剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
「禰豆子……」
「むぅ……」
岩肌にできた大きな洞穴の中。蓮華さんにここでしばし待てと指示を受けたので禰豆子と共に待機しているが、禰豆子はどういう訳だか洞穴の中で更に土を掘ってその中に隠れるように佇んでいる。まるで外の景色を眺めることすら拒んでいるかのように。
「…すまない。待たせた…な……」
「蓮華さん!」
すると、若干の千鳥足状態ながらも蓮華さんが外から戻ってきた。…背中にとても大きな竹を1本背負って。
「…その竹はいったい何に使うのでしょうか?」
「あぁ、これか」
蓮華さんは息を枯らしながら竹をドスンと地面に置いた。何故だか妙に疲労しているような気がするけど外でいったい何があったのだろう。
「竹を編んで籠を作りたい。その中に君の妹を入れれば昼間でも紗霧山へ移動出来るだろう?」
「確かに……禰豆子はどう思う?」
「ふんふん!」
コクリと相槌をうつ禰豆子。禰豆子からは納得の匂いもするし、その方向で良いかもしれない。
…ただ、一点だけどうしても気になることがある。
「…はァ………はァ…………」
蓮華さんが妙に息切れしている事だ。最初、雪の降る中で初めて顔を合わせた時の蓮華さんからは複雑ながらも錆兎さんと義勇さんの2人とは比較にならないほどの強者の匂いがした。
だけど眼前の蓮華さんは今にも倒れてしまいそうなほど疲労の匂いしかしない。
「…すまない、少し休憩させてくれないか?」
「えっ、えぇ。もちろん構いませんが…」
すると一言「後は任せた」と零して蓮華さんはその場で座り込んで眠ってしまった。よく見てみると額から全身にかけて物凄い汗だ。
…何故だろう。この複雑な匂いといい、急に疲れて眠ってしまったことといい、蓮華さんは何か特別な事情があるのではないか。
「…今の俺に出来るのは………」
蓮華さんが担いで来た大きな竹。眠ってしまった蓮華さん。未だ穴で陽光を恐れている禰豆子。
「全部蓮華さんに頼ってちゃいけない…」
そうして俺は竹を手に取った。
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「…ふぅ」
外が橙色に染まり始めた頃、結構時間をかけてしまったがようやく完成した。
「禰豆子、竹籠が出来たぞ!体を小さくしてこの中に入れないか?」
「…むぅ……」
すると禰豆子は俺の編んだ竹籠の中に体を縮こませて頭から入っていく。やがて竹籠内での過ごしやすい体勢が決まったらしい禰豆子はヒョコリと顔を竹籠から覗かせる。
「よしよし、偉いぞ禰豆子〜」
「ふんふん」
そうして禰豆子の頭を撫でると嬉しそうに笑顔を見せる。鬼になった反動からか、何だか禰豆子は精神的にも少々幼くなったような感じがする。
「…うーん、よく寝た〜〜」
すると蓮華さんも丁度いいところで目を覚ましたみたいだ。
「蓮華さん、起きられましたか」
「あ、あぁ、おはよう。…禰豆子の竹籠はどうなった?」
「それでしたら……ほら!」
「おぉ……良い出来じゃないか」
改めて禰豆子用に編んだ竹籠をお披露目する。蓮華さんの反応的にも悪い出来では無さそうだ。
「ところで蓮華さん、お体の方は…?」
「あぁ、それなら心配しないでくれ。今寝たおかげですっかり回復した。この感じなら今日中には紗霧山まで向かえるな」
「分かりました。それじゃあ再び蓮華さんに着いていきます」
そうして蓮華さんさんの快調を見届け、禰豆子が入った竹籠に蓋をして、再度俺たちは紗霧山へと歩を進める事にした。
「…炭治郎、ちょっと待ってくれ」
紗霧山へ向けて走ること数刻、突如蓮華さんが足を止めた。
「どう…されましたか?」
「…妙な気配がする。鬼が近くにいるかもしれない」
蓮華さんが見据えた先には古びた神社の鳥居。足を止めた途端分かってきた、境内の方から漂ってくる血の匂い。
「…炭治郎、君も私に着いてこい」
「…はい」
そうして蓮華さんに言われるがまま神社の奥の方へと忍び足で歩み寄っていく。斧を片手に、万が一の時があれば自営目的で利用する。
「…っ!」
改めて鼻を劈く酷い血の匂い。何人もの人が幾重に重なって死んでいるのと、その目の前に人ではない化け者が持つような匂いが立ち塞がっている。
「危ない炭治郎!」
すると突如蓮華さんに突き飛ばされる。何事かと先程まで俺が立っていた場所に目をやると、そこには涎を垂らした化け物が思いっきり爪を地に向け突き刺していた。
万が一蓮華さんに突き飛ばされていなかったと考えると、その先は想像に易かった。
「…邪魔をするなァ!男の方から先食おうと思ったが、許さん。女のお前から食ってやらァ!」
「蓮華さん!」
