剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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何故か今回は筆が進みました。
そして私はこれよりモンハン休暇に入る!



53話 その名は魘夢

 

 

「…お父さん?」

「どうしたのそんなに慌てて?」

「ごめん!今はそれどころじゃないんだ!2人とも舌噛まないようにしていてくれ!!」

 

俺の両脇でぐっすり眠っていた累と零余子を起こしてしまうほどの速さで瞬間移動を乱発すること半刻、ようやく目的地のすぐ目の前まで辿り着いた。場所は羅生門河岸の一角、俺はそこにある小屋へと駆け込んだ。

 

「堕姫!!堕姫はいるか!!!」

 

俺が堕姫の名前を大声で呼ぶも、彼女本人からの返事はない。

しょっちゅう俺に向けて髪や血の入った手紙を送りつけてくる堕姫のことだ。こんな大声出していれば間違いなく姿を現す筈。でも、堕姫自身が姿を現すことは無かった。

 

「おやあ?客人?もしかして君が彼女の言っていた、家族ごっこに興じた朱雨って鬼かなあ?」

 

その代わりにいたのは、まるでこちらの心の隙間に入り込んでくるような、そんな侮れない独特の雰囲気を醸し出している、少年の背格好をした初見の鬼だった。

 

「…なんかやな感じする奴ね」

「激しく同意。父さんも気をつけて。コイツ相当悪辣な趣味嗜好持ち主の可能性高い」

 

バッチリ目を覚ました2人共々、奴から漂う変な雰囲気に強い警戒を示す。その証拠と言うべきか、終始こちらが奴を警戒の目で見据えているにも関わらず、そんなことまるで気にしないとばかりに不敵な笑みを浮かべている。

 

「…お前は誰だ?堕姫は何処だ?妓夫太郎はいるのか?」

「まあまあ落ち着いて、質問は1つずつ頼むよ。まず、俺は魘夢だ。以後よろしく頼む。そして彼女の安否だけど、とりあえず無事ってところかな? まあ、部屋の奥まで来てくれれば分かるよ」

 

そう言い残すと奴は小屋の奥へとスタスタ歩いて行ってしまった。そして訪れる静寂、未だに堕姫も妓夫太郎も姿を現すことはない。血鬼術を用いて透視でもすれば2人の所在なんてすぐに分かるんだろうけど、透視中は完全な隙を晒してしまうのであんな胡散臭い魘夢とやらの近くで使用するのは憚られる。

 

「…仕方ない」

 

数十年顔を合わせていないとはいえ、堕姫も妓夫太郎も俺の弟子であることに変わりはない。例えこれが2人を餌にした罠だったとしても、長らく連絡を放置した俺にも充分な責任はあるのだ。背に腹はかえられぬ。

 

「零余子、累、お前たちは玄関で待っていてくれ。ここにいれば最悪日光は防げるだろう」

「うん、分かった」

「無事に戻ってきて」

「ありがとう2人とも」

 

そうして俺は靴を脱ぎ、単身小屋の奥へと歩を進める。

 

 

 

 

「堕姫!いるか?」

 

そうして小屋の奥までやってきたが、そこには俺の予想の遥か斜め上を往く想定外の光景が広がっていた。

 

「やあ、来たんだねえ?どう?俺の言葉に嘘偽りはなかっただろう?」

 

ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべて佇む魘夢。でも確かに、その胡散臭さとは裏腹に、魘夢が玄関で口にした無事(・・)という言葉に嘘偽りなどはなかった。

 

「…………zzz」

 

その代わり、彼女は幸せそうな表情を浮かべながら、まるで現実から目を背けるかの如くスヤスヤと夢の中へその意識を落としていた。

 

「……魘夢、これはどういうことなんだ?」

「んー?見ての通り、ただ眠っているだけさ」

「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。何故堕姫は眠っている? 堕姫は表じゃ吉原でも名の知れた花魁、そんな堕姫がわざわざ仕事をほっぽり出してこうして眠っているのには、何かそれなりの理由があるんじゃないのか?」

「うーんそうだねえ、せっかくだから彼女がこうなるまでの経緯について少々話そうか」

 

すると奴は堕姫の枕元にゆっくり腰を下ろし、淡々と俺がここに至るまでの経緯を語り始めた。

 

「まずは彼女の兄である妓夫太郎は取り立ての仕事で席を外してる。俺は彼女の見守り担当で、妓夫太郎からも一応は信頼を置かれてる存在なんだ」

 

こんな胡散臭い雰囲気ではあるものの、一応は妓夫太郎に信頼されてるらしい。じゃなきゃ眠る堕姫の護衛役と留守は預けられないし、そもそも呼び捨てで呼びあったりはしないだろう。

 

「…そして彼女、堕姫についてだけど、まず彼女の気持ちを幾らか代弁するとしよう。彼女は元々、君が遊郭まで来てくれるのを毎度心から楽しみにしていたみたいだね。彼女が上弦ノ陸の鬼になれたのも、君のおかげであると思っていたみたいだし、きっと君は彼女にとって兄である妓夫太郎とはまた異なる大事な存在であると認知していたんだろうねぇ」

 

確かに俺は妓夫太郎と堕姫の2人を、並の鬼狩り相手なら容易く殺せるほどに鍛錬しまくった。故に彼女の中で俺はそれなりに印象が強い人物となっているのだろう。しかしそれと彼女が眠っていることと何の関係性があるというのか。そもそも鬼にとって睡眠は基本不要、俺らみたいな家族の絆を意識して敢えて睡眠を摂る者はあれど、遊郭という表の顔が存在する彼女がその仕事を放り出してまでも夢の中にその身を投じようとする理由がわからない。

