剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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筆が乗りすぎた結果1日で書けてしまった。
家族動乱編、いよいよ終盤へと突入しようとしています。


48話 望まぬ再会と望んだ再会

 

私は、電灯によって夜でも活気に満ちている横浜の街を、人間に擬態しつつ歩き回っていた。

 

「お父さん…何処?」

 

あの女がとんでもない毒親である証拠となりそうなものを探り当て、お父さんに見せに行こうと香の家もといあの糞女の家を探し回ったのだけど、何故だか家の中にはお父さんどころかあの女と娘の姿すら無く、もぬけの殻であった。

 

「クソっ…人が多い……」

 

人通りが多すぎて苛立ってくる。こんな人通りが多いと例え近くにお父さんがいても気づきにくくなる。いっそ種の呼吸で人集りを丸ごと吹き飛ばしてやろうかと思ってしまう。とはいえ、それによって鬼狩りに目をつけられたりするのは極力避けたいし、今はお父さんとの再会が最優先事項なので、疼く暴走欲を堪えて横浜の街を闊歩する。

 

「…本当、お父さん何処行ったの?」

 

 

 

 

 

 

一方その頃、朱雨はと言うと

 

「シュウマイうまうま」

 

弥栄の娘こと紗江の通夜が終わるまで暇なので、1人夜の横浜にてグルメを堪能していた。

 

 

 

 

 

 

いつまで経ってもお父さんの影も見えないので、繁華街を駆けることにした。鬼の体力は基本的に血鬼術を過剰に用いたりしなければ無限なので、今思えば最初からこうすれば良かったのだけど、それはご愛嬌。

 

(あーもう……)

 

流石貿易港として発展した街というか、人混みを掻き分けても掻き分けても次々と人ばかりが出てくる。横浜駅※周辺なんか和洋様々な服装した連中に他地域以上の人集りなもので走るのすら大変になってくる。

 

「…あーもうどいて!」

「なんだと小娘!」

「あっ、やば」

 

思わず不満が口に出てしまったところ、通りすがりのオッサンの機嫌を損ねたらしく、怒りを顕にしたオッサンは私の腕を掴んできた。

 

「童の癖して生意気な口聞きやがる!」

「うわぁ………」

 

自業自得とはいえ、結構面倒くさいことになった。こういう輩って強面の男とかには絡もうとはしないし、多分子どもに見えて女だから強気に出てるって前にお父さんから聞いた。

いつの時代もこういう人間の屑は身分問わずいるんだってね。

 

「どう落とし前つけんだ?」

「……………」

 

それはそうと、コイツをどうにかしないといけない。無駄に騒動を起こしてお父さんと会えなくなっては元の木阿弥。故に血鬼術の使用は御法度。素の力でコイツを沈める。

 

「…ちょっと眠ってて」

「は?」

 

鬼の怪力による強引な力業の素人見様見真似破壊殺乱式、に見せかけた純たる拳乱打。

前にお父さんの親友である猗窩座さんの技をこっそり見せてもらったことがある。当初、猗窩座さんが藤襲山で私を外に導いてくれた鬼だとは微塵にも思ってなかったという余談を添えて。

 

「沈めェ!!」

「グボォ」

 

腹に1発、顔面に3発の拳をただの人間の目には視認出来ない速度で瞬間的に叩き込む。

拳を喰らったオッサンは数尺ほど吹き飛んでその場で仰向けに倒れた。脳震盪を起こしたようで泡吹いて倒れてる。

 

(さあて、先を急がないと)

 

周囲の視線が集まる中、私はそれを後目に先を急ごうとする。

 

「待て!蕾!」

「…は?」

 

今背後から確かに蕾と呼ぶ声が聞こえた。忘れもしない、それは人間時代の忌々しい未開花を暗喩するかのような名前。お父さんが私に零余子という熟れた名を付ける前の、黒歴史とも言える名だった。

 

 

________________

 

 

 

私はかつての花柱。今は怪我で現役を退いた身ではあるものの、育手として未来の隊士たちに希望を託す役割を担っていた。

 

「蕾!まだ終わりじゃないぞ!」

「いぃぃやぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

忘れもしない25年前のあの日、私が出会ったのは、年端も行かぬ名もなき少女。突然知人から紹介されたのだが、どういう訳か隙あらば修行から逃げ出そうとするし、全くやる気を示さないし何故こんな輩の世話を任されたのか不思議で仕方ない。

 

(まったく…なんで私はこんな厄介者を任されたんだろうな……)

 

これでは現花柱を務める彼女の姉弟子相手に顔なんか合わせられない。

 

「…蕾?」

「お前に付けた(・・・)名前だろ!なんで忘れてるんだ」

 

しかも当初ここに来た時はこの娘、自身の名前という名前が無かった。名字も下の名前も忘れたとかいう話ではなく、元々存在していなかったという。鬼殺隊に身を置く者はおおよそが過去に何かしらの不幸があって訳ありな状態なものが多いのだが、彼女みたいなそもそも自身の名前が存在すらしない事態は初だ。

