剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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少々遅れてしまいました。



51話 その名は姑獲鳥

俺は鬼狩り共からの戦線離脱をした後、家族総出で幾日間の屋内提供の恩人である弥栄の住む館を訪ねていた。

 

「…そうか、なったか!」

「えぇ、しっかり血に順応出来たわ」

 

けれどそこにあるのは以前とは異なり、人間離れした白い肌に一本角をした彼女の姿。俺が睨んだ通り、やはり彼女は鬼の素質を秘めていたようで、無惨様の血を得てまだそこまで経ってない筈なのに、鬼になった際に起こりうる暴走状態を既に乗り越えている。

 

「凄いなぁ。鬼になったばかりだと飢餓が確実に来る筈なのに」

「まあね、私はずっと夫の暴力にも娘の看病にも耐えてたから…。我慢するのは得意なのよ」

 

褒めそやすとフフンと彼女は胸を張った。本当、鬼の生態を決めるのは人間時代が深く関わってるとはよく言ったものだ。

 

「娘の死体食って腹満たしただけでしょ」

「父さん、1度信用出来ると決めた相手には警戒心ほぼ見せないからね」

「ほんと、あいつの口に血痕着いてるの気づいてないみたい」

「まあ、そこが父さんらしいんだけど」

「わかる」

 

「ん?2人ともなんか言った?」

「「イヤベツニナニモ」」

 

コソコソ話すような声が聞こえた気がしたのだけども、俺の気のせいだったのか。

 

「そういえばあの血で書き殴られた紙、どうした?」

「あれなら鏡台に置いてきたよ。鬼にしちゃった以上もう手遅れだと思ったし」

「いやアレこそここに来て奴の本性暴くために必要な物だろ」

「えっ?」

「お前も父さんに似て何処か抜けた性格になったな」

「え、お父さんに似てる?ありがとう」

「褒めてないからね?」

 

「2人とも何か言った?」

「「イヤベツニナニモ」」

 

おかしいな。やはり最近耳がおかしくなったか。

まあそれはともかくして、これで彼女と関わるのは最後になる。何かしてやれることでもあれば良いのだが。

 

「櫓の恩だ。何か最後に頼みたいこととかあるか?」

「うーん、それじゃあねぇ………。折角だし、私はもう人間じゃないから生まれ変わったつもりで、新しい名前を私にくれないかしら?」

「新しい……名前ね………」

 

俺に名付けの才は無いというのだが、彼女は俺に、今後一生付き合ってくであろう自身の命名権を委ねてきた。

 

「………悩むなぁ」

 

無惨様だったらどう新たな鬼の名を命名していくのかを前提に毎度考えてるけど、結局のところ腕鬼といい零余子といい特徴や個人の好物をそのまま名前にしたりとしか出来ない。仕方ないので、今回も既存の存在より名を貰うとしよう。今回は趣向を凝らして妖怪の名前から取ってみるか。女性の妖怪といえば砂かけ婆にお岩さんに口裂け女、化猫などがあるけど、流石にそれは安直かつ不格好すぎて名乗るのも憚られる。

 

(あぁ、これなら……)

 

ふと、思考を巡らせてみると丁度いいのを思いついた。古来より大陸から伝来した、子を亡くした悲劇の母親の成れの果ての姿だとか、少し前にそれを題材にした小説を作者と知り合いだった関係で読ませて貰ったことがある。

 

(鼓の彼(・・・)、助かったよ……)

 

まあ、俺自身あの小説で得た知識しか持ち合わせてないしまだ連載中である関係上由来やら特徴なんて全ては把握してないけど、漢字表記でだしカッコよくて良い名前だろう。

 

姑獲鳥、なんてのはどうだい?」

姑獲鳥(うぶめ)……いい響きね、採用よ。今日から私は姑獲鳥ね」

 

幸いにも彼女には気に入って貰えた様子。今日から弥栄という人間は死に、新しい姑獲鳥という鬼が生を受けた。

 

「姑獲鳥…ウブメって何?」

「別名コカクチョウ…諸説あるけど子供攫って食ったり子供従わせる偽物の絆の象徴みたいなヤツだよ」

「それお父さん知らないで名付けちゃったの?」

「みたいだね。皮肉にも本性と噛み合ってる」

「その名前を悠々と喜んでるアイツも馬鹿じゃない?」

 

