剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
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「……父さん」
1人父の墓石を前に佇む少年。貧しいが故にか、墓石にはそこら辺に生えているかのような花が1輪添えてあるだけであり、供え物も線香もない虚しくポツンと石だけが置かれている侘しい様であった。
「おい、そこの少年。何してるんだ?そんな所にいたってただ濡れるだけだぞ?」
すると近くを通った初老男性が少年に声をかける。ザーザーと強い雨の降る中でも少年は軒下に隠れようとも傘を刺そうともしない。少年はただ、ずぶ濡れになりながらその場に佇んでいた。
「…いえ、大丈夫ですから。俺の事なんか気にせず……」
「ふむ、そうか。早く帰るんだぞ。夜になると盗賊がどこからともなく現れるからな。お前みたいな子どもはすぐ狙われるぞ」
そうとだけ忠告を口にした初老男性は、依然立ち尽くす少年に不気味さでも覚えたのか、早々にこの場から立ち去っていった。
(はぁ、
とはいえ盗賊に襲われでもしたら元も子もない。仕方なく少年は墓石を後にして帰路につくのであった。
「…今帰っ「遅いぞ!」
少年が自宅へ戻ると間髪入れずに目の前の巨漢な女から怒号が飛ぶ。そして、顔の真横を何かが高速で通り抜けていった。
「…全く、何処ほっつき歩いてんだ。さっさと飯作りやがれ」
そう口にした女が視線を逸らした隙に、少年がチラリと後ろに目をやると、そこには幾度と使われたであろう煙管が独特の匂いを放ちながら転がっていた。
(…
心の中でそう溜息を零した少年は、無言のまま台所に立った。
「…今日テメェ何処にいやがったんだ?」
「……父さんの、所だよ」
「まーたあんな男の所にいたのか?そんな事してる暇あったら物乞いでもして金作ったらどうなんだ?」
「…うん、ごめん。………母さん」
少年が母さんと呼んだその女性は、それはあまりにも痩せ細っており、その割に当時としては驚くほどの巨体。少年はそんな母親がまるで
(…母さんは、こんなんじゃなかったのに………)
かつて少年の母親は真っ当な人間であった。女性でありながら逞しい体つきであったことを活かして、父親と共に農業に励み、貧しいながらも幸せな暮らしを送っていた。
しかし、父親が病に倒れ、更には飢饉の影響で農業に陰りが出てくると、その幸せはあっという間に崩れ落ちた。
『金を出せ。おい、どこだ。どこにある』
母親が
(…俺の人生、これからどうなるんだろうな。近頃は隣国との関係悪化でこの辺りが戦乱に巻き込まれるかもしれないだなんて噂もあるし……)
家の中では母親、屋外に出れば盗賊、更に遠くへ行けば外国の脅威。
少年は、未来もなくただ絶望の中で生きていくのだと1人嘆くしか出来なかったのである。
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日本海、五島列島沖を航行中の日本海軍の某艦。その艦上では現在進行形で大混乱となっていた。
「おい!どうした!何が起きているんだ!」
夜遅くにも関わらず慌ただしく駆け巡る人々と揺れ動く艦上。やむを得ない夜間戦闘でも起きぬ限り、本来こんな夜中に多くの者がドタバタと動く筈などないのだが、もはや海戦中と言わんばかりに艦内は喧騒に包まれていた。
「か、艦長!軍属ではない何者かが、この艦内にいる模様!」
「なぁにぃ!?」
艦内が混乱に陥っている要因とは、突如明らかとなった詳細不明な部外者の存在であった。
「ソイツはどんな奴だ!敵兵か!諜報員でも紛れ込んだか?」
「そ、それが……あ、アレです!」
そうして艦長室を見上げて侵入者の存在を叫んだ兵士が指差す先にいたのは、堂々と主砲前を闊歩する人とは思えぬ容姿をした3つの影であった。
「な、なんだ…!お、おい!お前ら一体何者だ!」
艦長が上からそう3人に向けて叫ぶと同時、声のする方へ向かえと侵入者の居場所を察した兵たち全員が主砲前に集って合流し、即座に3人を取り囲んだ。
「…大陸へどうしても渡りたくてな。この艦に少し居させてくれ。なあに、大人しくしてりゃ悪いことはせんよ」
化け物三人衆のうち長と思わしき1人がそう口にする。
しかしどう見ても人離れした一本角に、時代に置いてかれた侍のような和装に刀、更には額に広がる大小白黒様々な模様をしたその恐ろしい容姿に、周りの者たちは素直に頷くことが出来なかった。
「こんな怪しいヤツらに我々が騙されるとでも思ったか!」
「そうだ!どうせ油断したところを殺すんだろう!」
「艦長!どうしましょうか!」
恐怖に満ちた阿鼻叫喚の兵たちは艦長の指揮無しで銃を構えた。その兵士たちの勝手な行いが、やがて艦長の判断力も指揮力も全部を鈍らせてしまう。
「艦長指示だ!総員武器を構えろ!目標、侵入者3人!撃てェ!!!」
そうして円の中心にいた化け物3人に対して一斉に銃弾が降り注いだ。もはや死体撃ちにも等しいほど余分に撃ちすぎたと思われるが、それほど兵士たちの侵入者に対する恐怖が大きかったということなのだろう。
「おい、どういうことだ」
「!?」
多数の銃弾を受けた筈の3人は何も無かったかのようにケロッとしている。
「いってえなぁ…」
更に銃弾を山ほど浴びせた結果、3人の気配は祟りに触れたかのように変化していく。触らぬ神に祟りなし、攻撃したことで3人の逆鱗に触れてしまった。
