剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
が、この作品には色々と原作のフラグをへし折った輩がいたので、当然原作通りに事は進みません。
71話 竈門炭治郎
___幸せが壊れる時にはいつも、血の匂いがする。
「頑張れ禰豆子!堪えろ!頑張ってくれ!」
妹の禰豆子が、人ではない何かと化して俺を馬乗りになって襲っている。それは宛ら獣のように、理性の欠片もなく俺を喰おうとしているかのよう。
…俺がぬくぬくと寝ている間に、惨いことに。痛かったろ、苦しかったろ、助けてやれなくてごめん。
「…鬼になんかなるな!…頑張れ!」
しかし、目の前をハッキリと視認した時、それは間違いだと確信した。その妹の額には雫が垂れていた。禰豆子からは、衝動に抗え無いながらも心の中ではそれを拒んでいるかのような、悲しみの入り交じった複雑な匂いがする。
「…おい、大丈夫か」
「…!」
俺は確かに斧の塚で禰豆子を抑え込んでいた筈だったのに、いつの間にかその感触が消えている。気づいた時には目の前に狐色の髪をした男がいて、その男が禰豆子の襟を鷲掴みにしていた。
…目に追えない速さだった。そして憎しみや同情が混在したかのような匂い。
「……禰豆子を、返してください!様子はおかしいけど、俺の妹なんです!」
「…それが、妹か?」
立ち上がって狐色髪の男にそう言った矢先、今度は日本刀を片手に持った長髪黒髪の静寂の匂いがする男が歩いてやって来る。
「…俺たちの仕事は、鬼を斬ることだ」
「…!」
「勿論、お前の妹の頸もだ」
「…待ってくれ!妹は誰も殺していない!俺の家にはもう1つ!嗅いだ事の無い誰かの匂いがした!皆を殺したのは、多分ソイツだ!!禰豆子は違うんだ!!…どうして今そうなったかは分からないけど……!でも!」
「……簡単な話、傷口に
「!?」
またしても目の前に新手が来た。今度は黒髪の…どういう訳か不思議で複雑な…2人とはそもそもの理が違う……優しさとも虚しさとも取れる
「…禰豆子は……禰豆子は人を喰ったりなんかしない!!」
禰豆子は、兄弟たちにも優しくて、そして…そして……。
兎も角にも、そんな優しい妹が、誰かを傷つけたり、ましてや喰おうだなんてするわけが無い。
「………よくもまあ、喰われそうになっておいてそんなことが言えるな小僧」
「…!」
背筋が凍るような狐色髪の男の一言。救いようの無いその言葉に、俺は心が挫けそうになる。
…けど、そんな理由で大切な、唯一家族の中で生き残った禰豆子の頸が斬られるところなんて、見たくもないしそうはさせない。
「…俺が禰豆子にそんなことさせない!…きっと禰豆子を人間に戻す!!」
「……義勇、錆兎、このままじゃ埒が明かない。…家族を失い、果てに妹まで鬼にされて……。目の前でやるのは酷だ。その鬼の少女は少年の目の届かぬ場所で……。この少年の話は、私が最後まで訊く」
「…っ!……そんな!?」
聞き届けた義勇と錆兎?と呼ばれていた2人は彼女の言葉に1つ頷くと、禰豆子を連れてこの場を離れようとする。
「…そんな!……これ以上、俺から奪わないでくれ……!……どうか!」
「……少年」
膝けたたましく唸り声をあげていても、禰豆子は大事な妹だということに変わりは無いから…。
俺も鬼を人を戻す為に戦う。方法だってきっと見つけてみせる。
…だから、どうか………。
「…少年、立て。這いつくばっていては何も出来ない。旗は風が吹くか誰かが振らなくては靡くことは無い」
「…!」
2人に聞こえないような優しげな声色で、女の人は俺にそう呟いた。
「…私の言いたい事が分かるか」
「………」
気づけば、俺は禰豆子の元へ無我夢中で駆け出していた。
________________
「…うぉぉぉおおおおおぉぉおおおおお!!!」
「「!?」」
少年は雄叫びをあげながら、禰豆子とやら鬼と化した少女を連れて行く錆兎と義勇の2人に勢いよく迫っていく。
手に持っていた例の物を、斜め前方に予め投擲して___
「…ほぅ」
ただ相手は鬼殺隊の最高位にあたる支と柱、そして同門の連携がとれた2人だ。不意をつかれたというのに、即座に錆兎が少女を連れて走り出し、義勇は刀の鞘で少年の首を叩いて気絶かつ無力化という、互いに息を合わせて突然の事態に対応。
