剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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※修正入れました。

今回で江戸時代は終わりです。
1867年ぐらいのお話だから仕方ないね。

シリアス「出番は?」
コメディ「ねーよ」
イチャイチャ「俺の出番か…」
コメ・シリ「それはねーよ」
エロ「ちくわ大明神」
シリアス「誰だ今の」


下弦登場編
40話 彼女の名は


「……ここは何でしょうか?」

「何って、決まってるじゃん。実戦のお時間だよ」

 

無限城を出禁になり、仕方ないので信濃の山奥でコツコツと腕鬼を鍛えてきて早数ヶ月、ようやく江戸近辺に戻ってきてやることと言えば1つ。

___そうだね実戦だね。

 

「ここは鬼の出没が多いのか派遣される鬼狩りも多い。そいつら相手にマジの殺し合いをすることでより確実な経験を積む。良いな?」

「は、はい!」

 

場所は木々の生い茂った江戸近くの山奥、おおよそ武蔵国の西部地域。実践演習をやるにはこれ以上ないぐらいの場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、続けて来たみたいだぞ」

「まだ来るんすか!?」

 

耳を立てると微かに聞こえる木々を掻き分ける音。その音を分析するに、獣や動物のものではなく、丁度人1人ぐらいの階級はさしずめ庚ぐらいの鬼狩りの追手だ。わざわざ命を捨てに来るとはご苦労なこったな。

 

「鬼め!覚悟!」

 

すると草木を掻き分けて現れた1人の鬼狩り。その刃は真っ直ぐに腕鬼の首元へと向けられていた。巨体で目立つからか、やはり腕鬼は真っ先に狙われるな。

 

「ほら、例の(・・)教えたやつやってみろ」

「はい!」

「もう1匹鬼がいやかったか!丁度いい、この腕だらけの奴を相手した後にお前も冥土に送ってやる!」

 

奴の使用呼吸は構え的に水の呼吸。恐らく技は壱ノ型水面斬り。水の呼吸使ってるやつ多すぎて呼吸も型も最初の癖と呼吸の音ですっかり何もかも分かるようになってしまった。ただ、背後を狙わず真正面で腕鬼の頸目掛けて一直線に突っ込んでくるあたりそんな戦闘慣れしてなくて強くないと見た。加えて俺を見ても満月ノ鬼だとは気づきもしない知識の浅さ。これなら腕鬼のあの(・・)技で充分殺れる。

 

「地獄千手!」

 

腕鬼がそう叫んだ直後、鬼狩りの足元から地面を突き破って無数の腕が飛び出してくる。腕鬼の足元からこっそり忍ばせていたのだけど平隊士のコイツにはやはり見破れなかったようだ。

 

「なっ!」

 

腕鬼の頸を一直線に狙っていたために空中で無防備状態を晒したのが運の尽き。ただの雑魚鬼狩り風情には地中から放たれる不意を突く技に対応する術などなかった。その腕鬼の巨体からは予想もできない素早い腕の束による握り潰す攻撃は、鬼狩りに最後の言葉を残させる間も与えずその命を無様に散らせた。

 

「いいねぇ、腕鬼もちゃんとやれば出来るじゃん」

 

地中からの一手が初見殺し技だったということもあるが、鬼狩りを為す術もなく血肉の塊へ変えた。血鬼術こそ未だ目覚めてないがこうして鬼狩りを容易く葬れるようになったのは着実な進歩だ。

 

「これで…鱗滝を殺す実力は得たか…」

「いや全然、まだまだだよ」

 

それで調子に乗りさえしなければ良いのだが、腕鬼の最終目標がそれ(鱗滝)であるだけにまあ口を開けばその事しか呟かないしそれだけしか見えていない(・・・・・・)。自分の実力も分からないし、最終目標だけしか目に映らない。つくづく十二鬼月になることは全く叶いそうにない鬼だと思う。

 

