剣と念の悪鬼夜行 作:狂戦士
「…はぁ………」
走り続けること…もう何時間か覚えてないけどとにかくめちゃくちゃ走った。鱗滝さんに着いてこいと言われ、蓮華さんが後に続けと言うので従ってみたらまさかここまでとは思わなかった。
「…着き…………ました……」
鱗滝さんと蓮華さんが入って行った扉を開け、俺を待っていた2人の姿を目に焼き付けた後、安堵感故か俺の意識は途絶えた。
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「…はっ」
「…目覚めたか」
いつの間にか眠っていたみたいだ。上体を起こして辺りを見渡してみれば相変わらず鱗滝さんが天狗の面のままこちらを見ていた。
「…お前を認めよう。竈門炭治郎」
「…あっ、ありがとう…ございます…!」
思い出した。俺は確か鱗滝さんと蓮華さんを見失わないよう無我夢中で2人を追いかけ続け、この家に着いた途端力尽きて気を失ったんだ。
「蓮華から凡そ事情も聞いた。妹を人に戻す為、刃を握るそうだな」
「はい!………ところで、当の蓮華さんはどちらへ……?そして妹は……」
「…蓮華か。奴ならもうすぐ戻る。そして妹だが」「戻ったぞ鱗滝!」
ドンと大きな音と共に玄関扉が開かれる。
「…もう少し静かに来い」
「ごめんごめん………あっ、炭治郎起きたんだな」
「はい、随分とお手間を取らせてすいません」
「いいっていいって。あの速度で追いついて来れる人早々いないからね。気絶しても仕方ないさ。君はむしろ初めてにしては凄い方だよ」
「ありがとうございます!」
蓮華さん、所々気になるところはあるけど、本質的には優しい心の持ち主なのだと感じる。
「お医者さん、場所は向こうの部屋の……」
和むというか、暖かいというか、何だかまだ俺が小さな子どもだった時に何処かで感じたことあるような、蓮華さんからはそんな懐かしさにも似た匂いがする。
「お茶でも飲んでって下さい」
「自分の家のように饗すな。ここは儂の家だ」
……これ、おばあちゃんの匂いだ。
「…ところで蓮華、医者を呼んでくるにしては随分と時間が掛かったようだが?」
「…まぁね。この前もとある兄弟を救うために
蓮華さんに誘われるまま、俺は医者の入っていった部屋に通される。
「…失礼する。少女の容態は?」
「……ッ!禰豆子?」
そこには布団の上で寝かされている禰豆子の姿。そう、ただ眠っているだけ。けど、禰豆子の寝息は細く、衰弱しているような匂いがした。
「………診たところ眠っているだけですね。ただ、かなり弱っている」
「…そう、ですか………」
「……何か食べて英気を養えばきっと回復するでしょう。それでは私はこれで」
そうしてお医者さんは正面扉から出て行った。
「…食べて、か」
ただお医者さんが言ってた何か食べて英気を養う。こればかりは叶いそうにない。禰豆子は鬼となった。故に食事と言えば、人。人を食べなくてはならない。
「…まあ焦るな炭治郎」
蓮華さんがポンと俺の肩に手を置く。
「…禰豆子は人を食ったりしない。そう言ったのは君だろう? 鬼は本来寝る必要なんて無い。けど禰豆子は眠っている。つまり、禰豆子は寝ることで体力を回復してるんじゃないか。私はそう思ってる」
「……蓮華、さん…」
そうだ。禰豆子は人を食わないって、言い始めたのは俺だ。俺が信じてやれなくてどうする。
禰豆子は無事だ。禰豆子はただ体力を回復する為に眠っているだけ。決して人を食わない。これからも俺がそうさせない。鬼に戻れるその時まで、俺が禰豆子を護るんだ。
「……そうだ蓮華さん。1つだけ気になっていることがあるんですが…」
「ん?どうした?」
そういえばと、俺はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「…蓮華さんって、一体何者なんですか?」
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「がああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!」
「どうした?この程度で音を上げるんじゃないぞ」
蓮華さんの正体、ずっと気になっていたそれを本人に訊ねたあの日から、俺は毎日毎日紗霧山を走り続けている。
「はぁ…………はぁ…………」
「遅い!私の正体が気になるんだろう?炭治郎が一人前になったら教えてやると約束したこと、もう忘れたか!?」
「すっ、すいません着いていきますぅううううううううう!!!」
鬼殺隊士となる試練、すなわち最終選別に行ける程俺が成長した時、その時に蓮華さんは自らの秘密を明かすと来た。それに、どの道俺は強くなって妹を人間に戻す方法を探らなきゃならない。
ある意味では一石二鳥。蓮華さんの秘密と鬼殺隊士に求められる強靭な肉体を同時に得られる。
「…今日は素振り!」
「はいぃぃぃぃ!!」
腕が砕けそうなくらい刀を振る。日輪刀は金属で出来ている為やはり重い。それを1日に何百回、何千回と振り下ろす。正直もう腕の感覚という感覚がない。筋肉痛なんてものはとうに超えている。
「…今日は全集中の呼吸!」
「はイィ!こうですか!」
「違う!それはただの腹式呼吸だ!もっともっと肺に空気を入れろ!そんなんじゃ基本の呼吸である水の呼吸ですらまともに扱えんぞ!」
全身の筋肉をこれでもかと打ち砕いたと思ったら次は全集中の呼吸の習得。俺は鱗滝さんや義勇さんが扱っているという水の呼吸をまずは習得する運びとなった。
水の呼吸は基礎中の基礎な型が多いらしく、最も多く鬼殺隊で使う剣士がいるらしい。だからこそ初手で身につけるにはうってつけらしいんだけど、本当に基礎でこれなのかと思うほどキツい。
「どうした!まだまだこんなんじゃ私の秘密は教えられんぞ!」
「分かってますからああああああああぁぁぁ!!!」
そんなこんなで修行の日々が続き、気づけば軽く1年近くが経とうとしている。
走り込み、素振り、日輪刀を担いでの走り込み、呼吸の習得、そしてまた走り込み、それらを繰り返す日々が続いている。
「…もう、炭治郎に教えることは無い」
「え?」
「だろう?鱗滝?」
「うむ。もう全て蓮華がお前に叩き込んだ。後はお前次第、今まで教わってきたことをどう昇華していくか、お前の手にかかってる」
ある日、蓮華さんと鱗滝さんの両者から突然そんな事を言われた。
「……そうだな。あの岩なんか手頃だろう。あの岩をその刀で斬ってこい。それさえできれば最終選別でも生き残って帰って来れるだろう」
「え?あのっ…!蓮華さん!?」
「……もう炭治郎なら大丈夫。その岩が斬れたら最終選別に向かうことを許可する」
そうして蓮華さんは足早にこの場を去っていった。
「…岩を…斬る?あれ?」
岩って斬れるものなのかと、一瞬思考が止まる。
気づいて蓮華さんに再三確認を取ろうと思ったら、もうこの場には俺1人しかいなかった。
ー大正コソコソ噂話ー
蓮華が炭治郎に切れと言った岩は原作の2倍サイズのものです。
鬼畜すぎてワロエナイ。