剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
これからしばらく長編に入ります。
(あぁ…とうとう……)
いつか爆発すると察しはついていたが、遂に火薬庫に火種が投入される最悪の事態が巻き起こってしまった。
【血鬼術 種の呼吸 壱ノ型 発芽突き】
【血鬼術 刻死輪転】
そう、零余子と累による本気の
「ほんっっっっと!信じられない!!今日という今日こそ私の手で塵にしてやらないと気が済まない!!」
「それはこっちの台詞だ。君の方こそ自分が愚かだと思わないのか?」
切欠はほんの些細な事だった。でも、それが溜まりに溜まった姉弟間の確執に火をつけた。
「私の捕まえた稀血!なんで食べちゃったの!!?馬鹿じゃない!?」
「さっさと食べておけば良かったんだ。明日の楽しみだなんて甘っちょろい事してるから僕に喰われるんだよ」
2人を見ていると鬼が群れず互いに争い合う理由がよく分かる。
十二鬼月の連中ですら同じ鬼であるという同胞意識がない奴も多い。特に100年近く顔触れが同じ上弦同士ならまだしもちょくちょく入れ替わりが起きてる下弦は悲惨。お互いの顔すら覚えてないし無限城以外で出会えば下弦同士でも狩場を巡って争いが起きるそうなのだから。
そして、まだ十二鬼月の下弦にすら名を連ねてないこの2人が、俺のように同胞意識を持つ鬼であるとは限らなかったんだ。
鬼は本来争うもの。俺と猗窩座のように数百年に渡って親友関係を築いている方が異常なんだ。
「はぁ…どうしようか……」
とりあえず2人の仲をどうにか取り持たない限りは何も始まらない。種と糸があちこちに飛び交って拠点内が既に傷だらけだ。
早いところ場を収めないと、拠点が崩壊してそもそものこの生活が続けられなくなる可能性だってある。
「おーい!その辺にしとけー!」
「「お父さん(父さん)は黙ってて!!」」
鬼の形相、__否、元より鬼である2人の殺気に俺は跳ね返された。
結論から言うと、親として情けない限りではあるが、もう実力行使以外では2人は止まらないということである。
(そりゃまあ、止めるには止められるけどなぁ……)
強引に喧嘩を収めたところで、2人の無事は保証できない。俺は加減するのが少々苦手で、万が一やりすぎた場合2人を日輪刀でバッサリしてしまう可能性もある。
それに、強硬手段に出たところで2人の不仲が根本から変わる訳では無い。万が一制止に成功しても、また切欠さえあれば再度火がつくに違いない。
(どうしたものか…)
念力の血鬼術は狭い屋内だと使えないし、呼吸を用いる策は危険すぎる。ようは八方塞がり、詰みでしかない。
そんな時であった。
「朱雨、招集だ」
聞き慣れた琵琶の音が鳴り響き、親の顔より見た障子が俺の真下に開いた。
(この喧騒状況で招集!?)
とはいえ、招集かけているのは上司の無惨様なので背く訳にはいかない。全ての鬼はあの御方の眷属であり下僕であり、それは俺も同じなのだから。
「ただいまそちらへ向かいます」
零余子と累の2人が仲直りして喧嘩をやめてくれることを信じて、俺は拠点を後にした。
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「お久しぶりでございます」
もはや思い出せぬ親の顔より見慣れた無限城に降り立った俺は、即座に上機嫌な表情をお浮べになる無惨様に頭を垂れた。
「久しぶりだな。お前に累を託した以来であるから数年振りか」
「はい。その件は家族団欒に大きく華が出て感服の極みでございます。ところでなのですが、此度のご要件は如何なものでしょうか?」
家族団欒に
「そうだったな、朱雨、顔を上げろ」
そうして顔を上げた矢先に、無惨様から人間の腕が1本入りそうな大きい瓶を投げ渡された。
「…いったい、これは何でしょうか?」
この匂いからしてほぼ間違いなく無惨様の血。鬼の原動力かつ、人を鬼に変貌させる、大変有難き血であり、俺は数百年の間で幾度もこの血を頂いてきた。
しかし、ただ血を頂けるのであれば直接我が体内に管を繋ぐだけ。こうして瓶に入れられて渡されているということは、無惨様は何か別のご意志をお持ちであるということ。
「察しが良いようで何よりだ。以前、100年も前になるか、鬼人族の里を滅ぼす際にお前に血を託したことを覚えているか?」
「はい、京都の街の人間数人に血を与えて鬼にし、暴動を起こして鬼狩りを誘い込んで手薄となった鬼人族の里を滅ぼしたあの時の事ですか」
あの襲撃は俺にも一悶着あってまさかの自身が鬼人族出身だった予想外の出来事もあったが、結果として鬼狩り側の戦力を削ぐことに成功したあの時の事だ。
「その時のように上手く使って見せろ。手段は問わぬ。特にお前は何人もの人間を鬼に勧誘して来ているからな。今後それに際してその血を使うも良し、既存戦力に分けて戦力強化を図るも良しだ」
つまりこの無惨様の血の使い道は俺に託されたということだ。
しかし、1つだけ疑問が浮かぶ。
(…いったい何故俺なんかに血を…?)