「ほら、まだ鬼狩りは来るだろうから続けて構えて構えて」

「へ、へい!」

 

とはいえ、意欲だけは人一倍あるからこうして奮い立たせておけばちゃんと言うこと聞いて励むのはまあ不幸中の幸いではあった。

 

「ほら、休む間もなく次のやつが来たみたいだぞ」

 

草の茂みからガサガサと音が聞こえる。大きさ的にもさっきと同じく獣の類ではないようだし、こんな真夜中に森の中ほっつき歩く物好きな人間もいないから恐らくまた鬼狩りの追手だろうな。

 

「あっ……」

 

待つこと数秒、そうして出てきたのは白く短い髪をした小柄な女隊士。長年の勘が告げるには経験も実力もさっきの水の呼吸の鬼狩り以下と見た。右手に刀こそ構えているが、その腕は鬼を目の前にした恐怖からかガクガクと震えていた。

でも、一方で妙なこともあった。

 

(……恐怖心は多少あれど鬼を目の前にした割に闘気が薄すぎる)

 

本来鬼狩りには、誰しも必ず持っている感情があるのだが、この女隊士にはその欠片も感じられない。鬼狩りには、例え鬼を前にして恐怖に震えていても、確実と言っていいほど皆共通して鬼に対する敵意があるものなのだが、その感情が微塵も感じられない。

 

「…や、やっと会えた」

 

しまいにはそんな訳の分からないことを口にしながら俺に対して安堵にも似た笑みを浮かべる始末。敵意どころか戦意もない。まるで鬼と会うことを羨望していたかのような言葉に、俺もポカンとするしかなかった。

 

「地獄千手」

 

ただ、そんなこと全く知る由もない腕鬼は鬼狩りという明確な敵を前にすかさず技を放ってしまった。

 

「キャッ!キャアアアアアアアアア!!」

 

やはりというべきか、奴は腕鬼の攻撃を前にしても避けたり刀で応戦しようとするどころか、その場で体を手で覆うようにしてしゃがみこんでしまった。

 

「腕鬼!待て!」

「え?」

 

___コイツは今までの奴と明らかな何かが違う。

長年の勘がそう告げてきたので、俺は腕鬼を制して攻撃を止めさせた。

 

「…どうやら、俺はコイツについて詳しく知る必要が出てきたみたいだ」

「師匠!?」

 

腕鬼が驚くのも無理はなかった。なにせ鬼狩りを前にしたら何が何でも問答無用で殺せと、腕鬼には頭で考えるより先に行動できるよう仕込んできたのだから。

 

「…嬢ちゃん、さっきのやっと会えたという言葉、詳しいことを聞かせてくれるかい?」

 

俺は彼女と同じ視点になるよう、腰を下ろした。彼女の意思が、ただ聞きたかった。

 

 

________________

 

 

 

「休みがないなんて…聞いてない……」

 

私は蕾。鬼殺隊という鬼を討伐する組織に所属、というより無理矢理所属させられた一隊士。

今は鬼退治という激務によって絶賛虫の息状態である。にも関わらず、鬼殺隊という組織は怪我でもしない限り基本的にずっと働かさせられるようで私も例に漏れず西へ東へ鬼退治へ東奔西走である。

 

(逃げてばっかりなのが墓穴だったかなぁ…)

 

情けないことに、私は鬼と対峙すると足が竦んでその場から1歩も動けなくなる。

ということはなく、まずは考えるより先に逃走本能が働いて一目散に鬼から逃げるという鬼殺隊としてあるまじき行動を取ってしまう。そうして逃げ続けた先に待ち受けるのは、だいたい他の隊士が鬼の頸を斬るか朝を迎えて鬼が消滅するという結末のみ。結果として、私は1度も鬼に対して刀を振るうことなく何一つ怪我を負うことなく、今日も烏から『山奥にて数人の隊士が行方不明』と報を受けてそこに駆けつけるだけだった。

 

(だって仕方ないじゃない!)

