を覆い尽くした天の呼吸による斬撃を全て消し飛ばして無効化した。

 

「猗窩座、色々背負わせて悪かったな。もう大丈夫だ」

「…あぁ、頼んだ」

 

そう刀を構える朱雨の額には、目の前の鬼狩り然り上弦ノ壱である黒死牟とほぼ同じ、大きな()が現れていた。

それと同時に、鬼狩りの表情が曇り歪んだ。

 

 

________________

 

 

(凄い…)

 

意識を取り戻してまず最初に感じたのは全身に溢れ出るとてつもない力だった。先程まで防戦一方どころか命も危うかったというのに、今ではそんな逆境跳ね返せるであろうという絶対的な確信と力が漲っていた。

 

「…痣が……?」

「ん?」

 

鬼狩りが俺の額を指差し眺めながらそう呟いた。何事かと奴の視線を感じる箇所に手を当てれば、先程までとは異なるザラついた感触がそこにあった。

 

「…痣、鬼でも剣士であれば後天的に発現するのか……?」

「さあ?俺も知らん」

 

正直よく分からない。親父の額には思い付いた時から痣があったし、黒死牟さんの場合は初めて刀を交わした時から存在していた気がするしでそもそも痣についてあまり鬼人族の魂共から詳しく聞き出せていない。

ただ、前まで1度も感じることのなかった、体が燃え上がるように熱くなり心臓もバクバクと震え上がる異端な感触。確実に痣が発現したことが関係してるに違いない現象がこの身に起きていた。

 

「…この体なら!」

 

この力に満ち溢れた体躯なら、さっき放った拾ノ型のような強力な呼吸も出せるかもしれない。そうして俺はすかさず猗窩座に合図を送る。この間僅か一瞬だったが、猗窩座は俺の意図に気付いたらしい。

 

 

【星の呼吸 拾壱ノ型 磁場嵐】

 

そうして痣が出ているからこそと放ったのは、体に強い負担を掛けてでも為せる雷と風の併せ技。電撃を纏った斬撃を鎌鼬の如く散蒔く、一切損害やら周囲のことを考慮しない、無差別攻撃の型だ。

だが巻き込み事故の方も心配なし。猗窩座ならとっくに俺の意志を汲み取って技の判定外まで離脱した。それに、例えこぼれ球が飛んでも普通に対処できる実力者だしな。

 

(流石にこれなら奴はどうにも出来ないだろう…)

 

この斬撃速度と弾幕密度、間近で喰らえば例え十二鬼月でも捌ける者は黒死牟さんぐらいしかいない筈。最悪これで終わりにする。

 

【天の呼吸 肆ノ型 気流】

 

と思いきや、向こうも似たような無差別乱撃の型であっさりこちらに対抗してきた。互いの斬撃が空中で火花を散らし、全てその場で叩き落とされる。

 

「…惜しいね、もう少し速かったら腕が無くなってたかも」

 

 

どうやら目の前の人外は伊達に痣者やってるという訳では無いらしい。仮にも奴は胴体斬られた程度じゃくたばらない化け物だ。

 

(なら…)

 

俺が持つのは星の呼吸だけではない。血鬼術と併せることでより効果を発揮出来る筈だ。

 

【血鬼術 念力】

 

すると奴の動きは金縛りにあったかのようにピタリと止まった。やはりこの技は屋外でさえあれば確定で通るようで、奴が歴戦の剣士とあれど無関係に動きを封じれるようだ。

 

(さて、どうしてやろうか……)

 

そうして次の手を探ろうとした矢先のことだった。

 

【天の呼吸 拾ノ型 空中竜巻】

 

その刹那、奴は突如動きを見せた。それは念力で金縛りにしている状態で出れるとは思えないものであり、こちらに向かって暴風のような斬撃を飛ばしてきた。

 

「これしきの術、数十年の間に幾度も使用してきた鬼を見た」

 

数十年、奴はそう言いながら自力で金縛りを脱した。今まで1度も破られたことのない血鬼術は、あっという間にこの規格外の存在に破られた。

 

(…コイツ、やはりそうか)

 

この時、俺の中で奴の存在の正体に妙に納得がいった気がした。

 

【星の呼吸 弐ノ型 超新星】

 

爆発を伴う型で奴の攻撃を軽く無効化するも、内心では物凄く焦っていた。ここまでどの策も全て対抗され、痣を出したというのにイマイチ相手を押し切れないからな。だが、それが逆に奴の正体を裏付けるに丁度いい材料となった。

 