気前が良すぎるというか、こんなことは初めてだ。こんな有難き血を大量に頂ける機会なんて満月ノ鬼を拝命していようとも今までなかった。
「…何故か、か。今の私は機嫌が良い。特別に話してやる。先日、取引先の華僑共と談話する機会があって、そこで
「……!!」
青い彼岸花、それは無惨様が1000年近く俺たち鬼に探させている未知の植物。何処にあるのか、いつ咲くのか、そもそも実在しているのかと、何もかも謎だったが、遂に最終目標に繋がる鍵を手にしたということか。
「日本中探しても中々見つからないと思えば、まさか海外にあったとは私も目から鱗だった」
俺も血鬼術で時間さえあればあちこちに目を飛ばしていた。それでも見つからなくて、もはや絶滅した種だとも疑っていた。
ようやく、ここまで嗅ぎ付けたんだ。
「…折角だ。ここ最近、日本と隣国清との関係がきな臭くなっている。両国の間に戦端が開かれるのも時間の問題だろう。朱雨、お前は機を見て家族と共に大陸に渡れ。吉報を持ち帰ってくるのを楽しみに待っているぞ」
「はい、是非とも青い彼岸花を持ち帰って帰国して参りましょう」
今後の目標は定まった。清国との戦乱が起き次第、青い彼岸花探索に動く。それまでこの無惨様から頂いた血を用いて戦力増強に励むのだ。
(…そしたらまずは零余子と累の不仲に終止符を打たないとなぁ)
異国に連れていく以上、恐らくその間は無惨様や鳴女さんの支援は得られない。万が一鬼狩りにも海を渡られた場合、それなりに連携が取れないとウチらは異国の地で果てることになるだろう。基本、青い彼岸花探索は隠密に行うことになるだろうし。
「それと、ここからは余談になるが、お前最近他の上弦の鬼に何か進言でも与えたか?」
「…上弦の鬼?いいえ、最近は機に恵まれず、猗窩座や堕姫といった親しい面々とすら顔を合わせていませんが……」
猗窩座とは8年近く会っていない。前会ったのは函館から帰還した際に軽く寄った程度で、武を交えたり共同任務に出たりしたのはもう江戸時代の頃になってしまうかな。一方、堕姫に関しては恐怖を感じるので軽く15年以上会ってなかったりする。
「ふむ…そうか……。最近、お前に触発されたのか、上弦たちが勧誘行為を繰り返しているのだが…無関係ならいい」
上弦の勧誘行為…。つまりは無惨様の了承を得て人を鬼にする行為。外来語的にいえばスカウトといったところ。この権限が与えられてるのは十二鬼月の上弦及び俺のような特別な位を授かりし者達のみ。けど、今まで勧誘行為をやってきたのは殆ど俺だけ。しかし今となって上弦の鬼たちがいきなり勧誘に動き出したとのこと。
(…これは何かの前兆か?)
間違いない。これは何か大きな事柄の前触れとなるだろう。
現在100年近く変わらない上弦に変化が起きるか、あるいは将来的に下弦の鬼が上弦に下克上を挑むのか。それとも今まで柱相手に殺されるだけであった下弦が上弦にも及ぶ力を手にして鬼全体が戦力を増すのか…
「…ご苦労だった、鳴女、朱雨を帰してやれ」
「…はい」
「ちょっ……」
まだ思考を巡らせている途中だったのだけど既に俺の足元には襖が開いていた。
「…次回までには吉報をお持ち帰りしますね無惨様ァ!!」
最後にそう叫ぶと、俺は重力に従ってそのまま真下へ落下していくのであった。
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地面が見え、俺は綺麗に着地する。が、何だか着地先に妙な違和感を感じる。
「…ここは…なんだ、屋根の上か」
どうやら俺が無限城から落とされた先は、見覚えのある川越の中心街。その建ち並ぶ家屋の屋根の上。
鳴女さん、俺たち家族が暮らす町外れの拠点までしっかり転送してくれるのかと思ったのだけど、どうやら座標を誤ったのか街の中心に襖を開いてしまった模様。
「おい!どうしたってんだよ!」
「分からねえ!でも間違いなく何かが起きてる!」
しかし…、夜も更けた丑三つ時だというのに、何やら街中が騒がしい。本来人は寝静まる時間だというのに、大火でも起きたかのように人間共が集団で大騒ぎしている。
「おい、いったい何があったんだ?」
俺は集団のうちの1人に話しかけた。
「どうもこうも、何でも町外れの屋敷がいきなりデカい音立てて吹き飛んだらしいぞ!」
