剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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およそ1867年辺りのお話です。


38話 最終選別後日談

場所は産屋敷邸。そこでは臨時の柱合会議が開かれており、その場には現産屋敷当主と数人の柱たちの姿があった。

 

「そうか…やはり…私の娘は……」

「はい、産屋敷とき様は…」

 

現産屋敷当主である産屋敷典哉の表情は何とも言えぬ表情だった。産屋敷の言葉に続けた現水柱もとい鱗滝左近次の報告も、虚偽を述べる訳にもいかないということで事実を述べているが、その事実が事実なだけに胸の詰まる思いで発言していた。

 

「すまない。左近次にはそんな嫌な役回りをさせてしまって」

「いえ、最も辛いのは娘を失った(・・・・・)御館様でありましょうに」

「…それでもこのような役を引き受けてくれたこと、何とも申し訳なく思うよ」

 

そう、ここにいる産屋敷典哉は、とある不幸な事件で娘を失っていた。しかもそれだけではなく、これは鬼殺隊の将来にも関わる話ということで、急遽緊急で柱合会議が開かれたのである。

鱗滝は、その緊急柱合会議の要因となった事件についての報告を行っていたのだ。

 

「…続けて内容の方を事細かに説明致しますと……」

 

 

そうして鱗滝が続けた内容は以下のものだった。

 

________

 

毎年行われている藤襲山での最終選別にて、今年は例年を遥かに超える40人以上の合格者の報を鴉より受け、それと同時に予め用意していた隊士につける鎹鴉と日輪刀の材料となる玉鋼が足りなくなるという報せが産屋敷邸に届いた。

報せを受け取った産屋敷は、至急追加での玉鋼と鎹鴉の手配を行い、鬼殺隊後処理専門部隊"隠"及び水柱を中心とする護衛の隊士の集団で藤襲山に向かった。

 

だが辿り着いた先にあったのは、報せの内容とは全く異なる、40人以上の選別通過者の姿も形もない、ある箇所を中心に球状に広がるように木々から鳥居まであらゆるものが吹き飛ばされ焼け焦げた、まるで何かそこだけ天災に見舞われたような惨事の痕。

周囲には木1つすら残っておらず、辺りにはもはや誰のものかすら特定できない程に焼けた挙句、人の形を保たずバラバラに散乱し焼け焦げ一部骨と化した、人であったであろう何かの数々。

 

そしてその人だったものの中には、恐らく未だ行方も分からず連絡もとれない、ここで選別の行く末を見守っていた産屋敷典哉の子である産屋敷ときのものがあると見られた。

しかし、その死体も残らぬほど惨たらしい姿にさせられた以上、どこのどれが産屋敷ときを構成していたものか分からないという最悪のものであった。

 

そして最悪なことに、このような事態を引き起こした犯人は現段階では全く不明。

とはいえ、こんなこと出来る人間は存在しない点。また、ここ(最終選別)を狙った動機からして消去法で犯人は鬼だと検討はついている。だが、こんな藤の花という鬼にとって毒でしかない花が生い茂ってる場所を狙える鬼は間違いなく犯行に及んだ鬼は相当力を持った鬼。弱い鬼では、まず藤の匂いに近づくことすら不可能といった点からして、十二鬼月の下弦程度の実力は持ち合わせていると予測できた。

 

だが、それも所詮憶測でしかない。いや、憶測であってほしいとしか鬼殺隊としてもそう望むしかないのだ。

 

もしこれが事実であった場合、まず藤の花をものともしない鬼がいるということである。強力な鬼の中には藤の花程度では動じないような者も存在することはするのだが、問題はそこではない。

 

藤にも動じぬ鬼には、藤襲山と最終選別の存在を見破る情報索敵能力があるということになる。

まず鬼殺隊としては情報規制は徹底しているつもりだった。選別参加者の確認など、一部手を抜いてしまった所もあるっちゃあるものの、情報統制は完璧で鬼殺隊発足から今日に至るまで最終選別を襲撃されることはなかった。一生鬼共には「鬼狩りは何処から隊士を募集してるんだ?」と謎のまま駆逐されれば良かったものの、何処からか鬼殺隊の情報が漏れていた。

 

そして産屋敷側が勘で今回の件を推理するには、どうも主犯の鬼は探られた情報を元に選別の参加者に扮してこっそり潜入していた線も考えられるという。なんと、人間に擬態して紛れ込んでいた線も考えられるというのだ。