 

「…む、むりぃぃ〜」

「コラ!それは炎の呼吸だ!花燃やすな!」

 

加えて彼女には花の呼吸の適性がなかった。しかも威力は不充分で勢いを保てず不安定。終いには力を込めすぎたせいか突如花の呼吸が熱を帯びて炎の呼吸に。まさか花を燃料にして炎が燃え盛ってしまう始末。

 

(大丈夫なのかこれは……)

 

問題点だらけではあったが、時間は待ってくれない。知人からは例え呼吸法が未完成でも蕾を鬼殺隊の最終選別に向かわせろと言われており、詳しい理由は知らないが、知人が迎えに来た以上彼女を引き渡して最終選別に向かわせなくてはならない。

 

そうして知人の手で蕾は引き取られていったわけだが、あれほど修行を嫌がっていたにも関わらず、彼女が私に向けて最後に見せた顔はとても穏やかなものだった。

もう2度と会うことは無いと、死を覚悟したか、あるいはもう人として死んでいたのかもしれない。

 

「待て!蕾!」

「…は?」

 

それはかつての弟子であった花柱が何者かの手によって殺されたという報せ以来、杖無しでは生活が出来なくなるほど弱々しい老婆と化した私が数十年ぶりに大声で叫ぶほどの衝撃。

 

「…お前、蕾…蕾じゃないか……?」

「……………チッ」

 

そこにいたのは、蕾の面影が僅かに残る少女、忘れもしない私のかつての弟子であったたった今舌打ちをした名もなかった彼女。

___25年が経った今でも、当時と年端も変わらぬままの姿でそこに立っていたのだから。

 

「蕾!お前!」

「…なに?その名前なんかとっくに捨てたんだけど?」

 

やはりというか、行方知れずだったことや40を超えている筈だというのにまだまだ若々しく映える見た目。

 

「……蕾、何をしてるんだ。ずっと死んだと思っていたぞ」

「もうその名前で呼ばないで。私には零余子って立派な名前があるの。アンタの事なんか微塵も知らないわ」

「…………………嘘だろう?嘘だと言ってくれ!お前は…お前は……」

 

もう、彼女は彼女でなくなっていた。面影は面影でしかなく、その実は私がかつて幾百もの個体を冥土に送ってきた底辺に堕ちた人の成れの果てたる存在。

 

私はもう鬼なの

 

鬼舞辻無惨という悪魔に魂を売った、恐ろしく醜い人喰い鬼であった。

 

「…蕾、お前は本当に鬼になったのか?」

「だからその名前で呼ぶなって言ってるの。とはいえ、お前は私の過去を知ってる人間……本当なら今すぐ消してやりたいけど、生憎先程の件で人集りが出来ちゃったから少々面倒ね。いいわ、今すぐこの場を去るなら見逃してあげる。アンタのことはよく知らないけど、老婆の肉は美味しくないしアンタは先も長く無さそうな老いぼれだからね」

 

なんということか。その口振りからすれば、もう彼女の記憶には私のことなんて何一つないんだろう。そしてその思考すら人の物では無いのだろう。

 

「…まあ、急いでるからそもそもアンタに構ってる暇なんてないんだけどね」

「あっ、待っ……」

 

私が手を伸ばして彼女を追おうとしたその時であった。

 

 

 

 

「見つけたぞ!その頸、貰った!!」

「「!!??」」

 

突如この場に乱入する第三者の存在。長年の鍛錬と元より在りし技量をもって熟練の武道家の雰囲気に満ち溢れた私もよく知る日輪刀を携えたかつての同志の姿。

 

()が1人、蓮華が参る

 

彼女の頸元に刀を振り下ろさんとする、鬼殺隊最年長かつ最強の剣士、蓮華の姿であった。

 

 

【天の呼吸 壱ノ型 虹道】

 

 

そして今、鬼殺隊最強の刃が、人集りを上手いこと躱しつつ彼女の頸目掛けて振り下ろされた。

 

 

「なっ…」

「終わりだ!」

 

突然の出来事に鬼と化した彼女は身動き1つ取れずにいた。このままいけば急所を斬られた鬼は絶命の道を辿る。

 

 

【血鬼術 抜糸】

 

だが、そんなことはさせないと、更なる横槍とも言える白く太い糸の束が蕾の前に盾のように立ち塞がり、彼女の刃に水を差した。

 

「…姉さん、何殺されかけてるの? たかがここらの人間風情、鬼であれば何人巻き添えにしようとも鬼狩りを潰すことを考えなくちゃ」

「累……」

 

蕾のことを姉さんと呼ぶ、糸のような血鬼術を扱う人間に擬態した新たな鬼が参戦。

しかし、それよりも私が着目したのは、鬼同士ではまず見られない珍しい現象へのものあった。

 

(…鬼が、群れている?)