 

鬼殺隊に入ったのだって私自身が望んだ訳じゃない。両親に農家に女はいらないと愛も受けず売られて、買われ先の宗教組織では儀式用の生け贄扱い。そしていざ生け贄として死を迎えようとしたところで鬼に襲撃を受けて儀式はめちゃくちゃになり、間一髪死は免れたのだ。けどそれで私に自由が齎されることはなく、儀式をぶち壊された怒りを晴らすべく、鬼を駆逐するための組織に私が派遣されることが決まった。元々生け贄という使い捨ての命なのだから真っ先に私が選ばれた訳だ。

 

(自由に…なりたいなあ……)

 

私にはいつも選択の自由はなかった。両親に売られ宗教に殺されかけ、挙句鬼殺隊では怪我するまで只管働かさせられる。

特に鬼殺隊だ。私が最後の希望にと高待遇を望んだ鬼殺隊。私の代がとある鬼の仕業で全滅したとの事でその同期たちの無念を私に全て託すかのごとく上からの期待もやたらと重かった。結局、鬼を斬って人を守ると謳う鬼殺隊も、組織に属する人の尊厳を守ることはなく、ただ組織の目的のために駒を使い潰すだけだ。

 

(私を自由にしてくれる人は…いないのかな…?)

 

かつて儀式をぶち壊しにしたあの鬼(・・・)のように、あるいは藤襲山で私を安全に外まで導いた刺青だらけの鬼のように、私が自由に生きてていいと間接的にでも示してくれる存在は何処かにいないのかと、ただ切に思っていた。

今はただ、その鬼と会うことが唯一の人生指標になってるというのに。

 

(はぁ…、目的の場所に着いちゃった……今度はどうやって誤魔化して逃げ出そうかな……)

 

そうして、任務として烏に言われた通りの場所にやって来た私は、そこで奇跡というものを目にした。

 

「ほら、休む間もなく次のやつが来たみたいだぞ」

「あっ…」

 

もはや思い出したくもない恐怖の思い出。姿形は変わっていてもよく見たら分かる、藤襲山で遭遇した時より一回りも二回りも巨大化した、ずっと叫びながら走ってた発狂鬼。

 

___一方の隣にいる彼は、良い意味で忘れることの出来ない存在だった。かつて私をどうしようもない死の運命から救い出してくれた恩人。私がずっと会いたかった人。

 

「…や、やっと会えた」

 

故にか、私の口からは自然と安堵の声が零れていた。

 

 

「地獄千手」

 

と思ったのも束の間。隣の発狂鬼が有無を言わさずに無限に伸びてくる腕をこちらに差し向けてきた。

 

「キャッ!キャアアアアアアアアア!!」

 

鬼殺隊の羽織りをしているのが凶と出たのか、あるいは藤襲山でもそうであったようにただ純粋に私のことが嫌いなのか。そんなことはいざ知らず、私はただ迫り来る鬼の攻撃から目を伏せてしゃがみこむしか出来なかった。

 

「腕鬼!待て!」

 

けれど、その攻撃が私に届くことはなかった。発狂鬼はどうも彼の傀儡であるのか、鶴の一声によって私はまたしても死の運命から救われたのだった。

 

「…どうやら、俺はコイツについて詳しく知る必要が出てきたみたいだ」

「師匠!?」

 

彼の優しさを含んだ声が、1歩ずつ私の元へと近づいてきた。

 

「…嬢ちゃん、さっきのやっと会えたという言葉、詳しいことを聞かせてくれるかい?」

 

私は、彼と正面から話す機会を与えられた。鬼と殺意を交えずに会話するだなんて、今私が着ている鬼殺隊の羽織りには泥を塗ることになるけど、この際どうでもいい。

 

(もしかしたら…)

 

きっと、これは神様がくれた最後の機会。親に売られ宗教に殺されかけ鬼殺隊で振り回される、そんな人間の身勝手な束縛から解き放ってくれるのは、彼だけしかいないと信じていて正解だった。

 

(…話そう)

 

人の身なんか捨ててもいい。その覚悟で、私は彼に全てを打ち明ける事にした。

 

 

 

(そう言えばなんでこの発狂鬼は寄りにもよって彼の隣にいるの? 阿呆みたいに叫んでたから頭空っぽで腕ばっか生やしてるの?)