「これは宣戦布告ということか」
「ちょっと私の服血塗れになっちゃったじゃない!」
「あぁ……死なないとはいえ痛いね」
3人は完全に怒りに燃えたようで、各自が臨戦態勢に入った。1人は刀を構え、1人はどこからともなく薙刀を出し、1人は周囲に糸の束を展開。
「「(お)父さん!コイツら殺っちゃっていいかな」」
「うむ、許可する」
そうして兵士らの行いを宣戦布告として受け取った3名による、虐殺にも似た阿鼻叫喚の大量殺戮が幕を開けた。
「総員退避!」
そう艦長が叫ぶももう遅い。既に艦長の首から上はボトンと鈍い音を立てて甲板上をコロコロと転がり落ちていった。
「ただの人間風情が俺たち
そして艦上はあっという間に有象無象の入り乱れる戦場と化し、辺り一面は瞬く間に血の海へ変貌した、
【血鬼術 星の呼吸 漆ノ型 天ノ川】
長らしき鬼は、幾度となく刀を振るい続けて、逃げ惑う兵たちの体を次々と斬り伏せていった。それと同時に、一部の兵士を謎の力で宙に浮かしてはそのまま海中へ投げ捨てるなどの残酷な手法での殺戮も数多く見られた。
【血鬼術 種の呼吸 壱ノ型 発芽突き】
小さい女鬼は、自身の体から作り出した薙刀を十文字槍に変異させ、そのままあらゆる兵士の腹に槍をぶっ刺していった。刺された兵士は、体内に入り込んだ種によってその場で粉々に爆散し、爆散したことで無と化した槍先へ次の兵を刺してはまた爆散させ、それを繰り返して周囲の兵士を次々と殺していた。
【血鬼術 絞蟲糸技】
小さい男の鬼は、周囲の兵士たちの首に大量の糸を巻き付けて動きを封じると、そのまま糸を全力で締め付けて引きちぎった。そうして艦内で息のある兵士たちを見つけては締め殺すを繰り返し、彼の周囲は血と贓物の転がる血みどろ空間と化していた。
「さて、片付いたね」
「そうね、じゃあ早速頂こうかしら」
艦内の人間を粗方殺し尽くした鬼のうち長を除く小さな男女2人の方は、そのまま殺した人間を貪るように食い始めた。
「稀血の奴はいなさそうだね。姉さん稀血と零余子ご飯には目がないからなぁ」
「そうね、まあそこは累より数字が上の下弦ノ肆として大人な分妥協してあげてるけど?」
「……零余子姉さん、血涙溢れてるけど………」
「これは……長期間任務で遠征先では稀血に出会えないかもしれない件と忙しくてお父さんに甘えられないかもしれない件から来る涙じゃないから………」
「普通は血涙なんて出ないけど……」
一方、2人の父らしき鬼は艦内中枢にあたる管制室で舵を握りながら、何者かと連絡を取り合っている様子であった。
「はい……こちら朱雨です……。無事に大陸行きの船へと乗れました……。以後は完全に日本領内を離れ、異民族の地へ入ります………。はい、今後は
そうして何者かとの連絡を終えた朱雨と名のつく鬼は、方位磁針を手に再度地平線と夜の闇が広がる大海原を見据えた。
「…さて、長い旅になりそうだ。現地に到着したら、まずは
生存者が唯一多くいた管制室もその鬼の手によって制圧され、最終的に幾つもの
後に大陸へと流れ着いたこの艦は現地人の手によって発見され、その後日本軍部の調査が及ぶこととなるも、あまりの惨たらしい惨状からこの事件は海軍内どころか軍部全体で話の話題に出すことすら禁忌とされる事件となる。
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______そして、時代は移り変わっていく。
19世紀も終わりを告げようとしている中、秋風の吹き抜ける産屋敷邸の庭にて、刀を持つ1人の女性が哀愁漂う雰囲気で1枚の手紙を読んでいた。
「…御館様」
彼女が読んでいたのは、前産屋敷当主が遺した遺書であった。その手紙には、「先逝くことを許してほしい」との前書きから始まっており彼はその遺書を残して自ら命を絶ってしまったのだ。
「………そんなことって、無いですよ」
そこには続けて、次々と亡くなっていく隊士たちに対して自らの病弱さが故に何も出来ないことを悔いている点、更には彼女を残して鬼殺隊戦力の要である支と柱が皆引退及び殉職した事で鬼殺隊を半壊状態にしたと嘆いてる旨が添えられていた。
「………みんな、私より先に死んでいく………」
手紙を読み終えた彼女、もとい現時点で唯一鬼殺隊の支に名を連ねる蓮華は、渇いた声を出しながらその場で膝をついた。
「………蓮華さん、大丈夫…?」
「あぁ……耀哉くん……」
庭先で打ちひしがれる彼女を案じて屋敷内から姿を現したのは、前産屋敷当主に代わって第97代目産屋敷当主となった産屋敷耀哉の姿であった。
「…だいじょうぶ、蓮華さん。私がいるから……。ぜったいに……鬼殺隊は……終わらせない…………」
「そう…だな……。まだ、終わったわけじゃないもんな……。ありがとう………、耀哉くん………」
産屋敷耀哉、まだ6歳の幼き当主を前に、蓮華は涙を零しながら答えるのだった。
(…私が、私が!鬼殺隊の未来を護るんだ!)
この後、彼女は心に誓ったその言葉通り、未来の支や柱たちに手を差し伸べていくこととなる。
ー明治コソコソ噂話ー
最初の少年はいったい誰なのか!?
清国に渡った朱雨たちは果たして青い彼岸花を見つけることが出来るのか?
蓮華が護る鬼殺隊の未来とは?
次回から新章突入!蓮華を主人公に鬼殺隊が長い時をかけて復活していく様を描きます。