 

「……でも君は数十年もの間、彼女の強すぎる想いに恐れを為したのか姿を現さなかった。それが結果的に彼女を追い詰めた」

 

強すぎる想い、それ即ち度重なる髪と血入りの手紙なのだが、このような手紙を受け取って会おうとは流石に思えない。

けど、その強すぎる想いに対して、師匠というかつて戦いを教えた立場でありながらその想いに応えようとしなかったのは俺の落ち度だ。

 

「彼女の想いが形として固まった原因は分かる?」

「…いや、全く分からねえ」

「そう、なら教えてあげる。君はかつてとても強い鬼狩りと戦い、その際に彼女たちを逃がす為に遠くへ飛ばした。ここに彼女の想いに関する秘密が隠れている」

 

恐らく初めて蓮華を相手した時の話だ。あの時は2人の生存を最優先にすることを焦ったあまり、鳴女さんの転送を念頭に置くことを忘れて危うく死にかけた。

 

「…それがどうして堕姫をこうしてしまったんだ?」

「何、簡単なことさ。あの時、彼女は自らが足でまといになったから転移させられたと、自分は求められていないのではないかと、そう思ってしまったんだ。やがてその思いは、君にもっと自分を見て欲しいという想いへと変貌し、もっとありのままの自分を見て欲しいがためにあのような行為に及んでしまったと……そして君はそんな彼女の想いに何一つ応えなかった」

 

つまり、俺は堕姫の想いに応えようとしなかったどころか、平気でその想いを踏みにじるようなことまでしていた。彼女からすれば、師匠であり信用していた俺に足手まといだと切り捨てられ、挙句秘めた想いを率直にぶつければ避けられてしまう。

不器用で染まりやすい純粋な堕姫の心に、俺は何の事情も知らないまま傷を負わせていたんだ。

 

「……………じゃあ、なんで堕姫は眠ってるんだ?」

「………何故って?彼女がそう、望んだから、と言っておこう」

「…………それはお前の血鬼術か?」

「察しがいいね。その通り、俺の血鬼術は生物を眠らせることが出来る。そして、眠らせた当人の精神世界に干渉することで、夢を操ることが出来るのさ」

 

なるほどと自分の中で納得する。堕姫は俺に避けられ続けた事実に耐えきれなくなり、遂に夢の中に自らの理想を築き上げた。そしてその夢に籠ることで精神を保とうとした。

 

「…堕姫………」

「……んん………朱雨………さぁん…………しゅ…う……さ……」

 

ただやりきれない複雑な思いで堕姫の名前を呟くと、その声に呼応するかのように堕姫が俺の名前を寝言で呼んだ。どんな夢を見ているのか、俺には到底想像もつかないけど、間違いなくその幸せそうな顔が全てを語っている。

 

「………なぁ、魘夢」

「んー?なんだい?」

「どうすれば堕姫は目覚める?今までの事を詫びたい。そして、今後はもっと堕姫のことを無下に扱わないと約束したい。俺は何が出来る?」

「そうだねえ……」

 

魘夢は顎に手を当てて思考を巡らせる仕草を見せる。術をかけた本人故に術を解く手法など百も承知だろうに、やはりコイツは妓夫太郎からの一応の信頼があるとはいえ侮れない奴だ。

 

「まあ、今後君とは仲良くして行きたいし、いいよ、教えてあげる。夢から目覚めるには、夢の中で死ぬことさ。夢で死ぬ事が現実への帰り道となるのさ」

「そうか……んで、俺は何が出来る。堕姫にその事をどう伝える?」

「それなんだけどね……」

 

すると奴は徐にフフフと薄気味悪い笑みを浮かべる。まるで何か企んでいるような、俺を辱めようとしてるのではないかという陰謀すら感じてしまう。

 

「本来なら特別な道具がないといけないんだけど…君ほど彼女に求められてる立場なら夢への干渉も容易く出来るだろうね」

 

何だか嫌な予感というものがプンプンする。

 

「君は彼女を全身で抱きしめて、俺がその瞬間眠りに付かせる。それでどうかな?」

 

不安的中。しかし背に腹はかえられない。堕姫を現実に引き戻す為にこれしか方法がないのであれば、俺はなんだってやると、そう心に誓ったんだ。

 

 

 

 

 

 

「…これでっ、いいんだなっ!?」

「うんうん、それでいけると思うよ。似合ってるね」

「うるせー!!」

 

布団で眠る堕姫にまとわり付くように全身で包み込む。傍から見たら眠る美女に粗相してる変態なのだけど本当に大丈夫なのかこれは。

 

「それじゃあ、夢の中へ。おーねーむーり〜〜〜」

 

そう魘夢が術を唱えたのを最後に、俺の意識は闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

(あ、そういえば言い忘れてたけど、夢の中はとても変化しやすいから、誤って彼女の夢ではなく自身の夢に入り込んでしまう可能性もあるけど……まあ大丈夫だよね。それに、彼女も夢の中で満足したら多分勝手に目覚める筈だけど、まあ勝手に勘違いして飛び込む分にはいいか)

 





ー明治コソコソ噂話ー

最後の方で朱雨が堕姫にやったのはいわゆるだいしゅきホールドというものです。ただ、この手法を用いたことによって本来では起こりえない問題が起こる…? 次回待て的な。

今後、展開を2つ考えてるのですが、話の内容は原作の流れを汲んだ方がいいですか?

  • 原作の流れを汲む
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