 

彼に手を差し伸べられた安堵感からか、うっかり発狂鬼に対して本音が漏れてしまった。

 

 

 

________________

 

 

 

「なるほどね…」

 

鬼に出会っての第一声が「やっと会えた」なもんだからどんな事情を抱えてるのかと思えば、1度彼女の窮地に駆けつけていたことがあったという。

確かに気に食わなかったからと宗教儀式襲ったことはあった。教祖らしき奴とその他信者を食い散らかし、磔にされてた女の子は個人的な情けで鎖からも解放しておいた。たまたま助ける形になっただけだったし、二度と会うことも関わることもないと思ってたけど、こんな形で偶然の再会を果たすとは考えてもなかった。

 

「…はい。だから私、貴方に会うために途中で生きることを諦めずにここまで生きてこられたんです」

 

いや、偶然なんかでは無い。

俺に会うためだけにここまで出来るのは、運命の底力というものが間違いなく必然性を生んだのだろう。

 

(……にしても、本当に残酷な半生だな…)

 

俺が人間嫌いになった要因は色々あれど、おおよそは自分勝手で無責任且つ傲慢で自己中心的な所なのだが、彼女はその人間の醜さ全てにおける被害者といっても過言ではない生き方をしていた。

 

「…そうか、辛かったんだね」

「はい、もう人間なんて…懲り懲りなんです………」

 

遂には感極まって彼女はその場で大粒の涙を流しながら泣き始めた。余程、辛い思いをしていたのだろう。その我慢が、ここに来ていよいよ爆発してしまったらしい。

 

「わたしだってぇ…ほんとは…だれかにあいされたかったのにぃ………なんでっ……なんでぇ………」

「うんうん、よしよし」

 

気づけば俺は相手が現状鬼殺隊の人間であることも忘れて、その話に深い哀れみを覚えていた。頭をポンポンと撫でると、今まで堪えていたものが溢れてしまったらしく尚声を荒らげて咽びいていた。

 

「ひぐっ……ひぐっ…」

 

普段ならこんな人間を憐れんだり同情心を抱くだなんてことはない。人間なら勝手に野垂れ死にすれば良いと思うくらいだ。

けど、俺はどうにもこの子を放っておくことが出来なかった。気づけば俺は彼女を救済してあげなくてはという思考が頭を渦巻いていた。

 

「…ぐすっ」

「……もう大丈夫かな?」

「はい……おかげさまで……では、1ついいでしょうか?」

「うん、なんだい?何でも言ってみて」

 

ようやく彼女は泣き止んだ。あれだけ泣いていたというのに、気づけば一瞬でその顔は決意の溢れたものに変わっていた。それも1日や1週間で完成した思いではない。ずっと前から、覚悟を決めていたものなのだろう。

 

「…もう、貴方しかいない。私はこのままだと永遠に自由を得ることは出来ない。だから、

___私を鬼にしてください(・・・・・・・・・)

 

そうして精一杯頭を下げる彼女。間違いなく、それは覚悟に満ちた言葉であった。

 

(そう来たか…)

 

どうも彼女は鬼になることが自由への1歩だと思っている。でも鬼になっても無惨様は常にこちらを見て下さっているし、彼女の思い描く自由とは少し内容が異なるかもしれない。青い彼岸花だって見つけなきゃならないし、日光を克服することを目標としなければならない。

とはいえ、ここを逃せばもう後が無いのだと、人間であるよりかは自由になれるかもしれないのだと、既にその辺も折り込み済みでの頼みなのだろう。そこに、悪魔もとい鬼に魂を売る覚悟とやらは確かにあった。

