剣と念の悪鬼夜行   作:狂戦士

69 / 85




67話 煉獄亭

 

「…槇寿郎」

「煩い!」

 

私は今訳あって煉獄邸を訪れている。ここに顔を出すのは久方ぶりになるのだが、門を潜ったその時、酒の買い出しに向かおうとしていたであろう槇寿郎と鉢合わせる。気まずい空気の中、私がその名を口にした瞬間、槇寿郎がどこからともなく取り出した盃を私の額に投げつけた。

 

「……何度言われても、私が刀を手に取ることはない」

 

槇寿郎は恐らく私が言うであろうことを先回りしたのだろう。そう、すれ違いざまに呟き、槇寿郎は私に目も昏れることなく足早と外へ出かけていった。

 

「…はぁ」

 

思わず溜息が洩れる。今回煉獄邸を訪れた理由は槇寿郎の説得ではないのに、私の顔を見るやいなや血相を変えてあんな八つ当たりに及ぶなんて、随分と息子(・・)に顔向けしづらくなる。

 

「…まあ、これはいい(・・)機会か」

 

顔向けしづらくはなるが、これは逆に考えれば世代交代の好機ともとれる。彼ももういい歳だしな。

 

「おやおや!これは蓮華殿!御無沙汰でしたか!」

「久しぶりだな、杏寿郎」

 

すっかり私より背丈も高くなって立派になった彼が、障子扉の奥からひょっこりと顔を覗かせた。

 

「…元気そうで何よりだな。まずは(きのえ)昇進おめでとう」

「有難き言葉だ!!だがまだまだ修練足りない!!ゆくゆくは父と同じよう柱になりたい!!」

 

相変わらず煉獄特有の燃え盛るような髪色も相俟って賑やかな性分をしている。

 

「師範、いきなり竹刀を放り出してどうしたんですか!?」

 

すると、杏寿郎の後を追うように桃色と緑色が混ざったような三つ編み髪をした子がドタドタと杏寿郎の後を追って玄関先まで飛び出してくる。

 

「すまない甘露寺!天支殿がお目見えとなったので放り出してしまった!!」

「て、天支様?それって確か鬼殺隊最強の御方でしたっけ?」

「うむ!!その通りだ!!」

 

何だか修練を邪魔する形での訪問になってしまったみたいで妙な罪悪感を覚える。杏寿郎が甘露寺と呼んでいた子、暫く煉獄家には来てなかったから継子がいるのは初耳だった。

 

「おや皆さんお揃いで」

「あ、千寿郎くん」

「千寿郎じゃないか!どうした!」

 

すると厨房から杏寿郎の弟の千寿郎が顔を出す。両手には大量のさつまいも菓子。千寿郎の背丈に迫る勢いの量だが果たしてさつまいもを幾つ使ったのやら。

 

「蓮華さんも久しぶりです。丁度良かった。さつまいも菓子を作ったのでせっかくですし皆さんお食べになりませんか?」

「うむ!!わっしょい!!蓮華殿もお見えになったことだし!休憩にしよう!!」

「やったあ!!」

「うむ、では有難く頂こう」

 

その運びで一同休憩をとることになった。鍛錬の邪魔になるかもしれないから日を改めようと思ったが、全く千寿郎も空気の読める子に育ったものだ。外堀を埋められるようで煉獄亭を後にしようにも出来そうに無くなった。

 

「うまい!!!わっしょい!!!」

「千寿郎くんの作るさつまいも菓子は相変わらず美味しいわね!!」

「ありがとうございます」

 

杏寿郎もその継子も舌を唸らせるその味。久々に口にするが千寿郎の作るものはやはり美味いな。豪快な性格をした煉獄家では異端の才だろう。

…唯一、剣の才には恵まれなかったときくが、不幸中の幸いというべきか、彼が役立てそうな場所があって良かった。

 

「ところでだ!蓮華殿!」

「うん?なんだ?」

 

そんな大声でなくてもきこえる。杏寿郎の声は相変わらずよく響く。水支の通訳無しでは語弊だらけになる何処ぞの水柱には見習って欲しいものだ。

 