…それでも、支柱2人相手にここまで出来たなら。
「…天の呼吸 壱ノ型」
【虹道】
「…合格だ」
弧を描いて斧は義勇に迫る。私はそれを斬撃で叩き落とし、一瞬で錆兎の連れていた少女を奪い取ると、私はその場で手を離した。
「おい!何してんだ!」
鬼を放った私に対して錆兎の怒号が飛ぶ。当然だ。人喰い鬼を斬らず、果てには話をつけると言っておきながら少年を鼓舞して少女の元へ向かわせた。
「しまっ……!」
突然の怒号に驚いた義勇は気絶させた少年を眼前に、少女の蹴りを受けて雪の山道ということもあって滑って後退してしまう。鬼と化した少女の力強い蹴りはギリギリ鞘で受け止めたようだが、間もなく飢餓状態の少女が少年の元へと迫る。
「蓮華!お前なんてことをしたんだ!」
その場所からでは錆兎も義勇も少年に迫る少女の所へは間に合わない。やはり錆兎の怒号が耳に響き渡るが、それでも私は
「……!」
「…鬼が……人間を………庇っ……た………?」
____少年と、御館様のお言葉を。
「……グゥゥゥゥゥ!!」
やがて少女が、錆兎よりも近くにいた義勇のことではなく、わざわざ少年を気絶させた張本人である錆兎に牙を剥いて飛びかかってきた。
「…成程、
すかさず錆兎は少女を手刀で気絶させる。
義勇もようやく状況が飲み込めたようで、刀を鞘に収めてこちらに駆け寄る。
「…さあね、けどこの少女はまだ
御館様と私だけが知る、鬼舞辻無惨を抹殺したいと考えているあの
そして、まだ救える、まだ奪ってない者へ、私は手を差し伸べ無くてはならない。
「……蓮華、お前御館様の言葉が無くても、最終的にはこうしてたんじゃないのか?」
「……何?」
先程まであまり言を発さなかった義勇がボソリと呟く。
「……さて、それはどうかな?」
「…正直に言え。お前、あの妹の眼前にして一切刀を抜いていなかっただろ?」
「……」
「蓮華、あの兄妹と顔を合わせる前から妙に殺意が薄いと思っていたが、最初から全部分かってたんじゃないか?」
普段あまり多くを口にしない癖にこういうところはやたらと鋭いな彼は。
…まったく、この事は金輪際表に出すことなく然るべき時まで黙っておこうと思っていたが、勘の良い奴が目の前だとどうも隠せそうにない。
「…まあ、そうじゃないと言えば嘘になるな。確かに私は分かってた。根拠は無いが心の奥底であの兄妹に手を出すべきではないと、いわばこれは運命といったところかな……」
「…………はぁ、これ以上きいても詳しいことは吐かなそうだな」
理解も早いようで。私が事を濁すと義勇は何か諦めた様子でこれ以上は聞こうとはしてこなかった。
「…それじゃ、この兄妹の処遇をどうするか考えようじゃないか」
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「…はっ」
長い間気を失っていたような、そんな気がする。俺は雪の上、起き上がって周囲を見渡す。
「…気づいたか」
すると、そこには先程まで禰豆子の頸を落とそうと奔走していた筈の3人の姿。しかし今は殺意の匂いはしない。複雑な感情ながらも、俺たちに希望を抱いてるような匂いがする。
「…狭霧山に住む、鱗滝左近次という老人を訪ねろ。冨岡義勇と鱗滝錆兎に言われて来たと、そう言え」
「それと、移動中決して妹を日の下に出すなよ。それじゃ、俺たちは先を急ぐからな」
男の人2人はそうとだけ告げると足早にこの場を去っていった。この場に残ったのは、慈悲のような匂いに包まれた女の人だけであった。
「少年、名をなんという?」
「俺?俺は竈門炭治郎です。こちらは妹の禰豆子」
「私は蓮華という。では炭治郎、君はこれからどうする?」
「……え、えっと………!とにかく家族を埋葬してから先程言われた狭霧山の方まで向かいます!」
「…そうか、家族を失って辛いだろうに……もう行くのだな」
「……俺は一刻も早く妹を人に戻す手段を探らなくてはなりません。その為には、立ち止まってる時間なんてありません……!」
こうしている間にも、鬼が人々の暮らしを脅かし、生き残った者の尊厳を踏み躙っているに違いない。