「ん?どうした2人とも?」

「「ナンデモナイヨ」」

 

さっきからなんで2人とも返事が片言っぽいのか、それはさておくとして俺は彼女との会話に戻った。

 

「最後に、この1週間本当に世話になったな。きっと姑獲鳥なら将来十二鬼月にもなれる可能性を秘めているだろう。またいつか、生きていたら会おう」

「うん、こちらこそありがとうね。貴方に貰った新たな人生…いや、鬼生ってところ?精一杯、幸せに生きて見せるわ」

 

 

そう言い残して、彼女は1人屋敷の中へとゆっくり戻っていった。俺は屋敷の奥にその姿が消えるまで、彼女をしかと見届けるのであった。

 

「さて、零余子、累」

 

そうして後ろで待たせていた愛する家族の方へ振り返ると、そこにはまたしても小声でコソコソと話している2人の姿。

 

 

「どうするんだ?結局父さんにはアイツの本性のこと、明かすの?」

「うーん…最初は言おうと思ってたんだけどね…知らぬが仏って奴?言っても何もいい事なさそうだから辞めとこうかなって……」

「…確かに、今更言ったところで後悔しか残らないね」

「うん、これは2人だけの秘密って事で。累もお父さんにはこの事黙っておいてね」

 

「……2人とも?」

 

俺は顎に手をかけて思考を巡らした。

ここまで終始ヒソヒソと内緒話をされると、流石に2人にとって何か俺には言えないことでもあるのだろうかと疑ってしまう。俺は2人に嫌われるようなことをした覚えはないし、こんなヒソヒソと話される何かしらの理由があれば知りたいが、隠し事を下手に模索して家族関係に亀裂を入れるのは避けたい。かといって何も知らぬままというのはそれこそ3人の仲に確執を生んでしまうのでは無いか、と。

 

(悩む……)

 

こればかりは模範解答という正解が見当たらない。もしこのことを放置したことによる取り返しのつかない事でもあれば…………。

「お父さん」「父さん」

しかし知らぬが仏とも言うし、もし俺がこの事態を知ることによって誰もが得しない状態になるのは避ける事案。

「ねえお父さん」「父さん?」

けど無惨様を相手に2人が何か隠し事するような無礼を働く事態にはなってはならない。全ての鬼はあの御方の駒でありそれは思考や思想も然りなのだ。そんなことが許されていいはずが………

 

 

 

「「お父さん!!」」

 

「へっ!?」

 

気づけば零余子も累も俺の目の前でがっちり仁王立ちしながら俺の目の前に来ていた。2人ともジーッと見上げながら少し怒りっぽく俺の目を見据えていた。

 

「…お父さんの悪い癖。1度考え込んじゃうと周りが見えなくなる」

「ずっと呼んでたのに。父さんったら……」

「いやいや、ほんとごめんごめん」

 

髪をポリポリと掻きながら2人に気づかなかったことを謝る。

 

「まあ、そんなお父さんがお茶目で好きなんだけどね(ボソッ)」

「わかる(ボソッ)」

 

 

「えっ?なんか言った?」

「「ウウン、ナンデモナイ」」

「なんでさっきから片言!?」

 

はぁ、と溜息が漏れそうになる中、俺は2人の肩に手を置く。

 

【血鬼術 瞬間移動】

 

そうして俺は血鬼術を使用し、何処か遠い見知らぬ地へと飛び立ち、この横浜の地を後にしようとしていた。

 

 

 

「ねえ、お父さん……」

「…ん?何だい?」

 

そんな矢先、零余子が俺の腕を掴みながら語りかけてきた。

 

「私たちの家族って、母親がいないでしょ?私はてっきりあの姑獲鳥って鬼をお父さんは母親として迎えるのかと思ったんだけど、結局何もしなかったじゃん?どうして母親なのかなーってね……」

「うーん、何て言ったらいいんだろう……何となくとしか言えないなあ……」

 

これに関してはハッキリとした答えが出ない。

数十年前、零余子が俺と家族になりたいと言った時から、既に俺の中では片割れとなりえる母親の存在など意識下にすらなかったとしか言いようがない。

堕姫にせよ姑獲鳥にせよ、なろうと思えば義母にはなれた。けど、俺はそうしなかった。

 

(あれ?…なんで俺はずっと母親の存在が抜け落ちてたんだ?)