鬼って、本来はあんな物なのか。今でこそ平静を取り戻した禰豆子も、あの時は人間の血肉を欲する化け物みたいになっていたけど、今目の前にいるのは、キチンとした理性の元で人間を喰らおうとしている筋からの化け物。
纏っている匂いも、禰豆子とは訳が違う。人間を既に口にした鬼からは、刺激臭しかしない。
「ふん!」
「ギィッ…!」
そして蓮華さんは向かってきた鬼を向かい撃つように刀を振るう。
「ひっ……ぎゃああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!」
あっさりと、蓮華さんの繰り出した横薙ぎの一閃が鬼の両腕を切り落とす。
「…いってえな。でも鬼だからな……こんな些細な傷、修復でき………」
「ふん!」「あがっ!」
鬼の両腕がみるみるうちに再生していく中、蓮華さんは隙を許さず鬼の髪を刀の柄でぐるぐる巻いていき、そのまま近くにあった樹木へ叩きつける。
「…さて、ここで問題です」
「はい?」
髪を絡ませた挙句鬼の胴体に刀を貫通させて樹木に固定し動けなくしたところで、蓮華さんがそう言いながらこちらに目を向ける。
「…鬼を殺すにはどうすればいいと思う?炭治郎?」
「えっえぇ!?鬼を殺す…方法…ですか?」
「うむ」
いざ目の前にしてみると、そういえばと思考を巡らせる。
「…ひと思いに…石で頭を潰す…?いや、他に楽に殺す方法が……」
石で死ねなかったら苦しみながら死んでしまうことになる。いくら人を喰っている化け物とはいえ、そんな殺し方は残酷だ。
「…やはり炭治郎。君は優しいのだな」
「…蓮華さん………」
蓮華さんに肩をポンと叩かれる。けど、その声色とは裏腹に蓮華さんからは感心という感情に入り交じって呆れの匂いがする。
「…君は優しい。が、
「は、はい」
それでも、蓮華さんからは怒りに似た匂いはしない。俺の思いに不安や危機感を覚えつつも、尊重してくれている。
「…クソガキ共がァ!さっきから俺を殺すだの何だの!待ってろ今すぐにお前らを喰い殺してやるかゲボバァ!」
「少し黙ってろ。後輩が答えを導き出そうとしてる途中だろうが」
鬼が騒ぎ出したと思ったら蓮華さんがすかさず口目掛けて拳骨をお見舞いした。
俺に対しては物凄く寛容かつ慈悲深い仏のような感じだったのに、鬼に対しては尊敬も無ければ単なる憎悪の匂いを向けている。
「…そして、もう時間切れだな」
「時間切れ……?」
そう蓮華さんが呟いた瞬間、東の山から一筋の光が差し込んだ。夜明けの光だ。
「…ぎっ、ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
すると、朝日に照らされた鬼の体が激しく燃え上がる。そして次の瞬間にはもう木に刺さった蓮華さんの刀だけしかそこには存在しなかった。
「…これが、鬼を殺す方法だ。鬼は陽光に当たるか、あるいは私のような鬼殺隊士が持つ特殊な刀で頸を斬り落とすと死ぬ」
道理で禰豆子があんなに陽光を怖がっている訳だ。洞窟に篭って、更にそこに穴を掘って隠れようとする程まで、鬼にとって陽光は恐怖の対象でしか無いわけだ。
「…そして、そろそろ姿を見せてもいいんじゃないか?___鱗滝」
「…えっ?」
背後を振り返ると、そこには天狗の面を付けた老人の男性がいた。全く気配がしなかった。
そして蓮華さんの方がどう見ても歳下なのに鱗滝さんというらしい人を呼び捨てにしている。
「…気づかれていたか」
「何年お前の癖を見てきたと思ってる。現役時代より気配の消し方もだいぶ衰えたんじゃないか?」
「…もう引退した身だ。
「あぁ、義勇と錆兎が紹介した例の少年だ」
「はっ、初めまして!竈門炭治郎と言います!」
2人の会話で妙に引っかかることがあったけど、まずは挨拶と俺は頭を下げた。
「お前が竈門炭治郎か。まず1つ問おう。お前の妹が万が一人を喰らった際、お前はどうする?」
「えっ…?」
一瞬思考が停止する。
「判断が遅い」
硬直していた俺の頬に鱗滝さんの裏拳が飛んできた。
「…お前の妹が人を喰らった際にお前がすべきこと。お前の手で妹を殺し、お前は腹を切って自害する。鬼を連れて隊士になるということはそういうことだ」
「…はい」
「…儂に着いてこい。狭霧山まで案内する」
すると、その途端鱗滝さんの姿が消える。
「あれ?」
「炭治郎、もう鱗滝さん行ったぞ!走れ!立ち止まってる場合じゃないぞ!私に続け!」
「えぇ!?」
事が早い。でも、これから鬼殺の道を歩むのであればこれは登竜門。常に素早い判断が求められる現場で、棒立ちでいるわけにはいかない。
「今行きまーす!」
ー大正コソコソ噂話ー
炭治郎と蓮華が鬼と相対している間に、裏で鱗滝さんが亡くなった方たちの埋葬をしてました。ここは原作通り。