 

つまり今回の主犯鬼は、辺り一面を焦土に変える力を持ち、尚且つ最終選別の日程と場所を何かしらの手法で特定し、かつ自らも擬態して人に紛れ込めるという、あらゆる技を兼ね備えた鬼であるという、もはや鬼殺隊の未来も奪いかねない厄災であった。そんな厄災が、鬼殺隊の最終目標である無惨の前にいるというのは、ある種鬼殺隊にとっては絶望も等しかった。無惨を日の下に晒すより先に、その鬼をどうにかすることが先決となりうる事案であった。

 

 

だが、そんな大不幸としか言えない数々の事態の中、小幸いかたった1つだけ、鬼殺隊にとって小さな朗報があったのである。

 

たった1人、といっても1人だけなものの、運良くこの最終選別から生存した隊士がいた。

すぐに彼女はたった1人の生還者として産屋敷邸に招かれ、事のあらましを証言した。

しかし、彼女は7日で選別を終えたものの山中で迷ったために山から出るのが遅れてあの惨状に巻き込まれなかっただけの存在だと言い、あの時何が起きていたかなどの詳しい情報は、"藤襲山内部で迷ってる最中で突如爆発音が起きて、それを便りに山を脱出した"というもので、あの場には居合わせていなかった。ようは、主犯格が誰か顔すら見てないということとなる。

 

   ________

 

 

「…以上が報告となります」

「ありがとうね、左近次」

 

報告を終えた鱗滝は1歩下がり再度他の柱と同じような片膝をつく体勢になった。

 

「…少しお言葉よろしいでしょうか?」

「うん、なんだい蓮華?」

 

鱗滝が座るのと同時に蓮華、もとい天柱が挙手と共に立ち上がった。

 

「…この被害、そして藤も効かない特殊体質さ。ひょっとして私が前に対峙した満月ノ鬼(・・・・)の仕業とは考えられませんか?」

「………確かに、あの鬼は規格外の塊みたいな鬼だから、考えられるね」

 

満月ノ鬼もとい朱雨は鬼殺隊内ではかなり情報が割れている鬼だった。天柱が戦い、何とか生きて帰ってきた快挙により、初めて朱雨の情報が鬼殺隊に持ち帰られた。それも、素の容姿から血鬼術、星の呼吸といった、その全てではないにせよ、朱雨の規格外さを示す多くの情報が鬼殺隊によって共有されている。

 

___が、それはあくまで勘だけが頼りな不確かなもの。

 

「…他の十二鬼月が起こした可能性は考えられないのか?」

「…………………………」

 

時の炎柱が異議を唱える。満月ノ鬼が首謀であることを断定するには情報不足が過ぎる故にか、周囲の柱たちも炎柱に同調するかのように頷く姿勢を見せた。

 

「…確かに他の上弦ノ鬼は情報不足です。私が戦闘に当たった際、上弦ノ陸は満月ノ鬼によって遠くに飛ばされ、その後上弦ノ参が援護に来たことで参と陸の顔は覚えましたが……」

「だろう? 壱や肆、あるいは下弦の起こしたこととは判断付かないのか?」

 

炎柱の言う通り、他の十二鬼月の面々の情報は殆ど闇の中。血鬼術にせよ外見にせよ判明していない方が圧倒的に多い。

 

「ですが…こればかりは言えるんです!こんな回りくどい手を使うのは奴なんです!奴は遊び半分実験感覚、気に食わないという理由で事を起こします!」

 

乱心状態で蓮華は叫ぶ。柄にもない魂の叫びに、その場にいた他の柱は圧倒された。普段は決して見せない蓮華の必死な姿は、周囲の空気をガラッと変えた。

 

「…かつて私の同族は奴に全て殺されました。中立を破って鬼殺隊に靡いて僅か数年、見せしめのように郷は瓦礫に変えられました」

 

蓮華は確かに気づいていた。

家族も仲間も、果てには帰る郷も何もかもを奪い去った存在が、何を基準に行動を起こしているかを。

 

朱雨本人(・・・・)以上に、行動原理を理解していたのだ。

 

 

 

 

「気まぐれで技を編み出し、それを試すために人間や鬼殺隊、鬼にとって都合の悪い集団を利用する。常套句なんですよ奴の……」

 

気づけば、蓮華の覇気に異議を唱えていた他の柱どころか、当の炎柱も反論する気を無くしていた。

 