 

___ならばこちらもその思いに応えようじゃないか。

 

「いいよ、君を鬼にしてあげる」

「ほ、本当ですか!」

「うん、あの方に認められれば君は自由になれる」

 

そう、上弦級以上の鬼には無惨様より特権が与えられている。それは満月ノ鬼という特別な位にあたる俺も然りで、その特権とは、人間を鬼に勧誘することである。

かつて黒死牟さんが俺の実力を高く評価して鬼にしたように、強力で無惨様により近い鬼には、それだけの権威が与えられているのだ。

 

「…それと、もうひとついいですか?」

「うん?何かな?」

「私が鬼になった暁には……」

 

そうして彼女の口から発せられた望みは、俺の予想の遥か斜め上をいくものだった。とはいえ、これは彼女が人間であったときに切望しつつも何一つとして得られなかったもの。だからこそ欲しさ故に代わりでもいいからなって欲しいと願うのは必然のことであった。

 

「…なるほど、いいよ。それが君の望みなら」

「本当!?」

「うん、だから少ーしだけ待っててね」

 

そうして彼女の俺は自分の奥底に眠る鬼の血に語りかけた。

 

(無惨様、この者を鬼に勧誘致します。よろしいですね?)

 

今でこそ直接無惨様の元に連れていく必要はなくなったが、こうして無惨様と血を通して遠隔的に許可を頂く必要がある。果たして無惨様はこの件に関してどう答えを下さるのだろうか。

 

 

『良いだろう。お前の勧誘した者に基本外れはないからな。青い彼岸花と日光の克服は伝えておけ』

 

 

そうして晴れて許可が頂ければ、俺の体内を流れるただの鬼の血の幾分かが、無惨様と同じような『人を鬼に変える血に』変化する。

 

「…覚悟はいいね」

「はい、いつでも!」

「少し痛いかもしれないけど、我慢してね」

 

そうして彼女の頭に爪を突き立てた。やがて爪が頭皮を突き破り、彼女の血管に穴を開ける。

 

「ぐっ…うぅ"…」

 

続いて無惨様と同じ血が彼女の頭へとドクドクと注ぎ込まれる。彼女はその場で魚のようにビクビクと跳ね、体全体に走る強い痛みにジタバタと悶えていた。

 

「あ"っ……………ア"ッ"…………」

「頑張れ!あと少し!」

 

そうして全ての血を注ぎ終え、彼女の頭から腕を離した。結構な量注いだと思うけど、俺が現状で無惨様から頂いてる血の総量よりかは遥かに少ないし、彼女の強力な鬼となる()は充分揃っていたから恐らく余裕で耐えて来る筈。

 

「…ケホッ」

「あー……」

 

腕を離した瞬間に、糸が切れたように彼女は前のめりに倒れ伏した。やっぱりというか、現在上弦ノ参やってる猗窩座ですら初めて無惨様から血を頂いた時は真っ先に気絶してたし、人から鬼になるにあたってこれは避けられない事項なのだろう。

 

「…師匠」

「おっとすまん腕鬼。完全に空気だったな」

 

そういえば腕鬼もこの場にいたのだった。とは言っても腕鬼の存在ごと忘れていたわけじゃない。ただ彼女との会話に夢中になって、完全ではないにせよ少し頭から抜け落ちてただけだ。

 

「…修行はどうしましょうか?」

「うーん…」

 

このまま続けても良いことには変わらないのだが、予想外の彼女との遭遇もあったし、何より気絶した彼女をこの場に放置する訳にも行かない。もう特に教えることだって無い。

 

「そうだな、お開きにしよう。最後にこの辺に散らばってる鬼狩りの死体持ち帰るぞ」

「えっ、俺まだ食わされるんすか!?」

「いやお前じゃない。彼女が起きたとき食べさせる用だよ。第一お前その巨体の割に全然食えないじゃん」

「ははっ…そうですよね……」

 