 

あの2体は顔も知れた仲のようだけど、本来であれば鬼は群れることなく単独で行動するのが主体。しかも彼らを見る感じ全く似ておらず人間時代血が繋がっていた肉親という訳でもなさそう。十二鬼月ならまだしも、数字を持たない鬼が姉弟関係を築いて協力しようとしている姿は初めて見た。

 

(どういうことだ…? 理解が全く追いつかぬな……)

 

蕾の鬼化やら新手やら鬼が群れてたり蓮華の登場など、もはや情報量が多すぎて老いぼれた私の頭は爆発しそうである。

けれど周囲の状況は、そんな悠長に思考を巡らせている暇がないことを私に突きつけている。

 

「な、なんだ!?」

「刀持ってる奴がいるぞ!!」

「みんな!逃げろ!」

「警官を呼べ!非常事態だ!」

 

今から始まろうとしている戦いを前に、ようやく今になってこれは只事ではないと周囲の野次馬と化していた人間たちが散り散りになって一目散に逃げ出す。

 

「ふん、アンタに助けられるとは思ってなかったわね」

「…お前を無くしては父さんに示しが付かないからね。まったく、僕がお前の後を追ってなかったら姉さん、死んでたよ」

 

"父さん"

幼い少年の鬼は今確かにそう言った。この2体の鬼とは別に、まだ新手として来かねない彼らの上の者がいると言うのか。

 

「…1体増えたか……が、数字を持たぬ鬼如き何体増えようと同じ。上弦の上位か、あるいは鬼舞辻か、何にせよ心の弱そうな餓鬼女と体が弱そうな病人の餓鬼なぞ、これしき問題ない」

「そう、勝手にそう捉えているなら別にいいけど、あの御方から頂ける数字が全てじゃないわ」

「姉さんの言う通り、僕らを見た目で判断して欲しくない」

「それに1つ言ってあげる。さっきアンタは累のことを体が弱そうと言ったわね?」

「同じく、お前は姉さんを心が弱そうと言ったな?」

 

すると、次第に彼らの擬態は溶けていき、人間離れした本来の禍々しい鬼の姿へと変貌していった。

蕾は白い肩まで伸ばした髪に赤い和服と2つの角、少年の方は蜘蛛の巣が描かれた全体的に真っ白な和装に特徴的な白髪。

 

「大喧嘩したからこそ分かるわ。累は強い。今も病人だと思ってるならお門違いね」

「姉さんも、行動力に溢れていて自立した思考を持っている。今となっては決して心が弱くなんてない」

 

 

「「黙れ」」

 

「コイツの悪口を言っていいのは」

「姉さんの悪口を言っていいのは」

 

 

 

「「私(僕)だけよ(だ)!!!」」

 

あの2体の鬼は、鬼殺隊最強の蓮華にそう言ってのけた。普通の鬼は蓮華の迫り来る強者の気配に恐慄くというのに、伊達に鬼の強さが数字で全て決まるわけじゃないというのは本当みたい。

 

(…蕾、鬼には成り果てたが、お前はそうなってでも心から欲していたものがあったのだろうな)

 

あの時の蕾は、ただ鍛錬から逃げ惑うだけで、私の目には最後の日ですら生きる希望もない空っぽの存在にしか映らなかった。

それがどうだ。こうして今、陣営こそ違えど生き生きとした目で戦えるよう成長している。鬼殺隊の育手かつ彼女の師としては、不思議な感覚だ。

 

 

「…話は終わったようだな」

「えぇ、全部言いたいこと言ってやったわ」

「お前と会話するのもここが最後かもしれないしな」

「そうか、じゃあ始めようか」

 

各々が技を出すための構えを取る。一方、老婆でしかない私はただ杖をつくだけのひ弱な存在でしかない。

それでも、蕾に戦いを教えた元師匠として、そして蓮華のかつての鬼殺隊の同志として、この戦いを見守る役目ぐらいはあるのではないか。

 

【天の呼吸 肆ノ型 気流】

【血鬼術 種の呼吸 伍ノ型 稲熱】

【血鬼術 軍曹乱れ喰い】

 

そうして、1人の鬼殺隊最強の刃と、2体の姉弟鬼による、戦いの火蓋が今切って落とされた。

 

 

 

 

 





※現在の桜木町駅です。


ー明治コソコソ噂話ー

時間軸的には通夜が行われている最中の夜。横浜は当時から都会なので普通に夜でも活気があったそうです。
また、零余子は炎の呼吸の適性があったかどうかはさておき、蕾という名前が未開花の暗喩であり零余子は花を超えて熟したという意味を秘めてることは勝手に私が考えた裏設定だったりする。
ちなみに花が燃えたのは比喩であり実際にボボボと火を吹いて燃えた訳ではありません笑
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