禰豆子の為にも、まだ助かるかもしれない人達の為にも、俺はなすべきことをするまで。
「そうか…でもまずは君の家族の遺体を埋葬してあげなくちゃね。では、先に向かわせてもらうぞ!」
「えぇ!ちょっ、ちょっと待ってくださ〜〜〜〜い!!!!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに蓮華さんは俺の家まで足早に向かい、遺体の数を確認した上で5人分の穴を手作業で掘り進めていく。
「俺の家族ですから!蓮華さんに手間を取らせる訳には……!」
「……これくらいせめてさせてくれ。私が半日早く来ていれば救えた筈の命だ。せめてもの罪滅ぼしに、私も手伝わせて欲しいのだ」
「…そんな!悪いのは俺の家族を襲った鬼です!蓮華さんには何の罪も無い筈です!」
「炭治郎……、君は優しいのだな。間に合わなかった私を責めるどころか、こうして労りの言葉をかけてくれるとは……」
蓮華さんは手を止めない。指先まで凍りそうな寒さの中、俺の家族を埋葬する為の穴を一心に掘ってくれている。ここまでしてくれている人を止めるのは、逆に失礼ではないか。
「…さて、掘り終えたぞ」
そして気づいた時には、蓮華さんの手によって簡素ながら俺の家族を埋葬する為の穴が出来ていた。
俺は家族の亡骸を土に埋め、その場で手を合わせて冥福を祈る。
「………」
蓮華さんも俺の家族に手を合わせて、冥福を祈ってくれた。その瞬間、この人からは悲しみにも、慈愛にも似た、罪悪感のような匂いがしたような気がした。
「むぅ…………」
「禰豆子…?」
そんな蓮華さんの姿を見てか、すっかり大人しくなった禰豆子が蓮華さんの服の裾を掴んでいる。
「…どうしたんだ?」
「……きっと禰豆子は埋葬するのを手伝ってくれた蓮華さんに感謝しているのだと思います」
「そう、か………」
蓮華さんが笑顔で禰豆子の頭を撫でる。禰豆子はとても嬉しそうにふわふわ蕩けるような表情のまま蓮華さんに肩を寄せる。
「ありがとう禰豆子。人を食べてないのにこの落ち着きもそうだけど、君の妹は日の神様に愛されているのかもしれないね」
「…ヒノカミ様……?」
ヒノカミ様、その言葉を何故この人が知っているんだろうか。それは竈門家に代々伝わる神楽の名前。家族の中でも俺だけしか内容を把握してないし、更にその神楽についてもっと知が深い父は数年前に亡くなっている筈。
「……あの、蓮華さん」
「うん?なんだい?」
ここは思い切って蓮華さんに聞いてみる。蓮華さんは、もしかしたらうちと関わりが深い人物の可能性が出てきた。
「…そう、竈門家に伝わる神楽にもヒノカミ様の名があるのか」
「えぇ、もしかしたら蓮華さんはその事について何かしら知っているのかと思いまして…」
ポロっと蓮華さんが口に出しただけしか判断材料は無いけど、その言葉選びには列記とした根拠があるのでは無いかと、ほんの僅かな可能性にかけて訊ねてみた。
「……残念だけど、私はヒノカミ神楽については何も知らない。日の神様に愛されているという発言も、君の妹を前にして何となくそう
「いえ、俺もヒノカミ神楽については先祖代々の遺言でしか詳しいことは分からないので……」
蓮華さんからも何か隠してるような匂いはしないし、本当にヒノカミ神楽については何も知らないのだろう。
当の俺ですら、この耳飾りと神楽だけはずっと後世まで語り継いでいかなきゃならないという父の言葉でしか情報が無い。
赤の他人である蓮華さんがこのことについて知る由もないといえばそうなのだろう。
「…とはいえ、ヒノカミ神楽という言葉には何故だかピンと来た。もしかしたら何か特別な意味が隠されてるかもしれない。興味もあるし、折角だから私も君の旅路に同行させてもらうとしよう。ほら!早く行くぞ!」
「えぇ!?ちょっ……速っ!」
「私についてこい!狭霧山はこっちだ!」
蓮華さんは禰豆子を抱き抱えて一目散に走り始めた。1人置いてけぼりにならないよう、俺も蓮華さんの後を追って雪道の中を駆け出していく。
ー大正コソコソ噂話ー
蓮華さん、自身の任務を半分ほど後輩に投げて炭治郎に同行することにしたそうです。
ー追記 2/19ー
色々基礎設定ぶち込んでたスマホが壊れまして、修復期間設けるため次回以降大幅に投稿遅れます。