頭をポリポリと掻く腕鬼。俺や他の上弦ともなると直接体に吸収する芸当も可能にはなるのだが、腕鬼は相変わらず口から取り込むしか出来ない。本当にこの調子で鱗滝に復讐なんか出来るのだろうか。成長遅すぎて溜まったもんじゃない。

 

「ほら、3人ぐらいは持て」

「3人ぐらいはって全員じゃないですか!」

「体大きいんだからそれぐらいやってくれなきゃ」

「師匠ぉ…」

 

そんな気を抜いてる状態だったから気づかなかった。

 

【花の呼吸 壱ノ型 紅葉斬り】

 

背後から忍び寄る鬼狩りの存在に。

 

 

「はっ?」

「腕鬼!」

 

気づけば腕鬼の腕が幾数も周辺に散らばっていた。

 

「チッ、頸は狙い損ねたか…」

 

後ろを振り返った先にいたのは、禍々しい殺意を纏った女隊士。その強い殺意の割に、腕鬼が斬られるその時まで全くその存在に気づくことが出来なかった。間違いなく平隊士では有り得ない芸当である。

 

(ということは……遂に柱が出てきたか)

 

鬼狩りを何人も屠り過ぎたのだろう。遂に最高戦力である柱が駆けつける事態になってしまった。

 

「…満月ノ鬼!貴様もここにいたのか!」

 

奴の反応を見る限り、どうやら腕鬼討伐のために派遣されてきたらしく、当初の目標に俺はいなかったみたいだ。しかし、鬼狩りの柱というものは女であろうとなかなか心身共に鍛え上げられてるようだ。満月ノ鬼を前にしても全く怯む様子がない。さっきの満月ノ鬼も知らない馬鹿平隊士とは同じ隊服に身を包んでても月とすっぽんだ。

とは言ったものの、女隊士は若干気が引ける。なにせ、猗窩座だったら女隊士相手だと攻撃はしても殺そうとは考えなさそうだし。だけども殺さないとと鬼を狩り続けるだろうしそうすると身内に危険が及ぶ。

…しかし俺も女相手に情けだなんて、随分と甘い思考をするようになったな。昔は女だろうと有無言わさず殺して食っていたが…。まあいい、どの道相手は柱だ。となると鬼のやることなんて1つだろう。

 

「よし、普通に殺すか」

「それはこっちの台詞だ。予定にはなかったがお前も纏めて冥土に送ってやる」

「へぇ…やれるものならやってみろよ」

 

と、余裕ぶっこいてるように見えるけど、傍らで倒れてるさっき鬼にしたばかりの彼女の存在がどう足掻いても目に入る。恐らく彼女を守りながらの戦闘になるのだろうけど、やはりあの時のトラウマが頭を過ってしまう。

 

(護衛戦か…)

 

これがまた凄く厄介。というか苦手そのものである。ただ、前回とは事情が幾つも異なる。痣が出てから制限も無くなったからいざという時は強制転移も使えるし、最悪鳴女さんにベベンをお願いすれば良し。何より此度の相手はあの不老不死の化け物女(蓮華)ではない。どう見たって武があるのは明らかにこちら側だった。

 

「ん…、そこに倒れてるのは蕾…?蕾なのか!?」

 

奴がこちら側にいる彼女のことをわなわなと震えながら指差した。

 

「…なんだ?知り合いか?」

「知り合いも何も!同門の隊士で妹弟子だ!お前ら!ソイツに何をした!!」

 

花柱と同門、ということは即ち彼女、花の呼吸の使い手だったのか。というよりも、彼女の名前が『蕾』であることも初めて聞いた。しかし、彼女は恩人だと敬愛する俺に出会った時、真っ先にその名前を名乗ろうとしなかった。名乗りは自らを示すものであるため自己肯定感とも直結する。名乗らなかったということは、彼女自身、その名前を自分の事であると納得してないのでは無いか。