「へ?」
町外れの屋敷。この川越の街でそれに当てはまるものは1つしかない。それが吹き飛んだと、今コイツはそう言ったのか。
「見てみろ、数日前までここからでも見渡せた屋敷が跡形も無くなってるのが見えるだろ!?」
そうコイツが指差した先に目線を送ると、そこには確かにあった筈の屋敷が消し飛んでいた。
「…本当だ、屋敷が消えてる……」
俺たちの拠点が、まるで台風が過ぎ去った後かのごとく綺麗に消し飛んで無くなっていた。
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それは朱雨が無限城に招集されている僅かな時間の間に起こっていた。
「これで型をつける」
累は腕を正面に突き出し、大技の構えをとった。
【血鬼術 刻死牢】
血を纏った糸の束が零余子の周囲を鳥籠のように取り囲む。
「降参するなら今のうちだ零余子」
「誰が降参するだって?私だってまだアンタに見せてない技があるんだよ!」
【血鬼術 種の呼吸 陸ノ型 豪華絢爛-華吹雪-】
零余子が刀を鞘から抜いたその時、周囲の糸は粉々に砕け散った。
「…くっ」
「どうよ!この乱れ舞う周囲を無に帰す斬撃は!私にかかればアンタのヤワな糸なんて簡単に斬れちゃうからね!」
しかし次の瞬間、累の口角が吊り上がる。
「じゃあこんなのはどう?」
【血鬼術 軍曹乱れ喰い】
累が腕から極太い糸の束を放出。その糸はやがて巨大な蜘蛛を形作った。
「なに?ただのデカい糸蜘蛛じゃない。そんなので私の刃が止められるとでも思ったの?」
しかし零余子はその後自身の慢心を後悔することとなる。
「なっ?速っ…」
巨大な糸蜘蛛は一瞬のうちに零余子の懐に潜り込む。
「今だ」
そしてそのまま零余子の胴体、更には左腕と連続して巨大な口で貪り食っていく。
「あ"あ"あ"……」
零余子はその場で痛みに悶えながら地面を転げ回る。ちぎれた腕や胴体はすぐに鬼の再生力をもって元通りになるが、痛みというものは早々消えるものでは無い。
「ふん、鬼としての経歴はお前に劣るけど、僕の方がここは1枚上手だったみたいだね。刀を完璧に
そう言うと、累は零余子の持つ刀を真っ二つに叩き割って使い物にならないようにした。
「くっ……」
累の言うことは尤もだった。実は零余子は血鬼術や鬼の力である程度誤魔化しているが刀の才は平凡であった。それは朱雨にも裏で指摘されていた。
(…累の言う通り私は無理矢理握らされた刀はあまり得意じゃない……)
何より種の呼吸の特性である相手の傷口から種を侵入させる戦闘方法と鬼狩り時代から使い続けた日輪刀を用いた戦闘方法は全く合っていないのである。
(…なら!)
零余子は力を振り絞って立ち上がった。
「まだ立つの?刀はもう折れたのに?
「…そうね、アンタの言う通り刀は折られた。けど、もう私には
「…?」
自身の戦闘が刀と相性が悪いのなら、独自で編み出せば良い。かつて、花の呼吸を種の呼吸という血鬼術に昇華させた
__あの時のように。
【血鬼術 種の呼吸 伍ノ型 稲熱】
刀がないなら作ればいい。
その発想で、零余子は自らの
「…刀がダメなら!」
「…!!」
刀がダメなら、自身に合うものでやればいい。そうして零余子が右手に顕現させたのは、かつて弁慶が愛用したとも言われる武器、薙刀であった。
【血鬼術 抜糸】
負けじと累も極太の糸束を放出して零余子の攻撃に対抗しようとした。
「これで決着をつけてやる!!!」
「やってみろ!!零余子ォォォォォォ!!!!」
熱を帯びた血肉の薙刀と極太の糸の束が全力でぶつかり合う。
「「オォォォォォォォォォオオオオ!!!!」」
やがて拮抗する薙刀と糸の束の間に膨大な摩擦熱が宿る。
そして一定の温度を超えると自然発火に至る訳だが、既にボロボロの拠点には戦闘によって大量の細かな埃が舞っていた。
___そしてその結果巻き起こる。
「なっ?」
「えっ?」
2人の驚く声すら掻き消す、拠点を丸ごと吹き飛ばす程の威力を帯びた
ー明治コソコソ噂話ー
今回出てきた軍曹乱れ喰いの元ネタはG殺しのアシダカ蜘蛛。獲物を察知するとあっという間に仕留めて、次の獲物が見つかるとその獲物もぶっ殺す害虫ハンター。そして獲物を食い尽くすと次の場所へ旅立つ歴戦の傭兵。カッコイイ。