剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

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58話 時は満ちた

東京府内、人里より遠く離れた所に位置する、緑の生い茂った高い山。標高はそこまで高くないものの、入り組んだ山道に迷いやすい地形とあって、滅多に人が寄り付くことは無かった。

 

そんな山中、明治の世以前に住人が失せたと予測出来る程に古く寂れ外装も剥げに剥げた屋敷の一角。

___そこに彼らはいた。

 

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃーん」

「ん?どうした?堕姫?」

 

上弦ノ陸を務める2人で1つの鬼。外装の割にあまり汚れてない、というよりある程度補修した床の上に座る兄の妓夫太郎と、退屈そうに壁に寄りかかる妹の堕姫の姿があった。

 

「…おやあ、また(・・)始まったみたいだね……」

 

と、その上弦ノ陸と数十年前から行動を共にしている数字を持たぬ鬼の魘夢。

 

「この山退屈…。早く吉原戻りたい…」

「あのなあ"………」

 

ここに来て早数日、何度目か数えるのも鬱陶しくなるほどの妹の愚痴に妓夫太郎は半分呆れ半分怒りで溜息混じりに言う。

 

「吉原はなあ"!この前の師匠と鬼狩りの戦闘で郊外に渡るまで全壊したからなあ"!暫く戻れないんだよなあ"!」

 

そう、本来はここの全員、吉原付近にて共同で人間社会に溶け込んで生活している鬼なのだが、訳あってこんな山中での滞在を余儀なくされていた。本拠点がない以上、陽光を凌ぐ為にも別拠点に身を寄せるしかないのが鬼である彼らに残された手段なのだ。

 

「いつになるの!?いつになったら復旧するの!?」

「……暫くは無理だなあ"。少なくとも1年はなあ"………」

 

妓夫太郎も本音としてはあまりあの時(・・・)のことは思い出したくない。故に堕姫の執拗い帰還要望にはウンザリであった。

もはや皮肉もいい所、悪気のない師匠からの言葉の弾丸、誰に怒ればいいのか分からない。

 

「えー暇なんだけどー」

「もう………はあ"……………」

 

妹の度重なる駄々に妓夫太郎は限界であった。流石鬼の頭領に頭悪い子供と評されるだけあると言ったところ。魘夢がいなかったら妓夫太郎はどうなっていたことか。

 

「心中察するよ妓夫太郎さん。ここの家主である朱雨さんは子ども共々不在(・・)だし、何処行っちゃったんだろうね……」

「ああ……まあ"…今はなあ"………」

 

疲れのあまり妓夫太郎は仰向けで大の字に寝転ぶ姿勢をとる。そして、家族共々席を外している師匠に早く戻ってきてくれとただ心の中で強く願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「___あの場所(・・・・)にいるなあ"……師匠たちはなあ"…………」

 

________________

 

 

あの吉原での戦いから早数日が経過した。梅雨は終わり、蒸し暑い季節が今年もまた来ようとしている。まあ、鬼だからそれが苦痛に感じることは無いのだけど。

 

それはそうとして、吉原での戦闘を終えて零余子や妓夫太郎たち一行と合流した以降についてだ。

 

あの日、迫り来る夜明けの朝日から身を隠そうと、影になりそうな程深く巨大な木々が生い茂っていた目の前の山に駆け込んだ。

ただ、それだけで終わりじゃない。

 

そこで俺たちは偶然にも大きな廃屋を見つけることが出来た。数十年くらい人の手が入ってなかったようで、壁や床には穴が幾つもあり、そこら中に蜘蛛の巣やら木屑がある程汚れに汚れていた。けど、陽光を凌ぐには充分すぎる造りに、集団で生活を送るには有り余る程の広さ。贅沢など言ってられないし、何ならこの程度の欠陥、快適な造りに内外共々補修すればいいだけの話。

 

現に住人は俺、累、零余子の家族3人に加え、吉原で俺が派手に暴れたことで住居を藻屑とされた妓夫太郎、堕姫、魘夢の3人の計6人。人手はある。

 

 

と、新拠点の改修計画に心を膨らませていたが、どうもそうこう言ってられる状況では無かったらしい。

 

 

 

ベベン

 

 

琵琶の音と共に、目の前に現れた襖の戸が開いた。

 

「御無沙汰しております、無惨様(・・・)

 