 

…まあいい。そんなことはさておき、目の前の花柱相手に初手はどうするか。

 

「残念だけど、もう手遅れだよ」

「なっ…!貴様ら……!」

 

そう、手始めの挑発である。相手が勝手に激昂してるけど、俺が言ってるのはあくまで手遅れ、死んだとは一言も口にしてない。

とはいえ、半ば人としては死んだも同然。未だ鬼殺隊の羽織りこそ羽織ってるけど、彼女はもう立派なウチらの仲間。つい先程人間をやめたばかりの新米鬼だ。

 

「というか顔見知りだったんだ?そんな顔見知りは倒れてる訳だけどどうする?」

「どうするも何も…!仇を取るに決まっているだろう!」

 

怒りに燃え改めて日輪刀を力強く持ち直す花柱。今も尚倒れてるとは言ったけど死んだなんて言ってない。勝手に挑発に乗ってくれるのは有難い。柱の癖して精神面弱すぎて笑える。

 

「あぁ、じゃあ早いところ終わらせよう。腕鬼は引っ込んでて」

「へい!」

 

彼女を放置する訳にもいかないから長期戦は御法度。短期決戦で済ますことにする。

 

「星の呼吸 捌ノ型 星…」

 

その時だった。

 

 

血鬼術 種の呼吸(・・・ ・・・・)壱ノ型 発芽突き】

 

突如目を覚ました彼女が、刀を抜くやいなや一瞬のうちに起き上がって目の前の花柱の体を突き刺した。

 

「…な"っ……つ……ぼ……み………?」

「もうその名前で呼ばないで」

 

彼女の斬り込みはしっかりと花柱の土手っ腹を貫通していた。花柱は思いがけぬ妹弟子の攻撃に刺されて狼狽するしか無く、そこには鍔迫り合いも居合いも互角の戦闘というものは何一つとしてない。ただ一瞬の戦いに呆気なく決着がついたということだけ。

 

「お……ま……え………、なん……で……お……に……な……ん………か……に……」

「さよなら」

 

彼女は花柱の腹から刀を抜いた。するとその直後、花柱の体が辺り一面に血肉をばら蒔いて爆散した。花柱から断末魔があがることもなく、その後はただの静寂だけがその場を支配した。

 

 

「…やるじゃん」

 

不意打ちとはいえ、鬼になったばかりの初戦で柱を殺した。その実力、やはり俺の目に狂いはなかったみたいだ。返り血で真っ赤に染まった彼女は、まさに鬼と呼ぶに相応しい力と残忍さを見せつけてくれた。

 

「やべえ…俺まだ柱殺した事ないのに…」

 

一方、横では柱殺害という一大目標を先越された腕鬼が頭を抱えて蹲っていた。そりゃついさっき鬼になったばかりの奴に負けたら誰だってこうなる。それに腕鬼に関しては血鬼術の習得も越された訳だしな。

 

「…えへへ、これからよろしくね」

「あぁ」

 

 

こうして俺は、後に下弦ノ肆(・・・・)となる娘と邂逅を果たした。

 

 

 

「…お父さん(・・・・)

 

彼女の父親になる(・・・・・)という彼女の僅かばかりしかない望みを叶えながら。

 

 

 

 

 

 

 

____そして、時代は江戸から明治に移り変わっていく。




ー江戸コソコソ噂話ー

今回で江戸コソコソ噂話は最終回です。40話近くにわたり、こんな本編で補足できなくて仕方なく後付けしたんかみたいなクソ設定を読んでくださりありがとうございました。

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失望しました。堕姫さんのファン辞めます。という方は高評価お気に入り登録、ついでに読了ツイートなんかもよろしくお願いいたします。

とりあえずこの小説が気に入られた方は高評価お気に入りよろしくお願いいたしますモチベになりますありがとうございまーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!!














次回からは明治コソコソ噂話が始まります。
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