剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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前回蝦夷に行った目的はこれがやりたかったからです。


尚、前回の没話
零余子「誰?おじさん?(無惨様に向かって)」
無惨様「は?」
朱雨(死んだわこれ)


42話 その名は佩狼

 

場所は箱館五稜郭。ここではかつての江戸幕府に還ろうと企む将軍派の蝦夷共和国もとい旧幕府軍と、外国勢力に立ち向かっていくため国を一新した新興の維新派である新政府軍が戦いの火花を散らしていた。

 

 

「撃てぇぇぇええええ!!!!」

 

上陸してきた新政府軍を迎え撃とうと奮戦するも、西洋式の近代化された軍隊相手に旧幕府軍はジワジワと敗走を余儀なくされていた。

 

(くっ……)

 

そんな中、洋装に身を包んだ、かつてはとある組織で鬼の副長と恐れられた旧幕府軍所属の1人の男がその場に倒れ伏していた。

 

「突撃ィィィィ!!!!」

「怯むな!進めぇぇぇええ!!」

「押せぇぇぇええ!!!」

 

銃弾の音、鍔迫り合いの音、大砲が放たれる音と、激戦であることを象徴するかのような数々の音が響き渡り、それはまだ戦闘が終結していないことを示していた。

 

(榎本は……無事だろうか……)

 

腹に新政府軍の銃弾を受け落馬して尚過るのは、仙台にて合流した旧幕府海軍の戦友のこと。また徳川が日本の天下を取る未来を信じて、共に戦ってきた仲間のこと。

 

《俺たちの剣は銃なんかに負けやしませんよ!》

 

かつて京の町で独特な三角模様の羽織りを身につけながら攘夷志士共を蹴散らした同志たちのこと。池田屋の攘夷志士共を大量捕縛し、自分たちの名が一斉に世に広まったあの日のこと。

 

(堀川……国広……)

 

そして幾度の戦いを共にしてきた右手に固く握られた刃こぼれだらけの愛刀のこと。刀の時代を終わりを心の奥底では理解していても、自身が銃火器をある程度扱うようになっても、やはり戦となれば今までずっと苦楽を共にしてきた刀を手放すことなど出来なかったのである。

 

(戦闘は…どうなったのだろうか……)

 

もう耳も機能しなくなるぐらい失血してしまったのか、それともただ純粋にここでの戦闘が終わったのか、周囲の状況がどうなったのか、瀕死の男には知る由もなかった。

 

やがて、死にかけの男の元へ3人の影が歩み寄ってきた。

 

「惨めだなあ。いつまでも武士道だの時代遅れな」

 

ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら新式の銃を構えている者を筆頭に新政府軍の兵士数人がそこにいた。

 

「では、武士道とやらで弾を撃ち落としてみろ」

「「「ははははは」」」

 

次の瞬間、銃弾が男目掛けて幾つも放たれた。奴らに、男が既に身動きも取れぬほど瀕死状態であることなど知ったこっちゃなかった。『敵とて戦意の無い者や倒れている者にトドメは刺さない』という武士道を全否定した行動。男は悔しさのあまり唇を強く噛みしめつつも迫り来る死を受け入れるしか出来なかった。

 

(クソッタレめ……)

 

目の前の輩に一矢報いてやりたくても出来ない。自らが長く学んできた剣術は時代の波に攫われる。そんな数々の現実が男の心を酷く蝕む。

 

(こんな…ところで……っ!)

 

男は手を伸ばすも、その手が目の前の新政府軍兵士に届くことは無い。兵士たちは『侍の時代は終わりだ』とだけ吐き捨てると高笑いしながらこの場を後にした。

 

 

 

その後、男は駆けつけてきた仲間に引きずられながら救助されるも、時既に遅し。鬼の副長と恐れられた男はこの世を去った。

これからは銃火器(・・・)の時代であると身をもって思い知りながら…。

 

やがて男の死後間もなくして五稜郭は陥落。戊辰戦争に終止符が打たれ、時代はようやく本格的に明治へと移り変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___筈だった。

 

 

 

________________

 

 

 

前回、…前回ってなんだ?まあいいわ。

 

前回、無惨様の機嫌を損ねて左遷され、辿り着いた新天地こと左遷先の蝦夷。新天地に来て尚変わらない数百年もの間変わらずやってきた青い彼岸花と十二鬼月及び太陽克服する鬼の素体探しの任務傍ら、俺たちは少しばかし寄り道をしていた。

 