(コイツがやたらと俺を標的していること、この期に及んで奴らが俺の精神に干渉してきたこと、妙に合点がいった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…奴は、間違いなく鬼人族の生き残りだ。それも、ただの生き残りではない。

 

(俺の親父もそうだった…。が、この女は親父とは違う。間違いなく痣者の弱点を克服している)

 

奴は生まれながらの先天的な痣者、そして痣状態か否かの切り替えが常時可能で、何らかの特殊個体である可能性が濃い。

数十年もの間寿命を気にせず鬼狩りをやっているという発言、加えて俺の血鬼術に対応可能な技量、洗練された呼吸もあることから、奴は見た目こそ10や20の齢だがその実60年以上は生きてると推測できる。

 

「…なら」

 

こちらは、痣以外(・・・)の何か奴を圧倒できるもので奴を超えていくしかない。

 

(思い出せ!あの時(・・・)を!)

 

かつて(・・・)親父に1本取れた時に俺はどう活路を見出した。あの時見えた世界、透明な(・・・)世界に、俺は入るんだ。

 

(…見えろッ!世界!)

 

俺は意識をこれまで以上に全集中させて刀を握った。

 

【星の呼吸 拾壱ノ型 磁場嵐】

 

再度、四方八方に飛び散る雷の斬撃を一斉に放つ。

 

「また同じ…」

 

そう呟くのが聞こえる。もう一度同じ型を使ったとて効くわけがないと奴は踏んでいるんだろうか。だがそこは、200年近く刀を握っている者の経験と意地がある。

 

【血鬼術 虚栄幻影】

 

更に血鬼術を併せて発動する。視覚における錯覚を起こさせる技で、逆に言えば視覚しか偽れない。ただし、この技に歴代多くの鬼狩りの柱共が倒れている。

かつての肆ノ型 彗星の尾に適うとも劣らぬ、痣を出し体力向上したことによる呼吸と血鬼術の複合技だ。

 

「…なるほど、斬撃の錯覚……」

 

とはいえ奴も歴戦の剣士。どうやら早々にこれらの型の狙いを見破った模様。だが、視覚という五感の1つを実質奪った状態での無差別斬撃や錯覚斬撃という回避至難技に対応できる鬼狩りがいて溜まるかって話だ。十二鬼月の上弦にでさえ捌ける者は僅かなのに。

 

 

【天の呼吸 弐ノ型 夏陽炎】

 

だがその思いは儚く砕け散る。夏の暑さでぼんやりと陽炎の如くねじ曲がってフラフラ進むかのような歪む斬撃でこちら側の技は全て落とされた。まるで俺がぶつけた呼吸に対して自分の方が優れていると見せつけるかのような技量だった。

加えて、透き通る世界の方はまだ(・・)あと一歩という感触があるにも関わらず入ることが出来ない。

 

 

(…やはりこの女、俺の型や技に張り合うかのように、俺の出した型に対しては自分が持つ似たような型をぶつけてきやがる)

 

さっきから磁場嵐には空中竜巻という風系の型をぶつけ、磁場嵐と虚栄幻影の併せ技には同じく幻影系の型を放ってきている。何処か対抗心があるのか、それとも俺を挑発する意味合いを兼ねているのか、あるいは似ている(・・・・)だけなのか。

 

___そう、ハッキリ言って俺とコイツの戦闘方法は異様なまでに似通っている。

まるでコイツは俺の写し(・・)のような、何故だか天の呼吸とやらにせよ型の傾向にせよ、通ずるものがある。

 

もしかして、似た技で迎え撃って来ているのは意図的とかではなく、剣士の本質がそもそも似通っているが故の可能性もあるかもしれない。

 

(試す価値はあるな)

 

奴の剣筋が俺と似通っているのなら持ち得る弱点も同じ筈。自分のことはよく知ってるし、よく知ってるからこそ弱点もハッキリと理解していて、尚且つ窮地に陥りやすくなる戦訓も心得ている。

 

となれば、朝が来るまで続くかもしれないこの戦いに突破口を見い出せるかもしれないな。

 

 

【血鬼術 瞬間移動】

 

1度この場から血鬼術を用いて離脱。そのまま退散するのもいいが、コイツは俺ら鬼の障壁となる前にさっさと潰しておく必要がある故、俺は再び荷物(・・)を抱えてこの場に戻ってきた。

 

「…お前、いったい何のつもりだ」

「何って…見ればわかるだろう」

 

俺が瞬間移動した先で確保してきた荷物、それはコイツら鬼狩りにとっては鬼の手に取られては何も出来なくなるもの。

 

「…た、助けてください……」

「い、命だけは……」

 