 

今思い返すと不自然だ。普通の家庭であれば母親の存在は必要不可欠。俺が父親たる以上、母親も必須の存在では無いのか。しかし、俺は堕姫でも姑獲鳥でもその枠には収まらないと、まるで心の奥底に深く植え付けられているような、包み隠さず言うならば、満たされないのだと、無意識の内にそういった感情を抱いていたということになる。

 

(…どういう事だ……?)

 

もう人だった頃の記憶なんてない。200年以上も前の話、俺に残るのは剣筋と無惨様への崇拝心、そして猗窩座やここにいる家族たちとの出会い。

それでも、母親を恋しく思った記憶なんて微かにも残って無いことから、俺に家族愛を追い求めていた過去があるという説は不成立。

 

(…まさか?)

 

母親の愛情を受けれなかったから母親の存在が抜け落ちていたのでは無いとするならば、もう1つの説が濃厚さを帯びてくる。

 

(……俺にはかつて、心に決めた結婚相手がいたから、それが何処か未練と化して、2人の母親枠に空白を生んでいる……?)

 

そしてそれがもし今世における人間時代の話でないならば、前世としか考えられない。

 

『………ビの癖に…………』

 

『…………お………親………………権力…………るな………』

 

『…………………宗…………溺………哀…れ……………』

 

『………けんど…………………ュラ…………そ…………ビ…ョ濡…………試あ………臨………邪魔………………結…をのこ……………』

 

『…前………政…家………み消せ…………』

 

『可哀…に………代わ………ってや……………しく………』

 

『…の努力…んて……………んだよ………らさっさと……………』

 

突如俺の頭に過る忌々しい記憶の数々。少しでも前世の話題に触れようとすると呼ばれたかのようにぞろぞろと飛び出てくる。

 

(…い、嫌だッ!前世だけは………)

 

度々俺の心を丸裸にしてこようとする前世の記憶。もしそれを完全に思い出してしまうようなことがあれば、俺は俺でなくなる

 

(クソっ…!この溜まりに溜まった人間への鬱憤は、元を辿れば前世のものだとは分かるのに……)

 

そんな事情を知ってか知らずか、遥か奥底に眠る記憶は次々と俺の脳内を蝕んでくる。

 

 

『………ソ……も…念力………れば……ツの…………のに……転……れば……喉…を………って………のに……………』

 

『………○○…………復讐………かっ……………』

 

俺の血鬼術も存在意義も、何もかも前世に潜んでいるのだと、もうそこまで分かってしまった。でも、これ以上思い出してしまったら……まるでこの世の理が狂ってしまうような………

 

 

 

「お父さん!!」

 

 

ハッと意識を現実に引き戻される。気づけば零余子にユサユサと体を揺さぶられていて、血鬼術の発動がとっくに終わっていたのか、先程までいた街とは打って変わって深い木々に囲まれた森の中に俺たち3人はいた。

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

「…そうか、そんな奴が……」

「えぇ、俄には信じられませんが、この世にはまだ私の手を煩わせる鬼がいたようです」

 

産屋敷邸にて、私は此度の鬼の報告をしていた。薙刀を扱う女鬼と、糸を扱う男鬼の姉弟鬼の存在について、私の知り得る情報を全て吐露した。

…そして、私がその鬼相手にいつの間にか体を爆散させられて敗北を喫していたことも。

 

「目に数字を持たない鬼が君ほどの実力者を打ち破るとは予想外だったね…」

「えぇ、徒党を組む稀な異端鬼であることも負に傾き、まったく不覚の至りです」

 

何代にも渡って御館様の世代交代を見ているが、毎度のこと御館様というのは上に立つ者としてこれ以上無いほど優れたお方ばかりだ。此度の件も、私が不甲斐ないばかりの失態だと言うのに、御館様は私を叱責するどころか生還したこと、そして鬼の情報を持ち帰ったことを讃えてくださっている。

 

「…そして元花柱の彼女の件も、すまない。民間人にこそ被害は無かったけど、また1人歴戦の子どもたちを冥府に送ってしまった。鬼殺隊を統括する立場としても、不甲斐ないばかりだ」

 

元花柱、初代花柱の植えた"必勝"と名のつく桜の下に眠る彼女。私が血鬼術の渦中に嵌ったばかりに彼女はあのような最期を迎えてしまった。私の罪は、重い。

 