「食べ放題だー!!!」

 

そう、腹が減っては仕事は出来ぬ。今箱館は丁度よく戦乱の真っ最中で、今俺たちがいる五角形(・・・)の建物も攻撃を受けてる最中。故に俺たち鬼が直接手を下さなくても戦いで勝手に人が死んでくので簡単に死体(食糧)が手に入る。

 

ようは大量の死者が出ようとも戦乱が起きてる以上は鬼の仕業だと鬼狩りに勘づかれる可能性が極めて低くなる。

 

何が言いたいかと言うと、これは零余子を強化する紛れもない好機なのだ。

 

まあ、外は今太陽が照りつけている昼間だし、死体食って過ごす以外にやることがないというのもあるのだけど。

 

「お父さん!ここ死体いっぱいいるよ!全部食べていいの!?」

 

何よりも零余子が『いっぱい食べれるの!?』と目を輝かせながら言うものだから速攻で寄り道決定した。

 

「ああいいぞ。いっぱい食べて強くなれ」

「わーい!!」

 

そんな訳で俺たちは今、戦乱の中で死んでいった者達が大量に置かれて死体安置所であろう部屋で食事にありついていた。

 

「お次の死体オモチシマシタ」

「ココ、置いときマスネ」

 

しかも新しく死者が出る度にこの部屋に死体が次々運び込まれて来る上、外から日が差すような窓も存在しない。この死体安置室、早い話が絶対安全無限食糧供給地帯と化している。

 

「そこら辺置いといて。骨だけになった奴はさっさと海に撒くなり土に埋めるなりして証拠隠滅な。形残すなよー」

「「ハイ、カシコマリマシタ」」

 

尚、当然ながら今の食糧運び役からこの死体安置所周りの人間、全員零余子の種の呼吸によって洗脳済みである。脳に種を植え付けることによって何でも言う事きくように作り替えてしまう。その種は日光に当たらない限り消えないので、死体安置所周りの人間は外なんて行くわけないし、ようはずっと残り続けるわけだ。

ほんと、今思えば念動の血鬼術には洗脳術はないし唯一の欠点を零余子と二人三脚で補えたのは棚から牡丹餅であった。

 

(最近の連中は変な武器ばっか持ってるな…)

 

もう刀の時代では無いのだと酷く痛感する。刀拵えてる奴もいるにはいるけど銃の割合が思いのほか結構多い。ここに運び込まれてきた死体の中には背中に銃背負いながらの奴もいる。まあ、その背負ってる銃は敵の攻撃に倒れた時に背中で押し潰してしまったようでひん曲がってるみたいだけど。

 

(一応持っておくか)

 

刀で挑んでくる鬼狩りを撃ち抜いたりとかしたら面白そうだし、いずれ役立つかもしれないから1つ頂いておこう。

 

 

「美味しー!」

 

一方、脇目も振らずに只管に食べ続ける零余子。人間時代が誰の目から見ても悲惨そのものであった零余子は鬼としての器がしっかりしており且つ比例するように食欲も旺盛だった。あっという間に1体目を骨だけにし、2体目にかぶりついていく。

 

「あっ!こいつ稀血だ〜!美味し〜♪」

 

早食いしつつも無意識の笑顔を振りまきながら味わって食べる。特に稀血の人間見つけた時のキラキラした顔が眩しい。

 

(何この可愛い生物。知ってるか? 俺の可愛い可愛い娘なんだぜ?)

 

一心不乱に骨になるまでしゃぶり尽くす食欲。毎度嬉しそうに人肉を頬張る食い意地。世界一可愛いとしか思えない。

 

「…お父さんは食べないの?」

「あぁ、いや、ごめんごめん。勿論食べるけど零余子が先でいいよ」

 

零余子の幸せそうに食べる姿が可愛いから眺めていたら心配されてしまった。まあ俺は口から取らなくても体から吸収する術だってあるからな。

何より寄り道の当初の目的は零余子の強化だ。

 

 

 

それからしばらくして。

 

「ふわぁ…おなかいっぱいになったら眠くなった…」

 

数十体近く平らげたところで眠くなったのか零余子はうとうとし始めた。

 

「夜になるまで時間は掛かるからな。しばらく寝ててもいいぞ」

 

そうして俺は胡座をかいて膝をポンポンと叩いて零余子を誘った。これは『膝枕してあげるからおいで』の合図である。

 

「そう?じゃあしばらく寝る……おやすみぃ」

 