そう、周囲には人っ子一人いないので、ここから遠く離れた転移先で2人ほど適当に捕まえてきた男の(・・)人質。

人質は正直女でも構わないけど、アイツ(・・・)が女殺したがらないから男だけにした方が色々都合が着く。

 

「…お前!」

 

どうやらこの手は正解だったらしく、奴の表情がみるみるうちに焦りのものに変化していく。

 

「…お前!剣士としての誇りは無いのか!」

「誇りはあるさ。だからこの人質は最終的に殺すために連れてきたんじゃない」

 

そう言い放ち、俺は人質2人の頚椎を絶命しない程度に強く叩いて気絶させる。

 

「…何が狙いだ」

「見て分からない?」

 

俺は人質にした2人を鬼狩りの元へ投げつけた。

 

 

 

 

 

「…その気絶した人間2人を俺の攻撃から護りながら戦えるかってことだよ」

 

 

 

 

そう言い放ってやると、奴はあっという間に青ざめた顔になった。

奴の視線は俺一点集中から、護らなくてはならない2人の方にもちらちら送られ、奴から漂う覇気はみるみるうちに弱く脆いものになっていく。

 

「ほらほら、護ってみろよ!こんな風な攻撃からさあ!!」

 

集中力が俺一点から崩れた奴に、徹底的に技を畳み掛ける。

 

【星の呼吸 陸ノ型 星の律動】

 

無差別斬撃が周囲に飛び散る。勿論先程連れてきて向こうでのさばってる人間共の安否なんて考慮しておらず、不規則に飛ぶ斬撃故にそもそも技が命中するかもわからん。ただ、当たる時は当たるし死ぬ時は死ぬから、人間共の生死は目の前の鬼狩りがどう動くかに掛かってる。

 

「…貴様ァ!」

 

そう叫びながらも奴は俺の無数の斬撃から人間2人を庇うように刀を奮っている。こちらは結構手加減してるというのに、奴の剣筋は俺の本気の剣筋を相手する時以上に乱れに乱れている。

 

「ハハハハハ!お前足手まといの護衛戦苦手だろ?だよなあ?昔の俺もそうだったからやっぱりそうだと思ったよ!」

 

かつて堕姫と妓夫太郎の2人を十二鬼月に相応しい鬼にするために稽古してた時に鬼狩りが襲来してきて護衛戦闘を強いられたのを俺は忘れちゃいない。足手まといと言えば悪いが、その実2人の護衛戦は相当手を焼いたからな。

ただ唯一の誤算があったとすれば、此度は上弦ノ陸に数字も上がってるから大丈夫と踏んでいたのだが、思ったよりこの鬼狩り相手に2人は実力不足であったこと。そのせいで危うく死にかけた。

 

「…下衆鬼めがァ!」

 

だが今目の前にあるのは、その誤算の鬱憤が吹き飛ぶぐらいに狂乱する奴の姿であった。

 

【天の呼吸 捌ノ型 曇天】

 

厚い雲を纏ったような強力な気配を纏った斬撃が迫る。けど、苦し紛れの技なのか粗も感じるし、完全に人質に気が散ってあやふや状態。

 

___そして奴は、意識をあちこちに散らした弊害で、肝心の伏兵の存在(猗窩座)に終いまで気づくことは無かった。

 

 

【破壊殺 脚式 流閃群光】

【星の呼吸 拾弐ノ型 新星爆線射】

 

やがて奴を間に挟んで合流した猗窩座の無数の蹴りと、俺の刀から発せられる星の最期の瞬間を象った光線斬撃が奴を襲った。

 

「いい連携だ猗窩座」

「朱雨もよく気付いたな」

 

奴の胴体と頸及び四肢が血飛沫を上げながら弾け飛び、日輪刀が粉々に砕け散った。

 

 

「…悪鬼め………」

 

___そうして奴が満身創痍となったその時、奴の悔恨とは裏腹に俺は痣とは別に透き通る世界に入るのを感じたのであった。

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

朱雨と猗窩座は付き合いが長いせいか、念動力の個性も相俟ってテレパシーかよというレベルで連携力が凄まじい。猗窩座は朱雨が女も食べていることは知った上で絡んでるし、朱雨は猗窩座が狛治だった頃から交友があるからこそ女は殺さない程度にしか攻撃しないことを認めている。
ただし、朱雨が窮地に追い込まれる様なことがあれば、猗窩座は多少この拘りも無視する。此度の対鬼人族生き残りの柱でも朱雨の生存を優先した。

2人はそれくらいお互いのことを信頼しあってます。
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