剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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高評価ありがとうございます。
そして鬼滅のアニメ2021秋になりましたね。
それを祝してなのかはさておき、原作前章編入るまで毎日投稿致します。
木曜日くらいまで出るといいなぁと思ってます。


57話 黒歴史からの逃避疾走

羅生門河岸、吉原より遥か西の某所。賑わいを見せていた歓楽街の面影は失せ、寝静まった夜更けの空気だけが流れる田園風景が広がる田舎道。

 

___そして、そんな物静かな地を全力疾走する2人の影。

 

「「「zzz………」」」

 

と、そんな爆走する2人の肩には鼾をかいて爆睡する3人の鬼の姿。

 

「…そろそろ起きろよなあ"あ"ぁ"………」

 

累、堕姫の2人を背負いつつ、怒りを顕にしている妓夫太郎。色々と訳あって(・・・・)現在進行形で不機嫌であった。

 

(…妓夫太郎さん、なんでこんな不機嫌なの?)

 

一方、零余子を背負って走る魘夢。話しかけんなと言わんばかりに怒り心頭な妓夫太郎から少々距離をとって後を追っていた。

 

「…そろそろ起きね"え"かあ"あ"!!」

「へっ!?」

「なあっ!?」

「ひぃっ!?」

 

やがて堪忍袋の尾が切れた妓夫太郎。怒りの言葉を口にしながら背中の2人を上下に激しく揺さぶって目を覚まさせた。一方起こされた累と堕姫は何が起きたかまだ理解が追いついていない様子。

 

「……んん、何ぃ…?」

 

ついでに妓夫太郎の大声に驚いて魘夢が一瞬足を止めた為、慣性の法則に基づき魘夢の後頭部に顔面を衝突させた零余子の方も目覚める。

 

「ってねえ!なんで走ってんの?」

「…父さん何処?」

「っていうかここ何処なの!?」

 

上から零余子、累、堕姫。トラブルを起こしかけた事で魘夢の手によって強引に眠らされ、目覚めたら何故か朱雨が傍におらず魘夢と妓夫太郎に担がれて只管遠くの方へと走り続けるという、3人からしてみれば色々と頭の処理が追いつかない事態が巻き起こっていた。

 

「うるせえなああ"あ"!師匠に託されたんだ!そして起きたんなら自分の足で走れェ!!」

「「「えぇ……」」」

 

3人からしてみれば理不尽そのものである。目的も聞かされずただただ何も言わずに走れと言うのだから。

 

「…ねぇ、そういえば妓夫太郎さん」

「ん?どうしたあ"?魘夢ぅ?」

 

ふと思い出したかのような素振りで、魘夢は恐る恐る口を開いた。

 

「俺たちなんで全員で走ってるの?」

「…………!」

 

ハッと我に返った妓夫太郎は突如急ブレーキ。それに続いて魘夢、零余子、累、堕姫と足を止めた。

 

「お兄ちゃん…、まさかだけども私が寝てる間……鬼狩りの襲来が? やっぱり《・・・・》気にしてたんだね……」

「ああ"……」

 

妓夫太郎は、かつてあの日(・・・)のトラウマをずっと今日に至るまで鮮明に覚えており、尚且つそれが今日に至るまで尾を引いていた。それ故に先程まで終始不機嫌で且つ冷静な判断力を削いでいた。

そして堕姫も兄の異変を見て現状に至るまで何があったのかを察する。

 

(あの経験があった以上、遠く離れろと言われるとなあ"………)

 

あの経験(・・・・)。それはかつて数十年以上も前のこと、自らの未熟さが故に戦力外通告の強制転移を受け、更に師である朱雨を危険に晒してしまったという妓夫太郎と堕姫にとって未だ記憶に焼き付く苦い黒歴史であった。

そしてその過去のトラウマは、今でも離脱指示等あの日を彷彿とさせるような事が起きると妓夫太郎の戦略家としての頭脳どころか理性まで吹き飛ばしてしまう程に根深く残っており、吉原においても朱雨の離脱指示に素直に従ってる裏で心の奥底に深いダメージを受けていたのだった。