そうしてゆっくりと眠そうに俺の元まで歩いてくると、そのまま自らの頭を俺の膝にポスンと乗せるやいなやスヤスヤ眠り始めた。

 

「おやすみ、零余子…」

 

寝息を立てる零余子の頭を優しく撫でる。すると零余子は少し擽ったそうに体を捩らせる。

 

「……ンンッ……スゥ………スゥ……」

 

やがて本格的に眠りに入ったのかそのまま寝息を立て始めた。

 

(しっかし…ホント無防備に寝てるな……)

 

蝦夷は今まで異国として扱われていたため、鬼が進出したこともない。故にその鬼を狩る鬼狩りにとっても未開の地であり、日本本土にいた頃と違って鬼狩りに急襲される恐れもないので、零余子はすっかり安心しきってぐっすり眠っている。

 

(まあ…いずれはこの地にも鬼狩りは来てしまうだろうしなぁ……)

 

羽を伸ばせるのもきっと限られた時間に過ぎない。無惨様には蝦夷の地でも鬼への勧誘及び青い彼岸花を探せと指令を頂いてるし、基本的に怠慢はあまり良くないから本当は今すぐにでも動いた方がいいのだけど、幸い、今のところ『早く動け朱雨』といった無惨様直々の脳内への急かし指示は来ていない。なら少しくらい零余子の強化を名目とした休暇を頂きますといったところである。

 

「…おとうしゃん………」

 

可愛く寝言を呟くその口の周りは、まだ先程食った赤い人間の血が乾ききってなくて滴っていた。

 

(この子はしっかり面倒見ないとな…)

 

今まで辛かった分、俺が埋めてあげないといけない。それが、結果的に俺の拭いきれなかった未練までも満たしてくれるような、どこか心の奥底(・・・・)で、そんな微かな記憶が引っかかってるような気がするからね。

 

「…zzz」

「だから今はゆっくりお休み……零余子……」

 

気づけば俺もうとうとし始めていた。零余子と一緒に俺もちょっとだけ寝るとしよう。そうして目を閉じ、眠りにつこうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次ノ死体オモチシマシター!!」

「うるせぇ!しーっ!!」

 

死体運びの連中のこと忘れてた。とりあえず注意だけして、次からは静かに持ってくるように言っておいた。

 

ちなみに余談になるが、鬼は睡眠を取らなくても生きていけるけども眠ることによって人と同様に体力回復を促すことも可能。

食ってすぐ寝たら牛になるって?あれは迷信だよ。

 

 

________________

 

 

___数時間後

 

「…よく寝た〜〜」

「おはよう、ぐっすり眠れたか?」

「うん」

 

どれくらい経っただろうか。日の差し込まない部屋にいたため正確な時間帯は分からないが、先程より少し気温が落ちた感じはするから夜にはなっている頃だろう。

 

「さて、どうしようか……」

 

鈍った体を解すため背伸びをする。すると、ふととある人物(・・)に目がいく。腰に脇差を差した洋装の美形の剣士で、よくよく耳を澄ますとまだ微かに呼吸しているのが聞こえる。

 

「……運の悪いやつだな」

 

恐らく俺たちが眠っている間に運び込まれた死体なのだろうけど、楽に死ねたらいいものをどうやら息を吹き返してしまった模様。

 

「お父さんどうしたの?」

「あーいや…ちょっと気になるヤツがいてな……ちょっとそこで待っててくれ」

 

零余子はそれに気づいてないようで、どうも死んだ奴と死んでない奴の判別はできてない様子。その辺はまだまだ未熟みたいだ。

鬼狩りの柱の中には上手いことその辺呼吸使って死んだフリして不意打ちしてくるような奴もいるし、いつかその辺は後々教えよう。

 

「近づいて見たはいいけど……どの道ダメだな」

 

息は吹き返しこそしたけど、だからといって回復に向かう訳じゃない。結局2度死ぬだけ。

 

「…あれ?」

 

そいつの腰に目が行く。妙に特徴的なものをぶら下げているのが俺の目に止まった。

 

「…これ、堀川の脇差か?こんな高価な刀今どき戦闘に使う奴いるのか……ってこれ、似てるけど贋作か。なんだ……」

 

刃こぼれする度に鬼狩りから新しく日輪刀奪うことの繰り返しで数百年鬼の剣士やってるけど別に鬼である以上日輪刀である必要は無いし武士の時代が終わる前に自分の刀欲しいなと思って、最近色んな刀工探ってる関係で刀に詳しくなっており、刀の反りや紋を見ただけで刀工を見分けられるぐらいにはなってる。あと本人作か贋作かの判別も出来るようになった。