場所は無限城。久々に招集を受け、城内の大広間にて待機していた。先にいたのは鳴女さんだけ。無惨様は席を外されており、きっとご多忙の間に俺との時間を作って下さったのだろう。

 

子女共々(・・・・)ご苦労。此度の招集、件は把握しているのだろうな?」

 

そう、今日は零余子と累共々招集を受けている。前回零余子が無惨様の前で醜態を見せたことから内心不安も強かったのだが、2人とも偉大なる無惨様のご威光を前に然と無言で膝を着いており、その様子に俺は胸を撫で下ろした。

 

「はい、ある程度の察しはついております。例の件を実行段階に移す時が、遂に来たのですね」

 

 

目的の物とは___

以前に時を見て長期遠征へ赴くよう大陸由来の花。無惨様が1000年にも渡って探し求めていた陽光克服への大いなる鍵。

 

「___青い彼岸花、必ずや見つけて参りましょう」

 

隣国、清との開戦の火蓋が切って落とされた今こそ、以前無惨様が仰られていた然るべき時期となろう。

戦地に赴く船に紛れ、長期に渡る探索遠征に出向くとしよう。

 

 

「流石だな……が、それだけでは無い。それだけの事であればお前だけに招集をかけている」

「……まさか?」

「「……!」」

 

零余子と累も事情を察したのか、頭を上げて無惨様の方を見据えた。そうだ、大陸へ渡れと指令を出すなら代表で俺だけ招かれるのが合理的。しかしここにいるのは俺だけに限らず。

 

 

「先日、雷の呼吸の鬼狩りに下弦ノ肆、及び伍が殺された。お前の殺した例の鳴柱にな。そこでいつも通り数字を繰り上げで下弦の戦力調整をと思ったが、近年の下弦は鬼狩りの柱昇進の踏み台にされる雑魚ばかりで面白くない。そこでだ、お前たち2人があの忌々しい半端者(蓮華)を術中に嵌めたのを視認した。どうだ?

 

 

____新たな下弦ノ肆、下弦ノ伍になる気はないか?

 

 

遂に2人が無惨様にその実力を認められた。将来性を鑑みての十二鬼月就任の好機。これはかつて十二鬼月創設の数百年前に、俺が無惨様から将来性を見込まれて初代下弦ノ陸に就任したあの時と同じ…。

 

「私が…十二鬼月………なります!」

 

そして零余子は即承認。そうだ、無惨様の寛大な御心で十二鬼月への推薦を受けたこと。それはこれ以上ない程の名誉なのだ。それを零余子は理解している。断る理由もないし、寧ろその誘いに乗らないのは無礼。あとはどちらが1つ上の位に着くかだけだが、思ったより事は上手く運びそうになかった。

 

「………僕は…別に……」

「へっ?」

 

ここで累が爆弾投下。折角無惨直々に頂いた十二鬼月に名を連ねる好機を蹴るかのようなことを口にした。

 

(そうか……累は………)

 

元々累は零余子と違って出世するという行為にそこまで前向きじゃない。零余子が折角得た幸せを維持する為に只管邁進する一方で、累は幸せを維持する為にあまり変化を求めない、云わば堅実型であった。

 

(なるほど、しかしそんなことで無惨様の誘いを断るなど………)

 

無礼極まりない行為。その拝命、有難く受け取らないのは自らの首を絞めかねないと内心案じまくりである。

 

 

 

 

「……下弦ノ伍、下の位でいいよ」

「………………え?」

 

 

今なんて言ったのか。下弦ノ伍でいい。累は、今下弦ノ伍でいいと言った。つまり今の発言、無惨様に向けた発言ではなく、

 

「…零余子の方が鬼になったの早いし、下弦ノ肆は姉さんに譲る。それでいいよね?」

「うん、じゃあ私が下弦ノ肆、なります!」

 

零余子に向けた言葉だった。

 

「………………………」

 

どうやら俺は、無惨様への尊敬が行き過ぎて思考が空回っていたらしい。

 

(……そうだよな、下手に案じるような一件では無いよな。累はそんな失礼働くような子じゃないしな)

 

父親の上司であり、始祖ともあろう御方への礼儀作法がなってないなんて、よくよく考えれば鬼として逸脱しすぎている。

今のは父として累のことを信用して無さすぎた。累はそんな礼儀知らずじゃないと、俺が1番知っている筈なのに。

 

「決まりだな。零余子には新たに下弦ノ肆、累には下弦ノ伍の位を与える」

 