 

「「「………………」」」

 

一方、その場に居合わせていない関係上、事の発端について知り得る情報は少ない魘夢、零余子、累の3人。

 

(あぁ……そういうこと。堕姫は堕姫で彼との蟠りに1つの妥協を見出せはしたけど、妓夫太郎さんは妓夫太郎さんでこっち方面に問題抱えてたかぁ……)

(これ多分、そこそこの鬼狩り出てきたからお父さんが単独で戦闘に専念したいがために……)

(……離脱指示出して黒歴史引きずり出しちゃったか、父さん)

 

ただ、当人と長く暮らしを共にしている事だけあって、3人共凡そは察しがついたそう。

 

「…とにかく師匠が来るのを待つか」

「お父さん私たちの居場所分からないんじゃ?」

「…だとしてもこっちから向かったらすれ違いになる可能性の方が高いよなあ"」

「…そもそも父さん待ってたら夜明けが来てしまうのでは…?」

「……確かにそれもそうか。なら琵琶女に無限城まで飛ばしてもらってそこで合流……」

「無限城は私が数十年前にやらかした関係で私的利用禁止になった筈」

「堕姫ィぃ…!あの日の事件がここで響いてくるかあ"!」

「…大人しく彼が来るまで雨風凌げる洞穴でも探すかい?」

「5人も入れる洞窟なんて早々見つかるわけねえよなあ"!?」

 

けどここまで全力疾走してきたことで生じた問題の解決策はまだ見つかりそうになかった。こうしている間にも時は一刻と過ぎ、いつもならしっかりと判断を下せるリーダー格の妓夫太郎もトラウマを掘り返されて役を為せない。

 

 

 

 

「おーい………」

 

そんな時であった。5人の遥か後方から聞こえてくる、ただ純粋で悪意の欠片すらないものの、結果的に妓夫太郎を狂わせた元凶の声。

 

「3人とも起きたんだ。みんな無事で何よりだ」

 

ただ、本来であれば彼らを導く役目を負っているのはこの中で1番の古株である朱雨であり、妓夫太郎が判断力を失っている中で彼らを導けるのもまた朱雨しかいない。

尤も、妓夫太郎から判断力を奪っている張本人も朱雨であったりするのだが。

 

「ってかお父さんなんで私たちの居場所分かったの?」

 

零余子が声を荒げて言う。

確かに零余子の言う通り、5人とも理性の失せた妓夫太郎の後を追って宛もなく遠くへと掛けていた。ここは吉原からも遠く離れた場所で、いくらなんでもこんな素早く彼らの居場所を探り当てられたのは異質であった。

 

「それはだね…ちょっと2人共、こっちにおいで」

「「?」」

 

そうして傍らに寄った零余子と累の肩に朱雨は手を翳した。すると、その翳した手に反応して両者の肩から魔法陣のような物が現れる。

 

「2人には予め発信念波をつけておいたのさ!」

「…えっ?そうだったの?」

「僕たち知らなかったんだけど」

「そりゃさっき堕姫の家にいた時に思いついて試しに使ってみた程度だからね」

「はあ……」

 

「このタイミングで前世の記憶蘇って良かったよ…。GPSとか明治の世じゃ想像も付かないからね…」

 

ちゃっかり甦った前世の記憶に便乗して上手いこと利用する朱雨であった。

 

 

「………はぁ、とりあえず色々と言いたいことはあるけど師匠、結構戻ってくるの早かったなあ"」

 

すると、ようやく一端程度の冷静さを取り戻した妓夫太郎が渋々ながらも口を開いた。

 

「まあね。確かに手に余る強敵ではあったけど、みんなを巻き込まないように早々に離脱指示出したのが功を成したみたいで良かった」

「「「あっ……」」」

 