 

「まあ偽物とはいえ珍しいもの見せてもらったし、蝦夷発1号の鬼作るか」

 

贋作とはいえ堀川という貴重な刀を直で見せてもらった。まだ息もあるようだしこのまま死ぬのも勿体ない。短い休暇だったけど切り上げてひと仕事するとしよう。

まず俺は例のごとく血に眠る無惨様の細胞に語りかける。

 

(蝦夷に着いて早速ですが鬼にしたい者が現れました。何卒よろしくお願いいたします)

 

零余子の時と同じように、こうして是非を問い無惨様に了承を得られれば体内を巡る血が無惨様の人を鬼に変える血に変貌する。

 

(良いだろう。引き続き頼んだぞ)

 

了承は得られた。そしたら俺の血を奴の傷なり口になり放り込めば完了。あとは鬼になる体質か否か待って確かめるだけ。

 

「ほら、受け取れ」

 

爪を立てて血を滴らせる。ポタポタと垂れた血が奴の傷に染み渡る。すると奴の体が不自然なほど小刻みに震え始めた。

 

「ガァァァァァ!!!」

「ひぃ!?」

 

鬼になった際に高確率で起こる豹変に背後から零余子の縮み上がった声が聞こえた。相変わらず鬼狩りの柱には恐れを成したりとか零余子ってこういう所で肝の小さいところあるような気がする。

 

「グゥ…」

「オイオイ、何こっち唸りながら睨んでんだ? 鬼になったばかりの時は基本空腹なんだからそこの人間食っておけ」

 

俺はそこらじゅうに散らばる死体を指さして奴を誘導する。けど、どういう訳だかこちらへの敵意が消えない。

 

「あー…えーと、もういいやとりあえず食え」

「キャイーン」

 

面倒臭くなったので片手に持ってた死体を投げつける。流石に飢餓状態の鬼が死体投げつけられたら口で上手いこと捉える筈だ。

…今想像したらめっちゃ犬みたいだったけど。

 

「…あれ?」

 

俺、今左手に死体持ってる。刀は腰に差してある。右手には本来であればさっき死体から鹵獲した銃があるはず。なのに右手は今手ぶら。しかもなんだか甲高い悲鳴のような声が聞こえたような。

 

「お父さん……流石に銃投げるのはどうかと思うよ……」

「あー……」

 

俺の手から放たれた銃は思いっきり奴の脳天に直撃。奴はこれにだいぶ怒ったらしく、投げられた銃をこれでもかと言わんばかりに『グゥグゥ』唸りながら噛みちぎって銃口が完全にへし折れた。

…いや完全に犬やん。

 

(というか死体には目もくれず銃を……)

 

さっき俺の方を見て唸ってたのは俺が右手に携えていた銃が気に食わなかったからなんだろう。相当銃に対して恨みがあるようで。

 

「…なんか銃のこと相当恨んでるみたいだね」

「そうだな……」

 

零余子も引く程である。

けど鬼になった以上、まずは通過儀礼の方から済ませて貰う。一旦銃の方は忘れてもらうとしようか。

 

「おーい」

「…グゥ?」

「銃に未練があるのは分かったからとりあえず食え」

「えぇ…」

 

俺は奴の口に死体を強引に捩じ込んだ。飢餓状態でそんな犬みたいにずっとグゥグゥ喋られても何言ってるか分からないからまずは腹を満たして理性の方を取り戻してもらわなくてはならない。

…絵面酷くて引いた顔してる零余子ごめんね。

 

「ワフゥ……」

 

人の肉食べた瞬間コイツ嬉しそうにワフゥって言いよった。なんだかありもしない尻尾がパタパタと揺れてるような幻が見える。

 

「それとお前、鬼になったから新しい名前付ける。今日からお前は佩狼(・・)だ」

 

犬っぽかったから少しカッコよく着色して名前に"狼"を入れたという事実は墓まで持っていく予定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クゥーン」

「銃はお預け!」

「お父さんコイツ飼っていい?」

「ダメだろ」

 

やっぱり佩犬で良かったかな。

 

 

 

 





明治コソコソ噂話
2本立て!

①多分佩狼はハーメルン最速?
②零余子を家族にしたのは実はとある将来の下弦との絡みがやりたかったから。
③朱雨から見た佩狼のイメージ『犬』
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