すると無惨様は零余子と累を前に顔を上げよと口にし、2人が垂れていた頭をソロりと上げたその瞬間、有無を言わせぬまま両手人差し指を零余子と累の左目に突き刺した。

 

「……ア"……アッアッ…ガア"……」

「…………オォ"…………………」

 

2人の眼球に無惨様がグリグリと数字を刻んでいる光景を、俺はただじっと拝見している。新たに十二鬼月になるにあたって毎度の光景なので本来何か特筆して反応する事など何も無いが、此度は対象者が対象者(家族)なだけに密かに心の奥底で痛いけど頑張れと励ましを送るのであった。

 

「…っと、そうだ」

「?」

 

無惨様が何か思い出されたかのような発言をされ、こちらに視線を向けられたのを確認した次の瞬間だった。

 

「グェェッ……!! ………なっ……ォ"………?」

 

無惨様の太ももから突如出てきたギザギザと返し針のついた触手のような物が俺の腹部に突き刺さる。

 

「お前は考えすぎだ。鬼がこの私に無礼を働くとでも?自分の家族の面倒ぐらいしっかり見ておけ愚か者」

「ハイ………」

 

そのまま俺は無惨様から制裁による痛みでもがき続ける。触手からは無惨様の血がドクドクと注がれているようで意識が飛びそうになる。

 

「そして鬼狩りの柱を幾人も葬り、青い彼岸花への探索、お前は使える。それなりに信頼もしているが故にある程度の事も目を瞑っている」

「…ア…有難きィッ"……お"言葉………」

 

痛みに悶えながらも無惨様の声に言葉を返す。無惨様の有難き説法に、失神で耳を傾けられないなど失礼極まりない。与えられたこの痛みに耐えながら辛うじて意識を保つ。

 

 

「しかしだ、お前はいつまで経っても無駄に人間臭い。鬼同士で仲良く家族遊戯に、その他上弦共との戯れ、終いにはあの忌々しく私の記憶を逆撫でする(蓮華)を殺せない。お前はなんなんだ?満月の両目は単なる飾りか?特殊任務部隊として自らを推薦した過去を忘れたか?上弦ノ弐時代のお前の方がまだ有能だったぞ?お前たちはただ私の役に立てば良いのだ。いいな?」

「…ハイ」

「…お前には制裁の意も込めて私の血を大量に与える。ただの血ではなく、鬼の細胞を変異させる血だ。お前はこの血を受けて死ぬか、それとも完璧な悪鬼となるか……」

 

そうして無惨様の触手が俺の腹から離れる。それと同時に俺の体調が若干大きくなるのを感じ、更に頭の中がドス黒い感情で埋まっていく。

 

報われぬ者全てに鬼になる選択肢を与えようという救済的思考が、澱んでいく。

 

 

 

________________

 

 

(失神したか……)

 

朱雨に大量の血を与え、その子女共に下弦の位を刻み、気づけば意識を飛ばした当人共が目の前に転がっていた。

 

(ふん、まあ良い)

 

日清の戦端は開かれた。この期に乗じて奴らを大陸へ向かわせる前の下準備は、これにて充分な筈だ。あとは適当な場所にコイツらを放り出すのみ。

 

「鳴女、コイツらを佐世保(・・・)に落とせ」

 

少しでも早く青い彼岸花へ辿り着く為にも、奴らを大陸行きの船が多く行き交う所に送る。

 

(…楽しみだ)

 

鳴女によって奴らが無限城内から消えたのを見届けると、私は自然と感嘆の声を漏らした。

 

 

 




ー明治コソコソ噂話ー

妓夫太郎たちはこの後何日も朱雨たちを新拠点にて待ち続けるのですが無惨様もそこまで気を配ってはないので何も知らない妓夫太郎は結局朱雨たちの帰りを待たぬまま1年経ってようやく復興が完了した吉原に戻ってしまいます。多分生きてはいると確信こそしてましたが妓夫太郎が詳しい事情を知るのは朱雨が大陸から帰還した後です。
ちなみに1年の間に山中にある新拠点は屋内外共に3人の手によって綺麗に作り替えられたそうです。帰ってきた朱雨たちは拠点がほぼ別物になってることに驚くそうですがそれはまだ先の話。

今後、展開を2つ考えてるのですが、話の内容は原作の流れを汲んだ方がいいですか?

  • 原作の流れを汲む
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