ここ一番言ってはならないことを口走る朱雨。さっき妓夫太郎が離脱指示ならぬ戦力外通告を要因に我を失いかけたばかりだと言うのに、この場に居合わせなかったが故にそうとも知らない彼はまたしても波紋を投げかけようとしていた。そしてその事に魘夢、零余子、累が気がついたが、時すでに遅し。

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!?」

 

僅かな理性が師匠への攻撃行為を留まらせたのか、それとも理性なんかとっくに吹き飛んでてそれがこれなのか。妓夫太郎は声にならぬ声を上げながら頭を地面に向かってひたすら叩きつけ始めた。

 

「ちょ、お兄ちゃん!今のは違うんだって!」

「そうだよ!妓夫太郎さん、落ち着いて!」

 

堕姫と魘夢が静止しようと宥めるも妓夫太郎の耳元には届かない。

 

「ちょっとお父さん!」

「え?」

「父さん、ちょっと☆O☆HA☆NA☆SHI☆しようか」

えっ!ちょっと…待っ………

グアアァァァァァァァァアアアァァァアァァァァァァァ……………

 

話せば分かる!と口にしようとする間もなく朱雨は累と零余子の手によってどこかへズルズルと引きずられて行った。

 

 

________________

 

 

 

それから暫くして

 

「ああ、そういう事だったんだ…ごめんなさい!今度からは一緒に戦おう……」

 

累と零余子の手によって全てを把握させられた朱雨は全力の土下座に及んだ。

 

「まあまあ、妓夫太郎さんも朱雨さんもどちらともそれなりに非があったってことなんだよ。それをお互い妥協出来たわけだし、これにて一件落着ってところだね」

 

魘夢の言葉を以て各々が抱えていた闇に区切りがつき、この場を丸く収めることに成功した。

 

「そういえばあと何時間で夜明けるかな?」

 

ボソッと累が口にする。鬼にとって陽光は天敵であり、夜明け前になんとしても身を隠せる場所を探しておかねばならないのだ。

 

「うーんとねえ…」

 

すると朱雨が真っ先に動いた。みんなおいでとここの面々全員を朱雨自身の元まで集わせた。

 

「こういう時は夜空を見るといい。月の満ち欠けや見える星で大凡の時間が分かるし居場所もわかる。かつて俺も鬼なったばっかりの時はそうした」

 

そうして夜空を見上げる朱雨一同。そこには下弦の半月と白鳥座とわし座、琴座の夏の大三角が西の方へ沈もうとしていた。

 

「下弦の月が南東の空に…………」

 

この時僅か1秒で全てを察した朱雨。そして彼は精一杯、周囲の面々に向かって叫ぶ。

 

 

「全員!!あの大きな山まで!走れえーーーーッッッッ!!!!!」

 

 

朱雨が出した結論、下弦の月が真南に現れる梅雨時の日の長い時期ともあってあと30分もすれば空が明るくなってくるから急いで山の方で隠れるぞということである。

 

「結局走るのお兄ちゃん〜」

「知るかあ"!師匠がそういうんだから走れよなあ"!」

「思ったより夜明けは近いのかもね」

「結局走るのかよお父さ〜ん!」

「…全く、まさかまたこんな走るハメになるとはね……」

 

 

そうして、兎にも角にもそそっかしい面々だらけだったこの6つの鬼が入っていった山だが、後に元号の移りし世の中で、鬼狩りと鬼による大激戦が行われることになろうとは、この時はまだ誰も知らない。

 




ー明治コソコソ噂話ー

妓夫太郎は割かし師匠とか目上の言うことには素直なので頷いてしまうようです。ただ、後々尾を引いてくるのでそうなると例のごとく荒れます。

一方、朱雨に関して。朱雨は星の呼吸の由来でもある宇宙に点在する星たちを用いて自身の居場所を把握する能力も持っています。これ、実は7話ぐらいでも使用していたのですが覚えてる方はいらっしゃったでしょうか?

今後、展開を2つ考えてるのですが、話の内容は原作の流れを汲んだ方がいいですか?

  • 原作の流れを汲む
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