「そんな!御館様の問題では無いです!不老不死性が故に慢心して奴らに翻弄された私共に非がありましょう」

「…本当、蓮華には責任を負わせてばかりでごめんね」

「いえいえ、鬼殺隊には100年近く仕えて参りましたが、最古参の猛者として当然のことでございます」

 

柱より上に立つ、鬼殺隊最高峰の4人の(ささえ)の1人、天の呼吸を扱う天支(てんざさえ)として、そして何十年に渡って鬼を狩り続けることで鬼殺隊に貢献してきたのだ。その命は果たさねばならない。

 

「とにかく、蓮華の持ち帰ってきた情報を元に、数字を持たない鬼たちの中にも柱や支を複数派遣しなくてはならない程の強力な鬼がいることは次回の支柱合会議にて話し合わないといけないね」

「はい、その情報が是非とも役立てば良いのですが……」

 

最近は鬼殺隊の戦力にも陰りが出てる。柱や支の引退や殉職が相次ぎ、柱にも空席が目立つ。だからこそ、隊士同士の連携は大事だ。次の支柱合会議でも、その点についてはじっくりと討論しようではないか。

 

「…ところで、ここからは私個人の話となるのだけど……」

「……はい?」

「………こんなこと、鬼殺隊を束ねる立場としてあまり言えることじゃ無いけど、最古参である君相手にしか話せそうもないから…」

 

そうして御館様が漏らした言葉は、とても他の隊士の前では到底口に出来ない、鬼殺隊を束ねる立場であるが故に抱くであろう、人格者しか持つことの出来ない本音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生まれたばかりの耀哉を残して、他の息子たちは皆呪いによって黄泉の国に旅立ってしまった。鬼殺隊の子どもたちも、次々と訃報が寄せられている。皆、鬼殺隊に関わる者たちは命を賭して生きているというのに、呪いという病魔を理由に刀も振れずただ安全な所で鬼殺隊の長としてのうのうと生きている。こんな役立たずの状態で良いのだろうか……」

 

「御館様…………」

 

私はそれ以上言葉が出なかった。というよりも、どういった言葉を返せばいいのか分からなかった。産屋敷一族は代々短命な故にこの100年間で10人は軽く世代交代している。私も世代を超えて御館様という鬼殺隊の象徴に仕え続けてきたのだが、こうして私に弱音を露呈したのは代々勤めて来てこの世代の御館様が初めて。

 

(御館様とて人、思い悩む事も有り得るか……)

 

必ずしも御館様だからといって常に強かな心で鬼殺隊を支えている訳では無い。子が亡くなり、部下たちが亡くなり、その中で自分だけが安全な所にいるという、今代の御館様はそんな自分自身が許せなくて仕方ないのだ。産屋敷家に課せられた使命と、数々の命を預かる立場として、自分を情けなく思われてる。

 

「ごめんね…こんなこと他の柱たちの前では口になんて出来ないから……」

 

ずっと鬼殺隊を支えて来たという私の実績が御館様の弱音を引き出してしまった。そしてこれは今代に限った事ではなく、恐らくはどの世代の御館様も内心では気に病まれていた。

私という鬼殺隊最古参を前に、遂にそれも限界を迎えられてしまった。

 

「…蓮華、輝哉を頼む。私は君のことを誰よりも信頼しているんだ。悲しみの連鎖を断ち切る鍵は、君が持っている。何卒、これからも鬼殺隊を支えて欲しい」

「御意」

 

この時、私の最終的に目指す場所は改めて1つであるということを再認識した。

 

御館様の心の平穏の為にも、悪しき鬼は私が滅殺する。

 

(その為には…アイツ(・・・)の頸を何としてでも取らなくては……)

 

私はもっと高みを目指して更に強くなるのだと、現鬼殺隊唯一の支として悲しみの連鎖を断ち切るのだと、固く心に誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ー明治コソコソ噂話ー

朱雨は長年大量に死体を喰らってきた影響で若干嗅覚と味覚が鈍くなっており、稀血もレア度の低いタイプのやつだと偶に見逃していたりする。その分格段に強い稀血を拾ってくる傾向があり、それの分捕りあいで零余子と累が喧嘩になるケースが多かった。
尚、朱雨の前世はチラチラ見せてるけど凡そ設定は固まってるので近く原作開始以降のストーリーでお披露目になると思う。



2/25追記 しばらくの間投稿をおやすみ致します。
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