そのせいで星の呼吸も間近で見た。血鬼術も直に受けた。けど実戦に勝るものはなく、蓮華はこの朱雨が扱う2つの技の内容を凡そ理解したのだという。

 

「だからこそ断言できます。あれを引き起こした鬼は奴しかおりません」

 

そう言いきった。こればかりは、朱雨と直接刃を交えてその過程で体を刻まれて尚特異体質なことが功を奏して生きている当人だからこそ身をもって感じたことだった。

この直接戦ったという経験こそが、蓮華の勘を確信へと至らせている要因だった。

 

「…それに、御館様も私の意志に賛同の意を示して下さっている。御館様の勘となれば、それは確証にも近いのではないでしょうか」

 

その言葉に周囲の柱たちはハッと気づいた。御館様、もとい産屋敷が持つ勘は先見の明ともいい、長らく鬼殺隊の財力を裏から支えるだけに留まらず、影ながら日本を裏から支える発言力を有する存在。それだけに証拠のない勘による発言にもある程度の信憑性を帯びていた。

 

「分かった…御館様のご賛同とあらば天柱の言うことも一理出てくる」

「だな…俺も今ので大いに納得した」

「そうだ、無礼ながら失念していた」

 

炎柱も同意に続いて先程まで炎柱に同調していた他の柱も頷く。産屋敷家の発言というのは、やはり鬼殺隊においても絶大な力があった。

 

「…しかし、そうなると1つ懸念事項が出てくるな」

 

水柱の鱗滝がそう口にした。何かと鱗滝も天柱の救出という危険な行動の中で満月ノ鬼と顔を合わせており、満月ノ鬼については天柱と産屋敷に続く発言力があった。

 

「懸念事項? 満月ノ鬼が選別襲撃の首謀だとして何か?」

 

岩柱が続ける。その強面な体格と顔が一層彼の不満げな表情を際立たせている。だが、鱗滝はそんな岩柱に怯むことなくそのまま続けた。

 

「奴の満月ノ鬼という称号は聞くに我々が今まで対峙してきた十二鬼月とはまた別の存在と捉えるべきだろう。それに、満月に上弦下弦とあれば新月も別にいると考える」

「…ふん」

 

言われてみればと周囲が頷く中、岩柱だけが納得の姿勢を見せない。どうも岩柱はそもそも鱗滝のことをあまり好ましく思っていないらしい。

 

「となると14の強力な鬼がいることになる。下弦ノ鬼ならまだしも上弦は柱数人分に匹敵する強さ。柱の枠が9人までと考えると戦力不足が否めん。それに、9人という定員故に次期柱候補の実力を持ちながら甲止まり状態の実力を持て余している人員も多い」

 

鱗滝の発言に産屋敷も頷く。確かに鬼殺隊には柱という最高戦力が9人いるが、その9人という定員が故に高い実力を持ちながら甲のままの隊士も多数存在した。

また、柱に匹敵する力を持ちながら既に同呼吸使用者の柱がいるために9人の枠の中に空席があっても柱になれないという事態も起きていた。例を挙げるなら、水の呼吸は使い手が多い分、当然ながら柱候補の実力を持つ者も鱗滝とは別に存在する。しかし、鱗滝が既に水柱であるため、次期水柱候補として長らく過ごしている柱候補の隊士も多々いるのだ。

 

 

 

「…そこでだ。鬼側が十二鬼月とは別の枠組みを設けてきた以上、我々も動く(・・)必要がある」

 

 

そうして柱とは別に新たに設けられたこの枠の存在が、後に鬼殺隊と鬼の戦いをより一層激化させていくこととなるのだが、これはまた先のお話。

 

 

 

________________

 

 

 

「自分を閉じ込めた鱗滝に、復讐したいかー!」

「オォー!」

「強くなって将来的に十二鬼月に入りたいか!」

「オォー!」

「その心意気やよし!」

 

最終選別襲撃を成功させてから早くも7日。その日没後、俺は某鬼を鍛えるべく人も寄り付かぬ森の奥深くにて、刀を抜いていた。

 

「7日で随分と人を食ったようだな。以前にも増してお前から強い力を感じる」

「へい!あの日、俺を藤の檻から連れ出して頂けたおかげで!」

 

その鬼とは、自身の肩から腕を8本も(・・・)生やした、あの日藤襲山より対鱗滝用にと連れてきた鬼だ。

 