「………我が家を訪れたのは、単に気まぐれ(・・・・)では無いだろう。何か要件があって来たのではないか!?」

 

流石、杏寿郎はその事を見抜いていたようだ。そう、私が煉獄亭を訪れた訳は別にある。杏寿郎の様子が気になったからだとか、たまたま近くに来たから寄ったとか、そういう小さな事では無い。

 

「もしかして俺の継子を一目見に来たのか!?蓮華殿は甘露寺と顔を合わせるのは初めてだろう!!」

「いや、違うな」

「もしくは父上の事か!?毎度父上が無礼を働いて済まない!! 母上を亡くされてから父上はいつも酒浸りだ!!誠に不甲斐ない!!」

「……いや、それも違う」

 

前言撤回、杏寿郎は察しが良いなと思った矢先双方とも外すか。

ただ継子の件はいいとして、槇寿郎の件に関しては半分正解(・・・・)かもしれんな。

 

________________

 

 

「貴様のその力があれば……瑠火は死なずに済んだ筈だ!!!」

 

上弦ノ弐との死闘を乗り越えた後、たまたま煉獄亭近くに用があったので赴いた道中、酒の買い出しに来ていたであろう槇寿郎と鉢合わせしてしまった。

 

「……何故お前みたいな偽善者が100年ものうのうと生きている!」

 

酒瓶を額に投げつけられる。

 

「…我が家近くに来たのも哀れな私の顔を拝みに来たからか?」

 

そして尚、私に向けられる槇寿郎からの罵詈雑言。

 

私も何か言い返したかった。でも、何も言えなかった。まるで喉に何か挟まったいたような、私の本能(・・)が反論を拒んでいた。

 

(…救えなかった、か)

 

鬼殺隊である以上、助けられなかった命は日常茶飯事。家族や友を失った遺族からは、毎度もっと早くお前が来てればと何処に向ければ良いか見失った言葉の矛先が向けられる。

 

けど私がそれに対して怒りを示したり反論する事は無かった。家族の仇を取ってくれたと感謝の意を示された時は素直に申し訳ないと言葉が表に出るのだが。

 

 

(……この虚無感は、なんだ?)

 

 

鬼に身内を殺された遺族や槇寿郎からの罵声を浴びる度、私の頭は虚無となる。

蓮華という人格が、空っぽになってしまう。

 

 

(……○○、ごめんなさい。貴方を残して……先に……………)

 

 

その代わり頭の節々に出てくるのは、血みどろの自分と、散らばる金属片。鉄の箱とそこに乗る老人の嗤う顔。

 

愛した人を置いて先に逝った自分自身の姿が、虚無感を上塗りする。

かつての私が、そちら側の者だったという事実が彼らへの反論を許さなかった。

 

 

________________

 

 

 

「…杏寿郎。柱になるための条件は知っているか?」

「うむ!階級甲の者が十二鬼月を倒すか鬼を50体倒す!だな!!!」

「…ならば話は早い。私はお前を柱にする(・・・・)べくある案件を持ってきた」

 

今の私に出来ることは、悲しみの負の連鎖を断ち切ること。

その為には、後任を増やし戦力地盤を固める。それしか出来ない。

 

「…私は水支、及び水柱と共に西部へ向かわなくてはならん。だがここでここより東の帝都にて十二鬼月らしき鬼の情報が入ってきたのだ。そこで杏寿郎と甘露寺とやらの2人には帝都まで向かって当鬼の討伐に向かって欲しい。頼めるか?」

「うむ!承知した!!父上はもう戦えない!!ならば俺が新たな炎柱となれば良い!ということだな!!!?」

「察しが良いな」

「え、私も行くんですか!!?」

「あぁ、師弟関係なら息のあった連携も可能だろう。他にも隊士を幾人派遣する予定ではあるし、悪い話ではないだろう?」

「……はい、分かりました!」

 

2人の了承は得られた。

私も西へ向かうとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…朱雨、私はお前を止める」





ー大正コソコソ噂話ー

原作における柱合会議で煉獄が帝都に向かう流れはカットです。
そして遂に蓮華の過去についても一部判明!? ようやく物語も折り返しです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。