「腕が増えた(・・・)以上、扱うのも難しくなっている筈。それを上手く使いこなせるよう意識しろ」

「はい!」

 

意欲もよし。藤襲山ではろくに人間を食えなかったらしく、マトモな力を発揮出来ていなかったが今は違う。充分に人を食わせてみれば僅か7日で腕の数が倍増という目に見える進歩がある。

 

「良い進歩だ、腕鬼(・・)

 

俺が奴に与えた名前。人を食って異形化していく中で腕の数が増えていき、恐らく将来的に身につける血鬼術も増えた腕が鍵になると見た故に腕鬼と命名。捻りも糞もない名前だが何せ他人に名前をつけるのは苦手なもので。

 

「まあいい」

 

この際名前はどうでもいい。お前に課せられた使命は単に強くなるだけで留まらないのだから。

 

「さあ、どっからでも来い」

 

そうして腕鬼を鍛える日々が始まった。そしてそれは腕鬼の限界を超えるための鍛錬であるが故に決して生ぬるいで済まされる様なものではないのは当然のこと。

 

「ほら、もっと速く」

 

対鬼狩りを想定して、腕鬼は自身の腕を極力斬られないよう上手く立ち回ることを念頭に起き、俺は刀で奴をビシビシ鍛えていった。

 

「…今度はもっと早く再生させろ!」

 

腕が斬り落とされた際は、その腕を素早く再生させることで鬼狩りの戦意と体力を奪うようにと指示を入れ、人を喰い続けたことで増えに増えたその腕を自身最大の武器にしていけと、俺は容赦なく次々と腕鬼の腕を斬り刻んでいった。

 

「おら、どうしたその程度か」

「す、すいません…ですが…」

 

ただ、ここに来て俺も予想だにしない誤算が1つあった。

 

まだ(・・)残ってるぞ」

「そ、そんなに食えません!」

 

腕鬼は確かに人を喰えば喰うほどにその腕の数を増やして今ではその身体中にとぐろを巻くかのような幾数もの腕が生えた。加えて体格も腕の数が増えていくのと比例して巨大化していった。

 

「…もう腹いっぱいか」

 

しかし、奴はその巨体の割に沢山人を喰えなかった。人を喰らえる量に限界がある少食体質だったのだ。

 

「…チッ」

 

このままでは鱗滝を殺せる鉄砲玉にもならないどころか下弦ノ鬼にも届かない腕が多いだけの低質鬼にしかならない恐れが生じた。

 

「猗窩座や堕姫、妓夫太郎のようにはならないか…」

 

今思えばあの3人はだいぶ強い鬼になる器に恵まれていた。伊達に50年以上に渡って上弦ノ鬼やってない。途中色々あったけど、ここまで上弦ノ鬼に入れ替わりがないのは初の事例だと思う。

 

(…それに比べて)

 

腕鬼は恵まれていないとしか言いようがない。強い鬼になるためには、まず前提条件として人を大量に喰らうことが挙げられるというのに、もはやその時点で既に詰んでるとは思いもしない。

 

 

「…そういえば、この体質の差は何処で決まるんだ?」

 

ふと思った。猗窩座や堕姫に妓夫太郎、ついでに俺自身が上弦ノ鬼まで登り詰められる実力を持てたのは何故だ。今思えば皆食欲に限界がなかった気がするが、その差はいったい何なのか疑問に感じた。

 

「…まっ、考えてても仕方ないか」

 

とはいえ、純粋にこの疑問に正確な答えはなさそうだ。答えるにしても、生まれながらにしてたまたま鬼の素質を持ってたという曖昧なことしか出ないし深入りした所で無駄だ。

 

 

「…うっぷ」

「ほら、まだ残ってんぞ」

 

…腕鬼の件は稀血喰わすなり対策練った方が良さそうだな。

 

 

 

 




ー江戸コソコソ噂話ー

手鬼ではなく腕鬼です。朱雨のネーミングセンスが皆無なのも相俟ってそのまま名前にされました。手より腕の方がイメージ強いとのこと。
また、腕鬼の食欲がない設定ですが、当作品では鬼が食える人間の限界量は本人が持つある意思に直結しているという設定を入れてます。
他、疑問点があれば可能な限り感想欄でも書いて頂ければ答えられる範囲で答えますので…。



10/16 無限列車編公開初日にまさかの日刊ランキング19位浮上!
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